○その初めに「日本の武道」を最初から拝写すべきですが、私が理解いたしました所から
書かして頂きますので、次回には、その次に判って来ました所を書きたく、従って項目は
ご本と違い相前後致します点何卒ご寛容下さい。以下本文です。
○正身正息
武技の実践には、姿勢を正すということが根本になります。
これを生理的に言うなら、地球の重心に身を委ねて、まっすぐに身を立て、
体のどの局部にも力の凝らぬよう、従って全身が渾然たる球形を成すように身を保つことです。
すると生理の当然として、腰がすわり、首がまっすぐに立ち、下体の中心部に力の中心の座が現われて、
いっさいの動作がその中心の力によって行われることとなります。
ですから、ここに支配する理も、上来述べてきたった武の哲理と同じことで、
身を正す上の生理はそのまま哲学の論理と一致するのです。
武技の動作はいろいろの形を採りますが、動作のどの切断面においても、
全身の筋肉が常に落ちつき切り、一々の動作がいつも「全」の表現であるように、
いわば「神ながら」の動作であるようにふるまうのが、正しい動作となります(「動中静あり」)。
またそのようにしてでなければ、技、神に入るの名人芸はできません。
このことは武道に限ったことではなく、身をもってするいっさいの芸道にも通ずることです。
下体に現れる力の座は、これを丹田と称え、日本では武道、武芸の士が、
何ごとも腹又は腰の力でするようにということを大切な心得としています。
ただし、丹田は全身の力の座ですから、特に下腹を意識して(即ちそこを一局部視して)
そこに力を集中するのではなく、全身の筋合いを調え(ととのえ)、
丹田におのずから力の現れるように、身を渾然と持つのです。
○丹田の所在を確かめる容易な方法があります。
それは、息を吐いて胸を虚にし、残った息で笑ってみることです。
すると腹部がキュッと締まりましょう。その締まる所が全身の力の座、即ち臍下丹田です。
あるいは、つばを呑みこんで、それを腹の底に納めてみます。
すると下腹がキュッと締まって、それを迎えます。笑う際には下腹に力がちょっと脱けて、
息が瞬時に吸いこまれましょう。
笑いにおける、けいれん的な右の呼吸を、一筋に平静に行うのが「丹田息」と呼ばれ、
武道、武芸など、いっさいの身行(しんぎょう)における本格的な呼吸となっています。
この正身正息を道として立てたのも日本文化のすぐれた価値です。
それは人間が正しく生活する上の実践的基準を確立したものです。
この正身正息そのものが、坐禅として又、静坐禅として独立にも行ぜられています。
○哲学と身行
仏教では自覚の両極が般若(の智慧)と三昧(の行)として立てられ、
真理の観照道は身行の真実道と不可分のものされる伝統を保ってきました。
「般若-三昧」又は「慧-定」の対極は大乗仏教では「中観-瑜伽(行)」の形で現われましたし
(この項続く)
※瑜伽(ユガ)は梵語yugaの音釈で相応の意味で、主観、客観の合一不二なること。
瑜伽宗は印度の世観の開いた宗派です。