『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・ある映画監督の俳句/新春俳話:補巻

2021年02月01日 00時06分41秒 | ■俳句・短歌・詩

  五所平之助の俳句

 上・中・下巻の「新春俳話」、いかがでしたか? わずか5日間にあれだけのボリュームをアップするなど、おそらくこれまでにはなかったと思います。それもこれも、俳句関係のものに目を通すことが多くなったからかも知れません。

 そこで今回は「新春俳話:補巻」編として、まず次の句に触れてみたいと思います。

 

  初春や灯して決まる家族の座    五所 平之助

 筆者は高校生の初めの頃、一時期「黒澤明」監督に憧れ、「映画監督」に成りたいと思ったことがあります。

 ところが五所監督については、その当時はほとんど知りませんでした。もっとも現時点においても、同監督に対する知識や情報は、高校生の頃とさほど変わらないでしょう。

 全くテレビを観ない筆者は、「コロナ禍」以降、ネット配信の「映画」作品(無料動画)を観ることがあり、つい2か月ほど前に偶然、「マダムと女房」(1931年公開)という作品を観ました。

 何と「田中絹代」さんが二十歳くらいの主演映画であり、その監督が五所平之助氏でした。そのあと同監督による「大阪の宿」(1954年公開)も観たわけですが、この「句」を観た瞬間、いかにも映画監督らしい句想だなと思いました。

 というのも、「灯して決まる家族の座」の「家族」の二文字が、筆者には一瞬、「主役」の文字に見えたからです。どことなく〝家族物〟映画のメーキングのひとこまが、イメージとして湧いていたからでしょうか。

              

 さてこの句、みなさんはどのように解釈し、また鑑賞されるのでしょうか。人それぞれ家族それぞれの、解釈や鑑賞があると思います。

 もちろんこの句は、「初春」(新年を迎えたお正月)の一家団欒のひとこまを捉えたものですが、「灯して」の雰囲気としては、やはり薄暗くなった夕刻でしょう。それに加え、筆者には「家族以外の特別ゲスト」の気配が感じられます。

 「大監督」の「自宅」ということで、映画関係者が年始の挨拶に訪れたシーンでしょうか。そこで五所監督や家族に強く促された「訪問客」が、家族の食卓に同席することになった……という光景かも知れません。もちろん、これは筆者個人の勝手なイマジネーションですが。

 この「訪問客」は、ひよっとしたら「映画俳優」ということも考えられませんか?

 ……え?! 田中絹代さん?! ……ンなわけ……無い……ことも……無いのかも……。

 「家族の座」に、比較的多くの家族の存在が感じられませんか? それも、何人もの女の子や男の子の賑やかな様子が伝わって来るのですが……。

               ★ ★ ★ 

 

 筆者は、未だ五所監督の「句集」なるものに目を通した事はありません。掲出の句は、当初にご紹介した講談社刊の「カラー図説・日本大歳時記:新年」からのものです。

 なお以下の句は、「新年の句」ではありません。ネットで拾った数少ない五所監督作品をピックアップしました。「太字(ゴシック)」は「季語」となっています。

 ①  花ぐもり机に凭れ空ろなる

 ②  花明りをんな淋しき肩を見す

 ③  目覚むれば夜まだありぬ螢籠

 ④  売られゆくうさぎ匂へる夜店かな

 ⑤  柳散る銀座に行けば逢へる顔

 ⑥  生きるとは一筋がよし寒椿

   鯛焼やいつか極道身を離る

                 ★ 

 「①花ぐもり」も「②花明り」も、ともに「桜の咲く頃」の季節であり、「花ぐもり」は、この時節の「曇り空」を言います。「花明り」は日中の(満開の)桜本来の「明るさ」だけでなく、夕暮れ時の場合や夜間の灯りの下ということもあるでしょう。

 いずれにしても、そのときどきの天気や時間や場所による「桜の花びらの耀き」であり「明るさ」であり、「見え方・感じ方」の違いというものでしょう。そのように微妙で繊細な違いを受け止め、また表現しよう……いえ、表現したい……と思う事こそ、正しく「」ならではであり、〝美意識〟と言えるのかも知れません。

 なお①の「凭れ」は、「もたれ」ですね。〝空ろな気持ちや表情〟で物思いに耽っているのでしょう。②は、いかにも一昔前の「映画の一シーン」という感じですね。

 ③の「(蛍)」は夏の季語です。今、螢が出て来たいくつかの「映画のシーン」を思い出したのですが、哀しいかな「タイトル」が出て来ません。

 ④と⑤の季語は、ともに秋。④は、筆者の子供時代の体験でもあります。「箱崎八幡宮」(福岡市東区)での「放生会(ほうじょうえ)」のときでした。

 動物である以上、当然いやな「(にお)」なのですが、売られて行くことも知らずにもくもくと口を動かせながら餌を食べている〝あの赤い瞳〟を目の当たりにすると、何とも言えない哀愁が漂い、ただただ切ない想いでした。

