報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

タクシン前首相、マンC買収の意味

2007年09月11日 21時36分40秒 | ■時事・評論
イギリスで「亡命生活」をしているタクシン前首相は、7月にイギリスのプレミアリーグ所属のチーム、マンチェスター・シティ(マンC)を約200億円で買収した(株式の75%を取得)。

タクシン氏は首相時代の2004年にも、プレミアリーグのリバプールの買収に意欲をみせた。しかし、買収資金の一部を公金(宝くじの収益)で賄おうとしたため、タイ国民を呆れさせた。英国メディアも外国人によるチーム買収に批判的であり、結局話は流れた。今回のマンC買収で、またもタイ国民を呆れさせたが、英国民や英国メディアからの拒絶反応はなく、買収は成立した。

そうした中で、国際人権擁護団体は一貫して、タクシン氏によるサッカー・チーム買収に異議を唱えてきた。ニューヨークに本部を置く人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、タクシン前首相によるマンC買収に異議を申し立て、プレミアリーグに対して再考するよう促がした。

HRWは、タクシン前首相による人権侵害を告発し続けており、「最も悪質な人権侵害者」と表現している。そのような人物を、国際的人気のあるサッカーリーグの「適格者審査」にパスさせるべきではない、と主張した。

HRWによるタクシン前首相告発の内容は以下の三つに要約される。

・2003年のタクシン政権下での「対麻薬戦争」において、始めの3カ月間で2,275人が殺害された。タクシン前首相はこの不法な殺害の指揮を取っていた。
・タイ南部での反乱抑圧にあらゆる手段を使うよう、タイ軍に命じた。
・タイのメディアに対して弾圧をおこなった。

特定の犯罪の取締りにおいて、三ヶ月間で2000人以上もの容疑者が死亡するというのは異常だ。公権力による「処刑」であったと指摘されるのも当然だろう。たとえ麻薬ビジネスにかかわったとしても、裁判を受ける権利を剥奪され、その場で処刑されていいことにはならない。しかも、その中には無実の人々も含まれているとHRWは伝えている。この残忍な「対麻薬戦争」という名の虐殺を指揮統括していたのが、タクシン前首相だ。この2000人の死の真相と責任の所在は明らかにされなければならない。アムネスティ・インターナショナルも、HRWと多くの点で意見を共有している。

プレミアリーグは世界で最も古い歴史を持ち、現在、世界で数億人(ウィキによると10億人)が視聴している人気リーグだ。そのリーグに所属するチームを所有するということは、非常に特殊な名誉であると言える。金さえ払えば誰でも買えるというものではなく、選ばれた者だけに与えられえる栄誉だ。

HRWの告発に対して、プレミアリーグは「厳格な”適格者審査”をパスしており、何の問題もない」と一顧だにしていない。「リーグの”適格者審査”の規定は、いかなる会社法の規定よりもすぐれており、イギリスのいかなる産業のそれと比べても厳格である」と。

プレミアリーグは世界の数億人に対して、タクシン前首相は「潔白」であると宣言したも同然なのだ。重大犯罪の嫌疑のかかっている人物には、あまりにも不適切な判断だと言える。有罪になるまでは無罪だが、無罪が証明されるまでは特別な栄誉は保留されるべきだ。誰も抗議しなければ、その罪を不問にしてしまう惧れさえある。HRWはそのことを危惧している。

しかし不可解なのは、イメージに敏感であるはずのスポーツ団体が、HRWの主張を一顧だにしていないことだ。世界で数億人が視聴するリーグであれば、なおさらである。本来なら「虐殺、人権侵害、言論弾圧」という重大な嫌疑がかかっている人物を参加させるはずがない。もし後に有罪になれば、リーグのイメージを著しく損なうことになる。にもかかわらず、プレミアリーグは、自信をもってタクシン前首相を迎え入れた。まるでプレミアリーグは、タクシン前首相が決して有罪にはならない、ということを知っているかのようだ。

そもそもタクシン前首相を取り巻く状況は、一スポーツ団体の判断のレベルを超えているように思う。それをいとも簡単に結論を下したということは、別なところからお墨付きを得ているとしか思えない。もっと高度な政治的レベルで、すでに判断は下されており、プレミアリーグはその判断に従っただけなのだろう。適格者審査も形だけのものだったに違いない。

タクシン前首相は失脚直後から、世界のメディアによって、「軍事政権と戦う、民主主義の擁護者」として扱われている。プレミアリーグ同様、世界のメディアにとっても、何をどう報じるべきかは、あらかじめ別のレベルで決定されている。世界の主要メディアが、判で押したように同じ報道しかしないのはそのためだ。独自の判断はメディアには与えられていない。

たとえば世界のメディアは、ベネズエラのチャベス大統領や東ティモールのマリ・アルカテリ前首相、そしてタイ暫定政府は民主主義を踏みにじる「悪」としてしか描かない。逆に、チャベスを攻撃するRCTV(ベネズエラのTV局)やマリ・アルカテリを引き摺り下ろしたシャナナ・グスマン(現東ティモール首相)、そしてタクシン前首相は民主主義のために戦う「善」としてしか描かない。そこから逸脱した報道など見たことがない。

要するに先進国の利益に忠実な代表者は国際社会で厚遇され、国民の利益を少しでも守ろうとした代表者は徹底的に攻撃される。そういうことだ。

象徴的な事例は、スハルト元インドネシア大統領だろう。彼は、1998年までの30年間インドネシアの元首として君臨していた。その間に彼が築いた資産は推定1兆8千億円。ファミリー全体では8兆円とも。そのスハルト氏はいま何をしているだろうか。彼は被告の身だ。ただし、高齢と病気を理由に公判は停止されている。30年間君臨した大富豪のスハルト元大統領は、なぜ被告席にいるのだろうか。汚職や不正蓄財といった罪状は茶番だ。

スハルト元大統領は、先進国の忠実な利益代表者だった。だからこそ30年間も君臨できた。しかし、アジア通貨危機の最中の1998年に暴動が発生すると、何の策もとらずたったの一週間であっさりと辞任した。

1997年にはじまったアジア通貨経済危機に際して、スハルト大統領はIMFの融資を受け容れた。しかし、ワシントンやIMFが強要する理不尽な経済政策の履行を突っぱねた。大規模暴動が発生したのはその数ヵ月後だ。この暴動はワシントンとIMFからの「返礼」であった。そのことを悟り、スハルトは辞任した。辞任しなければおそらく命はなかっただろう。もともと国民からは愛想をつかされおり、そうなっても誰も気にしなかったに違いない。

先進国の利益代表者であり続ける限りにおいて、絶対的地位を保障される。しかし、たとえ30年間忠実であったとしても、一度でも逆らえば、一瞬にして被告の身に落ちる。スハルト元大統領は見せしめであり、裏切りの罪は死ぬまで許されないだろう。

スハルト元大統領の長期政権に比べると、タクシン前首相の在任期間はほんの5年ほどだ。したがって、その貢献度はたいして大きくはなかったはずだ。にもかかわらずタクシン前首相は、国際社会の最も目立つ位置で厚遇されている。アンチ軍政の象徴として、世界の数億人にアピールすることの効果が期待されているのだ。

逆に言えば、現在タイで進行していることは、先進国の利益を侵害する重大事件だということだ。タイ一国の利権はそれほど大きくはないだろう。しかし、アジア全体となると話は違う。もしタイが外国企業や外国資本を大幅に規制すれば、通貨危機以前のような経済成長をするだろう。そうなれば、他のアジア諸国にも外資規制が伝播するだろう。

通貨危機以前のアジアは、外資と関係なく成長し続けていた。「タイガー・エコノミー」「世界経済の成長センター」などと絶賛されていた。そこに外資が割り込んで、アジア経済を破壊し、乗っ取ったのだ。もともとアジアには外資など必要なかった。

もしタイが外資規制に成功し経済成長すると、アジア諸国は次々と外資規制をするかもしれない。先進国の企業や金融資本にとっては恐怖のドミノ倒しだ。先例を作ることは命取りなのだ。なんとしてでもタイの試みを叩き潰そうとする。

ただし、スハルト政権に対するような、強引な手段はタイでは使えない。スハルト政権は国民から疎まれていたので、手っ取り早い手段が使えた。しかし、タイの暫定政府は国王から承認されている。国王の判断を批判するタイ国民はいない。したがって、暫定政府に対する攻撃は遠回りな持久戦を展開するしかない。その中でも、バーツ高は大きな効果を発揮し、暫定政府の支持率は確実に低下している。

こうした流れのなかで、反軍政の象徴であるタクシン前首相には、破格の特別待遇が与えられた。マンCの買収は、広告塔としての役目だけでなく、忠誠心への褒美であり、あらゆる犯罪行為に対する免罪符でもある。





HRW concerned about Thaksin’s ownership in Premier League Team,
Manchester City
http://hrw.org/english/docs/2007/07/31/thaila16544.htm
Amnesty International
Thailand: Memorandum on Human Rights Concerns
http://web.amnesty.org/library/index/engasa390132004
A fit and proper Premiership? BBC Sport
http://news.bbc.co.uk/sport2/hi/football/teams/m/man_city/6918718.stm
権利擁護団体、タクシン前首相の対麻薬政策を批判
http://www.janjan.jp/world/0708/0708221146/1.php
タイ首相のリバプールの株取得で英のファン猛反発
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200405121130193
英国サッカーチーム買収資金の出所調査
http://www.bangkokshuho.com/news.aspx?articleid=3231
新しい考え + 新しい行動 = 新時代の汚職
http://homepage3.nifty.com/jean/Papers/Old/2404_06/240511-20.html
米団体、「タクシン氏はマンCのオーナーに不適切」
http://72.14.235.104/search?q=cache:4LVAwSaOm7kJ:news.goo.ne.jp/article/reuters/sports/JAPAN-271746.html+%E3%82%BF%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%80%80%E3%83%92%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%84%E3%80%80%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%83%E3%83%81&hl=ja&ct=clnk&cd=3
タイ資産調査委、タクシン前首相ら一族の銀行口座を凍結
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT2M1101O%2011062007&g=G1&d=20070611


