☆映画の旅の途中☆

色んな映画をどんどん観る旅

『ムアラフ 改心』(2007)@イスラーム映画祭

2015年12月18日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『ムアラフ 改心』

2007年/マレーシア/87分/35mm/
監督:ヤスミン・アフマド

父親の虐待から逃れて暮らす敬虔なムスリムの姉妹。小さな町に身を寄せた2人は、時に反発しあいながらも支えあって生きていたが、ある時、華人で、敬虔なカトリックの教師と出逢い、お互いの世界観を広めてゆく…。“人を赦す大きな力の源”を謳う信仰と改宗をめぐるドラマ。(ユーロスペースHPより)

【感想レビュー】@イスラーム映画祭
この映画、なんだかとても感じるものがあってじんわりじんわりとくる余韻を味わっております

あまり映画を観て泣かないタイプだけど、ちょっと頬をつたうものに我ながらビックリしたのだった。全体的に監督の?なのか優しい眼差しがあって、その視点があまりにも温かく、そして深くてなんだか泣けてしまったのだと思う。。

敬虔なムスリムの姉妹。そして敬虔なカトリックの家に生まれながら、ある事をきっかけに信仰を遠ざけながら生きる華人の教師が出てきて、人を赦すこととは何なのか?を考えさせられる構成になっています。
ただ、そういった壮大なテーマがありつつも、細かい視点が複雑に絡み合い、信仰心という極めて個人的な側面と多民族で多宗教のマレーシア社会を包括的に捉えた側面とが素晴らしく融合していて、作品に惹き込まれてしまうのです

しなやかさと逞しさ、美しさと強さを併せ持つムスリムの姉妹はとてもキュートで、二人のやり取りやその空気感はとっても魅力的でなんだか神々しいほどだった。
そして、華人の教師の人間らしさといったら、それもまた実にキュートなのだ。母親に対する冷たい態度やお金にキビシイ(かなりケチ…悪しからず)ところとか、その性癖は…ごにょごにょ…なところとか。なんとも愛すべき人物なのです。

ムスリム姉妹も華人の教師も心の痛みを抱えています。人は誰でもそういうものだと思うけど、その痛みとどう向き合うのか。それはやがて、イスラム教とキリスト教という垣根を越え、一つの大きなテーマとなっていく。そして、それに対する答えも、宗教の垣根を越えた普遍的なものへと還っていく。そもそもイスラム教もキリスト教もユダヤ教も、同じ神なのですから。。

華人教師はムスリムの姉妹の姉に恋をする。アラビア語を僕も習うよとまで言い、彼女の元に向かうシーンに、バッハのピアノ協奏曲5番が流れる。バッハは敬虔なプロテスタント信者だったけど、カトリックの為に多くの曲を書きました。それはまぁ仕事だからというのもあるけど…そのバッハが流れるのです。
その他にもアメイジング・グレイスが使われたり。
とってもとっても素晴らしいシーンでした。

また、ゴーイングホームが使われていて。赦すことでhomeに還っていくような感じもして。。信仰心とは、やはり個人的なもので、誰かに危害を加えたりしないものだよなぁ…と改めて感じます。

観たあと、信仰を持たない私ですが思わず自分はどうだろう?と背筋がピンと伸び、胸に手を当ててしまうような映画でした。それでいて胸の奥にじわっと何かが広がって行く素晴らしい映画でした

『法の書』( 2009)@イスラーム映画祭

2015年12月17日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『法の書』

2009年/イラン/94分/35mm/監督:マズィヤール・ミーリー

40歳の独身男性ラフマンは、出張先のベイルートで通訳のフランス人女性ジュリエットに出逢う。2人は恋をして結婚。ジュリエットは改宗し、テヘランにあるラフマンの母と姉妹が暮らしている彼の家に引っ越すが…。宗教の違いからくる家庭内文化摩擦をユーモア満載に描いた国際結婚コメディ。(ユーロスペースHPより)


【感想レビュー】@イスラーム映画祭
面白かったです
もう堪えられなくてイヒヒイヒヒ笑いながら観ました
40歳のラフマンがなんとも愛らしいキャラなのです。40歳には見えないくらい…ちょっと老けているのだけど…でもそこに美女現る…‼ この分かりやす過ぎる筋書き、けれども楽しそうな気配に期待が高まる…というわけ

