SakuraとRenのイギリスライフ

美味しいものとお散歩が大好きな二人ののんびりな日常 in イギリス

Ben Clift, Comparative Political Economy: States, Markets and Global Capitalism (Palgrave Macmillan)

2014年11月17日 | 
今日は、Ben Clift, Comparative Political Economy: States, Markets and Global Capitalism (Palgrave Macmillan, 2014)を紹介したいと思います。



タイトルからすぐ分かるように、これは比較政治経済学の教科書です。
裏表紙にAndrew Gamble、Colin Hay、Ben Rosamond、John L. Campbell、Vivien A. Schmidtという、Renからしたら超スーパースターの方々による賛辞が載っているのを見て、思わず買って読んでしまいました。

本書は、政治・経済・社会を一体のものとしてとらえたアダム・スミスやカール・マルクス、フリードリッヒ・リストといった人たちの精神に立ち返ることの重要性を説いた上で、国家と市場の関係を分析するための次の4つの基本的な視角を提示します(pp.31-37)。

(1)国家と市場は相互に作用しあっている(特に、カール・ポランニーの議論を参照。両者を別々のものととらえるのは誤り)。
(2)市場の形成及びその機能のために、国家の介入は不可避。
(3)市場の機能は社会的・歴史的・政治的コンテクストから離れて行われるものではない。
(4)資本主義のあり方は変化しうるし、実際、変化してきた。

これらは本書を読み進めていく中で何度もリマインドされ、それによって市場や資本主義のあり方を規定する上での政治や制度の重要性が強調され、あるいは、グローバル化による収斂論(資本主義の型であれ福祉国家のレジームであれ)が批判されています。

僕が本書に感銘を受けたのは以下の点です。

比較政治経済学の諸アプローチが詳細に論じられていること。歴史的制度論(5章)と合理的選択制度論(6章)からのアプローチだけじゃなくて、アイディアを強調するアプローチ(7章)まで、たくさんの先行研究を鮮やかに整理して紹介してくれています。

文献が大量に引用されていること。何も文献が引用されていないパラグラフはほとんど存在しない。アカデミズムの作法としてとても誠実だという印象を受けました。ちょっと読むだけで興味深い議論が引用文献とともに紹介されていて、そのたびに末尾の引用文献表からその文献を探していたこともおそらくあって、この本を読み終わるのが予想よりだいぶ遅くなってしまいました。特にこれは読んでみたい!というものをその際にチェックしていたのですが、かなり厳選したはずなのにそういう文献が大量にチェックされていて困っています。著者は先行文献の魅力を読者にとても上手に伝えてくれていると思います。見習いたいものです。

日本の事例が頻繁に紹介されていること。Chalmers Johnsonの開発志向国家(Developmental State)論の紹介だったり、グローバル化を受けて日本の資本や産業の構造がどう変化しているか(「資本主義の多様性論」の関係)の検討だったり。僕は別にナショナリストではないのですが、東アジア研究とか日本研究とかの専門書ではない一般的な比較政治経済学の教科書に日本の事例を入れてくれたことが、なんだか嬉しかったです。こういうところで日本が面白い研究対象として取り上げられるように、政府には日本の世界政治におけるプレゼンスを低下させないように頑張ってほしいし、研究者には日本を対象にした面白い研究を世界の学者がアクセスできるような形でどんどん発表していってほしいです(自分のことは棚上げ。)。

比較政治の方法論についてのまとまった議論が展開されている(12章)こと。本書は、定性的研究と定量的研究にはそれぞれの目的や特徴があってそれぞれに短所があるということを認識し、それらを補うように両者を組み合わせていくべき(methodoloical pluralism)と主張します。その背景にあるのが、定量的研究の方が優れているとする(著者によれば、LijphartもKKVもそういう立場であるとのこと(pp.295-296))、アメリカで主流の政治科学(Political Science)への批判的立場です。イギリスではアメリカとは違って1960年代の行動論革命(behavioural revolution)によって「行動論主義者による科学至上主義」が"never took hold within British political science"だ(p.294)と書いてあったのは本当かなと思うのですが(というのも、去年Renがいたウサギ大学は、まさに「行動論主義者による科学至上主義」の中心地だったと思うので…。)、イギリスでは「political science」よりも「political studies」のほうが用語として多くの場合好まれている、という指摘はとても興味深かったです。僕はまさに「political science」の世界で昨年度を過ごして(そこでshockとaweを受けて)、今年度から「political studies」の世界にやってきたことになるのですが、両者がどう違うのか意識しながら学んでいきたいと思います。


この分野の魅力がいきいきと伝わってくるとともに、理論の枠組みや先行研究の紹介等、大変勉強になる教科書でした。
特に実証分野の政治学では修士課程にちょうどいい教科書がなかなかない中で、これはとても貴重な本なんじゃないか!?と思って、この本を使っている授業を探してみたところ、、、なんと学部2年生向けの「国際政治経済入門」という授業の、いくつか指定されている教科書のうちの一つでした。
学部生のための教科書で「大変勉強にな」ってしまったことがショックです。。

(投稿者:Ren)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