goo blog サービス終了のお知らせ 

☆映画の旅の途中☆

色んな映画をどんどん観る旅

『風の中の牝雞』(1948)

2016年07月14日 | 邦画(クラシック)
『風の中の牝雞』(1948)

監督:小津安二郎
脚本:斎藤良輔、小津安二郎
出演者:田中絹代、佐野周二、村田知英子、笠智衆、坂本武
音楽:伊藤宣二
撮影:厚田雄春

【作品概要】
太平洋戦争後の東京を舞台に、夫の復員を待つ妻が生活に困窮し、子どもが病気をしたことで金のために一度だけ売春をしたことから、戻ってきた夫のみならず妻自身も苦しむという物語である。

【感想レビュー】
先日、某中古店で発見したのでようやく観ることが叶いました。
吉田喜重が著作『小津安二郎の反映画』のなかで、“作品歴のなかでもきわめて特異なものであり、小津さんらしからぬという意味ではもっとも不幸な作品であっただろう”と書いていて、そのくだりを読んでからずっと観たかった作品でした。

(ネタばれ注意です)

そして、小津作品の中でも特異と云われる所以がよく分かりました。

びっくりを通り越し、もはや呆気にとられたのは、やけにドラマティックな展開。
そして夫婦の感情的なやり取り。
夫のいわゆるDV…
(妻が階段をドドドドドと落下するシーンはスタントらしい)
こんなに激昂する人物像も記憶にないし、とにかく生々しい描写でした。


また、モンタージュを嫌うらしい小津監督がモンタージュをたくさん取り入れているところも、観ていて妙に居心地が悪かったです。
小津作品でない映画には多用されているのに…。

幾度となく映る階段は不気味な予兆を醸し出すし、空洞なドラム缶とか、建築途中の空洞な骨組みなんかも、けっこう執拗に映ります。
空虚さが画面を支配していて、寒々しい画と夫婦の心模様が重なり、より一層冷え冷えと感じさせます。
でも、こういうのは確かに小津作品っぽくないように思いました。

また、田中絹代の髪の乱れも尋常じゃなくて、鏡に映した姿がちょっとずつズレたアングルからのカットで連続していくとき、段々と乱れていく髪…。

こわいょ…

佐野周二の髪も乱れていきます。

こわいょ…

それは夏の蒸し暑さで湿気で乱れていくようにも、それだけジッと鏡の前にへたり込んで長い時間動けなかったようにも、内面の有り様を表しているようにも思われる…けど、ゾッとするシーンでした。。

なんか怖かったな…。


でも、売春宿はけっこう綺麗な空間に描かれていて、夫が会った娼婦なんかも苦労しているというわりには、うらぶれた様子はなくて、そういう描き方に、なんとなしに小津監督の温かさを感じたりもしました。望んでいないにも関わらず娼婦をせざるおえなかった娘達に対する思い。。
(時代が時代なので、登場人物達のダイレクトな職業差別的言動過多です。)


小津作品らしくないっていうことは、裏をかえせばやっぱり重要な作品ってことだし、観れて良かったです