many books 参考文献

好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

一杯の珈琲から

2022-06-24 19:03:35 | 読んだ本

エーリヒ・ケストナー/小松太郎訳 1975年 創元推理文庫版
『雪の中の三人男』を読んだら、どうしてもこれ読みたくなって、3月ころに古本を買い求めることになった。
出版は1938年で、訳者あとがきによれば、最初のタイトルは「ゲオルクと突発事件」で、戦後に「小さな国境往来」に改められたそうな。
その元のタイトルのほうが話のなかみはわかりやすくて、主人公はゲオルク・レントマイスターという男、舞台はオーストリアとドイツの境界の街である。
どうでもいいけど、著者ケストナーによる序文があって、これは友人のゲオルクの書いた日記である、って体裁になっている、他人の書いたものを手に入れたっていう形式はときどきあるよね。
ゲオルクはおそらく35歳くらいで、実家がドイツで浴槽をつくる大工場ってことで、実は金持ちらしいが、工場経営なんかしないで、古いドイツ語の文法だかなんだかの著述を自分の仕事だと思っている。
そんな彼が、友人のカールに誘われて、1937年8月下旬にオーストリアのザルツブルクへやってくる、祝祭記念のお祭りみたいな時期でいろいろ劇とかやっている。
ところが、当時のドイツとオーストリアの為替管理の決めでは、1カ月に10マルクしかオーストリアには持ち込めない。
それぢゃ何にもできないよということで、国境を挟んでドイツ側のライヘンハルってとこのホテルに泊まることにする、毎日国境を往来して、オーストリアにいるあいだは一文無し、ドイツのホテルに帰ってくれば大金持ちという状況で過ごそうって計画。
さっそく初日に、絵葉書とか買って10マルクを使い切ったので、次の日からザルツブルクの街ではカネがないので友人のカールに全部頼ることになる、ちなみにドイツ側からお弁当として食べ物とか持ち込むのは合法。
ところが、正午に待ち合わせたカフェでコーヒーを飲んで待っていると、いつまで経ってもカールが来ない。
一時間以上したところで、誰かに事情を打ち明けてコーヒー代の払いを頼もうと決心したところ、栗色の髪と青い目の美しい女性がこちらを見て微笑した。
そのコンスタンツェという女性はこころよくコーヒー代を払ったどころか、そのあと一緒に菓子の買い物などして食べて、あしたまたカフェに来ることを約束した。
そう、一杯の珈琲からのひとめぼれの物語であって、
>彼女がカフェに入って来てほほえみかけた途端に、今までの二十四時間の不安が吹っ飛んでしまった。最初の再会は初対面に対する裁判官である。その後に続くすべての不安または別種のものだ。コンスタンツェがわたしのほうへ歩いてきたときは、これでもう幸運の逃げ路がなくなった、という感じがした。厭でもわれわれの腕に飛びこんでこなければならないのだ。(p.53)
なんていう幸せそうなくだりを読むと、いいねえ二十世紀の恋は、みたいな感情にどうしてもとらわれる。
幸運にして両想いのふたりは、あっという間に結婚の約束までするんだけど。
喜劇性はまだもうひとつあって、彼女は、祝祭興行期間のあいだアメリカ人が借りて滞在している宮殿で、女中として働いているって自らのことを言ったんだけど、ホントはその宮殿の持ち主である伯爵の令嬢だったりする。
はたしてオーストリア領内では文無しのゲオルクは伯爵家から認められるのでしょうか。
読んでて楽しいっすね、子供向けではないかもしれないが、ファンタジーだなーって感じ。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 怪盗ニック登場 | トップ | 世界を肯定する哲学 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

読んだ本」カテゴリの最新記事