1日1日感動したことを書きたい

本、音楽、映画、仕事、出会い。1日1日感動したことを書きたい。
人生の黄昏時だから、なおそう思います。

「海」(小川洋子)

2010-01-23 12:47:13 | 
 「海」(小川洋子)を読みました。表題作「海」他、7編の短編集です。この本には、とても味わいのある脇役たちがたくさん登場します。40年間バスを運転してきた運転手、同じく40年間ホテルのドアマンとして生きてきた人、タイプの活字管理人、公認観光ガイドなど、自分に与えられた場所を守り、決してそこからはみだすことなく生きてきた人たちがその一つです。次に、見も知らぬ二人の日本人に老人ホームで看取られるドイツの老人。それからもう一つは、「不完全なシャツをつくるシャツ屋のおばさん」、「お客さんたちが持ち込んでくる記憶に題名をつける『題名屋』」、「魚の鱗と胸鰭で作った鳴鱗琴(メイリンキン)という楽器を演奏する青年。」といった、小川洋子の想像力が生みだしたユニークな個性を持つ人々です。

 僕は、この本を読みながら、決して商売には向いていなかったけれど、50年以上果物の仲買人を続け、88歳で死んで行った父親のことを思い出していました。

鳴鱗琴を演奏する青年(表題作「海」)は、次のように語ります。

「彼らもまた僕と同じように食べたり、家族を作ったり、眠ったり、しんだりするのかと思うと、それだけで安心なんです。」

 そう僕も、自分たちのささやかな世界を守りながら生きているたくさんの人たちの存在を思うと、とても安心した気持ちになりました。

 「ガイド」の主人公の少年は、題名屋さんに「今日の僕の一日に題名をつけてほしいんです」と頼みます。「思い出を持たない人間はいない」というのが、題名屋さんが少年の一日に付けた題名です。題名屋さんは、競市でうまく買い物ができなくて、いつも苦虫をつぶしていた僕の父親の思い出にどんな題名をつけるのだろう・・・僕なら「不完全な果物屋」ってつけるかな。





最新の画像もっと見る

コメントを投稿