『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

◆ジェノサイドという史実の澱/『シンドラーのリスト』:No.5

2015年02月08日 00時05分59秒 | ◆映画を読み解く

 

   「アーモン・ゲート少尉

   第一に、「プワシュフ強制収容所」において「囚人(ユダヤ人)」に対する “狂気じみた射殺” を繰り返し、

   第二に、“クラクフ・ゲットー解体”における実行責任者として、「ホロコースト(大量殺戮=虐殺)」を指揮した人物です。

   ゲートの “登場” は、 “映像表現” としても重要です。彼が「ヘレン・ヒルシュ」を「メイド」に選び出すシーン、ことにヘレンとの やりとりは、名優同士の演技・演出としても 素晴らしい” の一語に尽きます。それがまた、この「映画」の “哲学性と芸術性” を高めました。

   ではさっそく、ゲートが登場したところから見て行きましょう。

       

 

  「アーモン・ゲート」と「ヘレン・ヒルシュ

18.アーモン・ゲート、ゲットー視察

   「アーモン・ゲート少尉」は「車」のシートに身体を横たえ、「クラクフ・ゲットー」内を視察しています(※註1)。

   さて、この「クラクフ・ゲットー」は「」と「」の “2つの地区” に分かれています。“どのように違う” のでしょうか? 「映画」の中でご確認ください。とても “大きな違い” です。ヒントは、“労働者としての能力” としておきましょう。このことは、後にこの「ゲットー」が “解体” される際に重要な意味を持ってきます。

   さて、ゲートはどうやら “風邪気味” のようです。この視察は “冬の寒い季節” に実施され、「画面」の中の “人の息は白く” なっています。こういう “設定” は、「彼のキャラクター」を語る上でも効果的であり、実に上手いですね。

      ☆

   「画面」は、ゲートが歩きながら建設中の「プワシュフ収容所」を見て回るシーンに変わり、ゲートの「住居」が、この収容所内の敷地にあることが判ります。そこで次に、ゲート自身が「ラッキーガール」と呼ぶメイドの “選考” が始まります。ゲートは、“きつい肉体労働” から解放され、“楽な室内での家事” ができるよと言いたいのでしょう。小走りに駈けつけた20人ほどの女性が、ゲートの前に整列します。

   ゲートは尋ねます。『メイドの経験があるか?』と。すると「一人」を除いた全員が、おそるおそる “手を挙げ” ます。そこでゲートは「メイド経験者」は “そのときの癖” が残っているからと忌避し、“手を挙げなかった” 女性の前に歩み寄ったのです

   寒さと先行の不安を感じる「その女性」はゲートに軽く促され、その「列」から一歩前に進み出ます。するとゲートは、『風邪がうつる』からと鼻水を拭いながら一歩後退しますが、そのくせ煙草を喫っていますね。この設定も効果的であり、実に上手い演出そして演技と言えるでしょう。

   ゲートは彼女の「名前」を尋ねます。しかし、声が小さいためによく聞き取れません。2回目尋ねたときゲートは咳をし、3回目にしてようやく「ヘレン・ヒルシュ」という名前を聞き取ったようです。

   ゲートがヘレンの「肩掛け」を少し払いのけると「悴んだ両手」が見え、明らかにヘレンのその手も全身も小さく震えています。ゲートは、ヘレンをちょっと見たあと、残り少なくなった煙草を一服し、彼女を「メイド」にする決心をしたようです。

 

  不条理の行きつく先

19.若い女の工事主任

  ……とそのとき、女性の甲高い声が建築中の現場から聞こえ、ゲートもその方に視線を向けました。「若い女性」の「工事主任(監督)」が、『基礎のコンクリート工事に欠陥があるためにバラック(建物)の南側が陥没し、やがて全体が潰れる』と言って、基礎工事をやり替えるよう進言しているのです。

   「ディアナ・ライター」と名乗る彼女は、「ミラノ大学工科」の出身者であることを告げたのですが、ゲートは、『カールマルクス級のインテリなのか?(Ah an educated Jew, like Karl Marx himself)』と、揶揄します。

   ちなみに、「資本論」の著者である「カール・マルクス」も「ユダヤ人」でした。しかも彼の父親は「弁護士」であり、またユダヤ教の「ラビ」(教師・説教者)でもあったのです。母親もユダヤ教徒であったところから、「反ユダヤ主義」の人々からすれば、マルクスは「ユダヤ人中のユダヤ人」ということになるのでしょう。

    さてゲートは、彼女から離れて問題の現場まで歩いて行くと「部下(曹長)」を呼び寄せ、彼女にも聞こえるくらいの声で「Shoot her射殺せよ)!」と命令します。彼女のみならず、部下もちょっと驚くわけですが、ゲートは『文句はつけさせない』と言い捨てるのです。

   この様子を、「メイド」に選ばれたばかりの「ヘレン・ヒルシュ」が、恐怖と不安の表情で見るともなく見、聞くともなく聞いていましたというより否応なく “見え、また聞こえた” のでしょう。

   ゲートはその場で彼女を射殺させた後、こう言います。

彼女が言ったように基礎からやり直せ

   そして、別の部下とその場を離れ、車の方へと歩いて行きます。二人が歩いて行く途中に、全身が “固まったままのヘレンが、動くことも歩くことも出来ないまま立ち尽くしています

 

   ゲートと部下の二人は、ヘレンをまったく見ることも、気にかけることもなく……というより “これっぽっちもその存在を意識することなく”、まるで “立木か何かを軽く交わす” かのように彼女を “真ん中に残したまま” 歩き去って行くのです。

   この瞬間、アーモン・ゲート少尉に部下が語りかけます。

あと1時間で日が暮れます

 

       ☆

 からまでの一連の映画の進行(※註2)に、筆者は “鳥肌が立ちました”。何と言う「演技」に「演出」、そして、何と言う「脚本」に「カメラワーク」でしょうか。何十回と繰り返して観ました。「あと1時間で日が暮れます」という最後の台詞が、これまた “痺れるほど” 生きています。

   何よりも、当時の “反ユダヤ主義” に囚われたままの「ナチス・ドイツの精神性」があますところなく描き出されているからです。”筆者が選ぶこの「映画」の “ベスト・シーン” であり、スピルバーグ監督以下「製作者サイド」の「深い哲学」が息づいています。

   一瞬の躊躇も苦悩もなく「女性工事主任」の射殺を命じる「アーモン・ゲート」。その「命令」を、「上官の命令」として “確実に遂行する部下”。しかも「彼女」は、何一つ理不尽なことを言ったわけでもなければ、損失を与えたわけでもないのです。

   そして、その “一部始終” を “逃れることのできない現実” として “体現せざるをえなかった” 「ヘレン・ヒルシュ」――。

   ここに、人類史上最大と言われた「ジ ェノサイドホロコースト)」の「加害者側」と「被害者側」の “歴史の一片” があるのです。と同時に、その “史実” から70年という大きな節目に当たる今日、我々は “人類共通の負の遺産” として、この “史実の澱(おり)” を本当に “黒暗淵(やみわだ)の時間” の中から取り除くことができるのでしょうか。

   それとも、その “澱” の上に、新たな “史実の澱を沈潜させるということはないのでしょうか。(続く)

       ★   ★   ★ 

   ※註1 本シリーズ「No.2」の「動画」(全:3時間15分13秒)スタートから「約50分」のところです。

  ※註2 スタートから「約55分」ほどのところです。  


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