しかし…家族、いや親戚中の女性陣がラフマンの結婚に関心が向いているというこの恐ろしい状況には身の毛もよだつ…
そいでこの女性陣ときたら、あーだこーだとかしましく陰口をする始末で、それは嫁に対してもそうで…あぁ恐ろしや…。一人だけジュリエットの味方がいて、そこだけは救いなのですが
しかし、そんな状況にジュリエットはメソメソと泣いているようなタマではなかった…。コーランを片手に理詰めで迫っていきます‼…あぁ、恐ろしや…。
そうなると、生まれた時から当たり前に生活に根差してきた信仰心と改宗したばかりの新米ムスリムのプライドがぶつかるわぶつかるわで…。
物語はだんだんと核心に迫っていきます。ぶつかっているのは本当に信仰心なのか?ラフマンを間になんとなーく取られた感から干渉する女性陣の気持ちも見え隠れする。そういうのって、お国柄とかあまり関係なくありそうですよね…
愛については、コーランには書かれていない?らしい。どうやら、そこは二人で築いていかなきゃね、というわけなのです。
また、破壊され廃墟とした街の片隅で子ども達にコーランを教えるシーンも胸に迫るものがありました。

それにしても、こんなにユーモアに富んだ楽しいイラン映画があるとは…

ラフマンを演じた俳優さんが、アミール・ナデリ監督にちょっと似ていて、ソワソワしちゃいました。字幕翻訳はショーレ・ゴルパリアンさんでした




『トンブクトゥのウッドストック』(2013)@イスラーム映画祭

2015年12月17日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『トンブクトゥのウッドストック』

2013年/ドイツ/90分/ブルーレイ/
監督:デズィレ・フォン・トロタ

サハラ砂漠に暮らす遊牧民“トゥアレグ”が、自らの文化的アイデンティティを内外に示すべくマリで毎年開催してきた音楽祭「砂漠のフェスティバル」。その2011年の模様を詩情豊かに描いた音楽ドキュメンタリー。平和を望み、伝統と女性を尊ぶ彼ら特有の音楽が耳に心地好く響くが、現在関係者の多くが難民となっている。(ユーロスペースHPより)

【感想レビュー】@イスラーム映画祭
是非とも行きたいと思っていたイスラーム映画祭。何かの特集上映の時は混んでいることが多いのですが、いつもよりも若い客層な感じで、学生さんも多い雰囲気でした。
イスラム教といっても、多くの国で、多くの民族が信仰しているので、様々な視点で作られている映画を観ることはとても興味深く、充実しました


サハラ砂漠の誇り高き民、トゥアレグのドキュメンタリー。数千年にも渡り遊牧民としてサハラ砂漠を往き来して暮らしてきたトゥアレグ。
ラクダで移動するトゥアレグの一行が夕日に照らされ、まるで影絵のようにくっきりとスクリーンに刻印される。やはり砂漠の民といえば、このイメージが強いので、そこは観れて嬉しいです
伝統的な暮らしをするトゥアレグ達に息づくイスラム教について、様々な人が語ります。自分達のことを『ケル・タマシェク』と呼んでいました。
女性の比較的自由な装いに比べ、男性の方が顔を覆うように布を巻きます。目だけを出し、鼻を覆うようにするのは、厳しい砂漠の自然から体を守るためではなく、鼻が尊厳の象徴だからだそうです。鼻を守るは、つまり尊厳を守るということ。
また、古くから女性をとても大切にしているとも。女性は周囲の為に生き、与えることができる存在だから、大切にされうるべきなのだそうです。繁栄の象徴なのですね。よく、イスラム教では女性は大切にされるべき存在なのだと云われるけど、その内実は多岐に渡るのだなぁとつくづく思いました。

しかし、彼らを取り巻く環境は過酷そのもの。1960年代前後にできた国境により生活圏が分断されてしまうという弊害が、そこにはありました。水を求めて移動するも国境に阻まれるからです。伝統的な暮らしをしたいトゥアレグにも、常に水不足な環境というのは過酷を極めます。
音楽祭でも、砂漠はとても美しい。けれどもそこで暮らすことは、厳しい自然と共に生きるということなのだ、と歌われていました。

取り巻く環境の変化は、水不足だけではありません。過激派の台頭。また、自国に豊富な資源がありながら、それを搾取し続ける自国政府と西側諸国…その捻れが引き起こす紛争。。貧困は、生きていくための犯罪を生んでしまう…。負のスパイラルだ。

