報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

補足: チャベスとIMF

2007年05月25日 00時48分05秒 | ■中南米カリブ
前回の記事で、ひとつ書き忘れをした。
一行ですむのだが、それではなんなんので少しだけ付け足しておきたい。


2002年4月にチャベス大統領に対してクーデターが行なわれたが、このとき暫定政権の大統領に就いたのは、ペドロ・カルモナという人物だった。カルモナはベネズエラ経営者連盟会長で、ベネズエラの財界や富裕階級を代表する人物のひとりだ。

クーデターで誕生したこのカルモナの暫定政権を支持した国はごくわずかだった。たったの二日天下だったので、支持や承認をするヒマがなかったと言える。また別の見方をすれば、支持を表明した人たちは異様に判断が素早かったと言える。普通、二日程度の時間では、まともな情報収集も分析も判断もできない。いち早くクーデターを支持した人たちは、そもそも情報収集も分析も最初から必要なかったのだろう。

その人たちとは、
まず、ジョージ・W・ブッシュ・アメリカ大統領。
これは当然すぎるほど当然だろう。公式にチャベス大統領を非難し続け、チャベス大統領を国際的な孤立に追い込み、クーデターを企む勢力に動機と勢いを与えた。また実際的な支援を反チャベス派に行なっていたことも明らかになっている。
それから、アスナール・スペイン首相(当時)も暫定政権を支持した。
アスナール首相は、翌年のブッシュによるイラク攻撃を支持し、1300名の戦闘部隊を派兵するなどブッシュの良き同盟者だった。

そして、アメリカとスペインとともに、ペドロ・カルモナの暫定政権を驚くほど素早く支持した組織があった。
そう、IMFだ。
前回、書き忘れたのはこれだ。

(暫定政権に対して)国際通貨基金(IMF)や米国大統領、それに欧州連合(EU)の現議長国スペインのアスナール首相が熱烈な支持を示した。
http://www.diplo.jp/articles02/0206.html
     
ベネズエラの民主的な選挙で選ばれた政府が軍事クーデターによって転覆させられたわずか数時間後、IMFは「ふさわしいと彼らが考える如何なる方法でも[ペドロ・カルモナの]新政権を喜んで手助けする」と公然と言明した。

新たに据えられた独裁政権――国の憲法、議会や最高裁判所を直ちに解消したそれ――に金融援助をするというこの即座の表明はIMFの歴史において前例のないことであった。通常IMFは、選出された政府に対してすらこれほど迅速に反応することはない。
http://agrotous.seesaa.net/article/41544884.html#more

クーデターの首謀者のひとりペドロ・カルモナが暫定大統領に就いたのが、4月12日の午前6時。IMFがこの新政権を「喜んで援助する」と声明を発表したのが午前9時30分。新政権発足から、たったの4時間半(-1時間の時差により)しかたっていない。それだけの時間で、クーデター首謀者や実行者の人定(クーデターに加担した将軍は14人もいる)から、クーデターの動機・性格、今後の成り行きまでを分析し、ステイトメントを準備し、記者会見を行うというのは神業に近い。要するに、IMFは明らかにそうした情報収集や分析の必要などなかったということだ。

このクーデターには、アメリカ政府が関わっていたということはいまでは疑いの余地はない。ワシントンに本部を置く、アメリカの付属機関であるIMFが事前に計画を知らされていたとしても不思議はない。不自然なほど素早い声明が行なえた説明がほかにあるだろうか。このときのトマス・ドーソン報道官の記者会見の模様(ビデオとトランススクリプト)はIMFのサイトで閲覧できる。
http://imf.org/external/mmedia/view.asp?eventID=93

アメリカ政府やIMFによる不自然なほど素早い支持発表は、国際社会に向けたメッセージだったと言える。”我々に続け”ということだ。アメリカの顔色を伺わなければ、国際社会で何も発言できない政権は多い。また、アメリカの意向にあえて反対する政権もすくない。そして、IMFの管理下にある、あるいは影響下にある国々にとっては、IMFが公式に支持表明した暫定政権に対して取れる選択肢はひとつしかない。つまり、アメリカとIMFがカルモナの暫定政権をいち早く支持することによって、国際社会のほとんどの国が自動的に支持することになるという仕組みだ。

