渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

謎のテーブルナンバー ~映画『ハスラー』(1961)~

2022年06月29日 | open



映画『ハスラー』(1961)では
ニューヨークに実在の古いプール
ホール AMES でロケが行なわれた。
1910年代から続く老舗だ。
吹き抜けのフロアに18台、2階の
フロアにも何台もプールテーブル
を置いている大型店だ。
1910年代建築の高層ホテルの2階
+吹き抜け3階部分に店があった。


この建物、ホテルクラリッヂは
ニューヨーク州マンハッタンの
タイムズスクエアにあった。
ブロードウェイと44番街の南東
の角にある16階のビルで、最初は
ホテルレクトルとして1910年に
建築され1911年にオープンした。
レンガ建築だ。
最初立てられた14階建てのビル
には240の客室があった。
1972年にビルが解体されるまで
61年間稼働していた超老舗ホテル
ビルだった。

1940年時のホテルクラリッヂ。






映画『ハスラー』から。


映画公開以降の1960年代。
AMESがあった古いホテル。

ビリヤード場が閉店してからは
雑貨店がテナントとして入って
いたが、やがて建物は1972年に
解体された。
場所は 60 West 44th Street だ。




ブロードウェイである。




さて、映画『ハスラー』では、
この老舗店舗のプールホールで
伝説のミネソタ・ファッツと
主人公エディ・フェルソンは
勝負をする。
ミネソタ・ファッツは品性と
知性あふれる巨漢の紳士であり、
新聞を読み、そして身だしなみ
も常に整えている。

さて、この勝負の舞台となった
AMESは午後12にオープンする。
開店時間は深夜若しくは朝まで。
昼12時になったら店長である受付
の男が出勤してくる。
それ以前に従業員は入店して、
掃除と支度を整える。
朝鮮戦争で足を負傷して引きず
る黒人従業員のヘンリー・オー
ビスも開店の支度に取り掛かる。


このフロア真ん中の出入り口階段
ドアの奥、道に面した壁際の窓の
ブラインドを開けるシーンから
AMES 店内のシーンが始まる。
この時、窓際ブラインド前の玉台
は16番台であることが写っている。


だがしかし!
店内の2階フロアへ続くフロア中央
奥横の受付の横のテーブルも16番台
なのである。


なんだこれは?
これは36年前から気づいていたが、
実に妙な事になっている。

店内見取り図のメモ書きはこれ。

上の の部分が店内シーンの
最初にオービスが支度していた
テーブルナンバー表示がぶら下
がっていた場所だ。その札の下
がテーブル番号、つまり台番号
となる。上掲の通り16とあった。
だが、受付横の台の上にも16の
表示がある。 のところがそれ。
エディが午後1時半に入店して
撞いていたのは出入り口ドア横
の17番テーブルだ。





なぜ16番台の表示があるテーブル
が2台あるのか。
今となっては永遠の謎。
インターネットリサーチを駆使し
ようとも、全世界でこの謎を解い
た人はいない。

エディとファッツの大勝負は1番台
で行なわれた。
普段は店内が込んでいようともシ
ートを被せている。
それは、ミネソタ・ファッツが
毎日午後8時に来店してから使う
専用台=華台だからだ。
ハナダイは店の特別扱いの客しか
使用できない。
これはアメリカでも日本でも同じ
である。
華台の穴は渋く、ラシャのコンディ
ションは最高の状態になっている。
勝負台だからだ。特別の別格別物。
日本でもそうだが、玉屋では華台
で撞かせてもらえるようになって
ようやく一人前、そこからビリヤ
ードプレーヤーの道が始まると云
われている。
それまではどんなに玉入れが上手
くとも部外者だ。撞球師かただの
玉突き者かは雲泥の差だ。
華台で撞けない玉突き者はただの
一見の客となんら変わらない「お
客さん」。
不平等も差別も何もない。部外者
の文句は一切受け付けない。撞球
の世界とは日本も米国もそれだ。
あるのは明確な区別とシキタリと
いう伝統的な峻厳たる掟だけだ。
ヒジョ~にチビシィ~(by 財津)


この台で36時間にわたる死闘が
繰り広げられた。
凄いのはファッツやエディでは
ない。
これ、かなり映画の中での表現
として大切。
最後まで一睡もせずにしっかりと
きっぱり観戦した賭博黒幕のバー
ト・ゴードン、エディの相棒チャ
ーリー、店員オービス、常連客の
ビッグ・ジョン、そして最後の
最後まで「125(ワントゥウェニ
ファイヴ)ゲーム!」というカウ
ントを元気よく言い続けたラック
立ての玉屋の年寄のオヤジが物
凄い。
エディはまるで彼らにすべてに
おいて負けている。エディはただ
の若造の鼻息だけ荒い小僧だ。
「玉突きばかりいくら上手くても
てんで駄目」という世の中の厳し
さの現実をこの映画は容赦なく
描いている。
「ビリヤード映画」ではないのよ、
この作品は。
25歳のエディは馬鹿だから、まる
っきり一切気づかないが。てめえ
のことだけ大事で周りが見えて
ないから。
だからゴードンから「こいつは
落伍者(ルーザー)だ」とエディ
は言われたのである。



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