北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、8月をふり返って、終戦記念日とテレビについて書きました。
終戦記念日 忘れられた民放の特番
8月15日の終戦記念日を中心に、NHKは複数の戦争関連番組を放送した。その中の1本が14日のNHKスペシャル「戦場の軍法会議~処刑された日本兵~」だ。臨時の裁判所とも言うべき場で下された理不尽な判決によって、多くの兵士が処刑された事実を明らかにしていた。
軸となっているのは、フィリピン・マニラの軍法会議に参加していた元海軍法務中佐が残した日記、内部文書、そして証言テープだ。戦争末期、兵士の逃亡や犯罪が相次ぐ中で、日常化していく違法な処罰。厳正であるべき法さえねじ曲げられ、戦争の罪に加担していく過程に息をのんだ。
15日の終戦記念日に放送されたのは、NHKスペシャル「終戦 なぜ早く決められなかったのか」である。1945年2月に行われたヤルタ会談でソ連は対日参戦を密約した。欧州の日本大使館にいた駐在武官たちはその情報を本国に送ったが、生かされることなく、日本は敗戦へと突き進んで行った。
番組では、国としての方針を検討する「最高戦争指導会議」の動きを再現しながら、重要な情報が組織間で、また指導者たちの間で「共有」されなかった悲劇を見せていく。それは統治構造の問題であり、有事に指導者たちが決定責任を避けたことによる結果でもある。
歴史に「もしも」はないと言うが、仮に終戦の決断が半月ほど早ければ、広島と長崎の原爆も、甚大な被害をもたらしたソ連の参戦も、いや北方領土問題さえ発生しなかった可能性があるのだ。
出演者の岡本行夫氏も述べていたが、この番組を見ていて、情報共有システムの欠如や中枢と現場の乖離などから福島の原発事故を連想した。制作者の狙いの一つは、歴史からきちんと学ぼうとしない私たちに対する警告だったのかもしれない。
同じ15日の夜、民放は、映画「私は貝になりたい」(主演・中居正広)を放送したTBS=HBC以外、ほとんどが通常番組だった。かつては民放もこの日に終戦特番を編成していたが、視聴率優先を隠さない昨今、戦争も敗戦も忘れたかのようだ。ジャーナリズムとしての役割を放棄している。
年に1度くらい「笑ってコラえて!」(日本テレビ=STV)や、「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ=UHB)や、「ナニコレ珍百景」(テレビ朝日=HTB)などが見られなくても視聴者は文句を言わない。「何を放送するか」はもちろんだが、「何を放送しないか」もまたテレビ局の姿勢や見識の表明である。
(北海道新聞 2012.09.03)