☆映画の旅の途中☆

色んな映画をどんどん観る旅

『西遊』(2014)

2014年11月26日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『西遊』(2014)

【作品概要】
フランス、台湾 / 2014 / 56分
監督:ツァイ・ミンリャン (TSAI Ming Liang)

【作品解説】
2012年以降、ツァイ・ミンリャンは僧に扮したリー・カンションが超スローモーションで歩く姿をとらえた短編を連作している。『無色』(12)、『行者』(12)、『金剛経』(12)、『行在水上』(13)といった作品群がこれにあたる。中でも香港映画祭からの委嘱でオムニバス映画『美好2012』の1篇として製作された『行者』はカンヌ映画祭批評家週間のクロージングを飾るなど大きな反響を巻き起こした。この作品群に連なる最新作である『西遊』は、舞台を南仏のマルセイユに移し、レオス・カラックス作品の常連ドゥニ・ラヴァンが共演しているという点で、このシリーズの一つの頂点を成す作品と言える。映画の極北とも言うべき異形の傑作である。ベルリン映画祭パノラマ部門で上映。 (フィルメックス公式サイトより)

【感想レビュー】@東京フィルメックス

昨年のフィルメックスで観た『ピクニック』に続いてツァイ・ミンリャン2作品目。
初っ端から、あぁ…!(覚悟して観始めたものの)この世界観…!蘇ってきました。
生きてきた時間を刻印してきたかのようなドゥニ・ラヴァンの皺が、だんだんと愛おしく感じられてくる。
生きてきた証となるその皺やその息遣い。揺るぎない、その存在感。
圧倒されます。

しかし、長い!
…果てしなく、長い!
(どこまで睨めっこが続くのかとだんだん笑えてきます

そして、スローモーションで歩く僧侶。その動きは、まるでコンテンポラリー・ダンスを観ているかのようだ。

そして、観ているこちらの時間が支配される感覚が、ダンスや音楽に近いように思う…のに、そのスタイルは、時間の経過と共に変化していく絵画を眺めているようで、なんとも不思議な体験だ。

人それぞれに、それぞれの“生きてきた時間”、“生きている時間”、“生きていく時間”が存在する。人生は“時間”そのもの。

やがてスクリーンというキャンバスに、いくつもの“時間”が映し出される。

まさにアート映画‼


観て数日経ちました。じわじわ噛み締めながら、ほっこりときています


『野火』(2014)

2014年11月24日 | 邦画(1990年以降)
『野火』(2014)

【作品概要】
日本 / 2014 / 87分
監督:塚本晋也 (TSUKAMOTO Shinya)
製作:海獣シアター
出演:塚本晋也
リリー・フランキー
中村達也

大岡昇平の同名小説の映画化。第二次世界大戦末期、フィリピン戦線の日本兵たちの彷徨を一人の一等兵の視点から描き、戦争の恐怖を訴えかける。ヴェネチア映画祭コンペティションでワールド・プレミア上映され、その激烈な戦場の描写で世界を震撼させた傑作。 (フィルメックス公式サイトより)

【感想レビュー】@東京フィルメックス
今年もオープニング上映へ行って参りました
昨年に続き二度目です。独特の高揚感に胸が高まりました

そして、野火。
冒頭は、肺病を患う主人公の田村一等兵が所属する部隊の上官から邪険にされ野戦病院へ行って来いと言われるシーン。その上官の表情や台詞の言い回しは、まるで現代のシュールなコントのワンシーンのようだ。
野戦病院へ行ったら行ったで、もっと重篤な患者が居るのによくその程度で来られたなと追い返され、所属部隊のテントと野戦病院を行ったり来たりし、同じようなやり取りを繰り返す。
このまるでコントのような冒頭は、まるで現代に生きる私達とかつての南の島の戦場とが、あたかも一つの線で結ばれているような感覚に陥らせる。
そこから徐々にそちらの世界へトリップしていく仕掛けが沢山あり、やがてそこに居るかのようになっていく…。
それは、やたらと大きい効果音もその一つだったと思う。
動作、息遣いなどの音響は、ジャングルの静けさの中で怖いほど響き、観る者の不安感を煽っていく。

灼熱の熱帯ジャングル。飢餓の上、熱に浮かされながらフラフラと歩く田村一等兵。微分音でさらに響きの歪んだ音楽が、朦朧とする田村一等兵の意識を演出する。
田村一等兵の周りの人間は、飢餓から、そして敵から身を守るため、自分の事ばかり考えている人間達ばかりだ。唯一彼だけが非情になれない人間らしさを残している。
その彼が変容していく様子は壮絶だ。

兵隊達の肉片が飛び、血が迸る。それでも無情にミサイルは撃ち込まれる。肉片と化した人間を見るにつけ、戦場での命の軽さを思い知る…。
この描写がどこホラー映画の様相を呈しているのには、どこか皮肉を感じる。冒頭のシュールなコントのようなやり取りも然り。戦争の愚かさを物語っている。
ラスト、小津映画に出てくるような品の良い日本家屋で、かつての記憶から逃れられない主人公を観る時、戦争の恐ろしさと虚しさを感じずにはいられない。

最後までテンションが落ちないどころか、上がっていく作品だった。

上映後のQ&Aで、塚本監督が仰っていた(今の世相に対して)『でも絶望はしていない』に心底救われる思いがした。


『幽閉者 テロリスト』(2006)

2014年11月16日 | 邦画(1990年以降)
『幽閉者 テロリスト』(2006)

