「週刊新潮」に寄稿した書評です。
森永卓郎、神山典士
『さらば!グローバル資本主義
~「東京一極集中経済」からの決別』
東洋経済新報社 1650円
森永卓郎が亡くなったのは今年1月28日。書店に複数の遺著が並ぶのも珍しい。本書もまた森永の生きた証であり、ラストメッセージだ。説くのは、個人としてグローバル資本主義から脱却する生き方の模索。都市と田舎の長所が両立する「トカイナカ」での暮らしや、ストレスを溜めない仕事の仕方を提案する。「つまらない」「勝てない」「かっこ悪い」という思い込みを捨てることから始めたい。
ジュアン・ミロ:著、
イヴォン・タイヤンディエ:編、阿部雅世:訳
『ミロのことば 私は園丁のように働く』
平凡社 2750円
原本は1963年に画集形式で作られた。長らく幻の本だったが、ついに邦訳版が登場した。ミロという画家の肉声がモノローグとして聞こえてくる一冊だ。自分にとって重要なのは「その出発点、その制作にとりかかることを決定づけた衝動を、私が常に感じられていること」。また「私の絵の中で、形は静止していると同時に動いています」と語り、「立体化や陰影がなければ、奥行きは無限に広がります」と明かしていく。
與那覇 潤
『江藤淳と加藤典洋~戦後史を歩きなおす』
文藝春秋 2090円
小説と批評を通じて戦後史を検証する試みだ。まず、椎名麟三『永遠なる序章』、柴田翔『されどわれらが日々――』、庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』などが描いた世界観と時代の関係性を探っていく。補助線となるのが江藤淳と加藤典洋だ。さらに両者の歩みを踏まえて戦後を捉えなおす。「かつての日本人が生きたのと同じ物語=歴史を、われわれは生きうるか」という問いは今も刺激的だ。
沢野ひとし
『そうだ、山に行こう』
百年舎 2200円
著者の初めて本格的な登山は小学生時代。奥多摩の川苔山だ。誘った高校生の兄が、登山は「自由」なところがいいと教えてくれた。最初の縦走は八ヶ岳で高校1年生だった。三ツ峠山でロッククライミングの講習を受けたのが20歳。就職後の剱岳や念願だったアイガー東山稜への挑戦も大切な思い出だ。70歳を越えた頃から、山の頂に立つよりも峠や里山に興味が移ってきたという。山は今も自由だ。
(週刊新潮 2025.06.19号)