1日1日感動したことを書きたい

本、音楽、映画、仕事、出会い。1日1日感動したことを書きたい。
人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「アカペラ」(山本文緒)

2008-10-27 20:09:00 | 
 山本文緒を「アカペラ」を読みました。うつ病に苦しんでこられた山本文緒さんの6年ぶり
の新作です。「アカペラ」「ソリチュード」「ネロリ」、三つの中篇集でした。

 資本主義社会の中では「労働力」としては決して評価されない男たちが、三つの作品に
共通して登場します。娘に面倒を見てもらっている、少し認知症が進んだ70代の老人
(アカペラ)。生業につかず同棲をくりかえし、同棲した女性の面倒になっている40手前の
男性(ソリチュード)。幼いころから病弱で、仕事につけず、姉と二人暮しの39歳の男性。

 そしてもう一人、三つの物語には、彼らを支えようとする10代の少女が登場するのです。
この少女たち、どの子も、健気で、芯があって、とても素敵なのです。

 「ネロリ」という小説は、心温(ココア)という名前の少女が、次のようにささやくことで
終わります。

 「未来のために、今はちょっとくらい会えないのを我慢しなくちゃならない。ちゃんと勉強して、
働いて、大人にならないといけない。
 人生がきらきらしないように、明日に期待しないように生きている彼らに、いつか、なくては
ならない期待の星になるために。心を温める名前のあたしが。」

 この本のすべてが、この言葉に詰まっていると思いました。「人生がきらきらしないように、
明日に期待しないように生きている」すべての人たちへの、病に苦しんできた山本文緒から
の、精一杯のエールなのだと思いました。。。中篇集「アカペラ」は。



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