 「匂へる」に「うさぎ」への豊かな愛情が感じられます。単なる「(にお)」だけではない、「うさぎ」に対する作者の親しみ、慈しみに加え、労(いたわ)りの気持ちも込められた「匂い」ですね。

 ⑤は、ひと頃の映画の「東京銀座・ネオン街」の定番としても出て来たシーンといえるでしょう。もっともこの句の場合は、作者(五所監督)自身の自画像のようですね。

 ⑥は、何でもないようですが「寒椿」(冬)の趣きが滲み出ています。何処かのお宅の塀などから見える、よく手入れされた椿の木々の様子が見えるようです。春本来の椿にはない、地味で穏やかな「冬の椿」……しかし、しっかりと「黄色の蕊(しべ)」と「紅い花びら」の存在感を印象付けています。

              

 ⑦の「極道」には一瞬、驚きました。でもこの場合の「極道」には、どこか〝やんちゃ感〟が漂い、〝自堕落に遊蕩に耽っている〟といった、ややオーバーな作者の声が聞こえて来ませんか? 

 といってもそれは、もちろん作者自身の自嘲や戯れであり、諧謔です。殊勝に「いつか極道身を離る」と、持って回った言い方をしていますが、ご本人には〝この極道ぶり〟から〝足を洗う〟つもりなど、まったくないと思います。

 作者(五所監督)自身――、

 『……いやぁ。何とか一句にまとめようと思ってねぇ……。ちょっと作りすぎちゃったかなぁ……。』

 ……と、ディレクターズ・チエアかなんかに座り、悪戯(いたずら)っぽい眼差しを見せているのかも知れません。その眼差しを、映画の撮影スタッフ達が覗きこみながら、笑みを返しつつ……。

 するとそこへ、結構「俳句」にうるさい古参の照明さんが、照明の反射板である銀色の「レフ板」をことさらいじくりながら、ちょっと遠慮がちに――、

 『……極道……と来ましたか……。監督、あたしらの若い頃は、ちょっとした親不孝もんをひとまとめに〝極道〟と言ったんですがねぇ……。』

 とかなんとか言いながら、五所監督と顔を見合わせて二言三言……。

 そのようにイメージが膨らむのも、上五の「鯛焼」(冬)という季語の効果と言えるでしょう。

 ところで、五所監督がこの句を作ったときの背景となれば――、

 いい年をした〝ちょいわる親爺〟が、ほんのちょっと恥ずかしそうに「鯛焼」を買い求め、「あめぇ~やぁ!」と、傍らで食べている少年少女に笑顔を見せるように……。

 もちろん、映画関係者の誰かが「差し入れた鯛焼」に何気なく手がのび、気が付いたら食べ始めていた……というシチュエーションの方が自然なのでしょうが。

 ……あれぇ? そういうシーン、何かの映画にありませんでしたか? 確かに、ありましたよねぇ……。 

 では、今日はこのあたりで……。あっ、そうそう。最後にひと言――。

 今回、筆者はwikipediaで初めて知りましたが、五所監督は松尾芭蕉の「奥の細道」(おくのほそ道)の映画化が、晩年の夢であったとのこと。 

 ではみなさん。ごきげんよう。[了]

              ★  ★  ★

 

五所平之助 (ごしょ へいのすけ)/1902.1.24~1981.5.1。 映画監督、脚本家、俳人。俳誌「春燈」同人として活躍、俳号は「五所亭」。代表作の「マダムと女房」「煙突の見える場所」等の監督作品(20本)において、田中絹代を主演に起用。

 ◆映画の動画 「マダムと女房」(56:21)

 この映画は、「画質が粗い」動画となっています。また、タイトル他のクレジットが右から左へと流れています。 

 ◆映画の動画 「大阪の宿」(2:01:44) 

 ・出演:佐野周二、乙羽信子、水戸光子、左幸子他。こちらの画質はまずまずです。

 メモ: 「佐野氏」は、「関口宏」氏の実父。「乙羽」さんはNHKの「おしん」の晩年を演じた女優。少女時代は言わずと知れた「小林綾子」さん。青年・中年期が「田中裕子」さんでしたね。筆者でも記憶しています。いずれも本格的な名優でしたから。

 「水戸光子」さんは、「雨月物語」が印象的でした。「左幸子」さんは「日本昆虫記」でしょうか。正直に告白しますが、佐野氏やこの3女優は大好きな俳優さんです。

  ※「動画」が削除されていたら申し訳ありません。

   

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ・新春俳話―下巻(正月の生活... | トップ | 4年前の阿部詩・素根輝両選手... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

■俳句・短歌・詩」カテゴリの最新記事