story・・小さな物語              那覇新一

小説・散文・詩などです。
那覇新一として故東淵修師主宰、近藤摩耶氏発行の「銀河詩手帖」に投稿することもあります。

どこへ行くの?

2004年09月15日 11時33分32秒 | 小説
        **はじめに**
この物語はあくまでもフィクションです。
登場する国名や地名、固有名詞はすべて架空のものとして使っています。同名の現実のものではありません。

日本国憲法(抜粋)
第九条【戦争放棄、軍備及び交戦権の否認】

 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、
武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、
これを認めない。

*************

10月2日。
私は町を歩いていました。
仕事の帰り、三宮あたりのお店でウィンドウショッピングなどするのが、私の一番のお楽しみなのです。
今日はなんだか騒がしい・・そう思ったら、ビラのようなものをいただきました。
なんだろう・・見てみると新聞の号外のようです。
号外も時々貰いますが、この間は地元のサッカーチームが優勝したって話・・私には関係ないです。
でも・・私の彼、洋二はこのチームが好きなので大変でした。その日から1週間、会ってくれない上に、折角、電話で話をしても、その話題ばかり・・あの時は心底、別れてしまおうかって思いましたけれど・・

今回の号外は「憲法改正成立!」って大見出しがあって、その次に「これで本当の自主憲法保有に」・・まあ、だから何かが変わるわけも無いですし、どうでも良いのですけれど・・
その2行だけ読んで、号外は駅のゴミ箱に捨ててしまいました。
ゴミ箱は号外でいっぱい!あんなものをばらまくからですよね。その程度のニュースなら、家でテレビを見ていれば自然に分かるのに・・
自分のマンションに帰ると、珍しく洋二が来ていました。SEの仕事をしている彼ですが、このごろは忙しくてなかなか会えないのです。
「明日は休みだし、今日は仕事も早く終わったから、久しぶりに腕を揮うよ」ですって・・私より料理も上手で、几帳面な彼、やっぱりあの時別れなくて良かったな・・そう思いました。
彼が作ってくれたのは手の込んだ煮物でした。さすがだねって・・誉めてあげた。
彼は泊まってくれました。
結婚という形もいいでしょうけれど、こうして二人の自由な関係がとてもいい感じなのです。しばらく、この状態が続きそうだね。
でも・・本当は彼から言ってくれたらいいのにね・・乙女の心のわからないフトドキモノ!

10月3日。
朝・・気持ちのいい朝です。
二人とも会社が休みなので、散歩に行くことにしました。
駅から電車に乗って、少し混んでて座れなかったけれど、二人でドアのところに立って、海を見ていたらやっぱり、神戸は素敵だって、それと、今の私に洋二がいることが、もっと素敵な事だって、本当に思ったのです。
外はすっかり秋です。
二人で映画を見ようと、いつも仕事で降りる三ノ宮駅で降りたのです・・すると・・駅前は大騒ぎ!
街宣車って言うのかな?
うるさい車が何台も来ていてわめき合ってるのです。そごうの前、JRの前、丸井の前、うるさくて、地下に逃げようとしたら、洋二が声をかけられていました。
「おい・・洋二やないか?」
街宣車の横でビラを配っていた男の人、赤い鉢巻を巻いた人に、よりによって声をかけられるなんて・・
「お!浩司!懐かしいな!」
なんだ・・友達だったのか・・そう思ったけれど、回りには人がたくさんいるし、うるさいし・・どうしよう・・
私の思いが伝わったのか、二言三言話をしただけで、洋二は彼から離れてくれました。
「浩司は憲法改悪絶対反対!っていう運動をしているらしいんだ・・署名してくれって言ってたけど、今日は時間がないからって、言ってやったよ。あいつら・・宗教団体なら政治になんか口を出さないで、祈ってればいいんだよなあ・・」
なんだかうざい・・そう思ってしまう。
今はとってもいい世の中じゃないの・・どうして政治運動なんかするんだろう?
「あれ・・? たしか、賢人党は憲法改正に賛成したんじゃなかったっけ・・あいつは賢明教団だし・・変だね」
洋二の言葉に苛立ちを覚えてしまいました。
「もう、その話は止めて!折角のお休みだから・・」
私がそう言うと、洋二は、ごめん・・って謝ってくれました。
あ・・映画ですか?
ハリウッドのサスペンスだったのですけれど、アジアの巨大シンジケートに挑む警察官の話で、とても面白かったですよ。某国が国がらみで悪事を働いて、それを国際警察が追うってお話でした。
始めは小さな事件がきっかけで、その事件を追ううちに大きな組織が浮かび上がって・・結局その組織を運営している国家を崩壊させる・・俳優のHがカッコよかったけれど、私には洋二がいますからね。。

