☆映画の旅の途中☆

色んな映画をどんどん観る旅

『岸辺の旅 』(2015)

2016年07月30日 | 邦画(1990年以降)
『岸辺の旅 』(2015)

監督:黒沢清
原作:湯本香樹実
脚本:宇治田隆史、黒沢清
音楽:大友良英、江藤直子
薮内優介 - 浅野忠信
薮内瑞希 - 深津絵里
松崎朋子 - 蒼井優
島影 - 小松政夫
星谷 - 柄本明
星谷薫 - 奥貫薫

【作品概要】
湯本香樹実が2010年に上梓した小説を映画化。3年間行方をくらましていた夫がふいに帰宅し、離れ離れだった夫婦が空白の時間を取り戻すように旅に出るさまを描く。(Yahoo!映画より)

【感想レビュー】
これまた、昨年逃し続けた1本。黒沢清監督作品の魅力にハマりまくりなので、未見の作品をとことん観る旅の再開でもあります

『岸辺の旅』。不覚にも(映画で泣くことはあまりない私が…)ボロボロと大粒の涙を流してしまいました


なんだろうなぁ…感じるところがあったのだろうな…ふむ。夫婦ものは、どこかパーソナルに引き寄せて観てしまう傾向にあるようです
家族がお互いのみの夫婦にとっての配偶者の死とは…。戸籍うんぬんではなくて、相手とはどこか気持ちだけで繋がっているのだというような心許なさを私自身は日々感じてしまうのですが。そこをパーソナルに引き寄せて観てしまったので不覚にも泣いてしまったのですねぇやれやれ…。

黒沢監督にとっては、人間を描く上での最小単位の一つに男女の関係性というのがあるのかもしれなくて、黒沢監督の作品はどんなにパッションのあるシーンでも、どこか冷静な視点が感じられるので、そこが私はたまらなくツボです
監督にとって、ウェットな男女の描写や人間描写というものは、ちょっと距離を置きたくなるような代物なのかもしれないなぁ…などと思ったりもします。

この作品では、彼岸と此岸の狭間、境界線で夫婦は再びは出会い、妻は夫の、夫は妻の、互いに知らない一面を垣間見る。相手が彼岸にいるから、解り合えないのか。いやいやお互いに此岸にいたとしても解らないことだらけではないか。…などと観ながら感じ入りつつ。

その狭間で過ごす時間がこの夫婦にとって、愛おしい時間になったことは間違いなさそうだ。

二人は岸辺の旅をするわけだけど、いくつかの旅先の中で、小松政夫さんのくだりがとてもグッときました。

それにまた、あの家の変化が…!黒沢作品といえば…!な素晴らしい廃墟で

また、境界線を表すのは川ばかりではなく、道もまた効果的に使われていました。この時の電線だっかなぁ、にゆらゆらする布とか、これまた素晴らしく…!

この作品のカーテンは、基本的には優しく優しく揺れるのが印象的でした。
いつも硬そうな素材のビニールカーテンが不気味に揺れるのが多いので、やはり異界が出てくるとはいえ、基本的には温かく描かれているのが、彼岸にも此岸にも寄り添っている感じで、なんだかほっこりしました。

ある旅先で、女の子が弾いていた“天使の合唱”は、ブルクミュラー25の練習曲という曲集に入っている曲で、最後がアヴェ・マリアのモチーフで終わるのですが、そういう選曲にも、なんだか温かさがさり気なく滲み出ていてじんわりきました

最新作『クリーピー』では重低音のオーケストラ音楽がとても効果的でしたが、『岸辺の旅』の時に既にオーケストラ音楽は試みられていたのだなぁと
思いました
原作は読んでないので比較はできないのですが、同作家の『夏の庭』は手元にあり何度も読み返してしまう一冊です。
基本的には、原作は原作、映画は映画と思っているので、映画を観た後に原作を読もうと思う作品は稀なのですが、本作は読みたいと思いました






『花影(35mm)』(1961)

2016年07月29日 | 邦画(クラシック)
『花影(35mm)』(1961)

監督:川島雄三
主演:池内淳子、佐野周二、池部良、高島忠夫、有島一郎、三橋達也、山岡久乃、筑波久子、淡島千景

【作品概要】
美貌と人の好さゆえに“都合のよい女”として利用され破滅していくホステス・葉子の半生を描いた池内淳子の代表作。長年愛人関係にある大学教授の池部良、結局は金目当ての美術評論家・佐野周二など、葉子に群がるエゴイストの男たちの演技も絶秒。(シネマヴェーラHPより)

【感想レビュー】@theater
“なにが彼女をそうさせたか – 女性旧作邦画ファンによる女性映画セレクション”特集の【池内淳子と池部良】の2本立て。『けものみち』に続いて観ました

