『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

◆シンドラーの工場は天国?!/『シンドラーのリスト』:No.4

2015年02月03日 00時08分33秒 | ◆映画を読み解く

 

    「ユダヤ人の天国」と呼ばれた「工場」

   前回述べたように、「ゲットー」(ユダヤ人隔離居住区)での居住を許されたのは、「ドイツ系の企業」や「軍需関連工場」の「労働者であり、それ以外の「ユダヤ人」は一部の例外を除き「クラクフ」市から追い出されました。

   ここでの「軍需関連工場」とは……シンドラーがドイツ軍向けに「鍋類」その他を売り込むために立ち上げた「工場」もその一つでした。「映画」での「社名」は――、

   『EUTSCHE MAILWARENABRIK

   『ドイツほうろう容器工場』です。「スペル」の「頭文字」をとって『DEF』となっています。この「略号文字」は、「映画」の中でしばしば「書類上の文字」として出て来ます。 “生と死を分ける” 重要な「キーワード」です。

   人々は、この「DEF」すなわち「オスカー・シンドラーの工場」を、“死のない工場=天国” と噂するようになりました。

   「映画」の中でずっと後に、「エルザ・パールマン」という娘が、両親をこの「DEF」に入れてもらうため、つまり、“命を救ってもらうため” に、 “おめかし” をしてシンドラーに面会を求めるシーンがあります。 “美人大好き人間” の “シンドラー” 対策というわけでしょう。わざわざ他人から、「ドレス」まで借りていたようです。

   その彼女も、最初に「面会」を求めたときは “おめかし” をしていなかったため、「面会」すらしてもらえませんでした。

       ☆

   はじめは金儲け目的のシンドラー

13.シンドラー夫人登場

   この頃、シンドラーは「エミーリェ・シンドラー夫人」とは別居中のようでした。「映画」では、「愛人」(※註1)と一緒のところへ「夫人」が訪ねて来るシーンがあります。「愛人」は慌てて部屋を出て行くわけですが、その後、シンドラーと夫人は、「高級クラブ」へ出かけます。

   ここでの「夫婦の会話」は、初めの頃のシンドラーの 本音 を語るものとして重要なシーンです。シンドラーは、「DEF」(工場)で働いているユダヤ人の労働者について夫人に語ります。

「350人が一つの目的のために働いている」

「鍋釜のため?」 と聞き返す夫人。

「……金儲けさ。僕のためにね

 しばらくして――、

あいつは凄いことをやった(と人は言うだろう)。誰にも出来ないことを。……無一文でこの街(クラクフ市)へ……鞄1個……破産した工場を買い取り、見事に再建した。……そして大きなトランク2個に札束を詰めて去って行った……。世界中の財宝を集めて……」

「あなたは何も変わってないのね」

   そう言って、夫シンドラーの髪を優しく撫でる夫人。しかし、シンドラーは――、

「それは違う。今まではいつも欠けているものがあった。それで何に手を出しても失敗した。何かが欠けていた。欠けていると気付いても手に入らない。作れないものだ。だがそれが、“成功”と“失敗”を分けるんだ。」

Luck)?」と言う夫人の手にゆっくりとキスをするシンドラー。そして夫人の顔を見上げながら、おもむろにひとこと。

戦争さWar)」

   その後、二人は仲睦まじくダンスに興じるわけですが……。

   『あいつは凄いことをやった(と人は言うだろう)。誰にも出来ないことを』……とは、非常に ”アイロニカル” ですね。無論、ここでは “とてつもない富を得た” ことを意味しているわけですが。

       ☆

   言うまでもなく、このときのシンドラーは、戦争が長引けば長引くほど「DEF」すなわち「軍需関連工場」で “儲け続ける” ことができるはずでした。そして戦争が終わる頃には、“トランクいっぱいの札束を詰めて帰郷” へと。

   しかし、彼自身も、そして彼に雇われた「ユダヤ人」の「労働者」も、“トランクいっぱいのシンドラー個人の儲け” が、後に結果として「1,200人ものユダヤ人の生命」を買い取るための “源資” になるなど、この時点では誰も予見し得なかったのです

      

 

141941年12月、「ユダヤ人」の “殺害そのもの” を目的とした最初の「絶滅収容所」として「ヘウムノ収容所」(ポーランド国内)が設立される。

  この「絶滅収容所」は、全部で「6つ」設立されたようです。もっともポピュラーな「アウシュヴィッツ収容所」(ポーランド国内)(※註2)は、その最大のものでした。

15.1942年1月20日、「ヴァンゼー会議」において、「ユダヤ人」の“全面的追放”から“計画的な大量殺戮”への決定的移行が確認される。

      

16.1942年冬――。「クラクフ・ゲットー」内でのユダヤ人の談笑風景。

 誰かが『ゲットーには自由がある』と語っています。このシーンは、いわば “嵐の前の静けさ” を象徴的に示唆したものです。つまりは、“不自由や不満はあっても、それなりに生きていられる” という。……それは、「常軌を逸した殺戮者=アーモン・ゲート」が現れるまでは確かにそうでした……。

 

  稀代の悪人・アーモンゲート

17.アーモン・ゲートの登場

   「映画」では「親衛隊」の「アーモン・ゲート少尉」が登場し、建設中の「プワシュフ収容所」を視察します。彼はこの工事現場において、作業中の20名ほどの女性を並ばせ、その中の一人を、自分の住まいの「ハウスメイド」として選びます

   この直後、アーモン・ゲートは、工事現場の「女性監督」から、『基礎のコンクリート工事がおかしいので基礎工事のやり直し』をとの進言を受けますが、彼はその「女性監督」を部下に射殺させるのです。

   この一連の “やりとり” を、「ハウスメイド」に選ばれたばかりの「ヘレン・ヒルシュ」が見ていました。というより、否応なく “見ざるをえなかった” のです。

   筆者は、この “やりとりの前後” に、この「映画」最大の “哲学性と芸術性” を感じます。“映像表現” としても、また “役者の演技” としても優れたシーンです。

   “優れた” というより “凄い” の一語に尽きるでしょう。若い人風に言えば、“超~ヤバイ!” となるのかもしれません。

   本シリーズの「No.2」にアップした「映画」の「動画」を観ながら、その “哲学性と芸術性” を味わってください。

   次回、 “稀代の悪役” とも言うべき「アーモン・ゲート」が、「ヘレン・ヒルシュ」を「ハウスメイド」に選んだ後、「女性の現場監督」を射殺し、“部下と共にその場を立ち去る” わずか「3分ほどのシーン」を再現してみましょう。

   実に深い意味を持っており、筆者的には、この「映画」における最大の「シーン」、つまりは、“ベスト・シーン とも言えるものです。

       ★   ★   ★

 

 ※註1 ポーランド人の「クロノフスカ」(シンドラーの秘書)

 ※註2 この「アウシュヴィッツ収容所」は、「強制収容所」と「絶滅収容所」という2つの役割を持っていました。また、この「収容所」の実態は、「基幹収容所」としての「第1」に加え、後に「第2」と呼ばれた「ビルケナウ収容所」そして「第3」の「モノヴィッツ収容所」と拡大しています。

 今日、ここはユネスコの「世界文化遺産」(負の遺産)となっていますが、そこでの正式な呼称は『アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所』です。

 有名な「死の門」は、「第2強制収容所」の「ビルケナウ」にあります。

 


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