言の葉綴り

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ハラリ氏 民主主義VS. 権威主義 その1

2022-04-27 12:23:00 | 言の葉綴り



132 ハラリ氏 民主主義V権威主義

その1

  







驕れる中国とつきあう法

   民主主義V権威主義

  ユヴァルノアハラリ

文藝春秋 2022 4月特別号(3月10日発売)より抜粋


ーー中国はアメリカから世界の覇権国としての地位を奪おうとしています。最近、習近平国家主席はロシアのプーチン大統領と会談した際、「新しい世界秩序」を形成するという強い願望を述べ、二つの反欧米国家がcommon cause(共通の大義)で結びついていることを世界にアピールしました。

ハラリさんは、共産党が支配する国が将来も繁栄を続けることはあるとお考えですか。日米英豪が進める「中国包囲網」、そして団結して台湾を護ろうとする西側の動きをどう見ていますか。


ハラリ 中国はこの三十年間で経済面、軍事面、外交面でアメリカの競合相手として台頭してきました。そして、その勢いはますます増しています。自由主義諸国はニ年代半ばまで、中国の成長に対してかなり楽観的に構えていましたが、共産党指導部の姿勢は国内外で穏やかに変わることなく、習近平が国家主席として実権を固めるとともに期待とはまったく正反対のことが起きました。彼はアメリカのトランプ前大統領と同じように「チャイナファースト」の偏狭的な立場をとるようになってしまったのです。

二十年前の中国と今の中国を比べると、民主主義は完全に後退しました。世界的にみても、民主主義国家の数は今よりも多く、質もずっと優れていました。民主主義勢力のリーダーであるべき肝心のアメリカでは、ますます分断が深まり、民主主義が機能しなくなったと言われています。

しかし、民主主義とは本来、それほど強固なものではない。むしろ脆弱なシステムであることは知っておいたほうがいいでしょう。もちろん民主主義のいいところは間違いを修正する能力、つまりレジリエンスがあることですが、格差是正などの手当を何もしないでいると劣化していきます。

一方、権威主義は習近平体制下でますます堅固なものになっています。その勢いは弱まる気配はありません。まるで民主主義が退潮するのに合わせて、ロシアやトルコなどで権威主義が勢いを増しているかのようです。

中国は、ロシアがウクライナを奪取することを熱望しているように、台湾を占領下に置こうとしています。習近平がこの野望を捨てることはないでしょう。

中国は南シナ海の島々を「空母」化してその主権を主張しています。ヨーロッパ、アフリカ、インドと中国の物流を結ぶ南シナ海は、世界の物流の三分の一が通過しますから、中国は何としても支配を確実なものにしたい。南シナ海から台湾、そして東シナ海は、中国にとって非常に重要なのです。

つまり南シナ海で米海軍が自由に活動されては困る。これまで米海軍と中国海軍の異常接近が数回ありました。これからも起きるでしょうが、そこで緊張が増さないようにするには同盟国の協力が必要です。


台湾攻撃に備えろ


ーー 二二一年九月、アメリカ、イギリス、オーストラリアの三カ国間の安全保障協力の枠組みAUKUSが発足しましたが、こういう協力は中国の強硬姿勢のエスカレートを抑止するのに役立ちますか。


ハラリ AUKUSは原子力潜水艦開発で連帯するためのものですが、中国は強く反発し、「軍拡競争を激化させ、地域の平和と安定を著しく損なおうとしている」と避難しています。そもそも民主主義国と権威主義国の価値観は正反対ですから何をしても相容れません。しかしどちらのシステムも世界経済の中に組み込まれているので、経済的には双方が利益を得ていることが重要です。自由主義陣営の同盟が習近平の気持ちを逆なでする可能性もありますが、結束を固めたほうが中国の軍事的な冒険主義に対して抑止効果が大きいでしょう。