こちらはカラー作品。

『けものみち』が大きな渦に巻き込まれていくタイプの映画なのに対し、社会的背景などと関連はあるもののかなりパーソナルな一女性の生き方に特化している映画でした。

これがまた…、あれよあれよと引き込まれていく面白さでした

冒頭のタイトルで『花影』は『かえん』と読ませることを知り(近年『はなかげ』と読ませる映画もありましたから…)、なんだか粋だなぁと思ったのでした

女給:葉子を演じる池内淳子さんは相変わらずの美しさで惚れ惚れしました。その過ぎる美しさで、どこか男性を不幸にしていってしまう葉子。

可愛らしい台所のある葉子の自宅。甲斐甲斐しく恋人の世話をするけど、妻子持ちの大学教授(←池部良さん)の愛人だったり…。はたまた年下の若く雄々しいテレビマン(高島忠夫さん)の恋人になったりとか、経済的に苦労している男達ばかりかと思えば、経済的には裕福だけど…性格とか諸々うーん…と二の足を踏む男性とか。とにかく恋多き女の葉子。

家の合い鍵は男性から男性へと渡り歩
いてゆく
合い鍵というのは、何故あんなに恋の刹那的な象徴なんだろう…。合い鍵を持ち上げた時の渇いた響きに胸の奥がシンとするではないか…。

それにしても。池部良さんが、この映画でもまた素敵なんです… 『けものみち』もそうだったけど、池部さんの全身を映すカットがあって、その特別感ときたら…なんか有無をいわさぬ色男ぶりなのであります
あぁ、これは美しい葉子も惚れるよ、惚れる!っていう。
あれはサービスカットに違いない…

そして流転の葉子。そんな葉子をプラトニックに愛する美術評論家の男がいて、“先生”と皆に呼ばれるその男に深い慈悲とも、情愛とも思える気持ちで接する葉子。
この“先生”を佐野周二さんが演じているのですが、どうしてもだんだん石破茂氏に見えてきてしまって、うん、いやでも似てらっしゃいますよねぇ…。

脱線してしまいましたが
色んな思惑であれこれと男が寄ってきますし、なかには心根は良さそうな人もいるけれど、いつも孤独を纏う葉子…。

ゆらゆらと揺れる桜の影が顔に散らつき、葉子はキラキラと刹那の女の盛りを迎え、冷え冷えとするラストへ向かっていくのです。。

暗転の時間も長かった…。

最後までキチンと。誇り高き生き方を全うした女性の描かれ方に、ただただ圧倒されました。

骨太な内容でズッシリきました





『けものみち(35mm)』 (1965)

2016年07月29日 | 邦画(クラシック)
『けものみち(35mm)』 (1965)

監督:須川栄三
主演:池内淳子、小林桂樹、森塚敏、池部良、宮田芳子、小沢栄太郎、伊藤雄之助、大塚道子、黒部進、菅井きん、千田是也、竜岡晋、千草みどり、矢野宣、青野平義、秋月竜、土屋嘉男、有馬昌彦、田武謙三、森今日子、平井岐代子
【作品概要】
ホテルの支配人・小滝の甘言にのって、寝たきりの夫を焼き殺し、政界の黒幕・鬼頭の妾になった民子は…。腹ぐろ池部良、悪女・池内淳子、エロ爺・小沢栄太郎、小悪党・小林桂樹など、人間の皮をかぶった“けものたち”が、金と権力と女を巡って裏切り騙し合う様をとことん描く!(シネマヴェーラHPより)

【感想レビュー】@theater
“なにが彼女をそうさせたか – 女性旧作邦画ファンによる女性映画セレクション”特集の【池内淳子と池部良】の2本立てを観ました

とにかく面白くて、最後の最後まで楽しめました
いや、ストーリー自体は怖いのですけども…
群像劇だけど捨てパートがないという緻密ぶりで、クライマックスに向けてギアがグイグイ入っていく感じなんか、もうたまらなくスリリングでした


俳優さん達も素晴らしくて…
池内淳子さん演じる民子が、どんどん身を賭していく姿が印象的なのですが
、影にはやはり悪い男がいるのですね、これがまた…。
のっぴきならない状況に追いやられているようでいて、実は民子の中にも悪女の素地があるから自ら引き寄せているのだなというところもあって、ぶるぶるしながら観ました

妖艶さがぷんぷんと立ち昇る池内淳子さん。民子が悪女と分かっていても男ならきっと吸い寄せられていってしまうのだろうなという吸引力があります…
そして、池部良さん…
この頃、47歳頃でしょうか。『乾いた花』の翌年の作品だから、同様に渋いビジュアルが際立っています
池内淳子さんと並んだ時の美男美女ぶりに、もうひたすら眼福なのです

それにしても、こちらも悪い男役で、なんともいえない色香が漂っています (池部さんのキスシーンで思わずほわほわしたのはヒミツです

とにかく狐と狸の化かし合い合戦で、始めは人当たりの良い刑事を演じている小林桂樹さんの変わりようからも目が離せなかったです。

結局、政界財界を影で操るドンが存在していて、一般の人が知り得ない世界が在って、隙があったりするとひょんなことからお仲間入りしちゃったり、気付けばズブズブの泥沼にハマっていたり、でも実は利用されているだけの末端だったり…の怖ーい世界の話しでした…


