中川右介
『昭和20年8月15日~文化人たちは玉音放送をどう聞いたか』
NHK出版新書 1265円
戦後80年の夏だ。戦争が終った日を、文化人たちはどこで、どのように迎え、何を思ったのか。作家、漫画家、映画人、音楽家などの「あの日」が復活する。「切腹しなくてはいけない」と思ったのは岐阜の中学生だった篠田正浩だ。疎開先の岡山にいた永井荷風は祝宴を張る。女優の杉村春子は東京・経堂の間借り先で「もう何日か早く終わっていれば」と悔しがった。総勢135人の戦争体験だ。
大江健三郎
『光と音楽』
講談社 2420円
2年前に88歳で亡くなった大江健三郎。本書は長男で作曲家の大江光をめぐるエッセイ集だ。単行本未収録の9篇が含まれている。芸術を作ることは、渾沌としていたものに秩序を与えること。光の音楽もまた、ぼんやりしている、不定形なものに「かたち」を与えるものだ。その営為は作家である父親にも深く大きな影響を及ぼした。2人の関係性を思いながら大江作品を再読したくなってくる。
大山顕
『マンションポエム東京論』
本の雑誌社 2970円
写真家・評論家の著者は、かつて『団地の見究』で団地マニアぶりを発揮した。今回注目するのはマンションの現物ではない。販売促進用の「広告」だ。そこに並ぶのは「ときめきをシェアする摩天楼」「代官山のロミオ&ジュリエット」といった苦笑いの文言。著者はこれを「マンションポエム」と名づけ、分析していく。見えてくるのは「街のイメージ」の深層だ。幻想と欲望の画期的都市論である。
三浦英之
『1945 最後の秘密』
集英社クリエイティブ 2200円
年々、戦争を体験した人たちが少なくなっていく。本書はその貴重な記憶を伝えていこうとする一冊だ。真珠湾で急降下爆撃を行った搭乗員。ミッドウエイ海戦に参加した元海軍整備兵。アフリカ沖のマダガスカルを攻撃した潜水艦通信兵。中でも満州国の元総務庁官吏の証言が興味深い。大量の阿片を日本に密輸する「極秘計画」があったのだ。知られざる事実が当事者たちの言葉として蘇る。
(週刊新潮 2025.07.24号)