
これまで幾多となく時代劇の中では沖田
総司が作り手によってそれぞれ描かれて
来た。
実際の新選組の沖田総司については、二番
隊組長永倉新八の回顧録や、明治以降に
新選組屯所の大家の子どもだった八木家の
者に取材した子母澤寛の著作に沖田総司
の実像が記されている。
それをまとめると以下だ。
・痩せていて背は高く肩も張るが猫背
・色は浅黒い
・顔がヒラメ顔
・無邪気だが超短気
・剣術稽古では短気すぎて皆が敬遠
・子ども好きで近所の童と遊ぶ
・京の町医者の娘と恋仲になるも近藤土方
によって別れさせられた。普段涙を見せな
い沖田はこの時ばかりは泣いた
・沖田総司、内縁の妻あり説あり。新選組
関係者の墓所に「沖田家縁者」との女性の
墓銘と書面記録あり。これは町医者の娘と
実は隠れ所帯を持っていたのではないか、
あるいは夫婦のけちやくを交わした相手
ではないかとの推測あり。
こうした例は坂本龍馬と北辰一刀流の娘
千葉さなことの間にもある。
さなこは明治になっても「わたくしは
坂本龍馬の妻です」と公言し、龍馬がその
証に渡した片袖を大事に持っていた。生涯
千葉さなこは独身を通した。
沖田総司のイメージを世に広く印象づけた
のは1965年のドラマ『燃えよ剣』の島田
順司さんだろう。あれは司馬遼太郎が描く
沖田総司のイメージそのものだった。

土方歳三については栗塚旭さんが印象を
決定づけた。
この栗塚歳三を超える歳三らしさは、1989
年の正月ドラマ『燃えよ剣』での役所広司
さん登場まで待たねば出なかった。

名作である1965年版の『新選組血風録』

名作である1965年版の『新選組血風録』
では、左右田一平さんが斎藤一の役をやっ
ていたが、実年齢は斎藤一は沖田総司より
二つ下、藤堂平助と同い年なので、一平
さんではちょいと無理があった。

カラーが一般的であった時代にあえてモノ
クロで撮影された。
この後の1970年の『燃えよ剣』もモノクロ
で作られた。

こちら1970年版では左右田一平さんは
一言居士のような医師役での登場だった。
1966年版の最初の司馬遼太郎作品のドラマ
化での『燃えよ剣』では若き杉良太郎が
沖田総司の役をやっていた。
沖田総司役は多くの役者が演じたが、島田
総司のイメージを崩したのは1974年の草刈
正雄さんによる沖田総司だった。


この映画『沖田総司』(1974)はアメリカン
ニューシネマの流れというよりも、まるで
シュールレアリズムの延長にあるような
作品だった。ATGの『龍馬暗殺』(1974)
のような。
草刈総司は、後年の尾崎豊の曲で歌われ
たような闇雲に突っ走る若者像としての
沖田総司を好演していた。
草刈正雄さんの素のキャラに一番近いの
はドラマ『プロハンター』(1981)での
小倉弁丸出しのとぼけた私立探偵だった
ことだろう。「本人はギャグキャラなの
に二枚目役ばかりなので不本意だった」
と草刈正雄さんは対談で語っていた。
映画『汚れた英雄』(1982)などは典型的
な二枚目草刈ならではの役どころだった
ことだろう。










キザ過ぎる!(笑)
しかし、映画マジック。
これが映画の中では、全く一つも取って
付けたようなキザさを感じさせなかった。
イケメンマジックではない。
演出と演技がしっかりしているからだ。
これぞ銀幕、映画の世界。
非日常であっても、観る者に違和感を一切
感じさせないのは、作品として上出来だか
らである。
たけしなどは、自分が出演さえしなければ
上出来になるのに、ど素人のくっそド下手
くそが俳優の真似事ででしゃばるから作品
を台無しにしてしまっている。
黒澤明や大島渚の映画は素晴らしいが、
彼らが役者として出てしまったらどうな
る、すべてがぶちこわしだろうが、という
物事の道理をたけしは理解していない。
たけしは、でしゃばらずにすっこんでいて
徹底的に監督として撮り屋に徹すればいい
のだ。
映像作品での坂本龍馬像も司馬遼太郎が
描く龍馬像が多くは踏襲されていて金太郎
飴になっている。
しかし、映画『幕末純情伝』(1991)では
原作のつかこうへいの龍馬像を大幅にデ
フォルメさせて渡辺謙が怪演をした。
あれは強烈だった。


実は沖田総司は女だった、とするつかこう
へいの小説だ。
それが1988年に戯曲化され舞台公演が
されて人気を博し、映画化となった。



沖田総司役の10代の牧瀬里穂が、めちゃ
くちゃ可愛かった。



この作品はエンターテイメントなのだが、
つか作品としては学生運動を扱った『飛
龍伝』より出来が面白い。
映画版はとにかく役者の演技が各人弾けて
いて、かなり面白い。
こんなのをやられたら、その後の舞台など
は結構きついのではなかろうか。91年の
映画が突き抜けていたので。

坂本龍馬については、1987年『龍馬を
斬った男』では根津甚八さんが龍馬を
演じた。
映画紹介では「これまでにはないユニーク
な龍馬像を演じている」などと評されて
いたが、たわけを申すなと思った。
根津龍馬はそれまでの司馬遼太郎の龍馬
風味であるだけだ。
ただ、根津さん自身は獨協大全共闘で学内
に潜入していた公安警察をぶっとばした
頃の目のギラギラ感が出ていて、悪くは
なかった。
龍馬というよりも、人斬りのような眼光
だった。この作品は会津人の早乙女貢の
原作が素晴らしい。

ただ、演技としては、『幕末純情伝』(91)
での渡辺謙の坂本龍馬が飛びきりだ。
だが、『幕末純情伝』では、龍馬が訴える
セリフは、予告編と本編では変更されて
いる。
龍馬が涙ながらに手をついて人に訴える
「誰もやったことない無血革命をやろう
ぜよ!」というセリフは「平和革命」に
変更されていた。
沖田総司役は、別枠では牧瀬里穂さんの
総司が可愛すぎて大好きだが、スーッと
した清涼感を感じたのは、武田真治さん
の映画『御法度』(1999)での総司だった。
ベースは作品が司馬遼太郎の『新選組血風
録』の中の二話を重ねた物なので、沖田
総司も司馬遼太郎が描く総司なのだが、
武田さんの演技はとてもよかった。
細かい複雑なことは好きではない司馬遼太
郎の総司をよく演じ切っていた。巧い。

武田真治さん、なかなかいい。

沖田総司が持つ人斬りとしての毒毒しさ
を好演したのが映画『壬生義士伝』(1999)
での堺雅人さんだった。
これは、沖田の底意地の悪さ、良い人ぶっ
ていても残虐な新選組の歯車の一つでしか
ない沖田総司を能く演じ切っていた。

堺雅人さんも半沢直樹で定番役を得たが、
この性悪の沖田総司役は見応えがあった。
目つき一つで腹の底に潜む幕末警察の毒を
見事に演じていた。

これが素顔かな。
役者はどれが素顔か分からないけどな(笑)


奥さんの菅野美穂さんとは今でも仲が
良い。
演劇界、映画界、歌手、等々、芸能関係
は離婚率が異常に高いので、仲良し夫婦
を見ると他人様とはいえ気が休まる。
人様のことでも、幸せそうな人たちを見る
のがいい。いがみ合う人たちを見るより
も。
仲良し夫婦は演技ではないことを願う。
