半ぐれ行政書士の徒然日記-Ⅱ

信州は小諸の半ぐれ行政書士
仕事のこと、地域のこと、様々な出来事を徒然なるままに書き記します

行政書士事件簿(2)

2005年07月27日 | 行政書士の仕事
(前回の続き・・・)

 私は、彼女が話すまま、家庭の状況、息子の性格、イジメの内容やイジメられるようになった経緯など様々な話を聞いた。彼女は、イジメていた同級生に対する怒りが再び込み上げてきたのだろうか、時々声を荒げて話した。
 しばらく話をしていて私は、ふとあることに気がついた。彼女の気持ちは如何にして息子をイジメた同級生を懲らしめるかにばかり集中し、自分の息子に対して全く目が向けられていないことを。
 そこで、私は息子が不登校になった当時の様子及び現在の様子を質問してみた。
 <やはり・・・母親は“子どもの気持ち”といいつつ、その気持ちに気づいていなかったのだ>
 不登校当時は息子も明るく、心を開いて母親である彼女と様々な話をしていたようだ。しかし、不登校が続き、彼女が思い悩み、同級生たちに対して怒りを顕わにすることが続いたある日、息子が彼女に「僕が情けないから、お母さんをこんなに苦しめている。」と泣きながら話をしたそうだ。それ以後日を追って表情も暗くなり、自分の部屋に閉じこもりがちになって、最近は会話すらなくなってしまったとのことだ。
 私は彼女に「息子さんは人一倍責任感が強いのではないですか。母子家庭であることから、“お母さんを悲しませてはいけない”、“自分が強くなってお母さんを守らねばならない”と思っていたのではないでしょうか。ところが、イジメ問題で貴方が悩んでいる姿を見て、そして同級生に対して怒りを強くすればするほど、自分が大好きな母親を苦しめているのだと自分自身を責めてだんだん殻に閉じ篭っていってしまったのではないでしょうか。」「貴方が今、目を向けるべきは同級生の方ではなくて、息子さんですよ。」と話をした。彼女も顔色が変わり、ようやく落ち着いてきたようだ。
 続けて「私はあなたが依頼された内容証明郵便を作りません。何故ならイジメを無くす手段や、息子さんが明日から再び登校するための手段になり得ないからです。私もイジメを許すわけではないけれど、根本からイジメを無くす有効な手段が見つからない以上、今は悔しいけど我慢をするしかない。学校へ行かなくたっていいじゃないですか。むしろ今は貴方の愛情のすべてを息子さんに注ぎ、安心させてあげて下さい。焦らないで少しずつ息子さんの心を解きほぐし、立ち直ることを優先しましょうよ。」と話した。
 そして「お母さんが暗い顔をしているとダメですよ。苦しいかもしれないけれど、どんなことがあっても“私に任せなさい!”と明るく笑顔でドンと構える“肝っ玉母さん”になりましょうよ。」という頃には、彼女も事務所に来てようやく笑顔を見せるようになった・・・。

 果たして私が母親にアドバイスした内容が正しかったのかは分からない。そもそも正しいといえる答えがないのかもしれない。
 しかし私は、私がその時為すべきことは内容証明郵便を作成することではなく、彼女たち親子がこれからどうすれば幸せになれるのかを考えることであったという意味では少なくとも間違っていなかったように思う。