報道写真家から

我々が信じてきた世界の姿は、本当の世界の実像なのか

対イラン制裁とミツトヨ、あるいは「核の闇市場」について

2006年08月27日 20時58分47秒 | ■時事・評論
実にタイミングのいい事件だ。

大手精密測定機器メーカー「ミツトヨ」が三次元測定器の不正輸出容疑で摘発された。測定器の性能を偽装し、輸出先も偽装した容疑だ。輸出先が「核の闇市場」に関連した企業だという認識もあったと報道されている。

しかし現在、国連安全保障理事会がイランへの経済制裁決議案を検討中というタイミングを考えれば、今回の「ミツトヨ事件」は、できすぎているように思う。

アメリカは、国連議案が採択されなかった場合には、イランに対して独自制裁を行うと宣言している。独自制裁が行われた場合、日本や欧州の銀行などを対象に、対イラン金融取引の制限を働きかける意向だ。要するに、イランへの制裁を行うときは日本も歩調を合わせろ、ということだ。

今回の「ミツトヨ事件」は、アメリカによる対イラン独自制裁の可能性が高いことを示しているのかもしれない。

ミツトヨは95年から偽装ソフトを組み込んだ測定器を販売し、国連の国際原子力機関(IAEA)がリビアで行った核査察(2003~04年)で同社の測定機が発見されたとされている。これを機に、警視庁公安部が流出経路などの捜査を開始し、不正輸出容疑が浮かんだ、と報じられている。

しかし、こうした報道を鵜呑みにすることはできない。監督官庁である経済産業省が、こうした事態の発生を予測していなかったとは考えにくいからだ。日本の官庁は、許認可権を最大限に行使することによって、企業の上に君臨している。その権力は絶大だ。企業は、がんじがらめに縛られていると言っていいだろう。

監督官庁の目を10年もかい潜り続けるというのはまず不可能だ。ミツトヨは、95年から1万台以上の測定器を輸出し、その9割が偽装だとされている。つまり、ミツトヨの偽装は、監督官庁によって、わざと見過ごされていたと考えるのが妥当なのだ。

ミツトヨは、日本国内の反イラン感情づくりのキャンペーンに利用されたのだろう。イランと石油取引のある日本は、対イラン制裁に二の足を踏む可能性が高い。日本を確実に、制裁に協力させる必要があるのだ。そのためには、イラン=核兵器開発=悪=打倒、というような単純な発想を植えつければいい。

産油国であるイランは、石油決済通貨をドルからユーロにシフトするという最高の武器がある。しかし、アメリカとしては、イランを爆撃占領する経済的軍事的余力はない。そこで、国際社会を動かしてイランを牽制する必要がある。

そのキャンペーンのひとつが「核の闇市場」だろう。
反イラク・キャンペーンでは「大量破壊兵器」だった。
こうした用語がメディアに登場するときは、プロパガンダと考えて間違いない。

「核の闇市場」は本当に存在するかどうかはたいへん怪しい。闇市場の元締めとされているパキスタンの「核開発の父」カーン博士は、「核の闇市場」に現実性を帯びさせるためのスケープゴートなのかもしれない。リビアのカダフィ大佐も、この「核の闇市場」に真実味を与えている。いまやカダフィ大佐は、アメリカの良き友でしかない。ここまで役者が揃えば、世界は「核の闇市場」の存在を信じるだろう。

「核の闇市場」キャンペーンは、イランの核開発を核兵器に無理やり結びつけるための捏造だと思っている。「核の闇市場」が存在する確立は、イラクの「大量破壊兵器」が存在する確立と同じだろう。





『リビアで発覚、不幸』ミツトヨ不正輸出
http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20060827/mng_____sya_____007.shtml
ミツトヨ不正輸出、幹部「海外法人経由で本社は無傷」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060827i301.htm?from=main3
米、対イラン独自制裁も  期限切れ後にとボルトン氏
http://www.iwate-np.co.jp/newspack/cgi-bin/newspack.cgi?main+CN2006082601005298_1
核の闇市場とカーン・ネット(1)
http://www.worldtimes.co.jp/special2/kaku/050322.html

イスラエル・オルメルト首相包囲網 右派勢力の暗躍

2006年08月22日 21時55分24秒 | ■時事・評論
いま、イスラエル国内では、オルメルト首相に対する異例の抗議行動が行われている。数百人の軍人が首相と軍上層部に対する抗議文を地元紙に掲載した。日本のTVニュースでも、昨日頻繁に繰り返していた。

イスラエルの軍人集団が独自に現政権を批判するということは考えられない。軍人に行動を指示している勢力が背後にいるのだろう。オルメルト首相とその与党カディマ勢力の弱体化を目論んでいることは間違いない。首相の失脚も視野に入っているかもしれない。しかし、すでに現時点で右派勢力の目論みはほぼ完全に達成されていると言っていいだろう。ヨルダン川西岸からの撤収政策は完全に棚上げとなったのだから。


