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「選挙報道」考
池上彰さん「政治家個人に焦点」
■伝え方次第で面白くなる
参院選が公示され、今回はネット選挙の解禁もあいまって各メディアは選挙報道が大きな比重を占めている。近年の選挙は若者を中心に関心の低さも指摘されるが、そうした状況でも毎回「面白い」と評価されているのがジャーナリストの池上彰さん(62)が出演する選挙特別番組だ。その池上さんと「面白い選挙報道」について考えてみた。(本間英士)
6月23日に投開票された東京都議選。投票率は43・50%で過去2番目の低さだったが、池上さんが出演したTOKYO MXの開票特番は、視聴者がネットで池上さんと政党幹部とのやりとりを“実況中継”するなど盛り上がった。「池上さんの鋭い突っ込みに期待」「NHKよりわかりやすい」「選挙とかよく分からないけどこの番組楽しい」。こんなツイートも寄せられ、画面上に表示された。
池上さん自身は「私が鋭い質問をしているということは全然ない。素朴に知りたい、聞きたいことを聞いた。あるいは視聴者の代表として聞きたいことを聞いた、ということです」とさらりと言う。最近の選挙特番については「政治のプロが見れば面白いのだろうが、一般の人がついていけていない気がする」と指摘する一方で、「伝え方次第で面白く見てもらえる」と断言する。
一例として挙げたのが、昨年12月にテレビ東京が放送し、前半視聴率8・6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と健闘した衆院選特番だ。出演した池上さんが公明党と創価学会との関係に触れたりしたことも話題をまいたが、「政治家個人に興味を持ってもらうこと」を主眼にした番組作りが行われていた。
そのための工夫として、例えば自民党の石破茂幹事長のプロフィル紹介に「カレー作りに異様な情熱」という一文を入れたりした。世襲議員には「世襲」、官僚出身議員には「官僚」と付記。テレ東の川口尚宏プロデューサー(45)は「家族で選挙特番を見て面白いなと感じてもらったり、会話のネタにしていただければ」と狙いを語る。この手法は、MXでの都議選特番では、各選挙区にキャッチフレーズを付けるという形で応用された。
ただ、開票特番を盛り上げても、既に投票が終わった選挙の投票率が高まるわけではない。「投票率が低いということは、政治家がきちんとした争点や、『この選挙で私たちの暮らしはこう変わる』という期待を作れていないということ。マスコミもそういうことを十分伝え切れていない」。そう指摘する池上さんが期待するのが、今回解禁されたネット選挙だ。
「ネットはとりわけ若い人が使っている。これまで『政治家は何を言っているかよく分からない』と言っていた若者も、政党や政治家個人の声をある程度見るようになる。その機会をどれだけ有効に使えるかで選挙は変わってくる」と池上さん。
「報道する側も政治そのものの魅力を面白く、分かりやすく伝える努力をすることが大事。まだまだ工夫の余地がある。選挙は本当は面白いものだということを、若い人に知ってもらいたい」と力を込めた。
■NHKや民放各局は特番
参院選投開票日の21日夜、NHKや民放各局は恒例の選挙特番を放送する。
NHKは総合で午後7時55分から翌22日午前4時半まで「参院選2013開票速報」を放送。TBSはヤフージャパンと提携し、選挙期間中にヤフーで多く検索されたキーワードと、実際の候補者の当落との相関関係を速報する。総合司会は関口宏さんが務める。
フジテレビはフェイスブックなどと連動して視聴者や政治家の生の声を紹介。安藤優子、三宅正治両キャスターに加え加藤綾子アナウンサーを初起用する。日本テレビは「ZERO×選挙2013」を、テレビ朝日は「選挙ステーション2013」をそれぞれ放送。テレビ東京は衆院選に続き池上彰さんを司会に据える。
ただ、民放幹部は「自公優勢の流れが見えているうえ、争点も今のところはっきりしない」と話し、テレビ局側には選挙の盛り上がりを懸念する声も出ている。
碓井広義・上智大教授(メディア論)
■カギ握るネット
若者を中心に、普通の人は日常的には政治への関心は高くない。だから選挙はある種のお祭りとしての役割があり、政治に関心を持ってもらえるようアピールできるチャンスだ。特に投票率が低い若者に関心を持ってもらいたいし、選挙報道にはそれができる可能性がある。
だが、これまでの選挙報道は基本的に「横並び」「金太郎あめ」といった印象がぬぐえない。
一方で、選挙特番での池上彰さんは、ある種のカラーやポジションからものを言う人ではなく、客観的に情報を把握し、それを分かりやすく伝えてくれる。相手が大物政治家でも臆することなく、国民が本当に知りたいと思うことを引き出してくれる。池上さんの登場で、いい意味で選挙報道が面白くなった。視聴者が求めていたタイプの人だと思う。
今後、選挙報道をより面白くするためには、「ネット選挙」がカギになってくる。政治家がニコニコ動画やフェイスブックなどで情報発信しているのに対し、テレビはある意味、ネットを一番有効に使えていない。タレントを出演させるなど小手先の面白さを競うのではなく、ネットでも番組を同時配信し、コメントに番組内で答えるなど、リアルタイムで視聴者の生の声に反応するような、思い切った番組作りが必要ではないか。(談)
(産経新聞 2013.07.09)