しかし幸い、クーデターは二日で幕を閉じた。アメリカ政府もIMFも、まさかたった二日後にチャベス大統領が生きたままミラフローレス(大統領宮殿)に戻ってくるとは夢にも思っていなかったに違いない。だから、不自然なほど素早い支持表明を臆面もなくできたのだ。自分たちの力を過信しすぎていたのかもしれない。あるいは、ベネズエラ国民やチャベス大統領、政府スタッフの力をみくびっていたと言えるかもしれない。


[スペイン前政権、クーデターを支援]

アメリカ、IMFとともに、2002年のカルモナの二日政権を支持した、スペインのアスナール首相(当時)についても若干のべておきたい。

アスナール政権は、イラク戦争に1300名の実戦部隊を送るなど、アメリカのよき同盟者だった言える。しかし、スペイン国民は、そのようなアスナール政権を拒絶した。2004年3月の選挙で社会労働党のホセ・ルイス・サパテロにあえなく敗れた。

そして、アスナール政権が倒れると、チャベス大統領はスペインを訪れた(2004年11月)。このとき、スペイン新政権の外務大臣モラティノスはチャベスの訪問に合わせて重大な発言をした。
「前政府の下で、(カラカス)のスペイン大使は、クーデターを支援せよ、というスペインの外交上前代未聞の命令を受け取った」
とモラティノス外相は国営テレビのインタビューで語った(04年11月23日)。
チャベス大統領は、
「それが行なわれたことに疑問の余地はない。スペイン大使は唯一、アメリカ大使とともに反乱者を承認した」
と答えた。
http://www.indymedia.org.uk/en/2004/11/301754.html

対米重視政策を採っていたアスナール前政権は、アメリカの反チャベス策略にかかわっていた可能性が高い。
結局のところ、2002年の反チャベス・クーデターを不自然なほど素早く支持したのは、すべて直接間接の当事者だったから、ということなのだろう。


今日に至るまで、チャベス大統領に対する再クーデターや暗殺の危険は消えていない。
また、IMFは2003年からベネズエラの経済成長率を故意に低く見積もり続けているという報告もある。
http://www.cepr.net/documents/publications/imf_forecasting_2007_04.pdf





IMF・世銀、ベネズエラが脱退表明するなか、衰える権威に直面
http://agrotous.seesaa.net/article/41544884.html#more

ベネズエラ再クーデタの危険(ル・モンド・ディプロマティーク2002年6月号)
http://www.diplo.jp/articles02/0206.html

IMF's Support for Coup Government in 2002 May Have Influenced Venezuela's Decision to Withdraw from the Fund
http://www.cepr.net/index.php?option=com_content&task=view&id=1159&Itemid=77

IMF:Press Briefing by Thomas C. Dawson, (video)
Friday, April 12, 2002 9:30 AM
http://imf.org/external/mmedia/view.asp?eventID=93

IMF:Press Briefing by Thomas C. Dawson,(Transcript)
http://imf.org/external/np/tr/2002/tr020412.htm

Political Forecasting?
The IMF's flawed growth projections for argentina and venezuela
http://www.cepr.net/documents/publications/imf_forecasting_2007_04.pdf

Spain says former government backed Venezuela coup
http://www.indymedia.org.uk/en/2004/11/301754.html

Moratinos defends coup comments
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/4059555.stm

What A Difference Three Years Can Make: Bush Rebuffed in Venezuela (Again)
http://www.venezuelanalysis.com/articles.php?artno=1416

THE REVOLUTION WILL NOT BE TELEVISED (グーグル・ビデオ)
(ドキュメンタリー:アイルランド)
http://video.google.com/videoplay?docid=5832390545689805144

チャベス大統領、IMF・世界銀行から脱退へ

2007年05月03日 00時07分37秒 | ■中南米カリブ
4月30日、ベネズエラのチャベス大統領は、IMFと世界銀行から脱退すると表明した。

過去半世紀あまり、IMFと世界銀行はアメリカの覇権拡大の便利な道具として力を発揮してきた。その結果、世界中に飢餓、貧困、低賃金労働など様々な問題が撒き散らされた。

