☆映画の旅の途中☆

色んな映画をどんどん観る旅

『熱帯雨』(2019) Wet Season @東京フィルメックス2019

2019年12月05日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『熱帯雨』 Wet Season
【作品概要】
シンガポール、台湾 / 2019 / 103分
監督:アンソニー・チェン (Anthony CHEN)

「イロイロ/ぬくもりの記憶」以来となるアンソニー・チェン待望の監督第2作。前作のキャストを再び起用し、中学生と担任の女性教師の間の感情の揺れ動きを繊細に描く。トロント映画祭のプラットホーム部門でワールド・プレミア上映された。
(フィルメックス公式ホームページより)

【感想レビュー】
物語性のある作品で、等身大のシンガポールに潜り込んだような感覚になりながら観ました

俳優陣が素晴らしくて、心の繊細な揺らぎが直に伝わってくるようでした。
中学生役の俳優さん/コー・ジア・ルーは、存在感のある眼差しがとても魅力的でした
なんだか憎めない可愛らしさがあります。
中華武術の技も迫力があって素晴らしく、身体性を伴った彼の魅力もあって、中学生と女性教師との恋という危うい展開を、興醒めせずに観ていられたのかなぁと思います。

上映後のQ&Aによると、俳優の選考にとても時間がかかったようで。
結局、前作『イロイロ/ぬくもりの記憶』と同じ俳優さんになったとお話しされていました。

女性教師役の俳優さん/ヤオ・ヤンヤンの妻の顔、義理の娘としての顔、教師の顔、女の顔…色んな顔にぐいぐい惹き込まれました

現在、シンガポールの中国系の人達は8割が英語を話すらしく、母語である中国語が軽んじられる傾向にあるとのこと。
中国語の教師は、シンガポールでは人材不足で、隣国のマレーシアから補填することもあるそう。
母語の危機は何を招くのか。。

また、介護、不妊治療、家庭不和、あらゆる問題が絡み合っております…

社会全体の危機、家庭の危機が、現代の病であるアイデンティティークライシスを浮き彫りにしていきます。

ただ、生と死の営みは、どんなに高度な文明社会になっても、そこだけは生々しさを持って繰り返されることが印象的でした。

複雑化した問題も、シンプルな選択が明るい未来を予感させるラストに。
熱帯雨の後に晴れ間が覗くように、爽やかなラストでした。

よく考えると、ん?教え子の子?
ん?…
…と、なりますが、まぁ、映画なので…そこは…。



上映後のQ&Aの様子


『水の影』 (2019) Shadow of Water @東京フィルメックス2019

2019年12月01日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『水の影』 Shadow of Water

【作品概要】
インド / 2019 / 116分
監督:サナル・クマール・シャシダラン (Sanal Kumar SASIDHARAN)

マラヤラム語映画界の俊英シャシダランがインドの女性問題を3人の登場人物に凝縮して描いた問題作。若い男がガールフレンドを連れ出し、先輩格の男の運転する車でドライブに出るが……。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映。
(フィルメックス公式ホームページより)

【感想レビュー】
観てから1週間ほど経ちましたが、思い返しては胸が塞いでおります。。

涙、雨、シャワー、川を流れる水、滝壺に激しく落ちる水。
ほぼ全編、あらゆる水の音、それらの表現の多彩さが凄まじい映画でした。

ドライブ中に、若い男が車からガールフレンドのストールを戯に落とすフリをしつこく続けるシーンも、

先輩格の男が川で素潜りして魚をたくさん捕まえ、川岸の女性に向かって次々と投げるシーンも、

女性からしたら苛立ちしかない…。
彼女はただ、ただ泣くばかり。
なすすべもなく泣くばかり。

男性に対する女性の積年の苛立ち、嘆きが比喩的に描かれていました。

そうかと思うと、先輩格の男に酷い事をされたにも関わらず、妙に従順に彼に付いて行く女性も描かれています。

そこには、積年の根深い苛立ちがありつつも、男性に従順になってしまう、あるいはならざるおえない、という病んだ社会の深い絶望を感じます。。

インドの女性達の性の孤独さに思いを致します。

でもこれって…。
現代の日本でもグラデーションこそあれど、ある問題だよなぁと思いぐるぐる考えております

結局、性のことはなかなかオープンにはならないので、どんなに親しい人が悩んでいても、それを察するのは難しい。。

鬱屈した表現が続きますが、116分を感じさせない、最後まで、結局どうなるの!?と、惹きつけられる映画でした


『気球』 (2019)Balloon @東京フィルメックス2019

2019年11月28日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『気球』Balloon
【作品概要】
中国 / 2019 / 102分
監督:ペマツェテン(Pema Tseden)

