J OKAYAMA ~岡山スポーツの桃源郷へ

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クラブ経営について55

2014-02-10 00:32:21 | サッカー(Jリーグ(J1・J2)・国内)

 事例紹介コラムです。
 昨日のFOOT×BRAINですが、またしてもいい内容の特集でした。カルロス・ゴーンの右腕で言われ、見事にJ1横浜を復活させている嘉悦社長の「カルロス・ゴーン流 経営戦略」という特集です。ゴーン氏が日産で行った経営戦略をスポーツビジネスに応用している嘉悦社長は、何でもこの番組に現役社長が初めての登場とか。
   
 嘉悦社長から見たカルロス・ゴーン氏は経営者のお手本で、いろいろな事を学ばせてもらっているとか。外国人でありながら日本人に合った経営、組織運営、人材の育成や活用の仕方に取り組む珍しい経営者だと思うとか。J1横浜は、嘉悦社長が就任した2010年以降は着実に成長を続けている一方で、債務超過が10億円超あり、2014年で解消しなければクラブライセンスが発行されず、クラブが消滅するのではないかという噂もあります。ただ、この債務超過が浮き彫りになった背景にこそ、Jリーグが抱える背景の真実と嘉悦社長の挑戦があるとか。
 
 J1横浜の債務超過の真実を語る上で重要なのがJ1クラブの収入構造。多くのJ1クラブがスポンサー収入に依存しており、大企業を親企業に持っているクラブほど、その支援に頼っているのが現状。これは親企業がリーマンショックのような原因で、赤字に陥った途端にクラブの経営も立ち行かなるリスクがある。嘉悦社長が改革に着手する前は、クラブ収入はスポンサー収入が半分近くあったが、そのうち2/3が日産を占め、その中の半分が赤字補填という事実。正規のスポンサー料以外にそれだけでは足りず、赤字状態になっているという事。その赤字を埋めてもらっている事が過剰で、ビジネスとして成立していないと嘉悦社長は考えているとか。
 嘉悦社長がクラブ社長に就く時に、日産と合意した事はこの赤字補填を辞める事。できるだけ自力でこの赤字体質を解消しようとして、この赤字状態が表面化したため、4年前から急に元々あったJ1横浜の赤字体質が表面化するようになったとか。
   

【資料】 J1横浜の負債総額推移
'07年:1.2億/'08年:1.2億/'09年:1.6億/'10年:5億/'11年:10億/'12年:16億 (青字:補填あり/赤字:補填なし)

 社員全員で共有して、会社みんなでこの赤字を減らしていこうと朝鮮をしている真っ最中だとか。経営の健全化なくしてクラブの未来はなく、Jリーグの成り立ち自体が親会社に依存しているとも言える。Jリーグ自体も今、経営構造を変えていかなければならないと、現在いろいろな改革を着手し始めた背景は、J1横浜と同じ。
 嘉悦社長の改革策として、シーズン前キャンプにも選手全員に会社の考え方、現状を伝えて協力を要求し、会社と選手がそれぞれ行うべき事をキチッと伝えているとか。経営破たんになってから行っては遅い事なので、こういう事ができていれば横浜フリューゲルスも消滅せずに済んだかもしれないと。
   
【嘉悦社長が目指した「マリノス改革のテーマ」】
1)「パーチェス・ファネルの徹底」
 集客数でJ1全体が低迷する中、J1横浜は入場者数が25%増加し、昨年11月のホーム最終新潟戦では、入場者数を62,632人を数えてJリーグ最多観客数を更新。入場者数の増加により、スポンサー収入、グッズ売上の他に選手のモチベーションがアップし、パフォーマンスも向上。観客数を増やすために、みんなで同じ絵を描こう、同じコンセプトのもとに活動していこうというコンセプトの共有が重要。
「パーチェス・ファネル」とは、物を売っているほとんどの企業が持っている定番中の定番のマーケッティング理論。パーチェス=購入、ファネル=じょうご。
消費者の動向を以下の6つの段階として表現。
1:認知/2:親近/3:好意/4:購入意向/5:購入/6:再購入
           ↓
1:マリノスの名前を知っている/2:どんなクラブか知っている/3:マリノスが好き/4:試合を観たい/5:試合を観た/6:もう一度観たい

 認知していてもそのまま購入まですぐに結びつかず、親近や好意を持ってもらわなければならない。そのためには各プロセスの質を上げていく必要が出てくる。横浜市民がクラブの存在を知っていても、本当に地域に貢献しているのかと思うので、こんな事で横浜市に貢献しているという事をやっていかないと選択肢から落とされる危惧がある。その中からクラブが好きになる人が出てきて観戦につながる。一つ一つのプロセスを広げていかないと来場者は絶対に増えないという事で、パーチャル・ファネルを社員・選手全体で共有。
 選手の目線では試合でいいプレーをすればそれでいいという価値観では足りず、地域にどういう貢献ができるかという価値観が必要で、チームを地域に根付かせる事が必要。
 嘉悦社長がマリノスサポーターを増やすために実行したアクションは次の3つ。
①ホームタウン活動 ②プロモーション ③ホスピタリティ向上
市民から「いい活動をしている」と認識してもらう①は1~3のプロセス部分、試合観戦についての情報を提供する②は4~5のプロセス部分。おもてなしを評価してもらう③は6のプロセス部分に該当し、リピーターが増えるかどうかの重要な分岐点になる。
     