アメリカの覇権政策を真っ向から批判し、南米地域内での独自の政治経済的結束を進めているチャベス大統領にとって、IMFと世界銀行からの脱退は当然の成り行きと言える。ベネズエラは1999年にIMFへ債務を完済し、2007年4月に世界銀行へ債務を完済した。

IMFや世界銀行から脱退しようとは思わないまでも、事実上縁を切りたいと思っている国は多い。近年、IMFからの借入金を返済期限を待たず、数年前倒しして返済する傾向が強まっている。カザフスタン('00年)、韓国('01年)、タイ('03年)、ブラジル、ロシア('05年)、アルゼンチン('06年)など。

借入金が存在するあいだは借入れ国はIMFに対して絶対的な服従を強いられる。それは「占領」政策というにふさわしい。当該国の主権は著しく侵される。IMFはお決まりの「規制緩和、自由化、民営化」を振り回し、金融政策とは関係のない政治や社会分野での法改革や制度改革まで強要する。IMFの目的は政治経済社会を欧米流に「構造改革」することだ。そして、いつも同じ結果が生じる。倒産と失業の増加。税金や公共料金、物価の上昇。教育や福祉政策の縮小。衛生医療環境の悪化などだ。当該国の国民は多大な苦痛と犠牲を強いられる。そして、外国企業や外国資本が利益を享受する。

IMFの「占領」政策の結果、社会不安や不満が増大し、暴動が生じることもある。これは「IMF暴動」と呼ばれる。過酷な「占領」政策によって暴動が発生し、社会が混乱することまで、あらかじめ計算済みということだ。IMFは当該国の国民生活をそこまで平気で追い詰める。一度IMFの占領政策を受けた国は、IMFに対してぬぐいがたい憎悪をもつ。

1989年2月、ベネズエラでこのIMF暴動が発生した(カラカソ大暴動)。そのとき、ベネズエラ陸軍の青年将校ウーゴ・チャベスは、国民の困窮と怒りを目の当たりにした。そして、1992年に仲間とともにクーデターを決行する。が、失敗して2年2ヶ月投獄される。しかし、1998年、チャベスは大統領選挙に出馬。みごと当選する。翌99年大統領に就任。ところが2002年4月、アメリカにバックアップされたベネズエラ支配階級と軍の一部がクーデターを起こし、チャベス大統領をオルチラ島に監禁。しかし、ベネズエラ各地で市民が蜂起。首都カラカスでは百万とも言われる市民が大統領府を取り囲んだ。恐れをなした首謀者は国外へ逃亡。クーデターは二日天下に終わった。

IMFの占領政策とIMF暴動が、今日のチャベス政権を生んだとも言える。そして、チャベス大統領がIMFと世界銀行からの債務をとっとと返済し、両機関から脱退するというのも実に自然の成り行きだ。(ちなみに、タイの前首相のタクシン氏も、タイ国民の反IMF感情を巧みにつかんで選挙で第一党となり首相に就いたと言われている)

IMFは、過去何十年ものあいだ、100ヵ国あまりの国々に対して、常に同じ「処方箋」しか用いてこなかった。その結果、単なる風邪だった患者は次々と重態に陥っていった。債務が債務を呼ぶ末期的な中毒症状だ。いまでは、賢明な国はIMFや世界銀行の融資をきっぱり拒絶している。両機関がこの地上にもたらしてきたすさまじい災厄を考えれば当然の判断である。途上国の反乱はむしろ遅すぎたといえる。

チャベス大統領がIMF・世界銀行からの脱退を表明した同じ4月30日、偶然なのか、当のIMFもある発表をした。「22年ぶりに赤字決算」になる、と。貸付は前倒し返済され、新たな融資は拒絶されるため、IMFは金利収入が減少し財政難に陥っていた。それがついに、22年ぶりの赤字という形になって表れた。この赤字決算は、途上国の反乱に対するIMFの敗北宣言と見えなくもない。ベネズエラの脱退で、脱IMF・脱世界銀行という傾向は今後ますます加速されるだろう。アメリカ一国しか拒否権をもっていない、地上で最も非民主的な国際機関が消滅しても誰も困りはしない。

