自伝というものは、
同じひとりの人生をつづったものであっても、
それが書かれた時期や状況によって、
表現の仕方も違えば、解釈も評価も変わってくるものです。
一国の歴史が、
その国の為政者によって都合よく書き換えられることがあるように、
自伝や伝記もまた、それを書く人の性格やいつ書かれたかによって、
その内容もまるで変わってきます。
「だから僕は自伝の類を信用しない」
そう言った友人がいました。
「物事は一面的ではなく、多面的に見なければ正しい評価はできない」
「主観で書かれた自伝には、読んでも得るものがない」
彼はそう言って自伝を読むことを嫌っていました。
しかし、人は誰かに自分の人生を評価してもらいたくて
自伝を書くわけではありません。
ただ、自分の生きた証を残したいだけです。
また、人は誰かの人生を評価したくて
自伝を読むわけではありません。
ただ、心に響くたった一文があればそれでいいのです。
どんなにありきたりだと思われる人生であっても、
その人の人生は、世界にたったひとつしかありません。
人類が誕生して以来、唯一無二のものです。
何か特異な体験や特別な出来事などなくても、
ただそれだけで、自伝には意味があるのではないか。
そんな気がするのです。