今回のイスラエルによるレバノン攻撃の不自然さは、その目的がヒズボラの弱体化ではなく、オルメルト政権の弱体化だったからだ。実際、イスラエル軍は本気でヒズボラを叩く気があるとは思えなかった。イスラエル軍機は執拗に住宅地区を爆撃したが、ヒズボラ弱体とは何の関係もないことは明らかだ。住宅地区爆撃は、レバノン住民とヒズボラの憎悪を掻き立てた。

住宅地区を爆撃され、老人や子供、女性を殺されて平気でいられる人間は少ない。憎悪は一気に沸点に達する。そうすれば、ヒズボラによるイスラエル国内に対する反撃が行われることは目に見えていた。それこそが、住宅地区爆撃、市民殺傷の目的だった。ヒズボラに反撃され、イスラエル国内に損害が出れば、オルメルト首相が責任を問われることになる。損害は大きければ大きいほど都合がよかった。

メディアは、イスラエル軍はヒズボラの戦闘能力を過小評価していたとか、ヒズボラの武装解除は誰にもできない、などとまことしやかに報じている。軍事専門家がテレビに登場して、ヒズボラの戦闘能力や近代武器について解説し、イスラエル軍は甘かった、ヒズボラは強力だ、などと言う。果たして本当だろうか?

おそらく、イスラエル軍は中東全域を敵に回しても戦えるだけの能力を備えているはずだ。僕は軍事には詳しくはないが、それでもそう言い切れる。なぜなら、そうでなければ、とっくにイスラエルという国は地上から消え失せているはずだからだ。

ヒズボラは、戦闘員1000、予備役8000とされている。民兵組織としては大きいかもしれないが、イスラエルの兵力は約17万(予備役40万)、国防費は約100億ドルだ。イスラエル軍がヒズボラを壊滅させようと思えばいつでもできる。

今回、ヒズボラのロケット攻撃が、イスラエル北部に多大な被害を与えたのは、ヒズボラの戦闘能力の高さではなく、イスラエル軍がわざとヒズボラの攻撃を防御しなかっただけだ。

多くのイスラエル軍兵士が憤懣を感じているのはそのためだ。イスラエル軍兵士は、作戦がちぐはぐで優柔不断だったと感じている。勝つ気のない作戦だったからだ。イスラエル軍自体にも100人近い戦死者が出ている。イスラエル軍は、首相や国防相の指示ではなく、おそらく右派勢力の影響下で、勝つ気のない作戦を展開していたのだ。

勝つ気のない作戦を行い、ヒズボラの攻撃を防御しなかったのは、ひとえにオルメルト首相とその撤退政策にダメージを与えるためだった。これはイスラエル政界の内紛だったのだ。オルメルト政権の閣僚のスキャンダルが目白押しなのも、これが政争であることを物語っている。オルメルト政権の支持率は70%台から40%台に急落している。

ハマスとヒズボラは、イスラエル国内の政争に利用されてしまったのだ。
イスラエル国内の政争のために、多くの命が無慈悲に奪われた。

オルメルト首相の政治生命はこれで終わり、縮小安定化政策も終わる。
イスラエルは、右派勢力による拡大政策に向い、中東和平は遥か彼方に遠のいていく。



「戦争は失敗だった」イスラエルで首相辞任求め抗議http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe4800/news/20060822id24.htm
イスラエル 政権に国民の批判
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2006-08-21/2006082107_01_0.html
オルメルト政権に不祥事噴出
http://news.goo.ne.jp/news/asahi/kokusai/20060821/K2006082103830.html
Olmert 'suspends' withdrawal plan
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/5262334.stm

イスラエルによるガザ、レバノン攻撃とは何だったのか

2006年08月20日 01時17分25秒 | ■時事・評論
イスラエル軍によるレバノン攻撃で、1000人以上の犠牲者が出た。その3分の1は12歳未満の子供だと報告されている。

頻繁に誤爆を繰り返すほど、イスラエル軍は無能な軍隊ではないはずだ。イスラエル軍は、明らかに住宅地区や戦闘員でない人々をわざと攻撃した。

そこには明確な理由があるはずだ。

6月10日、ガザ北部でパレスチナ人の家族連れの海水浴客のいる海岸に、イスラエル軍の発射した砲弾が着弾した。子供や女性を含め8人が殺害された。

この事件に対してハマスは停戦を破棄し、イスラエル側に向けて攻撃を開始した。6月25日、秘密裏に掘られたトンネルを通って、パレスチナの戦闘員がイスラエル軍の基地を攻撃し、イスラエル軍兵士1人を拉致した。イスラエル軍は、ガザ地区に対して無差別的攻撃をはじめた。