大草原に暮らす家族を主人公に、一人っ子政策が人々に与える影響をチベット文化の視点から描いた作品。ペマツェテンの前作「轢き殺された羊」の主人公を演じたジンパが父親役を演じる。ヴェネチア映画祭オリゾンティ部門で上映された。
(フィルメックス公式ホームページより)

【感想レビュー】
『タルロ』を観て以来、もう、とっても楽しみに楽しみしていたペマツェテン監督作品です
観ることが出来てとても幸せです

冒頭、放牧中の羊達やおじいさんという牧歌的な風景🐏🐏🐏✨
チベットっぽい〜となりつつも、なんだか見にくい、なんだか違和感、と怪訝に思っていると、あっと驚く仕掛けが…‼︎
もう、もう、開始早々に掴まれました

荒い傷がたくさん付いたフィルターのようなもの越しに展開されていくそのシーン。
その傷だらけのフィルターのようなものにあちこちと屈折し反射する柔らかな太陽光線の美しいこと!!


家族三世代が、チベットの過去現在未来を描き出します。
馬がバイクに取って代わり、とおじいさんの台詞にもありましたが、でも、どの世代も信心深いのが印象的でした。

子どもたちの就学率が上がって、識字率も上がって、科学が一般に広まったら、チベットの人たちの信仰心は変化していくのでしょうか。

弛まぬ生死の営みが、家族三世代を通し、また羊さんを通し、交錯しながら物語は進みます。

風のそよぐ高原、土埃、羊達の猛々しさ、厳しい土地で生きる人間の逞しさ、力強い肉体、子ども達の無邪気さ、すべてが豊かで、『タルロ』に引き続き、観たそばから愛着を持ってすっかり虜になってしまいました

主役の俳優・ジンパさんがスリムクラブの真栄田さんに似ているなぁと思ったが最後、もう真栄田さんにしか見えなくなってしまった時はどうしようかと思いましたが…

光の多様な映像表現がとてもとても美しい映画でした
あぁ、ずっと観ていたいです

スクリーンで観れて大大大満足でした

『轢き殺された羊』は見逃しているのでいつかいつか上映されますように…!



『春江水暖』(2019) Dwelling in the Fuchun Mountains @東京フィルメックス2019

2019年11月26日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『春江水暖』 Dwelling in the Fuchun Mountains
【作品概要】
中国 / 2019 / 154分
監督:グー・シャオガン(GU Xiaogang)

杭州の富陽の美しい自然を背景に、一つの家族の変遷を悠然と描いたグー・シャオガンの監督デビュー作。絵巻物を鑑賞しているかのような横移動のカメラワークが鮮烈な印象を残す。カンヌ映画祭批評家週間のクロージングを飾った。
(フィルメックス公式ホームページより)

【感想レビュー】
内心、154分…集中力が持つかしら…と半ば心配しながら観始めました

年老いた母を、家族・親戚一同で祝う、中国の古き良きスタイル。
うんうん、なんか中国っぽい〜とのんびり観ていたのも束の間、あれよあれよと事態は動き出します

山と河。

いわゆる、中国のイメージそのままな画を背景に物語は進みます。

家族三世代の価値観の違いは興味深く、小津安二郎監督の『東京物語』を想起しながら、あぁ、どこも同じなんだなぁと思いつつ観ました
(上映後のQ&Aで、影響を受けた監督は、ホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンとのことでした。)

登場人物達のリアルな空気感も圧巻でした。
そこに、その人物達がまるで生活しているかのような実在感…
これは、Q&Aで分かったのですが、やはり役者ではなく、監督の実際の親戚を起用したとのことでした。
予算の削減にもなるし、リアルさが出るから、とのことでした。
納得…。
やはり、歯とか肌とか髪の質感にリアルさは宿りますね…

でも、それがとってもとっても素晴らしくて、興醒めせずに入り込める何かがそこにあるような気がいたしました。

そして、この映画の凄さは、なんといっても!
作品概要にもあるように、“絵巻物のような”映像なのでした

画面の手前で泳ぐ人物、奥で歩く人物、それぞれの速度の違いを、絵巻物をめくるように映し出す長尺の映像は、初めての体験でした

ちょっと心配になる位にやり続けるのですね
(これも、Q&Aで感じましたが、監督が、かなりのマイペースなテンポで、さらにとってもソフトなお声でお話しをし続ける…(❗️)…ので、映画に監督の性質って反映されるのだなぁ、とも思いました)