一方で希望もあります。教育を充実させてきた結果、若い世代には視野の広い考えを持つ人達も多いのです。若者達が口々に自らの考えを述べているシーンは印象的でした。

そして、武器からは何も生まれない。武器を楽器に持ち替えよう。そこで音楽祭なのです。自らのアイデンティティを示すため、音楽祭は外部の人に向けてもPRされ、多くの人達が訪れていました。音楽に力がある。音楽にはそのパワーがあると…胸が熱くなります。
…けれども、ドキュメンタリーで熱い想いを話していた人々の多くが、現在、紛争によって難民となっているのが現状だそうです。

繰り返される同じリズム、繰り返される同じメロディーに徐々にトランスしていくようだった。。“ラクダ置き場”が必要なトゥアレグの素敵な音楽祭が、また再開されますように…。

『山河ノスタルジア』(2015)@東京フィルメックス

2015年12月01日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『山河ノスタルジア』 Mountain May Depart
中国、日本、フランス / 2015 / 125分
監督:ジャ・ジャンクー(JIA Zhangke)
配給:ビターズ・エンド、オフィス北野
【作品解説】
急激に発展する中国社会で翻弄されながらも力強く生きる一人の女性の半生を、過去・現在・そして未来と26年にわたる壮大なスケールで描いた傑作。野心的な実業家との間に、結婚、出産、離婚を経験したタオは、父親の葬儀で離れて暮らす息子と再会するが……。

【感想レビュー】@フィルメックス
クロージングの作品でした。授賞式と上映とQ&Aまであって盛りだくさんでした

ジャ・ジャンクー監督の作品は『罪の手ざわり』を2年前のフィルメックスで観ただけなのですが、その時の印象が強く、今回もエッジの効いた感じかしらん、と構えていたら、『山河ノスタルジア』には、温かさやユーモアなど、作品全体になんだか愛嬌が感じられて、また違った印象を持ちました

過去現在未来が描かれています。
登場人物達の男女のほのかな恋模様がやけにおぼこいなぁ~と思いながら観ていたら、実はそれは過去で、時間軸はシンプルに進行していきました。
生まれた土地を離れ、また戻ってくる人物。生まれた土地に根を張る人物。生まれた土地からはどんどん離れて人生を歩む人物。まさに三者三様でした。

世界中で、生まれた土地を離れて人生を歩む人が多くいます。それは自分の意志だったり、やむおえない状況があったり、理由は多種多様であるわけですが、その二世、三世の世代になっていった時のアイデンティティーが、今、まさに多くの問題の根幹にあるわけで、とってもタイムリーな作品だなぁと思いました。

抒情的ななかにも、ユーモアもあるし、餃子には母親の愛が詰まっているしで、若い息子の未来に希望の兆しがあるのがまた救いでした


Q&A



役者陣は、過去現在未来の時間軸で、若者役から老けていく役までを演じなくてはならないわけですが…素晴らしかったです

『青春神話』(1992)@東京フィルメックス

2015年12月01日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『青春神話』
Rebels of the Neon God / 青少年哪吒

台湾 / 1992 / 106分
監督:ツァイ・ミンリャン (TSAI Ming-liang)
【作品解説】
夜の台北を舞台に、刹那的に生きる若者たちを描いた青春群像劇。街で見かけたリー・カンションを主人公の予備校生に起用し、映画史に残るコラボレーションの始まりとなった長編デビュー作。東京国際映画祭ヤングシネマ部門ブロンズ賞、トリノ映画祭最優秀新人監督賞を受賞。

【感想レビュー】@フィルメックス
土曜日、フィルメックスの特集上映ツァイ・ミンリャンに行って来ました

特集の一本目ということで、ツァイ・ミンリャン監督とリー・カンションさんが上映前の舞台挨拶に…‼
舞台挨拶があるとは知らなかったのでビックリしました

1992年の作品ということで、リー・カンションさん…お若いお若い‼
青年でいらっしゃいます。ちょっと病んでいる感じがなんともリアリティ…

一方は仲間とつるむタイプの青年で、一方は孤独な青年。家族の愛の気配が感じられない青年と家族に愛をかけられて育った青年とも言い換えられそうです。自由な青年と籠の中の青年。
でもどちらも青春を持て余している感じ。接点のなさそうな青年達の距離がジワジワと詰まっていくその繊細な描写に、次の展開が待ち遠しく思わず前のめりになります

また、ここぞ!…という時に必ず入る音楽がもはや耳から離れません…‼

楽しかったです


舞台挨拶