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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

夜のくもざる

2012-06-23 19:14:19 | 村上春樹
村上春樹 1995年 平凡社
前回からは村上春樹「雑文集」つながりで。
「雑文集」には、「短いフィクション―『夜のくもざる』アウトテイク」という章があって、「愛なき世界」、「柄谷行人」という二つの『夜のくもざる』に収録されなかった短編と、「茂みの中の野ネズミ」という『夜のくもざる』を韓国語か中国語に翻訳出版されるときに序文として書いたものが収録されてます。
で、『夜のくもざる』を読み返してみたわけで。
この本は、村上さんの“超短編”集で、もとはといえば、雑誌のシリーズ広告に使用するために書かれた文章で、パートIはJ・プレス、パートIIはパーカー万年筆がスポンサーなんだけど、あたりまえのように商品とは直接関係ないストーリーになっている。
副題は「村上朝日堂超短編小説」。だから、イラストは、いわずとしれた、安西水丸氏。
この本のなかにも出てくる「渡辺昇・ワタナベノボル」という人名は、一時期村上さんの小説のなかで、登場人物(たとえば妹の婚約者)とか猫の名前として多用されたんだけど、安西水丸の本名だっていうのは、今回「雑文集」(の巻末にある“解説対談”)を読んで、初めて知ったんだけどね。
で、本書は、ワタナベノボルとか、コロッケとか、海亀とか、大猿とか、ドーナツとか、くもざるとか、小人とか、とにかく村上春樹らしさ、いっぱい。ひさしぶりに読んだけど、楽しかった。
で、最後に、「夜中の汽笛について、あるいは物語の効用について」っていうのがあるんだけど、これは村上さんの短文のなかで、私がかなり好きな一品。今回読み返すまで、どこに収録されてるか忘れてたけど。
女の子が男の子に質問する。「あなたはどれくらい私のことを好き?」
少年はしばらく考えてから、静かな声で、「夜中の汽笛くらい」と答える。
で始まる物語なんだけど、そのあと「夜中の汽笛くらい」の意味を男の子が語るんだが、これが美しい話なんだ。現実で、女の子と面と向かってそんなこと話したら、歯が浮くとか気持ち悪いとか言われちゃうだろうけど、こうして文章で読んでみると、それはそれは心地よいんである。

ホルン
鉛筆削り(あるいは幸運としての渡辺昇(1))
フリオ・イグレシアス
タイム・マシーン(あるいは幸運としての渡辺昇(2))
コロッケ
トランプ
新聞
ドーナツ化
アンチテーゼ
うなぎ
高山典子さんと僕の性欲
タコ
虫窪老人の襲撃
スパナ
ドーナツ、再び
II
夜のくもざる
ずっと昔に国分寺にあったジャズ喫茶のための広告
馬が切符を売っている世界
バンコック・サプライズ
ビール
ことわざ
構造主義
大根おろし
留守番電話
ストッキング
牛乳
グッド・ニュース
能率のいい竹馬
動物園
インド屋さん
天井裏
もしょもしょ
激しい雨が降ろうとしている
嘘つきニコル
真っ赤な芥子
夜中の汽笛について、あるいは物語の効用について

おまけ 朝からラーメンの歌
あとがき その1 村上春樹
あとがき その2 安西水丸
コメント
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