1日1日感動したことを書きたい

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『孤児たちの城--ジョセフィン・ベーカーと囚われた13人』(高山文彦)

2008-12-30 21:41:18 | 
 『孤児たちの城--ジョセフィン・ベーカーと囚われた13人』(高山文彦)を読みました。

 ジョセフィン・ベーカーは、1920年代のパリでレビューの女王として一世を風靡した黒人歌手です。第2次大戦時には、レジスタンス運動に情報収集の役割で加わり、1960年代にはアメリカの公民権運動にも参加しました。ジョセフィン・ベーカーは、1950年代に、南西フランスにあるミランドという城を村ごと買い取り、世界中から集めた12人の孤児たちと一緒に生活をはじめました。12人の孤児たちは、「虹の部族」となづけられました。それは、「違う国で生まれ、違う肌の色をしていても、いっしょにくらしていけば差別も戦争も起きはしない」という、ジョセフィン。ベーカーの理想の共同体でした。この12人(のちに13人になる)の孤児の中に、1952年生まれのアキオと一つ年下のテルヤが含まれています。二人とも、横浜のエリザベス・サンダース・ホームを介して、ジョセフィン・ベーカーの養子となっていきました。

 この本は、現在もフランスやモナコで生きているアキオやテルヤたちへのインタビューを通して、「虹の部族」とはなんであったのか、そして孤児たちはその中でどのように生き、苦悩してきたのかを明らかにしようとした本です。

 精神を病んでしまった者、ホモというだけで追放された者、日本人であるのに韓国生まれとして育てられたアキオ。ジョセフィン・ベーカーは、差別に反対する「世界の聖母」をアピールするために子供たちを利用したのだと、筆者は指摘します。そして、アキオたちに、彼女がおしつける理想の共同体にアイデンティティーを感じて生きることができたのか、ほんとうはどこで生まれたのかを知りたくないのかという質問をし、答えを引き出していこうとするのです。

 この本を読んで痛ましく思うのは、ジョセフィンのもとを去り、54歳になったアキオが、ジョセフィンのことを「恋しい」と語り、崩壊してしまった「虹の家族」の長男としてたった一人で生きていこうとする姿なのです。自分は何者であり、何を支えに生きていくのか、アイデンティティーの問題は、青年期固有の課題ではなく、人の一生を貫く課題であるということを痛感させられる一冊でした。


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