碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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「ブラッシュアップライフ」時間軸自在に バカリズムも進化

2023年02月19日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<週刊テレビ評>

「ブラッシュアップライフ」 

時間軸自在に バカリズムも進化

 

人生は一度きりだ。「あの時、こうすればよかった」と思っても過去は変えられない。だが、もし生き直すことが可能だったらどうだろう。未来が分かっていれば、運命の分岐点での選択も違ってくるはず。安藤サクラ主演「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ系)は、そんな“やり直し人生”のドラマである。

まず設定が秀逸だ。ヒロインの近藤麻美(安藤)は突然の交通事故で死亡。気がつくと奇妙な空間にいて、案内人の男(バカリズム)から「来世ではオオアリクイ」だと告げられる。抵抗した麻美は「今世をやり直す」ことを選ぶ。ただし以前の人生よりも何かしら「徳を積む」必要があった。

誕生から社会人へと至る「2周目の人生」を歩み始める麻美。保育園で女性保育士と園児の父親との不倫を阻止したり、売れないミュージシャンという未来が待ち受ける同級生(染谷将太)を救おうとしたりする。

人生に修正を施すため、周囲に悟られることなく善行に励む様子が何ともおかしい。また幼なじみ(夏帆と木南晴夏)とのレディーストークも、ユーモラスでリアルな言葉の連射と軽快なテンポが心地いい。そんな麻美のやり直し人生は既に4周目。職業も変化する飽きさせない展開は、バカリズムによるオリジナル脚本だ。

バカリズムが初めて脚本を手掛けた連続ドラマは、2014年秋の「素敵な選TAXI」(関西テレビ制作・フジテレビ系)だった。タイトルの「せんタクシー」は「選択肢」を意味している。

トラブルを抱えた人物が偶然乗ったタクシー。それは過去に戻れるタイムマシンだった。運転手役は竹野内豊。乗客の話をじっくりと聞き、彼らを「人生の分岐点」まで連れて行ってくれる。

たとえば駆け落ちする勇気がなかった過去を悔いる民宿の主人(仲村トオル)、不倫相手である社長と嫌な別れ方をした秘書(木村文乃)などが乗車する。彼らは問題の分岐点まで戻って新たな選択をするのだが、何事もうまく運ぶわけではない。バカリズムの脚本はひねりが利いており、よくできた連作短編集のようなドラマだった。

第1作と最新作に共通するのは、「時間」を最大限に活用した脚本だ。時間軸の操作は見る側を捉えて離さない謎を生み出す。自分の意図に合わせて時間を操ることは脚本家の特権の一つだ。だが、そのSF的世界観にリアリティーを与えるのは容易ではない。

ヒロインの人生だけでなく、バカリズムの脚本術もまたブラッシュアップされているのだ。

(毎日新聞「週刊テレビ評」 2023.02.18 夕刊)