毎日新聞の特集記事「なぜ続く テレビ局の不祥事」。
この中で、問題点や方策などについて解説しています。
なぜ続く テレビ局の不祥事
番組の意義、現場が自覚を
テレビ局の不祥事が後を絶たない。昨年8月、東海テレビが情報番組「ぴーかんテレビ」で岩手県産米を中傷するテロップを誤って流した問題から1年余り。放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は全放送局に向けて提言を出したが、視聴者の信頼を裏切るような不適切な取材手法や誤報はその後も相次いでいる。原因や課題を探った。【小松やしほ、土屋渓】
◇ガイドライン不徹底 制作会社任せ、取材の基本おろそか
今年4月放送された日本テレビの報道番組「news every.」。原発事故後の飲み水の安全性についての特集で深刻な問題が発覚した。宅配水の利用者として登場した女性が一般の利用客ではなく、宅配水メーカーの経営者の親族かつ役員の妻であり、大株主だったことが判明したのだ。企業側から紹介された取材相手が、その企業の関係者ではないという基本的な確認を怠ったとして、BPOから放送倫理違反を指摘された。
問題がより深刻なのは、この番組は昨年5月、ペットビジネスの特集で、取材先企業の女性社員2人を客のように登場させ、放送倫理違反を言い渡されていた。その後、日テレは「企業に安易にユーザーの紹介を依頼してはならない」との取材ガイドラインを設け、さらにジャーナリストとしての意識を高める研修や、失敗事例を各部署で共有する取り組みをしていたところだった。
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放送倫理検証委は、07年に起きた関西テレビ「発掘!あるある大辞典2」の捏造(ねつぞう)問題をきっかけに設立された。この5年で14件の事案について委員会決定を出した。しかし、ぴーかんテレビの問題後、個別に意見を公表するだけでは制作現場の劣化は押しとどめられないとして、昨年9月には「放送の使命について全社的に話し合う」ことなどを提言した。
日テレの事案について放送倫理検証委の川端和治委員長は「同じ放送局の、同じ番組で、同じような、放送倫理違反を繰り返したことは非常に残念」と話す。最も深刻視しているのは、関わっていたのが、報道のベテランとして評価の高いプロデューサーとディレクターだったことだ。ディレクターは取材ガイドラインの存在が「頭から飛んで」おり、上司のプロデューサーも取材相手と企業の利害関係について、ただすことはなかった。川端委員長も「再発防止のガイドラインが現場に血肉化されていなかった」と指摘する。
日テレは「報道局全体に育成と危機管理が行き届いていなかった」と文書で回答。今月には制作会社など社外向けの勉強会も開く予定だ。
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なぜ不祥事は繰り返されるのか。
「一部の人間は、番組作りの基本や取材の基本がなっていないまま制作に携わっている」と話すのは上智大学の碓井広義教授(メディア論)。制作会社のプロデューサーとして番組作りに関わってきた経験を持つ碓井教授は、背景に制作現場の構造的問題があるとみる。「数少ないテレビ局の社員が頭脳で、制作会社の人間は手足」という構図だ。番組作りに制作会社が関わる割合は「今や7〜8割に上る」という。
関わり方も、番組全部を一つの制作会社が作るものから複数の制作会社が関与するもの、人材だけ派遣するものなどさまざまだ。ドラマやバラエティーだけではなく、報道の分野にもかなりの割合で参加している。碓井教授は「この仕事には何の意味があるのか考えさせてもらえないまま、命じられるままに仕事をしていることが大きな問題。さらに、ここ何年かの制作費の削減が人的、時間的な制約を与えている」と指摘する。
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有効な方策はあるのか。
碓井教授は「いつ、どこで、誰が、何を、という基本を押さえることが重要。やらせと演出の一線は、視聴者が知るべきことをきちんと伝えているかにある。テレビの影響力は大きく、一人一人が情報を発信することに、畏れを感じなければならない」。そのうえで「制作会社を含め、チームとして意識とスキルのレベルアップを考えていくべきだ」と訴える。
川端委員長は「過ちが起こる度に、なぜその過ちが起こったのか、局の上層部が下に押しつけるというやり方ではなく、現場のスタッフがきちんと議論し合い、何のために自分は番組を作っているのかを考え直しながら、改善策を考えることを繰り返すしかない」と話している。
■この1年に放送され問題となった主な番組
<2011年>
10月17日「あさイチ」(NHK、情報)
サンプル調査した家庭の食事に含まれる放射性物質の計測を誤り、実際より高い数値を放送
11月30日「ベストアーティスト2011」(日テレ、音楽)
事前に収録した一部の出演者の映像を、スタジオからの生中継であるかのように演出
<2012年>
1月20日「スーパーJチャンネル」(テレ朝、報道)
ニュースで街頭インタビューに答えた就職活動中の女性の映像を、別のコーナーで「通勤する人」と誤ったテロップで2度放送
2月16日「おはようえひめ」(NHK松山、報道)
学生アルバイトが作成した「窃盗の疑い 愛媛大学 教授逮捕」との練習用テロップを、誤ってローカルニュースで2秒間放送
4月 7日「ANNスーパーJチャンネル」(テレ朝、報道)
花見のニュースで誤って東日本大震災の津波を写した静止画像を14秒間放送
4月25日「news every.」(日テレ、報道)
宅配用飲料水の利用客として番組に登場した女性が、飲料水メーカーの経営者の親族だったことが判明
5月 4日「芸能★BANG+」特別版(日テレ、バラエティー)
女性お笑いタレントと同居していた自称女性占師が出演するかのように新聞テレビ欄や番組内のテロップで告知。番組打ち切り。BPOで審議中
(毎日新聞 2012.09.07)
