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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

水滸伝の世界

2022-08-29 19:33:05 | 読んだ本

高島俊男 二〇〇一年 ちくま文庫版
この本は丸谷才一さんがほめてたんで気になって探して、ことしの春ごろに古本まつりで文庫を見つけたんだが、最近になってやっと読んだ。
私は水滸伝を読んだことないんだけどね、残念なことに。今後もたぶん読まないんだろうなあ。
本書はそれでもたのしく読める、なんとなく原典の雰囲気わかる。それでもおそらく読もうとしないのは私の趣味の問題なんだろう。
おもしろそうだと思わされるのは、やっぱ登場する豪傑たちのエピソードを並べられるところで、
>(略)この四つの殺人――無邪気で陽気な魯達の殺人、冷酷緻密な武松の殺人、窮鼠かえって猫を噛むていのやむにやまれぬ林冲の殺人、そして兇暴至極の李逵の殺人、こんなさまざまなタイプの殺人をみごとに描きわけてあるだけでも、水滸伝は古今一流の小説の名にそむかない、――と読者諸賢もお思いになりませんか?(p.90)
みたいに言われると、読んでないのは損かなあという気にさせられる。
著者もべつのとこで、
>水滸伝でほんとうにおもしろいのはこれら独立故事である。だから、御用とお急ぎのかたは第七十一回まで読めばたくさんだということになる。(略)
>つまり武松は、水滸伝の重要人物ではあるが、梁山泊の重要人物ではないのである。
>このことは、武松だけでなく、魯智深や林冲や楊志についても言える。(p.143)
と言ってるように、豪傑たち108人が集まるところまでが面白くて、そっから官軍的性格になって戦いに出るとこはまた別の意味のお話らしい。
もと水滸伝は全120回あるらしいが、本国である中国では1640年ころに、
>(略)この百八人が勢ぞろいするのが第七十一回のなかばあたりなのだが、金聖嘆は、ここまでで打切りにして、以下の部分を「これは原作者施耐庵の水滸伝にはないもので、羅貫中がくっつけた愚作である」と言って切り捨ててしまった。(p.267)
って本が出され、全70回の本が出来てそれが主流になったらしい。
作者うんぬんとあるけど、誰が書いたのかはよくわからなくて、講談のネタだったのが次第にまとめられていったらしいが、1500年代前半ころに羅貫中という名で書かれたということについては、
>正徳嘉靖のころの羅貫中は、長篇通俗小説を集団制作したグループの名であろう。一つのグループとはかぎらない。あるグループが羅貫中という名で三国演義を出したところたいへんにヒットしたので、他のグループも同じ名前で出し、また別のグループも出し、というしだいで、羅貫中作と銘打つ長篇小説が短期間のうちに数十種も出る結果となってしまったのであろう。その際最初のグループが商標権の侵害であるとねじこんだり訴えをおこしたりする懸念はない。通俗小説の世界では、他の本屋が出した本をそっくりそのまま出すのも、書きかえるのもつぎたすのもチョンぎるのも、すべておかまいなしなのである。著者の名前を拝借するくらい何でもない。(p.201)
ということらしいので、ひまな知識人たちが適当におもしろく二次的な制作をしてたらしい、なんかそういうのって歴史的伝統になるのかねえ、現代でも中国のひとは「いい商品があればコピーをつくるのはあたりまえぢゃないか」とか言ってるらしいけど。
ところで、本書は「まえがき」で、各章は独立してるからどこからでもおもしろそうなところを読んでくれればいい、って宣言されてるが、順番に一応ぜんぶ読んだけど、どういう本がいつの時代に出版されたかみたいな研究者的な話には、私はあまり興味がもてなかった。
やっぱ豪傑たちのエピソード紹介なんかのほうがおもしろい、それにしても108人ってのは多すぎる、きっとスッと読んだだけなら憶えられないと思う、全員揃うころには最初のほうの人は誰だっけそれ状態になるんぢゃないかと。
でも、そこに一番から百八番までちゃんと順位がつくとかって解説されると、なんでそういうことこだわるかなと不思議な気もするが、序列大事なのかな中国では、やっぱ。
で、その序列第一位の人物が、べつに強くなくて、知恵もあるわけぢゃなく、人格も立派ぢゃないとかって解説されると、ちと読んでみたい気もしてくるが。
それはそうと、この108人って数には、天罡星三十六人と地煞星七十二人って理屈がついてるらしいんだけど、この天罡・地煞ってのは、私にとっては愛読マンガの『西遊妖猿伝』で五行山の白雲洞のなかの岩に刻まれてる人名として古くから(昭和のころから)認識してたものの、元ネタが水滸伝だったとは今回初めて知った、無知とははずかしい。
あと、この108人についてるアダ名、「九紋龍」とか「豹子頭」とか「黒旋風」とかってのの意味由来を解説してくれてる章なんかはわりと楽しいが、そこで、どうでもいいけど、「わが国でよく牛馬を鑑定する者をバクロウと称するのはこの伯楽がなまったのである」(p.320-321)って説明があるけど、知らなかった、それ。伯楽と馬喰ぢゃ、だいぶイメージ違うよね、ふつう。
章立ては以下のとおり。
一 豪傑たちのものがたり
二 総大将宋江
三 副将盧俊義
四 英雄色を好む?
五 人の殺しかたについて
六 李俊のばあい
七 女傑たち
八 人を食った話
九 武松の十回
十 講釈から芝居まで
十一 誰が水滸伝を書いたのか?
十二 遼国征討
十三 一番いいテキスト
十四 「天都外臣」とは誰ぞや?
十五 水滸伝をチョン切った男
十六 中国で出ている水滸伝いろいろ
十七 豪傑たちのアダ名


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