監督:足立正生
出演:田口トモロヲ、PANTA、大久保鷹、梶原譲二

【作品概要】
’74年のパレスチナ革命にも参加した足立正生の監督作。リッダ空港事件の主犯格、岡本公三をモデルに、獄中での幽閉生活の中で自分自身と向き合う人間の姿を通して現代の闘争を提示した作品。音楽を国内外で活躍する大友良英が担当し、世界的アーティストPANTAとジム・オルークが、演奏だけでなく出演も果たしている。

【感想レビュー】
久しぶりに映画。借りてたDVDを早く消化しなくては!これがまた片手間になど観賞出来ない作品なのですが…
…観終わって今、凄まじく疲弊しております。

低予算映画という事もあって、舞台劇のようなセット。ユダヤ人などを始めとする外国人も、日本人が演じている事もしばしばあります。でも、舞台劇として観ていれば、そこまで違和感もありません。不思議なのですが。
出演者には、あれ!?若松孝二さん!?比嘉愛未さん!?柄本時生!?…のようなサプライズもあってびっくりしました。田口トモロヲさんは鬼気迫る様が凄くて…。

そして、当時の彼らの闘争精神のエネルギーと頭でっかちな論理展開の様子が分かりやすく描かれていました。
不快な周波数の電子音と摩擦音はキリキリと神経を逆撫でしてくるし、主人公の精神がとことん追い込まれていく様子からは、もう目が離せません。
精神の崩壊と自由。

主人公が牢で、光を感じて薄目を開けるシーン。ぼんやりと見えてきた格子が、一瞬、障子に見えた。どこに居るのか分からなくなる瞬間です。格子越しに見る異国の青空。虚を突かれます。

2時間の作品はほとんどがずっと牢屋の中にも関わらず、驚くほどの精神活動を強いてくる。

そしてこの作品でもやはり、ここではない何処かは無かった…。

足立監督の冷静な狂気が恐ろしい作品でした…



『THE DEPTHS』(2010)

2014年11月02日 | 邦画(1990年以降)
『THE DEPTHS』
2010年/日本、韓国/121分/HD-CAM、Blu-ray
監督・脚本:濱口竜介/脚本:大浦光太
出演:キム・ミンジュン、石田法嗣、村上淳
●第11回東京フィルメックス特別招待作品
あらすじ:韓国人の写真家・ペファンは、日本で遭遇した若者リュウに未熟さゆえの野生的な魅力を感じる。彼との出会いにより、それまで均衡を保っていたぺファンの世界が崩れていき…。東京藝術大学と韓国国立映画アカデミー共同製作。注目の若手俳優、石田法嗣の存在感も光る刺激的な一本。
注目の監督・濱口竜介とは?
1978年生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』が国内外の映画祭で高い評価を得る。その後も『THE DEPTHS』(10)、東日本大震災の被災者へのインタビューから成る映画『なみのおと』(11/共同監督:酒井耕)、『親密さ』(12)などを監督。最新作は『不気味なものの肌に触れる』(13)。特集上映が開かれるなど、日本映画界でいま注目される気鋭の監督。現在、次回作『BRIDES(仮)』を制作中。
(しんゆり映画祭HPより)

【感想レビュー】@theater
うん…!面白い!と喰い入るように観ました

ロケ地は、私もよく行く横浜の馬車道付近でした。元々、画になる場所や無国籍感が漂う界隈ですが、とってもとってもスタイリッシュで素敵でした

そして作品の面白さは、繊細なシーンを丁寧に重ねていくごとに増していくようでした。

何の関わりもない人間同士が、ある日、ほんの少しのきっかけで、関係していく。そして、お互いをよく知らないうちに、己の深くにある暗部を見せてしまう。そしてそれは、お互いに、何か真実を垣間見たような強い高揚感と相手の核を理解したような錯覚をもたらす。
一瞬とはいえ垣間見たものは…でもやはり真実なのだろうか、いや、それとも錯覚なのだろうか…などと考えながら観る…

登場人物一人一人の暗部を一瞬で感じ取り、そして切り取る、そのツールにカメラを使っていることに説得力がありました。一瞬に凝縮されていく熱量を感じる映画でした

そして登場人物には、日本人、韓国人、表舞台で売れっ子のカメラマン、裏社会で活動する撮影スタジオのオーナー、ヤクザ、男娼、同性愛者、などなど。色々な立場の人が出てきます。

それぞれの人物の心の闇が一瞬で切り取られていきます。俳優の表情や佇まいに魅せられていくシーンが沢山ありました

“個”としての“私”の存在感が増して、飽和状態の現代社会。一つ一つの魂がぶつかる。関係していく。でも、通り過ぎていく…。
そこには刹那に生きる現代人が描かれていたように思います。
こんなに面白い映画の上映機会が少ないなんて、勿体無いです…。
本当に面白い映画は、アンテナを立てて情報を得て探さないと、観れないのだなと、何か切ない気持ちになりました…


日韓の大学合同で始まった企画だそうで、濱口監督が依頼されメガホンを取ったという事でした。現場では濱口監督が上手にバランスを取って、結局はご自分のスタイルに持っていく手腕を発揮されたのだなと感じた、と市山さんのお話しにありました。
また市山さんは、『濱口さんは、“人間の関係が、映画の中で変化していくこと”に興味がある監督』と仰っていました。
市山さんのお話しは、興味深いものばかりで、しかも分かりやすくご説明されるので、楽しかったです!
また何か思い出したら、書きたいと思います