武満徹の音楽が要所要所でかかり、作品を盛り上げます。この頃の日本映画は劇中音楽に現代音楽を使っていることも多くて、その前衛的な雰囲気がたまらなく好きです

いやぁ、見応えたっぷりでした






『あん』(2015)

2016年07月28日 | 邦画(1990年以降)
『あん』(2015)

監督/脚本:河瀬直美
出演者:樹木希林、永瀬正敏、内田伽羅


【作品概要】
『殯(もがり)の森』などの河瀬直美が樹木希林を主演に迎え、元ハンセン病患者の老女が尊厳を失わず生きようとする姿を丁寧に紡ぐ人間ドラマ。樹木が演じるおいしい粒あんを作る謎多き女性と、どら焼き店の店主や店を訪れる女子中学生の人間模様が描かれる。原作は、詩人や作家、ミュージシャンとして活動するドリアン助川。(Yahoo!映画より)

【感想レビュー】
ロングランになっていたのを逃し続け、結局WOWOWで観ました←こんなのばっかりだゾ…。

タイトルの『あん』の文字が、もう既に温かい。。

餡は包まれたり包んだりするもの。人間社会もきっとそんな風に出来ているはず。。

どんな作品なのかよく知らずに観たので、元ハンセン病患者という設定にびっくりしました。そうか、そんな風に物語が繋がっていくのか。始めはただ、変わった老女がどら焼き屋さんに来て、妙に腰が低かったり、かと思えばけっこうズケズケと失礼なことを言ったりと、まさに樹木希林さんありきな空気感の漂う感じに思わずほっこりしながら観ていたのですが…

接した時の人となり以外に老女の背景となる情報が分からない時間帯があって、それはどら焼き屋の店主にもいえることだけど、登場人物同士だけでなくて、映画を観ている方にもそういう仕掛けをしているところが良かったです。


相手と向き合って直接感じることこそが、人の本質を伺い知る上で一番重要な手がかりかもしれないということを、人は往々にしてうっかり忘れたり、見失いがちになったりするのかもしれないなぁ…などと感じいりました。

世の中、あらゆるヘイトが蔓延していて…。
それらのヘイトの中には、グラデーションはあれど、もしかすると自分も呼応してしまうかもしれないものがあるかもしれない。
でも、そういう感情は、程度こそあれ潜むものなのだと受け入れて、無きものとせずに向き合っていくしかないのだと思う。そうやって向き合っていけば、無知からくるものだと悟ったり、狭い価値観によってもたらされたものだったり…ということに気付くことができるかもしれないのだから。。

ちょっと、なんとなく映画全体に圧を感じつつ(監督のカラーなのかな…)、でもどら焼きが美味しそうだったし、あれこれ考えたりもしたので観て良かったです





『バケモノの子』(2015)

2016年07月27日 | 邦画(1990年以降)
『バケモノの子』(2015)

監督/脚本/原作:細田守
声優:役所広司、宮崎あおい、染谷将太

【作品概要】
『サマーウォーズ』などの細田守が監督を務め、人間界とバケモノ界が存在するパラレルワールドを舞台に孤独な少年とバケモノの交流を描くアニメーション。人間界「渋谷」で一人ぼっちの少年と、バケモノ界「渋天街」で孤独なバケモノ。本来出会うはずのない彼らが繰り広げる修行と冒険を映す。(Yahoo!映画より)

【感想レビュー】
実は絵柄がちょっと苦手なのですがなんだかんだ近年の主な4作品は観ています

リアリティーとファンタジーのバランスが面白くて、妙に説得力があってジワっとさせられるという印象があります

『バケモノの子』も渋谷が舞台で、身近な景色と、あの雑多な空気感がアニメながら伝わってくるという徹底ぶり。
現実世界のどこかで異空間にワープしてしまう、これはアニメの醍醐味で分かっていてもやはりワクワクしてしまいます

ただ、今作は全体的に通り一遍な感じもしてしまったかなぁと…。
逆に言うと『サマーウォーズ』や『おおかみこどもの雨と雪』が凄すぎたのかもしれない。

アニメの主人公の心の“闇”を描くあたり、ジブリの『ゲド戦記』や『思い出のマーニー』などが思わず浮かびますが、これはもう現代社会のリアルな闇だから致し方ないのでしょうね…。あぁ、なんだか本当に切なすぎる…

『バケモノの子』は、主人公以外の二人の人間の闇を台詞で説明するシーンが多くて閉口気味に観てしまう時間帯もありましたが…。
心に剣を持つという発想とくだりは良かったです。
結局、自分の闇は自分で消化して、昇華していくしかないし…うむ
物語の中では唐突な描かれ方な気もしたけど……。


などとあれこれ思いましたが、冒頭のリアルな渋谷の街と異界へ迷い込むシーンは、スリリングで心に残りました