習近平が台湾を支配下に置くことをあきらめることはないという前提に立たないと、中国が不意打ちで台湾を攻撃したときに間に合いません。今必要なことは、アメリカと日本と台湾の軍事力を強化するために、「統合参謀本部」みたいなものを作り、いざ戦争となったときに具体的にどう対処するか、決めておくことだと思います。ミサイルをはじめとする武器、食料、エネルギーなど台湾に対してどの国が何を提供できるか、具体的に決めておかないと間に合いません。

中国が覇権国となった世界に生きたくありませんが、二年ごろには、世界一の経済大国になります。あらゆることに関して党中央が最終決定権を握っているものの、中国の経済システムは資本主義であり、そのメリットを最大限生かしています。国家資本主義ともいわれており、今後繁栄し続ける可能性は非常に高いと見るべきでしょう。

我々はそういう国と価値観を共有することは無理ですから、Agree to disagree(お互いに意見が異なることを認める)という姿勢をとることが大事です。包囲網によって中国の権威主義体制を変えようとしても現実には難しい。経済的には相互に利益を得ていることを忘れず、価値観の衝突から戦争にまでエスカレートしないように、お互いに価値観を押し付けないことも非常に重要です。


権威主義の「三つの弱点」


ーー 新型コロナウイルスのパンデミックに対して、中国のような権威主義国の方が民主主義国家よりも対応が優れていたと言う人もいますね。


ハラリ 民主主義国家で特にパフォーマンスが悪かったのはアメリカ、ブラジルですが、台湾、ニュージーランドはそれに比べるとはるかにパフォーマンスがよかったと思います。日本は累積感染者で言うと欧米よりはるかに少ないので、パフォーマンスはいいと思いますが、感染者数が少ないレベルにもかかわらず医療ひっ迫が起きているので、成績でいうと中間くらいに位置していると思います。

このパンデミックは、権威主義体制の優位性を示したという人もいますが、私はそうは思いません。むしろ、民主主義体制の優位性を再認識することになったと思います。

哲学者や歴史家は、民主主義と権威主義を対比して、大きくわけて三つのことを述べています。

一つ目は、民主主義は情報のfree flow〈自由な流れ)を保証しますが、権威主義は「表現の自由」と「報道の自由」を抑えつけることで、自国の利益を傷つけてしまうということです。

権威主義のリーダーは、検閲を行い、自分に不利なニュースを流す人を往々にして罰してしまう。何が真実であるかがわからなくなり、結果的に真偽不明の情報が流通してしまうので、システム全体の機能不全につながります。

パンデミックが始まって二年経っても、このウイルスの発生源が突き止められていないことは偶然ではありません。発生したのが権威主義国であるため真実は今も闇の中なのです。武漢で最初の数週間に何が起きたかはいまだにわからず、

表に出た情報信用することはできません。もしこれが民主主義国で始まっていれば、誰かが隠そうとしても、独立した報道機関や個人が突き止めて公表していたでしょう。


過ちが修正できるか否か


二つ目は、間違いを修正するシステムの有無です。一つ目の情報問題とも関連しますが、権威主義の統治者は、自分自身の過ちを指摘されても自ら修正できない。それは権威を傷つけ、自分の地位を危うくしてしまうからです。むしろ問題の原因を外部になすりつけ、結果的に間違いを修正するどころか、増幅してしまいます。

民主主義国では、過ちがわかれば修正はより簡単です。もしリーダーが自らの過ちを否定したり、その責任から逃れようとしたりすれば、他の人がそのリーダーに対して間違いを指摘し、別の行動方針を提案することができるからです。


三つ目は、人々のモチベーションです。

権威主義国では、情報に対して自由にアクセスできず、監視の目も厳しいので、個人や法人が自分自身で判断できません。それだけで時間の無駄は相当なものです。

民主主義国では、自分で情報を得ることができ、個人や法人がイニシャティブをとることができます。モチベーションを持った、十分な情報を得た人々は、権威主義国の人々より自らの能力を発揮することができます。

(取材構成 大野和基)





 



 





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