先日、東日本大震災の被災地となった、
ある自治体の元公務員の防災講演を聴く機会がありました。
その方は、部下を指揮して被災者の対応にあたっていたそうですが、
ご自身も自宅を失い、部下も身内が行方不明のまま公務を続けたそうです。
「家を失っても、身内が行方不明になっても、
仕事を続けなければならない公務員とは、なんと非人間的な職業なのか」
その方はそう思い、震災対応がひと段落したところで、
その役所を退職したということでした。
「公務員だって皆さんと同じ人間なんです。
それをわかっていただきたい」
そして講演では、そう強調されていました。
「滅私奉公」というにはあまりにも過酷ですが、
震災ではこうした多くの公務員の活躍がありました。
日本では、災害時に暴動や略奪などの混乱が起こらないのは、
こうした地元公務員の果たす役割もきわめて大きいと思います。
しかし一方で、この講演を聴いて思ったのは、
「公務員とは、なんと恵まれた身分なのだろう」 ということでした。
誤解を恐れずに言います。
民間企業や自営業の被災者には、
職場が被災しただけでなく、仕事そのものを失った人がたくさんいます。
そうした方は収入を得る術を失い、自宅を失ってローンだけが残っても、
退職金はおろか、日々の生活費もままなりません。
けれども、公務員にはそのような心配はありません。
たとえ役所が倒壊しても、給料は被災前と同じように振り込まれるし、
辞めれば、被災前と同じように規程通りに退職金が支給されます。
「公務員優遇だ」などと言いたいのではありません。
「だから家を失っても、身内が行方不明でも公務を遂行して当然」
などと言うつもりも毛頭ありません。
なぜなら、それが公共と住民のために作られた、
公務員という身分であり制度(仕組み)なのですから。
ただ、平和な日常生活が続いているときには、
そのことを誰もが意識していなかっただけです。
先の講師のように、
公務員の仕事が理不尽だと思うのなら、
やはりその人は公務員を辞めるべきでしょう。
また、それ以前に公務員になるべきではないでしょう。
この元公務員の講演を聴いたとき、
昔、ある地方自治体に勤めていた私の親が、
まだ子どもだった私によく言っていたことを思い出したのでした。
公務員の身分は、公務員のための既得権益ではないのです。