 ①のホームタウン活動として、人口410万人の横浜・横須賀市民が相手だが、嘉悦社長はある地域に特化した大胆な活動を実施。ホームスタジアムがある横浜市港北区に集中して考え、公立小学校全25校にトップチーム選手を派遣し、3万人の小学生全員に試合日程が刷られた下敷きとクリアファイルを配布。その結果、スタジアム来場者における港北区民の場合、4.1%から10%に増加したとか。
 ②のプロモーションは、クラブが大都市にある横浜の地域性。プロ野球や水族館など様々な娯楽・イベント(よこはま動物園・横浜スタジアム・横浜中華街・八景島シーパラダイス等)があるが、それらをライバルとして捉えるのではなく、お互いの協力関係を構築していく事。
 具体的な異業種とコラボレーションしてお互いのファンの相互乗り入れを実現。プロ野球横浜とコラボポスターの作製、アイスショーと半券持参で割引サービス、有名ミュージカル「キャッツ」とコラボし、キャッツの俳優が劇場メイクのまま試合のフラッグベアラーとして登場。違うファン層が来場し、「サッカーって意外に面白いね」と認識してもらう効果がある。
 ③のホスピタリティは、「おもてなしの精神を学ぼう」とスタッフの質を上げるために東京ディズニーリゾートで社員研修を実施。このスタイルはJ1・C大阪の藤井元社長も導入。1,000~2,000人のスタッフが同じコンセプトで動いて欲しい。

2)クロス・ファンクショナル・チーム
 これらのアクションは、カルロス・ゴーンのチーム編成術でも導入された、ある組織改革策で、1つの課題について異なる部署の人間が集まり検討する手法。このアクションがクラブ改革を相当推進しており、先のコラボポスター企画も、マーケティング部署ではなく、スポンサー営業部署の発案企画で、営業員が訪問営業していて、コラボの提案を受けた結果で、パーチェス・ファネルとともに経営改革に多大な貢献をもたらしたようです。

 最後に、クラブライセンスの発行のために、今シーズンの10億の債務の解消方法について尋ねられた嘉悦社長の返答は、「4年前にこれらの取り組みを行ったのに、クラブライセンスの導入がその後に決まり、唯一最大の誤算になった。日産がクラブの改革の成果を高く評価している。(嘉悦社長と)日産のトップマネジメントとのディスカッションの中で、皆さんのご想像のような結果になるのではないか」と。
 嘉悦社長が考える「クラブ経営に欠かせない事」は、成績と収益のバランスであり、どうバランスさせるかをある程度検証しないとクラブ経営は難しく、そのバランスを見つけ出す努力が必要であると。また、勝敗のこだわりも必要。嘉悦社長は負け試合の後は暴れまくるとか。感情がコントロールできないくらいに悔しいそうです。 

 やはり、FOOT×BRAINはいい番組だと思います。時々見損ないますが、これからもなるべく観たいと思います。あくまで一般的な話ですが、当ブログではよく「親企業のない企業チーム」という表現を出します。地域貢献を軽視して後回しし、商業主義に走っていて地域から後指を指されるケースです。一応仮の設定ですが、上の嘉悦社長の進める活動と対比してみましょう。
 パーチェス・ファネルで言うと、この企業チームは地域・社会貢献活動ができていないから、「親近」「好意」の部分が不足している事になります。「選手の目線では試合でいいプレーをすればそれでいいという価値観では足りず、地域にどういう貢献ができるかという価値観が必要で、チームを地域に根付かせる事が必要」という事ですが、まさに「選手はサッカーだけやってればいい」という価値観なので、地域に全く根付いていない事になります。
 ホームタウン活動も、近くの小学校にコーチ派遣や時々チラシ配布はやっても、トップチーム選手を派遣できていないから、長い目で観ると地域に根付いていないので、何かあった時に簡単に倒れてしまいます。また、このコラボというのいわゆる「異競技交流」にも該当します。「男子サッカーは男子サッカー」「俺達だけでやってればいい」という価値観では、相互乗り入れがありえないので、これまた何かあった時に簡単に倒れる事になります。当ブログで今まで言ってきた事があながち間違っていない印象を持ちました。そういう価値観はちゃんとできているところは、やはり同じような話になって出てくるんだなと。
 ただ、最後に横浜さんは「誤算」だったクラブライセンスのために、再び親企業の支援を受ける事になるかもしれないというのは何とも皮肉な話です。嘉悦社長さんは優秀な経営者だと思います。当ブログで尊敬するJクラブ社長には、湘南さんの眞壁社長、海野会長などがおられ、鳥取さんや札幌さんの選手出身の社長も評価していますが、この嘉悦社長さんにも興味が出てきました。また、機会があったら別の面からも紹介したいと思います。
J1横浜関連(マリノスタウン)②:http://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20110911
      〃               ①:http://blog.goo.ne.jp/kataru-kai/d/20110910

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