リアルタイムのような生々しさで、杭州の移り変わりが描かれていて、そこもとても興味深いのですが、なんといっても、この絵巻物のような演出こそが斬新なポイントだなと思いました

個々の人々の時間の感じ方が複雑に折り重なって、この世界が在るということが、その長尺の絵巻物のような映像によって見事に描き出されているようでした。
凄い臨場感でした

映画が時間の芸術であることに、改めて思い至りました




『独裁者と小さな孫』(2014)

2017年10月09日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『独裁者と小さな孫』(2014)

監督・脚本:モフセン・マフマルバフ、マルズィエ・メシュキニ
音楽:グジャ・ブルデュリ、タジダール・ジュネイド

【作品概要】
年老いた独裁者(ミシャ・ゴミアシュヴィリ)による支配が続いていた国で、大規模なクーデターが勃発。幼い孫(ダチ・オルウェラシュヴィリ)と一緒に逃亡した独裁者だったが、政権維持を理由に無実の人々を手に掛けてきたことから激しく憎まれており、変装することを余儀なくされる。孫にも自分が誰であるかを決して口に出さぬよう厳しく注意し、追手などを警戒しながら海を目指す。さまざまな人間と出来事に出会う中、彼らは思いも寄らぬ光景を見ることになる。(シネマトゥデイより)

【感想レビュー】
年明けに観てレビューをアップするの失念しておりました…


噂に違わぬ素晴らしい映画で、テンションがグンと上がっております

大統領が着ている威厳に満ちた軍服一式が、まるでハロウィンの仮装のように軽々となっていく過程は、シニカルで見応えたっぷりです。
“陛下”、“殿下”という呼び名も、宮殿や軍、お付きの者が居なければ、もう裸の王様状態に…。
味方に次々と裏切られた大統領は、もはや邪魔なだけの重たい軍服を脱ぎ捨て、押し入った民家で不当に衣服を搾取する。

次々と衣服を変え、旅芸人になりすまし逃亡する様子は、追手や民衆の目を欺くという自然な展開であると同時に、映画的な魅力を放つ。どの瞬間も、映像から目を離したくない、と思わせる吸引力がありました。
『カンダハール』にも感じましたが、このカットは今後も忘れられないだろう、という決定的な瞬間が幾つもありました

大人と子どものロードムービーはたくさんあるけれど、大統領とその孫という立場は斬新だなぁ!と思いました😳。

逃亡の過程で、大統領が拳銃を突き付け、衣服や金目のものを搾取…いや、強盗していく様子でいつも印象的だったのは、大統領の眼光の鋭さと生き抜く力でした。そこからは、1代で成り上がった者だけが持つハングリー精神を感じさせます。孫の無邪気で優しい目元には、育ちの良さがあり、対照的に描かれていました。
実際、独裁政権が勝手に世襲制にして専制国家のようになっていく例は、世界を見渡してもよくあります。
この物語の中で、2人の目がどのように変化していくのか、も見どころでした。


また、土着的な音楽が素敵でした
音楽のあるシーンと、ないシーンの対比も印象的でした。


相乗りの車中シーンでは、ウィットに富んだ乗客の会話が繰り広げられ、貧富の差が伺えます。

この人達は、あの人達よりもマシで、自分達はその人達よりもマシである、というようなマインドでは、永遠に解決の糸口は見えてこなそうだけれども。。

大統領側だった軍隊が、革命後に民衆側と一緒になって、大統領を断罪するシーンでも、政治犯だった男が、それを指摘する。

『政治に1つ悪いことがあったら、その背景にある文化には10以上の問題があると思ってください』、とマフマルバフ監督は2016年の東京フィルメックスで話していました。

そういったことが、映画としてもとても面白いこの作品の文脈においても語られています。すべて両立するって凄いことですよね

また、拷問についての描写も、マフマルバフ監督の著書にある自身の経験に基づいていることを感じましたし、多くの事を主体的に体験してきたマフマルバフ監督が、このように包括的な視点を持ちえていることに、ただただ胸が熱くなります。


人々は、一瞬にして態度や言動、思想を変える。
それはなぜなのかー。


監督の映画、もっと観たいですけど、レンタルされていないものが多く残念です
ソフト化もあまりされていないのかな…。

特集とかあったら、是非行きたいです