アメリカには国内航空会社が沢山あるらしく、私たちが乗ったラスベガス便も完全なロ
ーカル便で日本では見たこともない、みすぼらしい飛行機だった。まさか第二次世界
大戦で使っていたものではなかろうなと思わせる機体だった。私たちの前にはアメリカ
人と思われるビジネスマンが座っていた。暫くすると機体は五月蠅いほどの騒音と共
に離陸、空中に辿り着いてもその音は変わらず、暫くすると前方でガタンと大きな音が
して座席の上にある荷物置き場のカバーのようなものが開いた。よく見ると何か配線の
ようなものが見えた。慌てて来た乗務員が何事もなかったかのように元に戻して消えた。
大丈夫かなと心配になるものの、なす術はなく観念する。すると前のビジネスマンが日
本では普及していない携帯電話を取り出し、飛行機の騒音で聞き取れないのか大声で
通話し始めた。この区間の飛行は長いものではなかったから、五月蠅いことを一寸我
慢すればいいだけのことだが、機体は本当にきちんと整備されているのかどうかは不安
だった。
アメリカの国土は広いが砂漠のような茶色の大地が延々と続いて、遠くにそれまでと違う
風景が見えたら人里という風な感じだ。ギャンブルの街ラスベガスは砂漠のど真ん中に
あるから、大負けして金が払えなくてもドロンできない場所にある。
ラスベガスの飛行場に到着し荷物を受け取り、出口に行くとガイドさんは初老前の日本
人だった。長年、ここでガイドの仕事をしており、物事を割り切って暮らす社会に馴染ん
でいるから日本に戻りたいとは思わないと言っておられた。こうして日本から離れて暮ら
している人には、私たちのように日本国内で暮らしていると見えない部分が、沢山見え
るのだと思う。時はまさにNoと言えない日本人と言われ始めた頃のこと、答えが明確な国
外での暮らしは裏表がなく気苦労しなくて暮らし易い一面があるようだ。
ラスベガスからグランドキャニオンへは陸路のコースもあり、元気な日本人も挑戦するが、
終わることのない直線の砂漠道、道路周辺には店屋はおろかGSもないから恐ろしくなり
途中で引き返す人もいるとガイドさんの説明。私たちは、ここからグランドキャニオンのま
でセスナ機に毛が生えたような飛行機で搭乗人数は10人ちょっと。搭乗手続きは体重測
定から始まる。何人乗りと決まっているのではなく、搭乗者の合計体重で乗る人数が決め
られている。そうなれば、私たちは米人の半分ほどしかないから子供料金にしてくれても
いいのではないか。手続きをしながら外に待機している飛行機を見ると、どの飛行機に乗
るとしても勇気を持って乗らないと、くじけそうなものばかりが並んでいる。好きなものを自
分で選んでと言われても・・・・
10数人が乗り込み離陸、機体が小さいからフラフラするような安定感のない飛行だから、
万が一なんて考えが頭を過ると払しょくに時間がかかる。下を見るとガイドさんの言う直線
道路が見える。本当に何もない砂漠に延々と続く道、ごく稀に小さな緑が見える。人家の
印。それにしても長いなんて距離ではない。飛行機の上から飽きるほど見ていても変化は
現れないほど。
コロラド川から流れる水を貯水する大きな人口湖を通り過ぎ、ウトウトしかけたら機長のアナ
ウンスがあり眠気が吹っ飛ぶ。下界に緑色の大地が目に入った。グランドキャニオンに到着。