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碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2025】 『浅利慶太~劇団四季を率いた男の栄光と修羅』

2025年07月26日 | 書評した本たち

 

 

「商業演劇の雄」劇団四季

演出家の光と影

 

菅 孝行

『浅利慶太~劇団四季を率いた男の栄光と修羅』

集英社新書 1232円

 

2024年、劇団四季は2995回の公演を行った。売上高は298億3100万円。文字通り国内最大規模の劇団である。創設は1953年。20歳の浅利慶太と仲間たちによる「前衛的演劇運動体」だった。

浅利は7年前の夏に85歳で没したが、生前から毀誉褒貶が激しかった。菅孝行『浅利慶太 劇団四季を率いた男の栄光と修羅』は、客観的な視野から評価した「演出家浅利慶太論」が見当たらないことを踏まえての人物評伝である。

いわば浅利に対する「第三者評価」の試みだ。要点は三つある。まず演出家としての業績。次に新国立劇場の建設をリードしたこと。さらに浅利の軌跡を「戦後精神史」にどう位置付けるかだ。

初期の浅利にはいくつかの注目点がある。高校時代からの左翼活動と離脱。四季の旗揚げ。既成劇壇と自然主義的リアリズム演劇への批判などだ。そこから四季が「商業演劇の雄」に変貌を遂げる一種のダイナミズムが本書の読み所だ。

60年の安保改定反対から「日生劇場」開場への急転。『ウェストサイド・ストーリー』でのブロードウェイ・ミュージカル開眼。『キャッツ』のロングラン公演。やがて自前の専用劇場さえも手中にしていく。

そんな浅利が抱えた「悲劇」とは何か。四季の成功をもたらしたビジネスモデル、興行の論理が自身を縛るようになったことだと著者はいう。まさに「修羅」であり、浅利慶太という唯一無二の演劇人の特異性を象徴しているかのようだ。

(週刊新潮 2025.07.24号) 

 


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