「麻薬撲滅戦争 - より厳しく」
http://homepage3.nifty.com/jean/Papers/Old/2301_03/230301-10.html
麻薬戦争による死亡者に関する調査特別委員会を設置
http://thaina.seesaa.net/article/51418960.html
タイ検察タクシン前首相を起訴
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/asia/58243/
タイ前首相夫妻に2件目の逮捕状、証取法違反容疑
http://www.newsclip.be/news/2007903_015082.html
タイ:人権弁護士「失踪」とタクシンのつながり
http://www.janjan.jp/world/0611/0611164829/1.php
資金洗浄容疑でタクシン前首相を告発か 2007/08/31
http://www.bangkokshuho.com/news.aspx?articleid=3253
タクシン夫人の土地疑惑でプリディヤトンを被告側証人として請求
http://fps01.plala.or.jp/~searevie/new_page_2.htm#


タクシンの言論弾圧
http://www7.plala.or.jp/seareview/newpage24genron.html
タイ報道界が首相に「全面戦争」布告 言論の自由守ると挑戦状
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200510291120406
タイ新聞各紙、言論の弾圧に反発(2005 07 22)
http://www.janjan.jp/world/0507/0507280115/1.php
タイで辛口のトーク番組を突然打ち切り 地元メディアは猛反発
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200510031434301


RCTVとベネズエラにおける言論の自由
http://agrotous.seesaa.net/article/44475747.html
クーデターに加担 問われるメディア 放送免許更新めぐり論争
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-02-07/2007020706_01_0.html


タイ: 憲法改正国民投票

2007年08月21日 14時37分30秒 | ■時事・評論
19日、タイでは憲法改正を問う国民投票が実施された。
即日開票され、賛成が反対を上回った。
最終的な結果は、
賛成57.81%、
反対42.19%、
投票率57.61%。

”かろうじて”、暫定政権の方針は支持されたと言える。ひとまず国民から信任を得たことにはなるのだが、投票率が60%以下と低いため、全国民的支持とは言い難い。

バーツ高に対して有効な手段を打てず、倒産や失業によってタイ経済が混迷したことが最大の原因と言える。バーツ高は、確実に暫定政権のボディに効いている。今後も暫定政権を揺さぶる有効な手段として使われるだろう。

憲法改正に反対する運動を展開してきたUDD(反軍政共闘)は、国民投票での敗北を認め、活動の中止を表明した。今後は、年末に行なわれる総選挙に向けて体勢の立て直しをはかるだろう。総選挙後、暫定政権は権限を民政に移管して、その役目を終える。暫定政権の役目とは、過度な急成長政策を改め、また外国資本を規制し、その政策を民政に引き継ぐことであると僕は見ている。

暫定政権がこれまでに打ち出してきた外国資本の規制や法整備に対して、タイ国内の外国人商工団体などが強く反発している。EUはWTOへの提訴も検討している。これらが表の意思表示であるなら、バーツ高は裏の意思表示と言えるだろう。

これ以上バーツ高が進むと年末の総選挙の結果に大きな影響を与えることになる。そのため暫定政権としては、これ以上強硬な外国資本の規制には挑めないのかもしれない。本格的な外国資本の規制は、総選挙後の民政に委ねるのが得策と言える。しかし、旧タイ愛国党が選挙で多数になればそれも不可能になる。暫定政権はいま大きなジレンマの中にあるように思う。

16日、アジア市場で、株式と通貨が軒並み下落した。
”「円キャリー取引」の解消で、欧米の資金がアジアから流出しているもよう”、”世界的なカネあまりを背景に過大評価されていたアジア株・通貨の調整が始まったという見方もある”、というのがメディアの解説だ。まるで必然的な出来事が起こったかのような書き方だが、「もよう」とか「見方もある」とか、実際はメディアは何が起こっているのかを理解してはいない。

はっきりしているのは、欧米の都合でアジアの株式や通貨は、いいように翻弄されているということだ。それによって儲けるのが誰であるかは常に決まっている。金融の自由化は、アジアに何ももたらしてこなかった。外国資本を規制しなければ、同じことを繰り返すだけだ。自由化ではなく、規制化が必要なのだ。タイ暫定政権は、それを試みようとしているのだ。しかし、その道は容易ではない。




王宮前広場では、反軍政共闘によって頻繁に集会が行なわれた。
ステージが常設され、屋台街まで出現するほど大勢のメンバーが常駐した。

































国民投票で敗北が決まると、反軍政共闘はすぐに常設ステージや音響、証明、テントなどを撤去した。


新憲法案承認も反対票4割超 タイ国民投票
http://www.asahi.com/international/update/0819/TKY200708190160.html
タイ、巨大与党の出現を阻止 新憲法1次草案
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/asia/48535/
首相、ブリラムの一部村内で国民投票の票買収が行われている
http://thaina.seesaa.net/
タイ東北部で新憲法国民投票に200バーツで反対票を入れるよう画策?
http://fps01.plala.or.jp/~searevie/new_page_9.htm#146.
株式・通貨 軒並み下落 リスク回避アジアに波及
http://www3.ocn.ne.jp/~tji/sub9s0708.htm
外資代理投資 規制を撤回 暫定政権 外国企業反発に配慮
http://www3.ocn.ne.jp/~tji/sub9s0708.htm

タイ: 効果のないバーツ高対策

2007年08月10日 22時24分36秒 | ■時事・評論
タイのバーツ高が進んでいる。
現在、バンコクの為替取引所で1ドルが33バーツ台となっている。
4月から6月にかけては34バーツ台が続いていたのだが、ツーリスト・シーズンに入ったとたん狙いすましたようにバーツ高が進行しはじめた。

バーツ高による企業倒産や廃業も発生し、タイ経済界には不安感が充満している。暫定政権は「人望」はあるのだが、経済運営能力は疑問視されている。暫定政権のバーツ高抑制政策がまったく効果がないからだ。

短期資本の規制(のち撤回)、金利下げ、財政政策などのバーツ高対策を打ち出してきたが、7月には新たに「外貨保有規制を緩和」する政策を打ち出した。しかし、これも効果は期待できない。バーツ高の原因を探らなければ真の対策はできない。

タイの貿易黒字や海外からの投機的マネーの流入といった要素が本当にバーツの高騰を引き起こしているのだろうか。それらはバーツ高の要素ではあるが、主因とは思えない。他のアジア諸国の為替も2006年はじめから上昇しはじめているが、そのころはバーツはほぼ歩調を合わせるような動きでしかなかった。しかし、2006年9月に政変が起こり、2007年に入った途端バーツだけが急速に上昇した。

現在のタイは、欧米社会が非難するところの”クーデター”によって誕生した軍事政権下にある。それだけでなく(日本ではほとんど報道されていないが)南部の三県では頻繁に爆弾事件や襲撃事件が発生している。約3年間で2000人以上の死者が出ている。残忍な斬首事件も30件をこえている。公務員、教員、仏僧などが主に狙われている。教員には武装許可もでており、射撃訓練も行なわれている。また、道路わきに仕掛けられたIED(簡易爆弾)によってタイ軍の車両が何度も攻撃され、死者を出している。このような攻撃方法が用いられているのは、他にイラクとアフガニスタンくらいだ。タイはそれくらい異常な状況下にあるのだ。

そのような「不安定国」の通貨が高値を更新し続けているのは、とても不可解だ。海外からの投機的マネーの流入だけでこのような通貨高が起こるとは思えない。たとえ、そこに意図的な作為が働いているとしても、それだけで「不安定国」の通貨を高値に維持し続けられるだろうか。

かつて日本も円高を経験し、苦しんだ。95年には1ドルが79.85円という驚異的な円高を記録した。翌96年に「金融ビックバン」という金融の規制緩和が行なわれた。この円高、超円高は日本の金融市場を外国資本に開放させるために仕組まれたものだったと考えられている。では、あの超円高は一体どのようにして引き起こされたのだろうか。

大蔵省が大規模な市場介入を日銀に要請した95年1月を振り返ってみよう。大蔵省は少なくとも4カ月続けてドル買いに毎月200億ドルを投じるよう日銀に要請した。円相場は95年1月に1ドル=101円で始まったが、4カ月と経たないうちに過去最高の1ドル=79.75円に上昇した。史上最大の外為市場への介入は意図とは反対の結果をもたらしたのである。
(中略)
日銀は大蔵省の要請通り米国債を購入しているが、そのために必要な円を創出してこなかった。そのかわり、日銀は国内市場で日本国債など他の資産を売却しており、ドルを買うために国内経済から円を吸い上げたのである。これは不胎化と呼ばれる。円の総量は増えないため、円安にはならない。不胎化された外為市場の介入は、効果が長続きしないまま継続された。95年3月、日銀が過去最大の市場介入を過度に不胎化し、経済システムから資金量を純減させ、(中略)大蔵省の円安誘導政策を事実上妨害した。円安誘導を目指した大蔵省の必死の試みにもかかわらず、95年4月に円相場が1ドル=80円まで上昇したのはこのためである。
(中略)
大蔵省は日銀が長年にわたって為替政策を愚弄してきたことにそろそろ気付いても良い頃である。大蔵省は効果のない外為市場への介入にエネルギーを費やすのを止めて、日銀がなぜ政策を妨害することができたのか調査すべきである。日銀が円相場を1ドル=80円に押し上げた95年には旧日銀法が施行されており、その第1条で、日銀は政府の打ち出す政策を支持しなくてはならないと明記されていたのである。
週刊エコノミスト 平成11年7月13日号
リチャード・A・ヴェルナー

http://www.profitresearch.co.jp/j/articles/economist_j/a_econ_july98j.htm

日本の円高の事例を参考にすると、現在のタイでも同じことが起こっている可能性が高い。短期資本規制や金利下げ、財政政策がなんの効果もないのはこのためだろう。外貨保有を解禁しても結果は同じことだ。タイの中央銀行が国内経済からバーツを回収していると考えられる。軍事暫定政権をゆさぶるために意図的にタイ経済にダメージを与えているのだ。1997年のアジア通貨経済危機の時も、タイの中央銀行はタイ経済を破壊する仕事に協力しているようだ。

