ゲームホリック

ゲーム大好きぃ!!でゲーム脳なのであること無いこと書き散らします。

デザイナーズゲームズ

2010年01月11日 | ゲーム
今はそういうことも少なくなってきましたが、ゲーム業界が活況だった過去には他業種からの参入が盛んでした。食品会社がゲームを作ったり、商社がゲームを販売したりと。また他業界のクリエーターがゲーム制作に携わると言うこともざらにある時代がありました。ミュージシャンや脚本家、コピーライターなどがゲーム作りに参加しました。

ただ前者も後者も時代の仇花的な側面が強く、日本においては商業的にも評価的にも成功したものは糸井重里さんの『マザー』シリーズほどしかすぐには思い浮かびません。一方で海外においても、他の業界のクリエーターがゲーム作りに参画するケースがあり、その中でも最も成功した事例がThe Designers Republic(以下DR)による『ワイプアウト』シリーズです。

DRの洗練されたクラブカルチャー的なデザインと有名どころのテクノサウンドで評判になったレースゲームが今に続く『ワイプアウト』シリーズでした。DRが携わったのは日本では第3作目の『ワイプアウト3』(『Wipe3out』)まで。ゲーム業界的には第1作目の『ワイプアウト』がインパクト的にも売り上げ的にも、一般には第2作目『ワイプアウトXL』が最も評価を受けています。

けれども個人的にはやはり第3作目、国内では最終作である『ワイプアウト3』が最もデザイン的に洗練されて、まさしく『ワイプアウト』シリーズ集大成と言うべき作品だと思います。ただ『ワイプアウト3』はレースゲームブームも下火になりかけ、PS2の発売を間近に控えた1999年であったためか、出荷自体が少なく一般的な認知度自体が低く不幸な作品でした。


一番知名度が無くても、一番売れても居なくてもやはりぼくは『ワイプアウト3』が大好きです。前作までも特徴的で評価の高かったタイポグラフィーはさらに洗練を増して、ユーザーを置き去りにしてしまうほどの洗練具合です。ユーザーを突き放したデザインではあるんですが、それでもどうしようもないほどに格好良い。この一言に尽きます。

・『ワイプアウト3』タイトル画面
wipeout3
そしてこのタイトル画面です。デジタルライクなフォントだけでは飽き足らず、全てを一気にミニマルに表現してしまっています。フォントもあいまって、一瞬何と書いてあるのか、何を示しているのか良く分かりません。よくよく見ると「wipeout three title screen」と表記されているのが分かります。製作者側も「title screen」と書かねば理解されないと思ったのでしょう。

・『ワイプアウト3』メニュー画面
wipeout3
システム画面もタイトル画面と同様のデザインで分かりづらいけれども格好良い。『1』、『XL』が足し算の美学であるとすれば、『3』は正に引き算の美学。あと海外版をプレイしたことが無いので推測の域は出ないのですが、前作までは決定が×、キャンセルが○でした。これは海外では一般的な形式ですが、日本では逆。そして『3』では決定が○、キャンセルが×と日本的にローカライズされてます。

日本版『3』は海外版よりもコースが多いなど、前作までと比べてかなり優遇されたローカライズがなされています。一見格好良くも見づらいデザインながら、このメニューのGUIはDRが離れて以降のシリーズにも大きく影響を与えています(『Fusion』、『Pulse』は未確認)。それだけ優れたデザインであったことの証左であるように思います。

・『ワイプアウト3』レース画面
wipeout3
タイトル画面やメニュー画面を見ればわかるように、『3』はそれまでの作品とは異なりかなり色調が抑えられています。それはゲーム中、コースでも同じで看板などには前作までのような明るさを残しつつも、全体的には抑え目の色使いがなされています。『3』の独自のカラーを出すばかりか、結果的にはプレイ中も前作までよりもかなり見易く改善されています。

またHUDも今作のタイポグラフィーに準拠して、かなりミニマルなものになっています。格好良すぎです。

・『ワイプアウト3』デモ画面
wipeout3
そして今作で一番好きなのがこのデモ画面です。前作までは他のゲームと同様に普通にデモリプレイが流れます。ですが『3』では上下に黒幕を入れたレターボックス仕様のデモリプレイになってます。これにより非常に映画的な効果をもたらしていて、抑えられた色調の背景もあってかキューブリックなどのSF映画を想起させます。この演出は他のレースゲームも引用すべきです。



どこを切っても格好良いデザインしか出てこない『ワイプアウト』が『ワイプアウト3』でした。一部デザイン臭がしすぎな部分もありますが、それにしても今作以上にトータルで完成されたデザインを提示しているゲームも無いと思います。前作よりはサウンドトラックが後退しているような気もしないではないですが、『3』の作風にはベストマッチです。

wipeout3

こんな素敵な作品を送り出したDRも国内では『3』で『ワイプアウト』シリーズから離れてしまいました。個人的には『ワイプアウト』はDRあってのものというイメージが強く、PSPでようやく日本市場復帰した第1作目、『ワイプアウトPure』もいまいち”乗る”ことができませんでした。そして『ワイプアウトHD』も。


そんなDRも『ワイプアウト』シリーズに復帰することなく、昨年に倒産の憂き目にあってしまいました。同種のクリエーター集団であるTOMATOもPS2でゲームをリリースしていましたが、コンセプトゲームに留まっており、『ワイプアウト』のような多文化との間を取り持つ素敵な化学反応を持ったゲームではありえませんでした。単なるその文化を切り取ったものでしかなかったのです。

表現力の増大とともに格好良いゲームが増えてきました。でもそれはゲームからはみ出すようなゲームではない場合が多かったのです。クラブカルチャーの最前線でフライヤーやらジャケットをデザインしてきたデザインチームが作ったからこそ、業界内再生産に限られない魅力を有していました。『ワイプアウト』でデザインやテクノに出会えた人も少なくなかったんじゃないでしょうか。

それまでよりも大きなバジェットが必要になってしまい、且つ売り上げも見込めないような現状では他のジャンルからクリエーターを招きいれ、ゲームを作るなんていうことはもはや不可能に近そうな現状です。でもこんな状況こそジャンルを横断するような力を持ったゲームの登場が待たれます。でも何よりも言いたいのは『ワイプアウト3』は今までで一番格好良いゲームの一つだと言うことです。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