11月3日
ここのところ、号外が出ることが多くなってきました。
昨日は「徴兵制実施!」だったし、先週は「テロへの先制攻撃も可能に!」でした。その前には「自衛隊、国防軍に!」・・なんだか同じような内容ばかり。私は見出しだけ見たら、捨ててしまいます。後はテレビのニュースで充分ですものね。
テレビだったら、お気に入りのタレントさんが、面白くニュースを解説してくれるし・・
そうか・・号外って、今日のテレビニュースが面白いかどうかの目安かもしれないですね。
徴兵制って、若い人が軍隊に行くことですか?さすがにこれはちょっとねえ・・
自衛隊も町の中でもっと求人すればいいんですよね。
仕事のない人がたくさん応募すると思うけれどね・・
今日は遅い時間に洋二が来てくれるそうです。なんだか大切な話があるんですって・・もしかしたら!!
今からドキドキしています。

11月4日
ついに!
ついに!
言ってくれましたぁ♪
もちろん私の返事もOKです!素敵な夜でした。でもその中身はナイショです。
今日は朝から、二人で式場とか、デパートとか見て回りました。なんだか人生が前に向かって進み始めた気がするのね。
でもね・・変なものを見てしまった・・
ハーバーランドへ行ったのですけれど、そこで街宣車が出て、この間のような運動をしていたのです。
そのときは二組、道路のこっちと向こう側に別の車がいて、それぞれ正反対のことを言っていたのですけれど、そのうちのこちら側にいた人たちに警察が何かを言い出したのです。
押し問答が始まって、しばらくして、みんな、どこかへ連れて行かれてしまいました。
え?え?道路の向こうでも同じことをやってるじゃない?あの人たちには何も言わないのはどうして?
洋二に訊くと「こっちの人たちが何か、言ってはいけないことを言ったようなんだけど・・」
そうかな?ほんとうに?
私にはわからないけれど、その人たち、決して変な感じじゃなかったけどなあ・・

11月18日
今日は洋二のご両親に、ご挨拶に行きました。
ものすごく気持ちよく迎えてくださって、初めてお会いしたのだけれど・・ああ、もっと早くお会いするのだったわ・・って思うほどでした。
ご両親は福井県の森田って町に住んでおられます。
洋二もずっとここで生まれ育ったので、とても懐かしいそうです。
でも・・ちょっと遠いわね。特急で大阪から2時間・・しょっちゅう行くことは出来ないけれど、でも私にも田舎が出来るんだって思うとちょっと嬉しい気持ちです。
帰りに福井駅で電車を待っていたら、戦車が貨物列車にのっかって、走っているのを見ました。
初めて戦車って見たけれど、カッコいいです。。
男の子がプラモデルで戦車や軍艦にはまる気持ちがちょっと分かるなあ。でも、洋二は子供のころはゲームばかりでプラモデルは作ったことがないのだって・・このブスイモノめ!

11月29日
ついに・・ついに・・ケッコンシキの日取りが決まりました!!
来年の4月だよ♪
ここまで早かったなあ・・一気に進んだ感じがします。
場所は・・あのホテルオークラ神戸!
メリケンパークのあのホテルよ・・ね・・ね・・いいでしょ。。
ちょっと高いのだけれど、全部、彼のご両親が出してくださるって・・それで決めちゃったの・・
気分はサイコーです!
ね、ね、こんなに幸せになっちゃっていいのかな?
私の両親は、ちょっと遠慮してるみたいだけど・・いいよね!

今日ね、そのホテルでなんだかえらい人の会合があるらしくって、ものすごくぴりぴりした感じでした。
警察の人もたくさんいました。
でも・・ブライダルコーナーは、おしゃれで穏やかで、とてもいいムードでした。
私達の結婚式の日には、えらい人の会合なんてないよね・・きっと。

12月3日
今日はテレビでずっと総理大臣が何かを喋っている。
「世界にはびこる暴力と戦うためには、我々は国家の威厳をかけて、世界平和の実現のためにあらゆる手段をとる必要がある・・」
だから・・さっきから同じことばかり言って、何が言いたいのよ!
私の好きなドラマ・・冬の鎮魂歌・・をどうしてくれるのよ!
いつ放送してくれるの?それだけ教えてよ・・NHKさん!