1990年代初め、韓国、タイ、インドネシアの中央銀行が80年代の日本銀行と同じ政策をとりはじめた。法律にはない銀行貸出「指導」を活用して、銀行に不動産投機への過剰な投資をおこなわせた。中央銀行が割高な為替レートを維持して、国内金利を外国より高めに設定したために、投機家には外国からの借入れへのインセンティブが与えられた。記録的な額のドルがこの地域に流れ込み、資産バブルの火に油を注いで、事態はいっそう危険をはらんだ。1997年、投資家が撤退した。同時に中央銀行は民間銀行に信用創造の制限を強制した。バブルははじけた。

迅速に変動為替相場制に移行するかわりに、中央銀行は相当額の外貨準備を無駄に費やした。中央銀行がさらに信用創造を抑制し、危機は不況へとつながった。支援を求められた国際通貨基金は、経済構造と国法の大幅な変革を要求した。その目標は、アジア経済を改革してアメリカ流の自由市場を採り入れたがっている中央銀行と同じだった。さらに彼らは法的独立の達成も望んだ。中央銀行法が改正されると、中央銀行はただちに通貨供給を増加させて、危機を終息させた。
『円の支配者』リチャード・A・ヴェルナー著

IMFは被援助国の中央銀行を法的に「独立」させ、そして国家の管理から離れた中央銀行をIMFの支配下に置く。以後、IMFが中央銀行を自在に操れるのだ。通貨政策は中央銀行が行ない、政府に対しては説明責任を持たない。つまり、当該国政府は法律を改正しない限り、以後永遠に独自の通貨政策ができなくなるのだ。

第三世界と東欧の中央銀行は、大部分がパリ・クラブ(債権国会議)とロンドン・クラブ(民間債権団)の代理者といえるIMFの統制圏に入っている。
(中略)
このような事態が示唆する点は、各国の中央銀行がこれ以上生産促進や雇用創出のような、その国の広範な利益を目標として、通貨発行を調節することができなくなった、ということである。
(中略)
ロシア連邦の場合、IMFが国営企業に対する中央銀行の与信発給を規制することを要求した措置は、一九九二年以来ロシア経済の全部門が瓦解し始めた時と直結している。
『貧困の世界化』ミシェル・チョスドフスキー著

タイの暫定政府の通貨経済政策は、財務相、副首相兼工業相、そして中央銀行総裁が協議して決定している。しかし、タイ中央銀行が暫定政府の見えないところで、バーツを減少させているとすれば、どのような政策も無意味といえる。これこそがバーツ高の主因なのではないのか。海外からの投機的マネーはダミーなのかもしれない。

いまや暫定政権の支持率は急降下し、信任を失いつつある。日本の大蔵省も日本銀行の行動をついに見破れず、バブルとその崩壊、その後の長期的不況の全ての責任を負わされて、消滅した。

タイ暫定政権は、中央銀行が繰り出す小手先の通貨政策などにごまかされず、中央銀行から通貨政策の権限を取り戻すべきだ。このままでは、暫定政権がすべての責任を負わされて、消滅するしかない。



タイ政府がバーツ高抑制策を発表、外貨保有規制の緩和など
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-27031220070724
バーツ高対策、個人のドル口座解禁か
http://www.newsclip.be/news/2007719_012521.html
タイの外国人事業法改正案、強硬論に押され撤回
http://www.newsclip.be/news/2007809_014481.html
タイ財閥系靴メーカー、バーツ高で廃業
http://www.newsclip.be/news/2007801_014304.html
タイ財務相と中銀総裁、バーツ高について協議へ
http://news.goo.ne.jp/article/reuters/business/JAPAN-268574.html?C=S
タリサ・ワタナケート中央銀行総裁 略歴
http://www.geocities.jp/noby_thai/biographical_dictionary/tarisa_watanagase.html
効果のない日銀の為替市場介入
(記事・論文の閲覧には無料登録が必要)
http://www.profitresearch.co.jp/j/index.shtml
http://www.profitresearch.co.jp/j/articles/economist_j/a_econ_july98j.htm
『円の支配者』リチャード・A・ヴェルナー著
http://www.amazon.co.jp/
『貧困の世界化』ミシェル・チョスドフスキー著
http://www.amazon.co.jp/

プロテスター

2007年07月07日 18時38分18秒 | ■時事・評論






























「今日は雨に水を差されたが、われわれは来週また戻ってくる」

そう言い残して反軍政デモは豪雨の中、陸軍司令部前で解散した。
そして約束どおり次の日曜もデモ隊は司令部前に戻ってきた。
ただし、規模は約6000から約1000に減っていた。
最大で2万人規模のデモも行なわれたようだが。

デモを見物するバンコク市民は意外と少ない。
後日、タイ人の知人には必ずデモについて訊ねた。
「デモ参加者は、タクシンから日当をもらってるのさ」
「日当300バーツと食事飲料つきで、バスに乗って地方からやってくる」
というのが総合的な認識だ。
「地方のあるタクシー会社は、ドライバーを動員している」
という話もあった。

「タクシン前首相がタイに帰ってくるという話もあるが」
と訊くと、
「とんでもない、ごめんだね」
とみなが顔をゆがめて応えた。
タクシン前首相がポケットマネーでマンチェスター・シティ(イギリスのプロサッカーチーム)を買収することもタクシン氏への反感を増幅しているようだ。自分のお金だから何を買おうが自由ではあるが、タイミングとしては最悪と言える。

タクシン前首相に対するこうした拒絶反応は都市部と富裕層にその傾向が強い。タクシン政権の急成長・巨大プロジェクト政策はタイの国内資本にはそれほど恩恵を与えていなかったからだろう。

タクシン前首相は、汚職と腐敗にまみれていた。それによって首相の座を追われたことになっているが、それはたてまえ上の理由にすぎない。いま、タクシン氏がアメリカやヨーロッパ、中国で歓迎されているのは、彼が大金持ちだからという理由ではなく、そうした国々の利益を代表していた人物だったからだろう。イギリスのサッカーチームを所有できるのは、そのご褒美であり、この機会を逃したくなかったのかもしれない。

前タクシン政権は都市部と富裕層の支持は期待できなかった。そのため地方での支持基盤を磐石にする必要があり、地方部に対する手厚い政策を行なった。貧困層への低利貸付や30バーツ(約100円)医療を実施した。日本の真似をしたのか一村一品運動も行った。眉目を引く政策を実施することによって、地方の景況感期待感を押し上げ圧倒的支持につなげることに成功した。

しかし、タクシン政権下の地方政策は、さまざまな弊害を引き起こしていた。特に30バーツ医療によって、医療施設に人が殺到し、医療の質の低下を引き起こした。地方から医師が逃げ出しているとも聞く。結局のところ、人気取りのための場当たり的な政策だったと言える。

いまでも地方部でのタクシン氏の人気は絶大と言ってよい。
日曜の反軍政デモは、当分のあいだ恒例となるのかもしれない。


訂正とお詫び

2007年06月05日 09時20分04秒 | ■時事・評論
2006年4月の記事『最強の傭兵部隊・IMF、世界銀行』の文中に不正確な表記がありましたので、訂正とともにお詫びいたします。
記事中に、
「たいていの場合、コンディショナリティによって融資金を農業生産に使用することを禁じられていた。ただし、外国から食料を購入することはできる。その際の購入先もたいてい指定されている。つまり、食料不足はアメリカの農業製品で補えということだ」
という表記をしていましたが、IMFのコンディショナリティに、そのような禁止事項が盛り込まれることはありません。上記の表記は明らかな誤記であり、謹んでお詫び申し上げます。

ただ、IMFや世界銀行がそうした意図をもって政策を遂行していることは間違いありません。しかし、”食糧生産に金を使うな””アメリカの食糧を買え”というようなあからさまな命令をすることはありません。にもかかわらず、結果的にはそうせざるを得ない事態に途上国は陥ります。マラウィでは、「国内の一方の端から他方の端まで(食糧を)輸送するよりも、カンサスから船で運ぶほうが安上がりになっている」という、にわかには信じがたい事態が発生していました。国際食糧政策研究所はその原因を、IMFと世界銀行がマラウィに命じた政策にあると報告しています。
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/headline/agri0208.htm
http://www.irinnews.org/report.aspx?reportid=33255

