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チャベス大統領、IMF・世界銀行から脱退へ

2007年05月03日 00時07分37秒 | ■中南米カリブ
4月30日、ベネズエラのチャベス大統領は、IMFと世界銀行から脱退すると表明した。

過去半世紀あまり、IMFと世界銀行はアメリカの覇権拡大の便利な道具として力を発揮してきた。その結果、世界中に飢餓、貧困、低賃金労働など様々な問題が撒き散らされた。

アメリカの覇権政策を真っ向から批判し、南米地域内での独自の政治経済的結束を進めているチャベス大統領にとって、IMFと世界銀行からの脱退は当然の成り行きと言える。ベネズエラは1999年にIMFへ債務を完済し、2007年4月に世界銀行へ債務を完済した。

IMFや世界銀行から脱退しようとは思わないまでも、事実上縁を切りたいと思っている国は多い。近年、IMFからの借入金を返済期限を待たず、数年前倒しして返済する傾向が強まっている。カザフスタン('00年)、韓国('01年)、タイ('03年)、ブラジル、ロシア('05年)、アルゼンチン('06年)など。

借入金が存在するあいだは借入れ国はIMFに対して絶対的な服従を強いられる。それは「占領」政策というにふさわしい。当該国の主権は著しく侵される。IMFはお決まりの「規制緩和、自由化、民営化」を振り回し、金融政策とは関係のない政治や社会分野での法改革や制度改革まで強要する。IMFの目的は政治経済社会を欧米流に「構造改革」することだ。そして、いつも同じ結果が生じる。倒産と失業の増加。税金や公共料金、物価の上昇。教育や福祉政策の縮小。衛生医療環境の悪化などだ。当該国の国民は多大な苦痛と犠牲を強いられる。そして、外国企業や外国資本が利益を享受する。

IMFの「占領」政策の結果、社会不安や不満が増大し、暴動が生じることもある。これは「IMF暴動」と呼ばれる。過酷な「占領」政策によって暴動が発生し、社会が混乱することまで、あらかじめ計算済みということだ。IMFは当該国の国民生活をそこまで平気で追い詰める。一度IMFの占領政策を受けた国は、IMFに対してぬぐいがたい憎悪をもつ。

1989年2月、ベネズエラでこのIMF暴動が発生した(カラカソ大暴動)。そのとき、ベネズエラ陸軍の青年将校ウーゴ・チャベスは、国民の困窮と怒りを目の当たりにした。そして、1992年に仲間とともにクーデターを決行する。が、失敗して2年2ヶ月投獄される。しかし、1998年、チャベスは大統領選挙に出馬。みごと当選する。翌99年大統領に就任。ところが2002年4月、アメリカにバックアップされたベネズエラ支配階級と軍の一部がクーデターを起こし、チャベス大統領をオルチラ島に監禁。しかし、ベネズエラ各地で市民が蜂起。首都カラカスでは百万とも言われる市民が大統領府を取り囲んだ。恐れをなした首謀者は国外へ逃亡。クーデターは二日天下に終わった。

IMFの占領政策とIMF暴動が、今日のチャベス政権を生んだとも言える。そして、チャベス大統領がIMFと世界銀行からの債務をとっとと返済し、両機関から脱退するというのも実に自然の成り行きだ。(ちなみに、タイの前首相のタクシン氏も、タイ国民の反IMF感情を巧みにつかんで選挙で第一党となり首相に就いたと言われている)

IMFは、過去何十年ものあいだ、100ヵ国あまりの国々に対して、常に同じ「処方箋」しか用いてこなかった。その結果、単なる風邪だった患者は次々と重態に陥っていった。債務が債務を呼ぶ末期的な中毒症状だ。いまでは、賢明な国はIMFや世界銀行の融資をきっぱり拒絶している。両機関がこの地上にもたらしてきたすさまじい災厄を考えれば当然の判断である。途上国の反乱はむしろ遅すぎたといえる。

チャベス大統領がIMF・世界銀行からの脱退を表明した同じ4月30日、偶然なのか、当のIMFもある発表をした。「22年ぶりに赤字決算」になる、と。貸付は前倒し返済され、新たな融資は拒絶されるため、IMFは金利収入が減少し財政難に陥っていた。それがついに、22年ぶりの赤字という形になって表れた。この赤字決算は、途上国の反乱に対するIMFの敗北宣言と見えなくもない。ベネズエラの脱退で、脱IMF・脱世界銀行という傾向は今後ますます加速されるだろう。アメリカ一国しか拒否権をもっていない、地上で最も非民主的な国際機関が消滅しても誰も困りはしない。

南米では相互協力の動きが活発化している。地域内の共同市場メルコスル(域内関税の原則撤廃と域外共通関税の実施)が結成されている。地域内で金融支援をおこなうメルコスル開発銀行案もある。また、チャベス大統領は、経済協力協定に参加する国に対し、石油供給を100%保証するとも発言している。まだ足並みが完全にそろっているとは言いがたいが、これからは域内のことは域内で協議し決定するという方針が強まることは間違いない。アメリカは、中南米カリブ地域がアメリカの「裏庭」だという認識を捨てることになるだろう。








ベネズエラ、IMF、世銀から脱退へ=チャベス大統領が発表
http://www.jiji.com/jc/a?g=afp_int&k=20070501012211a

IMF、22年ぶり赤字に 07年度、融資減で200億円
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007050101000168.html

ベネズエラ債務完済
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-04-16/2007041606_01_0.html

IMF事務所の閉鎖 (在ベネズエラ日本国大使館 経済概要)
http://www.ve.emb-japan.go.jp/gaiko/keizai/keizai2007/keizai200701.htm

途上国はIMF・世銀・WTOから脱退し、新国際機関を創立せよ
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/undercurrent/2006/
new_institution_for_developing_countries_2006.htm


ネオリベラリズムとネオコンの破綻
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/undercurrent/2006/collapse_of_neo_liberalism_2006.htm

反米のチャベス大統領、友好国の石油「全面保証」
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20070430STXKB009430042007.html

南米銀設立など合意
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-02-23/2007022307_02_0.html


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1 コメント

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コメントをありがとうございます (中司)
2007-05-14 23:05:33
yagiさん
タンタンさん

コメントをありがとうございました。
お返事できなくて申し訳ありません。
いまのところブログに裂く時間的余裕がほとんどありませんので、コメントの掲載も見合わせております。
ご了承ください。
コメントはありがたく拝読させていただいています。
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