って、さっき書いていたら、今度はアメリカの大統領が何か演説しているわ・・
「我々、自由の世界を守る・・わが国と同盟国は、いままさに、人類史に残る偉業を行なおうとしている。後の世の歴史家はこう称えるだろう・・あの時、世界がたしかに変わったと・・世界が一つになれたときであったと・・」
この人、何を言っているの?
戦争でも始めるの?
洋二が来てくれたから、その話をしました。
「ねえ、戦争がはじまるの?こわいね?」
「何を言ってるんだい・・あれは某国への脅しに過ぎないよ・・誰も戦争なんてするわけがないじゃないか・・」
あ・・そうなの・・安心しました。
でも、脅しなんて、テレビの番組を中止しないでニュースの時間にすればいいのにね。。

12月6日
今日、洋二が血相を変えて、はいってきました。びっくりしました。
「浩司が逮捕されたらしい・・」
「浩司さんって・・あの・・この間、三宮で出会った・・賢明教団の人?」
「うん・・俺にも警察から、彼との関係を聞きたいって、刑事が会社までやってきたよ。俺はあいつとの付き合いはないって言ってやったよ・・馬鹿な奴だよ・・要らない事に足を突っ込んでばかりいるからだ」
「宗教をしてる人って、危ないよね・・祈るだけでいいじゃないの」
「いや・・賢明教団は、何もしていないらしいよ。浩司は勝手に憲法の運動をしていたそうだ」

テレビをつけたら、その賢明教団の人が出ていて、またびっくり・・・
「私達はよき国民であることが何より大切だと考えています。従いまして今回、私達のメンバーであるものが、国家、政府を誹謗する運動をしたことは、まことに遺憾であります。、政府、国民の皆様に深くお詫び申し上げるとともに今後はこのようなことのないよう、指導を徹底してまいります。尚、このたびの事件を起こしましたものにつきましては即刻、除名処分とさせていただきました」
ふーーん、この教団も変わったね・・
「浩司は教団にも逆らっていたんだな・・馬鹿な奴だよ」
この教団が作っている賢人党も、大臣を出しているし、変な動きをする人は・・いらないでしょうね。

12月8日
今日はゼッタイ「冬の鎮魂歌」を見るのだ・・最終会だもの・・そう思って、テレビを見ていました。
悲しいですね。最後の、主人公がヒロインと別れるあの・・雪のシーンで・・まさに涙を流していたとき、NHKテレビがいきなり映し出したのは、その舞台のソウルの燃える映像!
うそ!これ!ドラマの中の話?
「ただいま、ソウルが兵器による攻撃を受けています。これはソウル支局備え付けのカメラが撮影している自動映像です」
テロップに流れる文字・・うそ!うそ!
戦争なの?

いかにも慌てた感じが思われる総理大臣の映像が出てきて意外に冷静に喋っている。
「世界平和のために、我々がなすべきことは一つです。国民の皆さん冷静に対処してください。我々は同盟諸国と共にこの事態を緊急、且つ冷静に、しかし力強く乗り越えなければなりません。あくまでも平和のために」
何をするの?ソウルはどうなったの?

12月24日
クリスマスって何?
サンタクロースって何?
何をくれるの?誰に優しくしてくれるの?
教えてください。
洋二が徴兵されました。どこにいるの?どこまで行ったの?
洋二はSEとしての技術が必要だといわれたそうです。どうしてそんなものが必要なのですか?

12月30日
戒厳令・・初めて聞いた言葉。
もちろん自分の国以外のことでは聞いたことがあったけれど、自分の国でこの言葉を聞くのははじめて。
インターネットの掲示板が全て閉鎖されました。
日記はかまわないそうです。

1月1日
生田神社へお参りに行ってきました。
戦争が終わりますように・・それより洋二が早く帰ってきてくれますように・・
生まれて初めて真剣に祈りました。
でも、夕方7時からは外出禁止です。・・みんなそうだよね。
テレビは毎日、軍服のお偉いさんが出てきて、何かを喋っています。
その人が終わると、いつもの芸人さんたちが出てきて、トーク番組になりますが、余り面白くありません。
ドラマもすっかり減ってしまいました。そういえば再放送物が多くなったようですね。
おめでとうと言われても、そうだと思えないお正月。

1月11日
福井県若狭地方で大きな火災が起こっているそうです。
時々停電になります。
洋二のご両親に電話をしようとしたけれど、電話がつながらないの。
心配です。
テレビニュースでは山火事の大きなのが起こっているということです。

1月12日
朝から真っ黒な雨が降っています。
外に出ないよう、テレビで呼びかけています。
会社も休みです。洋二はどうしたのだろう?