IMFや世界銀行の政策によって、農業生産が阻害され、その結果欧米のアグリビジネスが巨大な利益を得てきたという報告は多々あります。

 これまで、IMF・世銀は、貿易障壁、国内で生産される食料品への補助金、地方の農業振興プログラムなどの撤廃を融資の条件にしてきた。
 北の先進国に対しては、そのような条件を付けて来なかった。さらに、WTOの農業協定は、北の先進国が生産コスト以下の安い価格で余剰農産物を途上国にダンピングし、巨大多国籍農産物輸出企業の市場拡大を許してきた。
 その結果、途上国では産業の要である農業部門が壊滅的打撃を受けた。
http://www.eco-link.org/jubilee/dn336.htm

南半球は、農業協定によって一定の裁量権を認められているにもかかわらず、国際通貨基金(IMF)や世界銀行から強要された関税引き下げを追い風とする北半球からのダンピング輸出にさらされることになった。それが彼らにもたらしたものは、農業貿易の赤字の増大である。
http://www.diplo.jp/articles03/0309-4.html

IMFと世界銀行は、自給自足の地域型農業システムの商業的かつ市場依存型の生産、流通システムへの移行を義務付ける政策をとっている。
その上、現在の輸出作物偏重は、土や水、大気、種の多様性、人間と動物の健康を脅かすような有害で費用のかかる化学物質投入への依存を高めるとともに、北に拠点を置く大手アグリビジネスと化学企業の利益を増やすように作用している。我々の農業を守るためには、世界銀行とIMFも食糧と農業から排除しなければならない。
http://www1m.mesh.ne.jp/~apec-ngo/wto/wto04/viacampesina.htm
IMFや世界銀行の政策の意図は歴然としています。IMF・世界銀行は、自由化や民営化、規制緩和という欧米のスタンダードを一様に適用することで、当該国の国内経済と国民生活に多大な不利益をもたらし、逆に欧米の多国籍企業や金融資本へは莫大な利益をもたらしてきました。IMFと世界銀行は、欧米の大企業や金融資本の利益代表者と考えて間違いありません。したがって、両機関の採る政策には、そうした意図が隠されています。「世界の通貨の安定」や「貧困の撲滅」というお題目は隠れみのにすぎません。もし、本当にこのお題目が実行・達成されれば、欧米の多国籍企業や金融資本は利益の機会を失うでしょう。

IMFや世界銀行に対しては、改革論から廃止論まで、すでにさまざまな意見が存在しています。IMF・世銀は国連の専門機関ですが、国連大学の世界開発経済研究所は、「第二次世界大戦の終結時に創設された世界銀行と国際通貨基金(IMF)が、政治的にも経済的にもすでに時代遅れになった機構のままで現在も運営されており、・・・外部から変化を強要されるまえに、機構刷新の必要がある」と報告しています。また、「これらの機関の改革ではなく、役目を終えた国連信託統治理事会に代えて、世界環境機関や世界社会機関を創設し、IMF、世界銀行、WTO に対抗すべきだ」というような提案もあるようです。
http://www.unu.edu/HQ/japanese/ar01-jp/ar7.pdf
http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/ReCPAcoe/uemura.pdf

しかし、IMFや世界銀行の改革や廃止は非現実的と言えます。両機関は弱体化しはじめているというものの、多国籍企業や国際金融資本にとっては、まだまだなくてはならない利用価値の高い機関のはずです。廃止も改革も念頭にないことは明らかです。見せかけの改革をおこなってごまかそうとはするかも知れませんが。

両機関の影響力を無力化する最も有効な方法は、ベネズエラのチャベス大統領のように、きっぱりと脱退を宣言することです。もしくは決して融資など受けないことです。そしてそうした動きは実際にはじまっています。

パキスタン、ウクライナなども、IMFと手を切りたいと思い始めている。セルビアはすでにIMFの融資を断っている。
南アフリカなどは、はっきりと世銀からの融資は受けないと宣言している。

ガーナは、IMFの「貧困削減成長基金(PRGF)」から脱退することを宣言した。PRGFは貧困国に対する無利子の融資基金だが、厳しい条件がついている。
 また、ザンビア大統領は予算についての新年のメッセージで、IMFが要求した主食をはじめとした農産物、上下水道、国内交通、蚊帳、書籍、新聞などに対する17.5%の付加価値税の再導入を拒否すると発表した。
IMF離れの傾向は、これに留まらなかった。最近大統領選に勝利したニカラグア、エクアドルもIMFとの決別を宣言している。

途上国では、IMFと世銀の威力は著しく後退している。その正当性を失っている。
すでにエクアドルのコレア大統領は、世銀代表を国外に追放した。そして、エクアドルはすでに債務を返済していると述べた。

http://www.jca.apc.org/~kitazawa/undercurrent/2006/
collapse_of_neo_liberalism_2006.htm

http://www.jca.apc.org/~kitazawa/debtnet/2007/vol6_1.htm
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/debtnet/2007/vol6_6.htm
こうした動きがどんどん加速すれば、事実上IMFや世界銀行を葬り去ることができるでしょう。IMFと世界銀行から脱退し、スタッフには国から退去してもらえばいいのです。改革も廃止も必要なく、いままでどおり両機関が存在しても何の問題もありません。

IMF・世界銀行の政策によって、豊富な資源を有する国の国民が貧困にあえいできました。資源や原料は格安の値段で先進国に供給され、先進国企業は、この安い資源と労働力によって可能になった大量生産・大量消費・大量廃棄のサイクルがもたらす莫大な利益を享受しています。同時に先進国で余剰生産された工業製品や農産物が途上国の市場を席巻しています。途上国が飢えと貧困にあえぐことによって、いまの先進国の快適で便利な生活がなりたっています。

IMFや世界銀行がもたらしている貧困と飢えによって、世界何十億という人々が、何世代にもわたって苦しみ続けます。貧困の破壊力、殺傷力に匹敵するのは核兵器だけでしょう。あるいは、核兵器もおよばないかもしれません。

なすべきことはただひとつ、一刻も早くIMF・世界銀行と手を切ることです。






※カテゴリー「IMF&世界銀行」は今回の不備を機に、一端閉じてリニューアルいたします。ただ、現在取り組んでいることを優先しますので、いつできあがるかは、今のところわかりません。より充実した内容を目指したいと思いますので、ご理解ください。ご迷惑をおかけすることを重ねてお詫びいたします。
※貴重な指摘をいただいたカリキュラスさんへ厚くお礼申し上げます。



IMF・世銀・WTOがジュネーブで政策協調会議/第11回国連持続可能な開発委員会(CSD)の報告
http://www.eco-link.org/jubilee/dn336.htm

カンクン後の農業に関する声明
http://www1m.mesh.ne.jp/~apec-ngo/wto/wto04/viacampesina.htm

世界の自滅的な農業政策
http://www.diplo.jp/articles03/0309-4.html

世界飢餓にまつわる12の神話
http://journeytoforever.org/jp/foodfirst/report/hunger/12myths.html

Trade and Food Sovereignty (貿易と食糧主権)
http://hideyukihirakawa.com/GMO/ngoreport.html

マラウィ:農業改革が食糧安全保障を損ねる
http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/headline/agri0208.htm

MALAWI:Agriculture Reforms Hurt Food Security
http://www.irinnews.org/report.aspx?reportid=33255

食糧主権に関する世界フォーラム最終宣言
http://www1m.mesh.ne.jp/~apec-ngo/wto/wto04/FOOD%20SOVEREIGNTY_cuba.htm

国連大学 食糧・栄養ネットワーク
http://www.unu.edu/HQ/japanese/ar01-jp/ar7.pdf

グローバルな持続可能な福祉社会へのプロレゴメナ
http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/ReCPAcoe/uemura.pdf

途上国はIMF・世銀・WTOから脱退し、新国際機関を創立せよ
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/undercurrent/2006/
new_institution_for_developing_countries_2006.htm


「IMFは嫌われ者」
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/debtnet/2007/vol6_1.htm

「ベネズエラがIMFと世銀から脱退宣言」
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/debtnet/2007/vol6_6.htm

「ネオリベラリズムとネオコンの破綻」(3.IMF、世銀、WTOの機能低下)
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/undercurrent/2006/collapse_of_neo_liberalism_2006.htm


タイ、異常なバーツ高

2007年04月17日 16時29分54秒 | ■時事・評論
タイの通貨バーツが昨年来じわじわ高くなっていた。
それ自体は、タイの好調な輸出の表れとみられていた。
しかし、政変以降、急激にバーツ高が進んだ。
通常、政情の「不安定」な国の通貨は安くなる。
政変がなかったとしても、現在のバーツ高騰は異常と言うしかない。

タイバーツは、97年のアジア通貨経済危機以降は、1ドルが約40バーツと、非常に安定していた(99年を除く)。それが現在、1ドルが32.23バーツとなっている(4月17日現在)。昨年に比べ、20%近くも高くなっている。

バーツ高騰の主因は、海外からの短期資金の流入によるものと見られている。タイ暫定政府は短期資金の規制を行なったが(06年12月)、効果はみられなかった。そして3月15日には9年ぶりの高値34.90バーツを記録し、以降高値を更新し続けた。

アメリカ政府が言うところの民主主義を後退させる「軍事クーデター」が発生し、しかもその後、複数の爆弾事件も勃発している。現在、主だったデパートなど人の出入りの多い場所では、入り口で必ず荷物チェックがなされている。また南部三県での混乱もまったく収拾できていない。そうした政情の「不安定な」タイに、なぜ海外から短期資金が流入し続けているのか。おかしくはないだろうか。普通、不安定なところからおカネは逃げるものだ。しかも、規制をしてもまだ資金が流入し続けたのはさらにおかしい。資金の自然な流れとは言えない。昨年の政変が、タイの国内勢力同士による単純な覇権権力争いなら、交渉する相手が代わるだけで、このような異常な通貨高の圧力が発生することはないはずだ。バーツ高騰には、外部からの「強固な意志」が働いているとしか思えない。