南米では相互協力の動きが活発化している。地域内の共同市場メルコスル(域内関税の原則撤廃と域外共通関税の実施)が結成されている。地域内で金融支援をおこなうメルコスル開発銀行案もある。また、チャベス大統領は、経済協力協定に参加する国に対し、石油供給を100%保証するとも発言している。まだ足並みが完全にそろっているとは言いがたいが、これからは域内のことは域内で協議し決定するという方針が強まることは間違いない。アメリカは、中南米カリブ地域がアメリカの「裏庭」だという認識を捨てることになるだろう。








ベネズエラ、IMF、世銀から脱退へ=チャベス大統領が発表
http://www.jiji.com/jc/a?g=afp_int&k=20070501012211a

IMF、22年ぶり赤字に 07年度、融資減で200億円
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007050101000168.html

ベネズエラ債務完済
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-04-16/2007041606_01_0.html

IMF事務所の閉鎖 (在ベネズエラ日本国大使館 経済概要)
http://www.ve.emb-japan.go.jp/gaiko/keizai/keizai2007/keizai200701.htm

途上国はIMF・世銀・WTOから脱退し、新国際機関を創立せよ
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/undercurrent/2006/
new_institution_for_developing_countries_2006.htm


ネオリベラリズムとネオコンの破綻
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/undercurrent/2006/collapse_of_neo_liberalism_2006.htm

反米のチャベス大統領、友好国の石油「全面保証」
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070430STXKB009430042007.html

南米銀設立など合意
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-02-23/2007022307_02_0.html

アメリカの庭先での荒波

2006年05月13日 18時41分40秒 | ■中南米カリブ
かつて、一年半という時間をかけて中米と南米を旅したことがある。
中南米の広大な自然の中に、外国企業が所有する見渡す限りのバナナ農園やコーヒー農園が広がっていた。
そこでわずかな賃金で重労働を強いられる大勢の人々。
コロニアル式の美しい街並みには、職にあぶれた若者が泥棒やかっぱらいを働いていた。
コロンビアではまんまと両替詐欺に遭って40ドルを失った。
パナマでは、米軍が激しい戦闘のすえマヌエル・ノリエガ将軍を逮捕し、アメリカへ連れ去った。
街には米軍の新型車両ハンビィーがわがもの顔で徘徊していた。
国家元首を勝手に逮捕連行していいのか?
いいのだろう。アメリカの庭なのだから。
中南米は、どうしようもない貧困と独裁と搾取の中にあった。
それは固定され永遠に続くように見えた。

「対テロ戦争」の名の下に、世界がアメリカに翻弄される中、いまアメリカの庭先では異変が起こっている。キューバのカストロ議長の戦いはすでに半世紀におよぶが、21世紀になってベネズエラのチャベス大統領が現れた。そして、いま新たにもう一人加わった。昨年12月の民主的選挙で勝利したボリビアのモラレス大統領だ。

モラレス大統領、天然ガス以外の事業も国営化を検討と
2006.05.12- CNN/AP
「過去500年以上続いてきた搾取を、終わらせねばならない。我々が求めているのはパートナーで、我々の天然資源を搾取する主人じゃない」「かつて、ボリビアには人がいないと思われていたが、昔から生活を続けている我々の土地だ。我々の領土と天然資源を守ろうとしているのだ。我が国の天然資源を取り戻し、貧困と闘っていく」
http://www.cnn.co.jp/business/CNN200605120034.html

5月1日、モラレス大統領は、天然ガス資源を国有化する政令を発表。外資系企業の天然ガス関連施設56カ所を軍によって占拠した。モラレス政権は、企業の取り分を18%とし、残り82%をボリビア政府のものとする新契約を提示。6カ月以内に新契約を結ばなければ、外国企業は国外退去しなければならない。対象となるのは、米、英、仏、スペイン、ブラジル、アルゼンチンなどの企業。

続く12日に、天然ガス以外の鉱物や森林などの天然資源についても、国有化を目指すと宣言した。モラレス大統領は、外国による経済支配を拒絶し、天然資源の国有化によって、貧困撲滅に向けて歩みはじめた。また、モラレス大統領は、ブッシュ政権の世界政策を痛烈に批判している。ブッシュはテロリストで、イラク戦争は国家テロだ、と。