1月16日
洋二から手紙がきました。
文字を見ると泣き出してしまいました。
「僕は元気です。今、●●●の近くの山の中にいます。もうすぐ、ここでの仕事が終わりますので、それがすんだら国へ帰れるそうです。●●●●は大変でした。でも、大丈夫です。もうすぐですから、それまで頑張っていてくださいね」
封書の中に便箋が一枚だけの・・でもそれは間違いなく洋二の文字でした。
墨のようなもので塗りつぶされたところには何が書いてあったのですか?
早く会いたい・・早く会いたい・・
封筒には返信の方法が書いてあります。使ってははいけない言葉などがあって、結構面倒だけれど、元気でいることだけを伝えたくて、手紙を書いて、役所に届けました。検閲の上、届けられるそうです。

1月17日
洋二のご両親から電話がかかってきました。
とても心配していたのでものすごく嬉しくて・・北陸トンネルから先へはまだいけなくて、やっと電気がついて、やっと電話が出来るようになったそうです。
ご両親にも洋二から手紙がきているそうです。
お声はとても元気そうで、でもゆっくりと言葉を選んでいる様子でした。

1月20日
今年になって何度めかの外出禁止令です。
どうしたんだろう?お天気もいいのに。
外は寒いけれど・・窓から外を見てみると、警察のパトランプがところどころで回っているようです。
町は静かです。
誰も外には出ていません。
テレビをつけると、今日は珍しくドラマをしていました。
暇なのでドラマばかり見ていました。

1月21日
緊急の発表がありました。
テレビをつけると、アメリカの大統領、中国の主席、ロシアの大統領、日本の総理大臣が四分割された画面に映っていました。
「安心してください。私達の自由は・・いや、人類の自由は守られました。世界は新しい時代へと進むでしょう。後世の人は私達、現代の自由主義が行なった同盟を大きく称えるでしょう。今回の騒ぎで朝鮮半島、ならびに日本列島において、貴重な、そして人類全てを救うために犠牲になられた方々が、たくさん居られます。この方々の尊い犠牲無くしてこのたびの勝利は得られなかったでしょう」
「日本、ならびに韓半島で犠牲になられた方々、そのご家族や親戚の方、また、友人の方、本当にありがとうございました。あなた方の尊い犠牲は自由を守るために無駄ではありませんでした。どうか自由を勝ち得た喜びを、自由のために戦った喜びを分かち合おうではありませんか」
そのときでした。
テレビの画面が乱れたのです。
そこにはかの有名な某国の指導者が粗末な部屋で椅子に座っている映像が映し出されました。
彼は揺れる画面でこちらを指していました。テレビを見ている人に向けられているのでしょうか?
何かを喋りましたが、言葉が分かりません。
テレビは突然、消えてしまいました。

1月22日
空が赤いのです。
怖い。
会社に行こうとしたけれど、空の赤さに怖くなってまた部屋に戻ってきてしまいました。
洋二!怖いよ!怖いよ!


********************************

第九条【戦争放棄、侵略のための軍備及び交戦権の否定、世界平和への活動】

 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、
武力による威嚇又は武力の行使は、わが国が侵略を目的とした諸問題を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを世界の安定のため以外に使うことは、これを認めない。

 日本国民は世界の平和と安定のためにあらゆる活動を否定しない。考えうる最高の方法と技術で世界の平和と安定を強く希求する。










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本当に戦争になったらえらいことです。 (ごう)
2005-06-06 04:34:09
本当に戦争になったらえらいことです。

銃弾を撃たれるだけでも、とんでもない激痛らしいです。

まして、爆撃されるとなると。

うちのおじいちゃんも米軍の機銃掃射を日本で受けました。どれほどの恐怖だったかと思います。

ぜったい、戦争にしてはいけない。憲法も変えてはいけないと思います。憲法九条があればこそ、日本はアメリカの戦争にくわわらずにすんだ。韓国は、憲法九条がなかったから、ベトナム戦争に30万人が参加し、5000人が死んだ。そして4万人のベトナム人を殺した。

こんなことを、日本人がしたらどうなるか?

ぜったい、憲法九条は変えてはだめです。
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ごうさま。 (こう)
2005-06-06 15:38:16
ごうさま。
拙作をお読みくださり、ありがとうございます。
この作品では流れが速すぎる嫌いがあるかもしれませんが、案外、どこか一つ堰を外すとどっと流れるものかもしれません。この作品以外にも、いくつか反戦作品を入れています。
憲法九条は外交上の大きな武器になるはずです。
もっと積極的につかっても良いと思うのです。
護憲ではなく、憲法を積極的に使う運動(一切書加憲許すまじ)・・ダイナミックに新しい時代の平和運動を築いて行きたいです。
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