バーツ高が進めば、タイの輸出競争力は低下し、輸出関連産業に影響を与えるだろう。また、割高になったバーツによって観光客のサイフの紐も固くなり、観光業にも影響を与えるだろう。景気が低迷すれば、暫定政権に対する支持率は低下し、ついには不信任につながるかもしれない。暫定政権が選挙に敗北すれば、前首相が堂々と返り咲くこともあり得る。そうなれば誰が得をするだろうか。

タクシン前首相は、積極的な外資の導入と巨大プロジェクトによる急速な成長政策を行なっていた。タクシン前首相在任中に、巨大新空港(スワンナプーム空港)の建設が着工・完成した。また、高速道路やスカイトレインの延長事業、サイアム地区再開発事業、そして過剰と思えるほど多くの商業ビルやデパート、高層住宅が首都に建設された。スカイトレインに乗ってバンコク市内を眺めれば、いまでも建設中の多くの高層ビルを目にすることができる。タクシン前首相時代のこうした巨大プロジェクトによる成長政策には外国の技術や資本が必要であり、多くの外国企業や外国資本に活動の機会と利益を提供してきたことは間違いない。

では、現在の暫定政権の経済政策はどうだろうか。それは、急速な成長経済とは裏腹の「足るを知る経済」として知られている。「足るを知る経済」とは、現プミポン・タイ国王が長年にわたって提唱している理念で、何ごとも中庸をもってよしとするという考え方と言える。短期的な利益をめざすのではなく、地域間の格差を是正する、持続可能な経済成長をめざすものだ。

タクシン政権下の巨大プロジェクトによる急速な成長経済政策によって、大きな利益をあげてきた外国資本にとっては、「足るを知る経済」はあまり有難くない経済政策と言えるだろう。何としてもタクシン時代に戻して、いままで同様利益を享受したいと考えるだろう。そのためには、暫定政権に徹底したダメージを与えなければならない。その答えがバーツの高騰ではないのだろうか。

暫定政権は、バーツ高騰に対する対策として金利下げを決定した。また財政政策も検討されている。しかしながら、どちらの政策もバーツの安定に効果があるとは思えない。かつての日本も円高を止めることはできなかったのだから。

1995年4月19日、円ドルレートが1ドル79.75円の史上最高値をつけた。1994年からはじまった異常な円高の最終局面だった。この超円高によって、バブル崩壊で疲弊した日本経済はとどめを刺された。翌1996年に発足した第二次橋本政権は金融市場の自由化を行なった(「金融ビックバン」)。これはワシントンの圧力による規制撤廃、自由化、民営化という「構造改革」の幕開けだった。そして「構造改革」は小泉政権へと受け継がれていった。その結果、日本経済がどうなったか、そして誰が利益を享受したかはいまさら言うまでもない。いま、タイのバーツを高騰させているのもまったく同じ原理と言える。通貨高騰や暴落を起して、相手を屈服させるのだ。

アジア通貨はつねに外国資本からの圧力と脅威にさらされている。こうした脅威に対抗するために共同防衛策が検討されている。ASEAN+日中韓の13ヶ国による通貨安定のための外貨準備策だ。5月に京都で開かれる蔵相会議で正式に提案される予定だ。しかし、この構想はどこからか横槍が入って失敗に終わることもあり得る。

97年にタイで通貨危機が発生したとき、タイ政府の要請を受けて、日本はいち早く救援に乗り出そうと動いた。しかし、この試みはワシントンによってみごとに潰された。本来なら、タイの通貨危機は日本の資金によって簡単に初期消火されていた。したがって、アジアを巻き込む通貨経済危機に発展することもなかったはずだ。だが、IMFがタイに乗り込んでくるとボヤはたちまち大火災になり、近隣諸国に燃え広がった。

この大惨事を目の当たりにして、日本は97年秋に「アジア通貨基金」の設立を提案したが、アメリカ、IMF、中国の反対にあってこの試みも挫折した。アメリカ政府とIMFは、アジアが共同して通貨を安定させることを阻み続けている。今回のASEAN+日中韓による独自の通貨安定構想のゆくえもたいへん心もとない。

アジア通貨経済危機によって、タイ、韓国、インドネシアはIMFによる「支配」を受けいれ、多くの企業や銀行を外国資本に売り渡した。IMFの強要する規制撤廃、自由化、民営化によって、この三ヵ国の経済はさらに悪化し、福利厚生は縮小し、格差は拡大し、失業や犯罪は上昇した。ワシントンやIMFが強要する政策とは、実質的な政治経済的な占領にほかならなかった。それによって、得をしたのは欧米の多国籍企業や金融資本だ。

通貨危機以前は、アジア経済は持続的で安定した成長をしていた。しかし、欧米の経済理念(グローバリゼーション)を受け容れた途端、通貨経済危機に見舞われた。

昨年9月のタイの政変とは、こうした外国の都合によって翻弄される経済的枠組みから脱っすることが真の目的であったと見ている。そのためには思い切った手段が必要だった。それが見せかけの「軍事クーデター」だった。ワシントンやIMFの目を眩まし、手出しができないようにするためには、そのくらいの思い切った手段が必要だったのだ。これが「タイ・マジック」だ。

現在の不自然なバーツ高騰は、ワシントンやIMF、欧米資本からタイ暫定政権に対する宣戦布告なのではないだろうか。

このままバーツ高騰が続き、タイ経済が低迷し、暫定政権の試みがはからずも失敗すれば、タイのみならず日本の国益をも損なうことになる。日本の生産設備の多くはタイに移転しており、日タイの経済は深くリンクしている。いすゞ自動車などは、今年でタイ進出50周年になる。それを記念して様々なキャンペーンも行なわれている。同じように何十年も前からタイに進出している日本企業は多い。日タイの経済関係は想像以上に長く、そして深い。タイ経済の真の安定は、日本の国益でもある。グローバリゼーションとは無縁の時代、日本もタイもともに持続可能な経済成長を続けていた。

いま、タイの暫定政府は孤軍奮闘している。
日本政府はかつてそうだったように、タイ経済を救出しようとしているのではないだろうか。
しかし、かつてそうだったように、したくてもできないのかもしれない。





9年ぶりに1ドル=34.9バーツ、バーツ高進行 2007/3/15
http://www.newsclip.be/news/2007315_010285.html

1ドル=34.6バーツ台、バーツ高進行 2007/3/22
http://www.newsclip.be/news/2007322_010478.html

タイ財務相、外為規制を事実上撤廃 2007/03/26
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20070326AT2M2601M26032007.html

ASEAN財務相会議、外貨準備拠出で合意・為替安定へ新体制 2007/04/06
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20070406AT2M0502C05042007.html

市場の不安定性を懸念、ASEANは経済協力を強化すべき=タイ財務相 2007/04/06
http://www.worldtimes.co.jp/news/world/kiji/2007-04-06T103457Z_01_NOOTR_RTRJONC_0_JAPAN-254272-1.html

タイ中銀が0.5%利下げ、景気減速・バーツ高で 2007/4/11
http://www.newsclip.be/news/2007411_010881.html

金融資本に巨大な民主的規制をかけよう!タイで短期資本に対する規制
http://attackoto.blog9.fc2.com/blog-entry-67.html

「足るを知る経済」哲学 在京タイ王国大使館
http://www.thaiembassy.jp/rte1/content/view/254/

秋篠宮さまタイご訪問へ
http://www.sankei.co.jp/shakai/koshitsu/070302/kst070302000.htm


アジア通貨危機

2007年02月21日 11時11分12秒 | ■時事・評論
外貨準備はアジア諸国で多く、アジアの中央銀行は1.5兆ドルものドル建て資産を持っている(2002年)。莫大な貿易黒字を計上しているアジア諸国は、流入する膨大なドルが自国通貨に対して値下がりし、そうした自国通貨高が自国の輸出にブレーキがかかることを恐れせっせとドルを買い支え、米国の赤字をファイナンスする。それがまた米国に新たな輸入を可能にする。

しかし、そうした通貨当局によるドル買い介入は、国内通貨の過剰発行となり、国内に過剰流動性を発生させる。いきおい国内でバブルが発生し、バブル破裂とともに、金融機関が破綻し、経済危機を引き起こす。

1990年代後半に生じたアジアの通貨危機とはまさにこのことであった。放埓なドルの垂れ流しによって、アジア諸国に過剰流動性を生み出し、バブルをあおり、バブル進行の過程でさんざん儲けた外国の投資家たちが一斉にドルを引き上げたからこそ、アジア通貨は崩壊し、経済が壊滅した。すべて、無責任な米国の通貨当局のせいである。にもかかわらず、米国、IMF、世銀は、アジア諸国のクローニーキャピタリズムのなせる業であるとして、アジア諸国の通貨当局を非難して恥じなかった。
本山美彦著『民営化される戦争』より

※クローニーキャピタリズム(コネ重視型資本主義)
縁故関係者や仲間どうしで国家レベルの経済運営を外国企業や援助と結びつけて行い,権益を独占して富を増やしていくやり方。〔クローニーは仲間の意。アジア経済危機に際し,その根底にあるとしてアメリカのエコノミストなどによっていわれた〕


現在、アメリカ政府は戦費削減と称して、戦争の兵站業務だけでなく、ときには戦闘行為までも民間軍事会社に請け負わせている。戦費削減どころか、実際は、割高で過剰な利益を民間軍事会社に提供している。戦争民営化の市場規模は10兆円とも。ハリバートンやベクテルといった巨大企業がそこで大儲けしている。国際経済学者である著者は、戦争民営化の実態だけでなく、アメリカの経済戦略についても論じている。上記のアジア通貨危機の解説は実に簡明である。