このようなモラレス大統領に対して、
ブッシュ政権は、かねてからモラレスを「麻薬密売人」とののしっていたが、彼の(大統領選挙)勝利に対して嫌悪をあらわにしている。

 12月20日付け(2005年)の『ニューヨーク・タイムズ』紙は、モラレス候補の勝利を「反帝国主義者がボリビア大統領に当選」というセンセーショナルな見出しで報じた。同紙は、これによってキューバのカストロ、ベネズエラのチャベスとともに西半球での反米トリオが結成される、と分析している。

同時にこれをもって、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、エクアドルなどと共に南米大陸3億6,500万の人口のうち3億人近くが左翼政権の下に住むことになった、と報じている。
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/undercurrent/2006/bolivian_new_president_2006.htm

アメリカにとって、南米でのこうした動きは許しがたいことに間違いない。しかも、南米諸国は独自の路線を歩みつつも、その結束は強固だ。

モラレス大統領の天然ガス国有化宣言に対して、ブラジル、アルゼンチン政府は、最初は強く反発した。しかし、この宣言から数日後に、モラレス大統領は、ブラジル、アルゼンチン、ベネズエラの大統領と首脳会談を持った。会談は紛糾することなく、4時間後には、「天然ガス事業の国営化という、ボリビア大統領の決定を尊重する」という共同声明が発表された(5月5日)。

また、モラレス大統領は、チャベス大統領、カストロ議長と貿易協定「米州ボリバル代替構想」に調印し、アメリカが進める自由貿易地域構想を拒否した。そのほか、IMFをしりぞけ、南米内での独自の通貨基金の構想もある。

「対テロ戦争」に世界が呑み込まれつつあるこの時代に、アメリカの庭先では荒波がおこっている。
搾取からの開放と貧困の撲滅だ。
アメリカ政府にとるべき策はあるだろうか。
もはや、パナマ作戦のようにはいかないだろう。
腐敗したノリエガ将軍は国民に見捨てられただけだ。
南米大陸は、本当に500年の支配から脱するのかもしれない。




フアン・エボ・モラレス・アイマ大統領略歴(ウィキペディア)

ベネズエラ、チャベス大統領の戦い

2006年05月07日 23時08分02秒 | ■中南米カリブ
前回と前々回、ベネズエラについて触れたので、少しベネズエラについて述べておきたい。
日本ではベネズエラのニュースは皆無に等しく、たいへんイメージしにくい国だと思う。
僕は二回ばかり訪れている。
といっても、ギアナ高地のロライマ山に登りたくて行ったのだが。
目的は達成できなかったものの、ギアナ高地の神秘的な大自然に触れただけでもたいへん満足している。
いつかロライマ山に登りたいと思っている。


べネズエラは、OPECに加盟している産油国で、確認埋蔵量は世界第6位。輸出総額の約80%、国内総生産の約25%を石油が占めている。アメリカにとっては、カリブ海を挟んだ自分の庭先に巨大な油田があるわけだ。そしてそこから全石油輸入の4分の1を輸入している。

現大統領ウーゴ・チャベスは、石油収入の国民への分配を掲げ、精力的に貧困対策に取り組んでいる。そして、徹底した反米姿勢をとり、中南米諸国との連帯に励んでいる。アメリカ政府がこれを放置しておくはずがない。


(コンドリーサ)ライスは、運送業者ストライキによりベネスエラは燃えており、そのストライキは国際支援を必要としている、と述べた。1970年代のチリにおいてと同様、CIAの黒い手が運送業者団体に潜入している。
(中略)
これは漠然としているが、ライスが本当に意味したことは、ボリバル革命が強固となり、その主義思想が南米大陸、カリブ諸国と中米に広がるなか、ベネスエラと、その石油埋蔵と政治の舞台の統制を米国が失ったということである。
http://agrotous.seesaa.net/article/14158101.html#trackback

 ベネズエラでは国有石油会社ばかりでなく、なぜ労組まで反大統領の立場をとるのだろうか?それは、ベネズエラが、米国の全石油輸入の4分の1を供給しており、とうていチャベスのような反米主義者の支配をみとめることが出来ないからである。

