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渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

研ぎ

2021年03月24日 | open


研ぎ方によっては、研ぎ汁はこんな事に
なる。
砥石の使い方はいろいろあるので、通り
一辺の前後往復スライドだけでは駄目。
細かい成形や整形、肉(しし)置き調整や
任意の狙った刃付けのためには、ありと
らゆる研ぎ方を駆使する。

また、砥石の番手は人造の場合粒度に基
づくが、研ぎ汁と水の量、押しの力加減
により幅を持たせる事ができる。
シャプトンの刃の黒幕#1000の場合は、
#3000と同じような研ぎも可能だ。
大体、ぬるっとする青砥と同程度。
天然砥石には番手は無い。
大体これくらい、というように人造の番手
を現代では当てはめて見当をつける。
しかし、人造砥石が登場するまでは、天然
砥石には番手呼びなどは存在しない。
何の石が何にどう利いてどうなる、という
知見しか存在しない。
しかも天然砥石は同じ層の同じ呼び名で
あっても、切り出した部位により個体差
があるし、豆腐のように切った1個の中で
も上と手前で硬度や利きが違っていたり
もする。

人造砥石が登場するまでは、日本で包丁
を研ぐのに一番使われたのは青砥ではな
かろうか。
大体人造砥石の#1000から#3000あたり
に相当する。
良い青砥は、研ぎ汁がネトッとしていて、
押した時の音はグッグッというような音に
なる。焼刃が硬すぎる炭素鋼の刃物など
では、キーキーと金属音が微かに混じる
ので、砥石の合う合わないが判断しやす
い。チョークで黒板をキーッとやったよう
な音が微かにでも混ざる時は、砥石とその
鋼の相性が悪い。
人造は、そうしたことはなく、どんな刃物
でもずんずん卸せるし、刃返りも出し易
い。
ただし、人造砥石は「刃物を削る為の石」
であるので、天然砥石が持つ研ぎ汁による
鋼の化学変化がもたらす素顔の景色の引き
出しなどは不可能だ。
ただ、切れるように研ぐだけとか、成形の
ためであるならば、人造砥石はかなり使え
る。日本刀の仕上げには使えない、という
事であるだけだ。包丁やナイフなどは安価
な人造砥石で十分だ。切れるだけならば。
一丁数万、数十万円する日本刀研磨用の
天然砥石は日常使用の雑用品であるナイフ
や包丁には全く必要ない。日本刀研磨と
切れ味付けのための実用刃物研ぎは全く
目指すところの概念が異なるのだ。

だが、京都の天然砥石が無いと、このよう
な化粧研ぎは出来ない。
これは単なる600円台の肥後守だ。
研ぎ(研磨)一つでこのように鋼の素顔を
引き出す事が出来る。これは天然砥石で
なくば絶対に出来ない。人造だとステン
レスのようにピカピカになってしまう。
この画像は何度も出しているが、肥後守
は青紙挟み込んで圧延した利器材よりも
安価な全鋼物のほうが研ぐのには面白い。
日本刀研磨に準じたいろんな研ぎの技法
刀身に施すことができる。


ノーマル肥後守を笹の葉形に成形した。
ただ背を落としただけでなく、平地と
鎬地の造形を考え抜き、先に行くに従っ
ての比率を考慮している。
日本刀の美と同じく、切先側に向かうに
つれて変化するその幅の比率は、一つの
「律」を持っている。
それは刀身が奏でる旋律なのだ。
基本は鍛冶師が出し、研ぎ人がそれを
引き出す。研ぎは刀身の景色という曲を
奏でる演奏なのだ。刀身削りではない。
日本刀の場合は奏者たる研師の役目が大
きい。
刀の場合、髪の毛1本分でも研ぎに淀み
があると形が崩れてしまう。
特にラインの出し方は研師の技量がもろ
に出てしまう。
この肥後守はそうした日本刀研磨の研磨
師の基本的精神を以って研磨にあたった。
鎬の立て方と平地、鎬地の身幅変化に非常
繊細に気を使った。
コンマミリの世界での表現活動だ。

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