ブログとの二年

2007年02月18日 23時44分39秒 | ■時事・評論
もう、二月も後半。
なんとも月日の経つのが早すぎます。
当分の間、暇になりそうにありません。
来月も同じような感じになるでしょう。
いまだ原稿を書き続けています。
まとまったものを書く時間は、しばらく取れそうにありません。
雑感程度のものになると思います。

昨年9月にブログを休止したとき、”さてブログとはなんぞや”とあらためて考えさせられました。ブログをはじめた頃は、情報の共有が未来を拓くと感じたものです。そして、ブログがそれを可能にするかもしれないと。あれから二年、ブログは急速に普及し、インターネットメディアもいくつもでき、すでに情報は十分共有されてきたように思います。しかし、特に目立つような変化はわれわれのまわりで起きていない。情報の共有は重要ですが、それだけでは十分ではないということなのでしょう。

日本に三十年滞在した元ジャーナリスト、カレル・ヴァン・ウォルフレン(現アムステルダム大学教授)は、十年ほど前に、日本にはすでに変革の要素は十分そろっていると感じていたようです。国民によって政治的変化がもたらされると。しかし日本は沸騰近くまでは上昇するものの、決して沸点には達しない。あるところで、急に冷めてしまう。その後、ブログの普及やインターネットメディアが、沸点に導くかとも思えましたが、そういう期待もいまではあまり持てそうにありません。

今後、ブログをどう使っていくか、ということも考えることになると思います。
ブログとは別にあらたに何かをはじめようかとも考えているところです。

タイ・マジック

2007年01月25日 00時21分10秒 | ■時事・評論
昨年9月、タイの政変によって、首相の座を追われたタクシン・シナワット氏が日本を訪れている。日本のメディアとのインタビューで、タクシン前首相は、タイの「民主主義」を早期に回復しなければならないと発言している。

「クーデター」というのはとても便利な言葉だ。
非合法、政治的未成熟、思慮の欠如、暴力など、ネガティブな印象を与える。こうした用語は、時として事実の検証や分析の過程をないがしろにして、イメージだけを植えつける効果を持つ。
たとえば、
「タイでクーデター、軍が全権掌握 憲法停止、戒厳令布告」
「タイ・クーデター、民主化の後退を懸念 ASEAN各国」
「米政府、タイのクーデターに”失望”」
という見出しが新聞やニュースサイトに氾濫すれば、たいていの人はタイで非常に悪いことが起こったという印象を受ける。

すでに、「タイ」と「クーデター」という言葉の組み合わせは、暫定政権に対する批判的要素を含んでいるように感じるので、ここでは「政変」と表記する。
政変:政治上の変動。特に、政権の急激な交替や統治体制内の大がかりな変化。
クーデター [coup d'tat]:既存の政治体制を構成する一部の勢力が、権力の全面的掌握または権力の拡大のために、非合法的に武力を行使すること。国家権力が一つの階級から他の階級に移行する革命とは区別される。



昨年のタイの政変に際して気になるのは、やはりアメリカ政府の反応だ。
スノー大統領報道官は政変の当日、「クーデターには失望した」と発言している。ケーシー国務省副報道官も「タイの民主主義の後退だ」と発言。アメリカ政府のこうした発言は、アメリカの国益が損なわれたか、損なわれつつあることを意味している。たいていの場合、こうした表現は当該国に対する婉曲的な恫喝だ。また、各国政府、メディアに向けたメッセージでもある。アメリカ政府の意向を「正しく」理解し、協力することを求めている。
アメリカにとってタイの政変はどんな不都合があったのか。

タイ暫定政府は、12月18日に資本規制策を発表した。
その内容は、海外から流入する為替取引などの資金は、その30%を一年間タイ国内に保留しなければならない、というものだ。ただし、貿易などの実需は除外している。
為替取引などの資金は、出入りが激しく長くは国内に留まらない。また、ほんの少しの不安要素や単なる風評でも、すぐに引き揚げてしまう。実体経済にはあまり貢献しないマネーだ。資本規制策は、タイに流入するそうした資本の一部を、強制的にタイにとどめようという措置だ。
資本規制発表は、まさに「不安要素」となり、タイの株価が暴落した。メディアでは「タイ暫定政府と中央銀行の政策運営能力を疑う」という論調が体勢を占めた。

年が明けた1月9日には、暫定政府は「外国企業」の定義を改訂した。
タイの外国人事業法では、外国人の持ち株比率が50%を超えることは認められていない。しかし実際は、タイ人名義の優先株を発行して表面上の持ち株比率を下げて、事実上は外国人が経営権を握るという手法が慣例化していた。今後は、そうした手法は使えなくなる。日米欧豪で組織するタイ外国商工会議所連合は、この措置に反対を表明。
外国人事業法改正の発表の際も、タイの株価は下落した。
※優先株とは、配当に対して優先権をもつ反面、経営参加権が与えられていない株式のこと。

1月17日、タイ中央銀行は、株価の下落などを受けて、資本規制をいくぶん緩和する方針を明らかにした。しかし、緩和は長期資金に対してだけ適用され、1年以内の短期資金の規制はひきつづき行われる。投機目的の短期資金は、あくまで制限する方針なのである。


タイ暫定政府が外国資本と外国企業の規制を次々と行う背景には、1997年にアジアを襲った通貨危機・経済危機での強烈な教訓があるように思う。そしてそこに今回の政変の目的もあるのではないか。

1997年7月、タイバーツが突然暴落した。その原因は外国の投機筋にバーツが狙い打たれたからだ。タイ政府に打つ手はなく、1ドル25バーツだったレートが、数週間で1ドル59バーツまで下落した。そして、タイにはじまった通貨危機は、アジアに波及し、ついにアジア全体の経済危機を招いてしまった。半世紀かけて成長してきたアジアの産業の大部分が甚大な被害を受けた。倒産と失業、食料や燃料の高騰などによって、多くの人々の生活が貧困の縁に追いやられた。
そして、経済危機に乗じて介入してきたIMF(国際通貨基金)は、タイ、インドネシア、韓国に対して、負債を抱えた現地企業を外国に売り払うよう要求した。アジアの多くの企業が外国資本に買い叩かれた。

このタイの通貨危機を招いた根本的な原因は、アメリカの要求した金融市場の自由化、規制撤廃にあった。金融の自由化によって流入した外国資本によって、確かにタイ経済は成長した。しかし、バーツが投機筋に狙い打たれて暴落すると、こうした外国資本は波が返すようにタイから逃げ去ってしまった。そのため通貨危機は、大規模な経済危機にまで拡大していった。あのとき外国資本がタイに踏みとどまっていれば、経済危機の被害はそれほど大きくはならなかったと分析されている。
なぜ、タイから外国資本があっという間に消えたかというと、それらのほとんどが短期資金だったからだ。短期資金は、利益をもたらしそうなところを見つけるとじゃんじゃんやってくるが、その反面、単なるうわさにでも過剰反応して逃げるほど臆病な資本でもある。そのような不確かな外国の資本に国家の経済成長を頼っているとしたら、それは国家の安全保障に関わる。97年の通貨・経済危機は、そういう教訓をタイに与えた。

長期資金は良くて、短期資金は悪い、というわけではない。しかし、流入してくるのが臆病な短期資金ばかりでは、いつまた通貨危機が発生するかもしれない。どうしてもアジア諸国の通貨は弱い。巨大な投機筋に狙われたら、防衛はほぼ不可能だ。短期資金を規制するという暫定政府の政策は、理にかなっている。

タイ暫定政府は、この脆弱なアジアの通貨を防衛するために、「共通通貨バスケット」制度の導入も検討していると発表した。これは、計算上の「共通通貨」を作り、それに各国の通貨を連動させるというものだ。変動相場制と比べて安定性・危機対策の点でメリットがあるとされている。

さて、こうした一連の、暫定政府による政策を概観すれば、これらがタイの経済や産業、通貨を外国資本や外国企業から防衛するための政策であることがわかる。
メディアは株価の下落を受けて「タイ暫定政府と中央銀行の政策運営能力を疑う」などと報じるが、まったくのお門違いである。

政変で失脚したタクシン前首相は、市場の自由化と外国資本の積極的な導入でタイ経済を急成長させた。97年の通貨・経済危機で大ダメージを受けたタイ経済を復活させた手腕は見事だと言える。しかし、タクシン政権の押し進めた外国資本による急激な経済成長の終着点は、結局、タイ経済と産業のさらなる外国による占領だろう。今回の政変はそれを一気に止めた、と考えることができる。

「政変」という形で権力が移行し、暫定政権は国際的非難を浴び続けているが、そんなことはすべて最初から計算済みなのではないかと思える。政変という形をとったのは、小国が敵に回すには、相手はとてつもなく巨大だったからだろう。通常の手続きではとても太刀打ちできないと考えたのではないだろうか。中東で15万の部隊を展開し、60万もの人々を殺戮するような連中なのだから。