チャベスが大統領に選出されて以来、米国議会から年間87万ドルにのぼる「民主主義のための国家基金」と名付けた資金がベネズエラの石油労組とそのカルアロス・オルテガ会長に送られてきた。 このオルテガ会長こそは、昨年(2002年)4月の失敗に終わったクーデタで"3日大統領"に任命されたビジネスマンの親しい友人であり、今回のストの扇動者である。
http://www.eco-link.org/jubilee/genko030204_1.htm


アメリカは、ベネズエラ国内で労働運動を組織して、国内世論がチャベス大統領に対抗しているという構図に見せかけたいようだ。アメリカ政府は、ベネズエラ国内でさまざまな工作を行っていると考えて間違いはないだろう。

今年の12月に行われる大統領選挙では、選挙妨害や工作が行われる可能性は高い。アメリカ国内には、”チャベスを暗殺せよ”という声もある。

チャベス大統領は1998年に民主的な選挙で選ばれた指導者だ。
2002年に、アメリカにバックアップされたクーデターで失脚したものの、市民はたった2日でチャベスを大統領の椅子に戻した。大部分の市民は、富裕層が所有するメディアの扇動には乗らなかった。

現在、ベネスエラは無料の国民医療サービスを提供している。世界で問題を起こしている「民営化」にも背を向ける政策を執っている。貧困対策にも十分な費用を積み立て、新しい学校や住宅の建設も進んでいる。

特筆すべきは、「南米のアル・ジャジーラ」と言える「テレスル」という独自の衛星テレビ局を実現したことだ。テレスルはベネズエラ、キューバ、ウルグアイ、アルゼンチンが参画した。現在、24時間衛星ニュースを供給している。これまで、欧米のメディアに独占されていたニュースを自らが発信できるようになったことの意味は大きい。

自国に都合のよい情報だけを独占的に発信したいアメリカ政府は、テレスルに強い警戒心を表している。

バウチャー米国務省報道官は(2005年5月)23日、「ベネズエラのチャベス大統領とキューバのカストロ国家評議会議長が、米国に対抗するための道具として利用できるという点を憂慮する」と述べた。
http://japanese.donga.com/srv/service.php3?biid=2005052873618

アメリカ政府は、アル・ジャジーラのカブール支局とバクダッド支局を爆撃し、記者一名を殺害した。そしてカタールのアル・ジャジーラ本社まで爆撃しようとした。アメリカにとって、情報発信の独占というのはそれほどの重要事項なのだ。別の見方をすれば、CNNやFOXその他は、アメリカに都合の良い情報しか発信していないということだ。

ラムズフェルド国防長官は、チャベス大統領をヒットラーになぞらえているようだが、CNNやFOXが流す情報の中ではチャベスはそのような存在になっているはずだ。そうした情報にしかアクセスできない国は、実際、南米に新たなヒットラーがいると信じるだろう。

今年の12月には、ベネズエラで大統領選挙が行われる。ベネズエラでの既得権益を取り戻したい富裕層と、南米での覇権を強化したいアメリカ政府は、反チャベス・キャンペーンをさらに強力に進めるだろう。あるいは、チャベス大統領に対する軍事的なアクションもあるかもしれない。

チャベス大統領とベネズエラ国民の奮闘に期待したい。


Emerging Revolution in the South
(ベネズエラに関する記事を精力的に翻訳されているブログ)
http://agrotous.seesaa.net/
telesulウェブページ
http://www.telesurtv.net/
「チャベス政権」を襲ったクーデターの裏側
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Bushwar/venezuela_coup.htm

迷走するフジモリ元ペルー大統領

2005年11月14日 23時04分03秒 | ■中南米カリブ
11月7日、日本で亡命生活を送っていたアルベルト・フジモリ元ペルー大統領が、隠密に日本を出国し、訪問先のチリで拘束された。入国には、ペルーのパスポートを使用。フジモリ氏は、二重国籍。渡航の目的は、来年に行われるペルー大統領選挙の準備だと思われる。

フジモリ氏は、ペルー当局の訴えによりインターポールから国際指名手配されている。ペルー政府は身柄の引渡しを要求しているが、日本政府は、チリ政府に対してフジモリ氏を日本人として処遇するよう闇に求めているようだ。