7月12日、今度はレバノン南部において、ヒズボラによってイスラエル軍兵士2人が拉致された。これに対して、イスラエル軍はレバノンの空港、道路、港湾、発電所、携帯電話塔などのインフラを爆撃した。イスラエル軍は、先に住民の逃げ道を塞いだ。そして、ヒズボラとは関係のない住宅地域まで爆撃した。この1ヵ月でレバノンでの犠牲者は、1000人を越えた。

8月14日、イスラエルは、国連の停戦決議を受け入れ、1ヵ月に及ぶレバノン攻撃はひとまず終わった。

イスラエルは、ガザとレバノン攻撃でいったい何を望んでいたのか。

一般的な予測としては、ヒズボラはイラン、シリアに支援されているため、アメリカのイラン攻撃に備えた先制攻撃ではないか、と言われている。したがって、アメリカのイラン攻撃が近いとも言われた。

しかし、アメリカのイラン攻撃は現実的ではない。イラクとアフガニスタンの混乱に対応するだけでも米軍は手いっぱいだ。そこへイランまで加わると、もはや米軍の展開能力を越えてしまうだろう。アメリカによるイラン攻撃があるとすれば、イランが石油取引所を開設し、決済通貨をユーロとしたときだけだ。

また、ヒズボラはイランから経済援助と武器援助を得ているが、主従関係にはなく、ヒズボラはイランの指揮命令下にあるわけではないようだ。

イスラエルによるレバノン攻撃が、イラン攻撃に備えたヒズボラの弱体化が目的でないとしたら、本当の理由はいったい何だろうか。


19日付けの東京新聞電子版に、興味深い記事が載っていた。
オルメルト内閣窮地 イスラエル西岸撤収困難
イスラエルのオルメルト首相が最大の公約に掲げていたパレスチナ自治区・ヨルダン川西岸から一方的に撤収し、国境を画定する計画が見直しを余儀なくされている。
一方、閣僚らのスキャンダルが続出。西岸からの撤収計画は、風前のともしびだ。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20060819/mng_____kok_____001.shtml

興味深いのは、閣僚のスキャンダルだ。どこの国でもそうだが、政府要人の「セクハラ・スキャンダル」や「インサイダー取引」などが露見する場合、それはほぼ間違いなく政争だ。

イスラエル北部地区は、ヒズボラのロケット攻撃で53億ドル相当の被害を受けた。オルメト首相は、その責任を取らねばならないが、首相を支えるべき側近は、スキャンダルで無力化されている。

その結果、パレスチナ自治区・ヨルダン川西岸からの撤収というオルメルト首相の公約はつぶれる公算が高くなった。ここにすべての答えがあるように思う。

昨年おこなわれたガザ地区からのイスラエル人入植者の強制撤収は、イスラエル世論を二分した。イスラエル政界には、オルメルト首相の政策に反発する勢力が存在することは間違いない。ガザに続いて、ヨルダン川西岸からの撤収が強行されれば、さらにイスラエル国内が分裂するだろう。

今回のレバノン攻撃にいたる一連の出来事は、オルメルト首相の入植地撤収政策をつぶすための右派勢力の計略であったと考えられる。右派勢力は、イスラエル軍に強い影響力を持っている。イスラエル軍は、首相や国防相ではなく、右派勢力にコントロールされていたようだ。今回のガザ攻撃とレバノン攻撃は、イスラエル政界の内紛によって引き起こされたと言える。

合計3人の拉致兵士奪還のために、1000人以上のパレスチナ人とレバノン人の命が奪われた。拉致兵士奪還など、無差別攻撃のための言い訳にすぎない。無差別攻撃は、イスラエルに対する激しい反撃を生む。イスラエル北部は多大な損害を受け、民間人も多数命を落している。右派勢力は、ハマスやヒズボラに反撃させ、イスラエルに甚大な損害を与えて欲しかったのだ。そうすれば、オルメルト首相の政治生命を絶つことができる。そしてそれは達成されたと言えるだろう。


すべては、海水浴客の中に撃ち込まれた一発の砲弾からはじまった。
その砲弾が意図的に撃ち込まれたことは間違いなかった。
しかし、なぜ海水浴に来た家族を殺さなければならないのか。
その時は理解できず、行き場のない憤りだけが残された。
二ヶ月たって、真相は理解できたが、憤りはつのるばかりだ。





ヒズボラとは何か
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/
オルメルト内閣窮地 イスラエル西岸撤収困難
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kok/20060819/mng_____kok_____001.shtml
イスラエルのレバノン侵攻における軍事広報戦
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2006/08/post_9798.html
レバノン、犠牲者1000人超に
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20060807NT002Y65007082006.html
アメリカvsイラン=ドルvsユーロ
http://blog.goo.ne.jp/leonlobo/e/abbd497f5acb5294a7cd3fb2bb75655d