巨大な相手の眼を眩ますには、豪快なマジックが必要だったのだ。
タイの民主主義は決して後退などしていない。




タイでクーデター、軍が全権掌握 憲法停止、戒厳令布告http://www.asahi.com/special/060921/TKY200609200141.html
タイ・クーデター、民主化の後退を懸念 ASEAN各国http://www.asahi.com/special/060921/TKY200609200410.html
米政府、タイのクーデターに「失望」
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20060921AT2M2100W21092006.html
タイ政府「資本規制は妥当」 メディア、外資は政策能力に疑問符
http://www.newsclip.be/news/20061223_008621.html
タイ政府、「外国企業」の定義見直し 相次ぐ規制強化
http://www.asahi.com/international/update/0109/021.html
「新たな通貨制度が必要」 バーツ高騰でタイ中央銀総裁
http://www.asahi.com/business/update/0106/006.html
タイ、「不自由」に格下げ 米人権団体報告
http://www.newsclip.be/news/2007118_009179.html
「帰国し和解に協力したい」 タイ前首相、現政権語る
http://www.asahi.com/international/update/0123/011.html
タクシン氏に聞く 暗殺の恐れ、今は帰らず
http://www.sankei.co.jp/kokusai/world/070124/wld070124001.htm
「タイ、”不自由”に格下げ 米人権団体報告」
http://www.newsclip.be/news/2007118_009179.html

短信:チョムスキー独走中

2006年09月27日 13時29分46秒 | ■時事・評論
先日のコメント欄で触れたのだが、チャベス大統領が国連での演説の中で世界の首脳に向けて読むように薦めた本が、以後、米アマゾンで1位を独走している。

米言語学者ノーム・チョムスキーの、
”Hegemony or Survival: America's Quest for Global Dominance”という本だ。1日で2万冊をゴボウ抜きにしたらしい。ハードカバーも47位に入っている。
日本では集英社新書から出版されている。
『覇権か、生存か―アメリカの世界戦略と人類の未来』
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4087202607
日本のアマゾンのランキングでも徐々に上昇して、現在1307位。

米アマゾンのランキングの7位に、パキスタンのムシャラフ大統領の著書が入っているのも興味深い。米テレビでのインタビューで「爆撃を覚悟しろ。石器時代にもどしてやる」というアーミテージ国務長官(当時)の脅迫を暴露したためだろう。

他に、リチャード・クラークの”Against All Enemies”(『爆弾証言 すべての敵に向かって 』)が19位に入っている。

数年前であれば、チャベス大統領が同じことをしても話題にはならなかっただろう。


米アマゾンのランキング
http://www.amazon.com/exec/obidos/tg/new-for-you/top-sellers/-/books/all/ref=pd_dp_ts_b_1/002-2463657-8703256
ベネズエラ大統領が米大統領非難の中で「推奨」した著書、ベストセラーに- 米国 http://www.afpbb.com/article/920213
チャベス大統領が国連で「推薦」の本、ベストセラーにhttp://www.cnn.co.jp/showbiz/CNN200609250021.html


短信:アメリカの覇権に赤信号か

2006年09月24日 12時41分38秒 | ■時事・評論
ここ数日の気になるニュースを。
前々回、メディアの911報道の仕方から、ブッシュ政権の覇権に陰りが差しはじめているのではないかと書いたが、その傾向は強まっていると感じる。

ベネズエラのチャベス大統領とイランのアハマディネジャド大統領は、国連総会にて、例のごとくアメリカを痛烈に批判した。アメリカの敵No.1のこの二人ならこれは順当なところだ。とことんやってもらいたい。ちなみに、日本のメディアの報道は、チャベス大統領を笑い者にしようという意図が見え透ていた。

パキスタンのムシャラフ大統領は米CBSの番組で、2001年の同時テロの直後に、アーミテージ国務長官(当時)から「爆撃を覚悟しろ。石器時代に後戻りすることを覚悟しろ」と脅迫されたと暴露した。ブッシュ大統領との会見前にこのような発言をするというのは少し驚きだ。これまでムシャラフ大統領は、ほぼアメリカの言いなりに「対テロ戦争」に協力してきた。この暴露発言は、アメリカ政府との力関係が変わった事を表している。でなければ、このような発言は命取りになる。

それから興味深いのは、CNN設立者のテッド・ターナー氏が米国のイラク侵攻は「史上最もばかげた行為」と発言したことだ。また、イランの核開発についても「当然の権利」と言い切っている。同時テロ以後、CNNも相当な”愛国報道”を行っていたが、CNNの設立者がブッシュ政権の政策を真正面から批判するようになったということは、ブッシュ政権は間違いなく凋落しはじめているということだ。

ムシャラフ大統領とターナー氏の発言は、”風”が変わったことを物語っている。
日本の首脳はこの”風”が読めるだろうか。




ベネズエラ大統領、米大統領を「悪魔」と批判 国連演説http://www.cnn.co.jp/world/CNN200609210008.html
米高官がパキスタンを「脅迫」と 同時テロ直後
http://www.cnn.co.jp/world/CNN200609220001.html
米大統領、新聞で初めて知ると 「パキスタン爆撃」威嚇
http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200609230005.html
イラク侵攻、真珠湾並の「ばかげた行為」 ターナー氏
http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200609210017.html

ベスラン学校占拠事件から2年

2006年09月08日 21時28分44秒 | ■時事・評論
9月1日はロシアの北オセチアのベスラン学校占拠事件の2周年だった。

”武装勢力”に学校が占拠され、1000人以上が人質になり、ロシアの治安部隊が強行突入し、すさまじい犠牲者が出た。あまりにも衝撃的な事件だった。犠牲者は330人。うち子供が半数と報告されている。

この事件にも不可解な点があり、チェチェン武装勢力の犯行と考えるのは早計だ。

事件からしばらくたってからのテレビ報道をみていたとき、ある母親は、
「救急車で運ばれた娘が、救急車ごと行方不明になった」
と証言していた。
子供を乗せた救急車がどうなったのかは、その後、何の追加報道もなされなかった。いくら大混乱の中とはいえ、救急車が忽然と地上から消えるわけがない。

ロシアでは、政府系の調査委員会とベスラン独自の調査委員会(ベスラン独立調査委員会)が調査を行っているようだ。そして、両者の見解は大きく食い違っている。

占拠犯にはチェチェン人以外のスラブ系の民族も含まれていた可能性が高い。そして、占拠犯の人数も公式発表の倍の60人はいたようだ。公式発表では32人、内31人死亡。しかし、死亡者の中にスラブ系の遺体はなかった。そして残りの占拠犯はいったいどこへ消えたのか?

また、公式発表では、占拠犯が爆弾を爆破したので、治安部隊側が攻撃を開始したことになっている。しかし元人質は、治安部隊から先に攻撃が開始されたと証言している。爆弾のスイッチを踏んでいた占拠犯が次々と撃ち殺されたために、体育館内で連続爆発がおこった。スイッチは、足を離すと爆発するようになっていたことは、当然治安当局は知っていた。

そしてロシア内務省は事件に関する情報を事前に得ていたとも報告されている。

これだけの材料でも、事件の真相の輪郭が描ける。
救急車ごと行方不明になった少女の謎もこれで理解できる。
その救急車に乗っていた少女は、事件の渦中で見てはいけないものを見てしまったのだ。

ロシア政府は、チェチェン人を極悪非道の悪魔にしたてあげたいのだ。




誰が嘘をついているのか?-ベスラン学校占拠事件
http://www.janjan.jp/world/0609/0609030567/1.php
北オセチア学校占拠事件、真実はどこに?
http://chechennews.org/chn/0522b.htm
Independent Beslan Investigation Sparks Controversy
http://www.rferl.org/featuresarticle/2006/08/b841bf15-db81-4d65-96f5-9b10f3ec9d9a.html

対イラン制裁のまやかし

2006年09月02日 15時58分08秒 | ■時事・評論
IAEA(国際原子力機関)のエルバラダイ事務局長は、イランの核開発が平和目的であることは確認できない、とする報告書を出した。 これを受けて、安保理は対イラン制裁発動に動くだろう。ロシア、中国は制裁決議を否決する可能性が高いので、アメリカは日本をはじめ有志国を募り、対イラン独自制裁に動く模様だ。

イランの原子力開発問題は、世界をあげての茶番でしかない。これは「フセインの大量破壊兵器」と同じ茶番だ。このような茶番に、世界は多大な時間とエネルギーとカネを注ぎ込んでいる。だからこそ、茶番が現実性をおびるのだが。世界の首脳が、国連が、真剣に茶番を演じているのだから、それを疑う方がどうかしている。そして、茶番は現実そのものとなって歩きはじめる。

この茶番で得をするのはいったい誰だ。
すべては、アメリカ一国の利益につながっている。

レバノン爆撃で、市民を1000人以上も殺戮したイスラエルがいったい何発の核弾頭を持っているか。イスラエルは核弾頭の保有について、肯定はしていないが、否定もしていない。イスラエルは、NPT(核不拡散条約)に加盟していない。他にNPTに未加盟なのは核保有国であるインド、パキスタン。北朝鮮は2003年に脱退。以上四ヶ国だけだ。

イスラエルが核弾頭を約200発保有していることはほぼ公然の秘密となっている。イスラエルは、弾道ミサイル、巡航ミサイル、爆撃機、潜水艦発射ミサイルなど多用な方法で核弾頭を発射する能力を持っている。世界はそれでもかまわないのだろうか。

イランの原子力開発は他国と同様、当然の権利だ。イスラエルがすでに多用な核戦闘能力を有していることには口を閉ざし、イランの原子力開発には制裁を口にする国際社会は欺瞞に満ちている。対イラン制裁とは、アメリカの描いたアメリカのためのシナリオに沿って、世界が芝居を演じているにすぎない。したがって、茶番と表現する以外にない。

アメリカが阻止したいのは、イランの原子力開発ではない。アメリカはイランが核兵器を保有する気がないことは十分承知している。アメリカが阻止したいのは、イランが石油取引通貨をユーロに替えることだ。

