週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
小松政夫
『ひょうげもん―コメディアン奮戦!』
さくら舎 1620円
77歳になる著者が、植木等の付き人兼運転手として芸能界入りしたのは55年前だ。やがて人気者となり、「電線音頭」や「しらけ鳥音頭」が大ヒットした。自伝的回想録である本書は、テレビ草創期から現在までを内側から見た、異色の昭和・平成芸能史でもある。
太田和彦
『おいしい旅―昼の牡蠣そば、夜の渡り蟹』
集英社文庫 864円
一人で旅に出る。歴史を感じさせる街の居心地いい店で、地元の酒と肴を味わう。倉敷では、ままかりとシャコで酒は萬年雪。鎌倉にある、古本屋が始めた立ち飲み屋でレモンサワー。著者にとっては東京もまた旅先気分で歩く街だ。居酒屋の達人は旅の名人でもある。
(週刊新潮 2019年4月18日号)
北村匡平
『美と破壊の女優 京マチ子』
筑摩書房 1728円
黒澤明『羅生門』、溝口健二『雨月物語』などの名作に出演し、「国際派女優」と呼ばれた京マチ子。その一方で、こうした芸術映画とは異なる作品群で得た「肉体派女優」の称号も持つ。誰もが遠巻きに見ていた美神に新たなスポットを当てた映画女優論だ。
いとうせいこう
『今夜、笑いの数を数えましょう』
講談社 1620円
笑いがテーマの連続トークセッションが活字になった。著者と拮抗できる人選が見事だ。放送作家の倉本美津留が明かす、ダウンタウンのツッコミ術。バカリズムの笑いにおけるリアルと非リアル。劇作家の宮沢章夫が考える芸能と素人など、六番勝負の夜は更ける。
桃井恒和
『使うあてのない名刺』
中央公論新社 1728円
著者は元読売新聞社会部長にして元巨人軍社長。現役時代の体験とリタイア後の実感を静かな筆致で綴るエッセイ集だ。話題はロッキード事件、国鉄の分割民営化から長嶋茂雄と松井秀喜の国民栄誉賞まで。個人の回想に留まらない、貴重な同時代史となっている。
(週刊新潮 2019年4月11日号)