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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

黄金旅程

2022-02-26 19:24:26 | 読んだ本

馳星周 二〇二一年 集英社
これは去年の年末近くになったころだったか、書店で積んであるのを見かけて。
黄金旅程ってステイゴールドの香港馬名だったよなー、ってことはすぐ気づいたんだけど、なんでいまステイゴールドがと不思議だった。
近寄ってみると、どうやら小説らしい、それでしばし迷ったんだけど、買ってみることにした。
なんで迷うかっつーと、競馬のフィクションものは現実の競馬と比べたらおもしろいとは思えないんで。
それで読んでみると、ほんとにステイゴールドを題材にした話だった、まんまモデル、お話のほうの馬は栗毛だけど。
主役の馬名はエゴンウレアといって、これはスティービー・ワンダーの『ステイゴールド』をバスク語に置き換えたものだという、私はバスク語知らんけど。
で、この馬が、2勝目をあげたあとは、ちっとも1着がとれなくて、でも重賞の2着が多いんでオープン馬であり、ジャパンカップとか有馬記念を使うことを何の躊躇もなく選択肢にしていることから、収得賞金はかなり持ってるらしい。
ただ勝てないんぢゃなくて、GIハナ差2着の実力ありながら、斜行するのはあたりまえ、並んで走ってる馬に噛みつきにいったり、GIIで1位入線4着降着やったり、いろんなことやらかすんで、そこでかえって人気がある。
関係者にとっては、レースだけぢゃなくて、調教んときとか手入れのときとかにも油断すると噛んだり蹴ったりしてくるんで、接近注意である、猛獣。
>人に抗い、人を馬鹿にし、人に攻撃さえする。それなのに、人を引きつけてやまない。
>エゴンウレアはそういう馬だった。(p.255)
そういう設定とされている、引きつけられるのは馬券買う側の人たちだけぢゃなくて、たずさわる人たちのほうでは、こいつが本気で走ったら絶対すげえと、能力を信じてる側面も含まれる。
そんなひとり、若馬のときに触って筋肉とか関節に感心した、語り部の「わたし」は、浦河で養老牧場をやっている装蹄師。
もと競馬学校騎手課程生徒で、体重で退学、装蹄師の道に進んだが、ホッカイドウ競馬で開催終了後に騎手をぶん殴って、故郷に戻ってくることになった。
やってる牧場は、幼馴染の両親が経営してた生産牧場を継承したんだが、その幼馴染はいっしょに騎手過程に入った。
そちらはめでたく騎手になって、天才とまで言われてたんだけど、覚醒剤の使用で廃業、2回目の逮捕で実刑、最近刑務所から出て、日高に戻ってきた。(覚醒剤とは極端な設定だな、もうちょっとおとなしい非行でいいのに、と私は思った。)
主役の競走馬エゴンウレアは、「わたし」の国道挟んだ向かいの牧場の生産馬、種付料2000万の種牡馬をつけて勝負をかけたこともあり、社長のこの馬への期待は並大抵ではない。
やっぱそこか、日高か、と私なんかは思ってしまうが。だって、競馬のフィクションって、地方から中央への挑戦とか、小さな牧場の夢とか、モチーフがありきたりなのがおもしろくないから。でもここは種牡馬奮発したのはよしとしましょう、地味な血統の安い馬が大手のエリートを負かすとかいうのもあるあるパターンでしらけるし。
「わたし」が養老牧場(といっても物語の始まりでは繋養馬自己所有の1頭だけだが)やってるってのが、もうひとつのテーマで、競走馬の余生を考えましょうってことで、ただの競馬で勝った負けたってだけの話にならずにいる、向かいの牧場の娘さんなんかは馬は好きだけど競馬は嫌いってことになってるしね。
地名は実在だし、人・団体はモデルがすぐ浮かぶものもあるし、なんか読んでっと小説というよりドキュメンタリーみたいな気がしてくるんだが。
ときどき、厩舎ことばや北海道弁を登場人物が使うと、そのあとに、これはこういう意味であるって説明が入たりするんで、このせいかもって思った。


※おまけ(2013年7月)


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