アメリカがイラクを爆撃し、フセイン政権を打倒したのも、サダム・フセインが石油決済通貨をユーロに替えたからだ。それこそがイラク爆撃占領の真の理由だ。「大量破壊兵器」がでっちあげだったことは、いまや世界が知っている。「イラク民主化」など最初から興味もない。いまのイラクの最悪の状態を見れば明らかだ。

アメリカにとっての最大の敵とは、ドルに対する挑戦者だ。
ドルに対する挑戦者は何をしてでも排除する。
それがアメリカ繁栄の絶対条件だ。

メディアによるイラン関連報道に騙されてはいけない。




対イラン決議期限切れ IAEA事務局長が報告書
http://www.cnn.co.jp/world/CNN200609010004.html
核発射可能な潜水艦購入 イスラエル、独から
http://www.usfl.com/Daily/News/06/08/0823_016.asp?id=50150
核保有国の核兵器状況
http://www.gensuikin.org/nw/nw_status.htm
石油のドル一極集中支配に反乱
http://www.nikkei.co.jp/neteye5/tamura/20060530n195u000_30.html
イラン石油の「ユーロ建て」取引の動きを警戒する米国
http://www.idcj.or.jp/1DS/11ee_josei051209.htm
アメリカvsイラン=ドルvsユーロ
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo/e/abbd497f5acb5294a7cd3fb2bb75655d

対イラン制裁とミツトヨ、あるいは「核の闇市場」について

2006年08月27日 20時58分47秒 | ■時事・評論
実にタイミングのいい事件だ。

大手精密測定機器メーカー「ミツトヨ」が三次元測定器の不正輸出容疑で摘発された。測定器の性能を偽装し、輸出先も偽装した容疑だ。輸出先が「核の闇市場」に関連した企業だという認識もあったと報道されている。

しかし現在、国連安全保障理事会がイランへの経済制裁決議案を検討中というタイミングを考えれば、今回の「ミツトヨ事件」は、できすぎているように思う。

アメリカは、国連議案が採択されなかった場合には、イランに対して独自制裁を行うと宣言している。独自制裁が行われた場合、日本や欧州の銀行などを対象に、対イラン金融取引の制限を働きかける意向だ。要するに、イランへの制裁を行うときは日本も歩調を合わせろ、ということだ。

今回の「ミツトヨ事件」は、アメリカによる対イラン独自制裁の可能性が高いことを示しているのかもしれない。

ミツトヨは95年から偽装ソフトを組み込んだ測定器を販売し、国連の国際原子力機関(IAEA)がリビアで行った核査察(2003~04年)で同社の測定機が発見されたとされている。これを機に、警視庁公安部が流出経路などの捜査を開始し、不正輸出容疑が浮かんだ、と報じられている。

しかし、こうした報道を鵜呑みにすることはできない。監督官庁である経済産業省が、こうした事態の発生を予測していなかったとは考えにくいからだ。日本の官庁は、許認可権を最大限に行使することによって、企業の上に君臨している。その権力は絶大だ。企業は、がんじがらめに縛られていると言っていいだろう。

監督官庁の目を10年もかい潜り続けるというのはまず不可能だ。ミツトヨは、95年から1万台以上の測定器を輸出し、その9割が偽装だとされている。つまり、ミツトヨの偽装は、監督官庁によって、わざと見過ごされていたと考えるのが妥当なのだ。

ミツトヨは、日本国内の反イラン感情づくりのキャンペーンに利用されたのだろう。イランと石油取引のある日本は、対イラン制裁に二の足を踏む可能性が高い。日本を確実に、制裁に協力させる必要があるのだ。そのためには、イラン=核兵器開発=悪=打倒、というような単純な発想を植えつければいい。

産油国であるイランは、石油決済通貨をドルからユーロにシフトするという最高の武器がある。しかし、アメリカとしては、イランを爆撃占領する経済的軍事的余力はない。そこで、国際社会を動かしてイランを牽制する必要がある。

そのキャンペーンのひとつが「核の闇市場」だろう。
反イラク・キャンペーンでは「大量破壊兵器」だった。
こうした用語がメディアに登場するときは、プロパガンダと考えて間違いない。

「核の闇市場」は本当に存在するかどうかはたいへん怪しい。闇市場の元締めとされているパキスタンの「核開発の父」カーン博士は、「核の闇市場」に現実性を帯びさせるためのスケープゴートなのかもしれない。リビアのカダフィ大佐も、この「核の闇市場」に真実味を与えている。いまやカダフィ大佐は、アメリカの良き友でしかない。ここまで役者が揃えば、世界は「核の闇市場」の存在を信じるだろう。

「核の闇市場」キャンペーンは、イランの核開発を核兵器に無理やり結びつけるための捏造だと思っている。「核の闇市場」が存在する確立は、イラクの「大量破壊兵器」が存在する確立と同じだろう。





『リビアで発覚、不幸』ミツトヨ不正輸出
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060827/mng_____sya_____007.shtml
ミツトヨ不正輸出、幹部「海外法人経由で本社は無傷」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060827i301.htm?from=main3
米、対イラン独自制裁も  期限切れ後にとボルトン氏
http://www.iwate-np.co.jp/newspack/cgi-bin/newspack.cgi?main+CN2006082601005298_1
核の闇市場とカーン・ネット(1)
http://www.worldtimes.co.jp/special2/kaku/050322.html

イスラエル・オルメルト首相包囲網 右派勢力の暗躍

2006年08月22日 21時55分24秒 | ■時事・評論
いま、イスラエル国内では、オルメルト首相に対する異例の抗議行動が行われている。数百人の軍人が首相と軍上層部に対する抗議文を地元紙に掲載した。日本のTVニュースでも、昨日頻繁に繰り返していた。

イスラエルの軍人集団が独自に現政権を批判するということは考えられない。軍人に行動を指示している勢力が背後にいるのだろう。オルメルト首相とその与党カディマ勢力の弱体化を目論んでいることは間違いない。首相の失脚も視野に入っているかもしれない。しかし、すでに現時点で右派勢力の目論みはほぼ完全に達成されていると言っていいだろう。ヨルダン川西岸からの撤収政策は完全に棚上げとなったのだから。


今回のイスラエルによるレバノン攻撃の不自然さは、その目的がヒズボラの弱体化ではなく、オルメルト政権の弱体化だったからだ。実際、イスラエル軍は本気でヒズボラを叩く気があるとは思えなかった。イスラエル軍機は執拗に住宅地区を爆撃したが、ヒズボラ弱体とは何の関係もないことは明らかだ。住宅地区爆撃は、レバノン住民とヒズボラの憎悪を掻き立てた。

住宅地区を爆撃され、老人や子供、女性を殺されて平気でいられる人間は少ない。憎悪は一気に沸点に達する。そうすれば、ヒズボラによるイスラエル国内に対する反撃が行われることは目に見えていた。それこそが、住宅地区爆撃、市民殺傷の目的だった。ヒズボラに反撃され、イスラエル国内に損害が出れば、オルメルト首相が責任を問われることになる。損害は大きければ大きいほど都合がよかった。

メディアは、イスラエル軍はヒズボラの戦闘能力を過小評価していたとか、ヒズボラの武装解除は誰にもできない、などとまことしやかに報じている。軍事専門家がテレビに登場して、ヒズボラの戦闘能力や近代武器について解説し、イスラエル軍は甘かった、ヒズボラは強力だ、などと言う。果たして本当だろうか?

おそらく、イスラエル軍は中東全域を敵に回しても戦えるだけの能力を備えているはずだ。僕は軍事には詳しくはないが、それでもそう言い切れる。なぜなら、そうでなければ、とっくにイスラエルという国は地上から消え失せているはずだからだ。

ヒズボラは、戦闘員1000、予備役8000とされている。民兵組織としては大きいかもしれないが、イスラエルの兵力は約17万(予備役40万)、国防費は約100億ドルだ。イスラエル軍がヒズボラを壊滅させようと思えばいつでもできる。

今回、ヒズボラのロケット攻撃が、イスラエル北部に多大な被害を与えたのは、ヒズボラの戦闘能力の高さではなく、イスラエル軍がわざとヒズボラの攻撃を防御しなかっただけだ。

多くのイスラエル軍兵士が憤懣を感じているのはそのためだ。イスラエル軍兵士は、作戦がちぐはぐで優柔不断だったと感じている。勝つ気のない作戦だったからだ。イスラエル軍自体にも100人近い戦死者が出ている。イスラエル軍は、首相や国防相の指示ではなく、おそらく右派勢力の影響下で、勝つ気のない作戦を展開していたのだ。

勝つ気のない作戦を行い、ヒズボラの攻撃を防御しなかったのは、ひとえにオルメルト首相とその撤退政策にダメージを与えるためだった。これはイスラエル政界の内紛だったのだ。オルメルト政権の閣僚のスキャンダルが目白押しなのも、これが政争であることを物語っている。オルメルト政権の支持率は70%台から40%台に急落している。

ハマスとヒズボラは、イスラエル国内の政争に利用されてしまったのだ。
イスラエル国内の政争のために、多くの命が無慈悲に奪われた。

オルメルト首相の政治生命はこれで終わり、縮小安定化政策も終わる。
イスラエルは、右派勢力による拡大政策に向い、中東和平は遥か彼方に遠のいていく。



「戦争は失敗だった」イスラエルで首相辞任求め抗議http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe4800/news/20060822id24.htm
イスラエル 政権に国民の批判
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-08-21/2006082107_01_0.html
オルメルト政権に不祥事噴出
http://news.goo.ne.jp/news/asahi/kokusai/20060821/K2006082103830.html
Olmert 'suspends' withdrawal plan
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/5262334.stm