日本大使館が拘束中のフジモリ氏に領事面接したため、事実上、日本の外務省がフジモリ氏は日本人であると公式に宣言したことになる。これに対してペルー政府は激怒。ペルー外務省は、駐日ペルー大使を本国に召還した。いわば、国交断絶もありうるという強い意志表示だ。

チリのラゴス大統領は、「ペルー人として入国し、ペルー人であると言明しているのに、なぜ日本人として取り扱うのか」と述べている。また、日本出国時に日本から連絡がなかったことに対しても不満を表明している。これは、当然なことだ。日本政府は、黙って国際犯の渡航を許したのだ。渡航相手国に対してあまりにも非礼にすぎる。

というのがこれまでの経過なのだが、チリ政府としては、はっきり言って、いい迷惑である。近いうちに、チリ政府は、フジモリ氏を丁寧に日本に強制送還することになるだろう。

今回のお騒がせ騒動で、ちょっと気になる記事がある。

「フジモリ氏は5日、米国の銀行所有のチャーター機で羽田空港を出発した。客室乗務員1人のほか、フジモリ氏と友人、日本のテレビ記者、米国の支持者代表の計4人が搭乗。機内の様子は全て撮影されたという。」
「サンティアゴに2、3日滞在した後、南太平洋の仏領タヒチ経由で東京に戻る計画だった」

http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20051112i203.htm

いくら元国家元首とはいえ、正式にインターポールから国際指名手配されている人物が、民間企業の所有するチャーター機で問題なく日本を出国し、また帰還するというのは、たいへんな好待遇である。今回の、フジモリ氏のチリ訪問は、日本政府のバックアップなくしてはありえないと言える。

そもそも日本政府は、なぜ指名手配されているフジモリ氏を受け入れ続けているのかというのが、僕にとっては長年の疑問であった。日系移民から出た初の国家元首とはいえ、フジモリ氏の名声はほとんど地に落ちている。すでに何の影響力も持たないフジモリ氏を日本が保護するメリットは何もない。

それでも、ひっそりと保護し続けるならまだ分からなくもない。しかし今回、日本政府は、出国と再入国を保障し、第三国で拘束されたら、ペルーパスポートで入国しているにもかかわらず、日本人として保護することを求めている。日本政府の動きは、非常に不可解である。何かにつけ、コトナカレ主義の日本政府・官僚が、国際手配犯に対して、いたれりつくせりだ。何かがあると思わざるを得ない。

実際、何かがあるようだ。
以下少し長いが引用したい。

「ペルーのフジモリ大統領が、いまだに日本にいる理由はなんだろうか?フジモリは本国ペルーでは、軍事政権時代にテロ撲滅の名を借りて人権侵害事件を起こしたばかりか、犯罪的な選挙違反をしたとして訴追されているのである。もちろん、海外逃亡していなかったフジモリ以外の容疑者は、現在ペルーで裁判を受けている。インターポール(ICPO、国際刑事警察機構)も、国際手配をしている。が、日本政府は、日本国籍を持つので、ペルーへの引渡しに応じられないと、拒否しているのだ。
 日本人はほとんど知らないが、このインターポールの手配に対して、ドイツ、イタリアなどは「もし入国したら彼の身柄を拘束する」と表明している。
 つまり、日本政府は何らかの理由があって彼を匿っているのである。その理由とは、『ペルーで裁判になったら、ODAがらみの日本の政治家へのキックバックがバレてしまうからだ』以外、考えられない。
 これは、海外メディアの常識である。」

(『ヤクザ・リセッション』84P ベンジャミン・フルフォード著)

日本の政治家や官僚は、フジモリ氏に痛いところを掴まれているのかもしれない。
だとすれば今回、何としても、ペルー政府に引き渡すわけにはいかない、ということになる。

しかし、もし再度フジモリ氏がペルー大統領になれば、一石二鳥となる。
厄介者ばらいどころか、また利権を持ってきてくれるのだ。


アルベルト・フジモリ氏についての基礎知識
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%99%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%B8%E3%83%A2%E3%83%AA
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