SakuraとRenのイギリスライフ

美味しいものとお散歩が大好きな二人ののんびりな日常 in イギリス

Wouter van der Brug et al., The Economy and the Vote (Cambridge University Press, 2007)

2014年05月04日 | 
以前、「経済と選挙」についての古典的な研究を取り上げたと思いますが、今日は、その古典的な研究の限界を乗り越えることを試みた本、Wouter van der Brug, Cees va der Eijk, and Mark Franklin, The Economy and the Vote: Economic Conditions and Elections in Fifteen Countries (Cambridge University Press, 2007) を取り上げたいと思います。



「経済と選挙」については、これまで何人もの論者が論じてきた大人気のテーマですが、その結果はお互いに不整合であったり一貫しないことが問題とされてきました。
著者らはその原因を、モデルが適切に組み立てられていないことからくるものだと主張します。

本書のモデルは以下のような2段階モデルになっています。
まず、第一段階目として、有権者は各政党を経済状況の評価を含む様々な基準で評価します。
その上で、評価された選好を比較して有権者が投票先を決めるのが第二段階目です。

ポイントとなっているのは、このモデルにおいて政党が互いに票をめぐって競い合うものだとされていること。
それまでのモデルではこの現実を無視して、経済状況によって与党が罰せられる/報われることのみに着目してきており、著者らによれば、これがこの研究の不整合さや一貫のしなさを生んできたそうです。

政党が互いに競争的環境に置かれていることが重要になるのは、以下のシチュエーションにおいてです。
ある個人1~5の政党支持度が以下のようになっていたとします。
(政党Aの支持度,政党Bの支持度)=個人1(9,4);個人2(8,5);個人3(7,6);個人4(6,7);個人5(5,8)
このとき、個人1~3は政党Aに投票し、個人4及び5は政党Bに投票します。

いま、与党Aのもとで経済が悪化したとします。
単純化のために全員同じだけ政党Aへの評価が減ると仮定すると、
個人1(7,4);個人2(6,5);個人3(5,6);個人4(4,7);個人5(3,8)
となり、個人1、2及び個人4、5の投票先はそれまでと変わらない者の、個人3の投票先は政党Bに変化する。(p.13)

こういう個人の選好を考えるならば、経済の影響によって少ししか政党の評価が変わらなかったとしても投票先に大きなシフトが起こる可能性があるし、逆に大きく政党評価が変わっても投票先が変わらないこともある。
有権者の選好がどういう分布になっているかは国によって違うし、経済による影響はすべての政党が同じように受けるわけでもない(本書においては政党のサイズが特に重要視されています。大きな政党は政策に影響を及ぼせるんだからより責任を課せられやすい)し、有権者の政治的洗練度合(sophistication)によっても変化度合は違う(洗練されている≒詳しい人ほど経済のような短期的要素よりもイデオロギーのような長期的要素を重視するから、投票先が変わりにくい)。

こうしてモデルを提示したうえで、retrospective/prospective、pocketbook/sociotropic、symmetry/asymmetryなどの諸論点について、統計的分析を多用しながら既存の研究と本書のモデルの違いを説明していきます。
計量分析がたくさんでてきて、未だにこれが苦手な僕は参ってしまうのですが、データの使い方や統計的処理の仕方についても詳しく考え方を説明してくれるので、(ちゃんと理解できた、とは言わないものの、)なんとか置いてけぼりにされることなく読み進めることができました。

本書の分析の対象はヨーロッパの15か国の1980年代以降で、たとえば日本はどうなのかはよく分かりません。
実は本書とは別のある論文によれば、日本を対象にした「経済と選挙」の研究はほとんど行われていないそうです。(少し前まで経済がすごくうまくいっていたから、経済が争点になることはほとんどなかったとかいろいろな理由があげられています。Christopher Anderson and Jun Ishii (1997), "An Economic Model of Electoral Outcomes in Japan", British Journal of Political Science, 27(4) 参照。)
残念ながら経済がうまくいかなくなってかなり経つし、政権交代も起こるようになってきたので、日本を対象にこういう新しいアプローチの研究をしたら何が見えてくるのか、気になるところです。

(投稿者:Ren)


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