☆映画の旅の途中☆

色んな映画をどんどん観る旅

『二重生活』(2016)

2016年06月30日 | 邦画(1990年以降)
『二重生活』(2016)

監督:岸善幸
脚本:岸善幸
原作:小池真理子
白石珠:門脇麦
石坂史郎:長谷川博己
鈴木卓也:菅田将暉
篠原:リリー・フランキー

【作品概要】
大学院の哲学科に通う珠は、担当教授のすすめから、対象を追いかけて生活や行動を記録する「哲学的尾行」を実践することとなる。最初は尾行という行為に戸惑いを感じる珠だったが、たまたま近所に住む石坂の姿を目にし、なんとなく、石坂の後を追ってしまう。そこから、一軒家に美しい妻と娘と暮らす石坂を、珠が尾行する日々が始まったが…。(ヒューマックスシネマ渋谷HPより)

【感想レビュー】@theater
“哲学的尾行”。気持ち悪い(‼)ながらも発想は面白いので、観ることに。長谷川博己さんが出てるし、うんうん…。原作が、ソフィ・カルの「文学的・哲学的尾行」をモチーフしているとのことで、映画にもそのくだりが出てきます。
主人公が、尾行をしているうちに出会う人達、またひいては日常で既に出会っている人達すべてが、ピースとして生きてくる仕組みになっていました。
伏線があちこちに仕掛けられているので、観終わった後も、“あれもそうか…!こっちもそうかも!”のような楽しみ方ができます

(ただ、余計な間やシーンが多くて少し辛かったです…。もしかしたら、あえて役を演じている感を出すための演出かもしれませんが、それにしても…。)
長谷川さんはどの作品でも無駄な間がないイメージがあるけど、彼のシーンでホッとするような感じでした

でも面白いのは作品に仕掛けられたあれこれですメモ風に…。

監視カメラ⇒在るものをただ映す装置
(限定された範囲を映しているだけの空間に入ってきた人物が、他の物と同様に否応無しにただ存在する容れ物として意識される)

映画のカメラ⇒演じている役者を撮る装置(役を演じている役者という人物もまた、容れ物として意識される)

人が自分の役割を演じる事⇒父として、母として、娘として、息子として。夫として、妻として。彼氏として、彼女として。または愛人として。

仕事上の役を演じる事⇒マンションの管理人として、編集者として、町内会の一員として、小説家として、漫画家として、役者として、大学教授として、大学院生として。

一人で居る時の素の状態⇒無意識。
洗車中、郵便受けをチェックする時、ゴミ出しする時など。

生徒や彼女としての役を演じている時の主人公は空虚ながらもまだ自分を保っている…が、その役にはしっくりきていない。
尾行する役を演じた時、彼女は彼女を生きた。夫という役からつかの間解放された人物を尾行する事で、それまでの自分の役に新たに加わったその新鮮な役を生きた。

結局、人は人生で様々な役を演じていく。その事と、俳優が舞台やドラマや映画で役を演じる事との共通性を描いていて、その二つをつなぐのに教授のエピソードがありました。

それらが説明的ではなく映像的だったのが良かったです





『オマールの壁』(2013)

2016年06月27日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『オマールの壁』(2013)

(2013年/パレスチナ/97分/アラビア語・ヘブライ語/カラー/原題:OMAR)
監督・脚本・製作:ハニ・アブ・アサド(『パラダイス・ナウ』) 
出演:アダム・バクリ、ワリード・ズエイター、リーム・リューバニ ほか
配給・宣伝:アップリンク 

【作品概要】
パレスチナの今を生き抜く若者たちの青春を鮮烈に描いた衝撃作。思慮深く真面目なパン職人のオマールは、監視塔からの銃弾を避けながら分離壁をよじのぼっては、壁の向こう側に住む恋人ナディアのもとに通っていた。長く占領状態が続くパレスチナでは、人権も自由もない。オマールはこんな毎日を変えようと仲間と共に立ち上がったが、イスラエル兵殺害容疑で捕えられてしまう。イスラエルの秘密警察より拷問を受け、一生囚われの身になるか仲間を裏切ってスパイになるかの選択を迫られるが…。(アップリンクHPより)

【感想レビュー】@theater
“資本、スタッフ、撮影地、全てが100%パレスチナ”だそうだ。ドキュメンタリーではなく、物語だからこそ、より若者達の内実を垣間見ることができるのかもしれない。宗教上、男女の恋愛もおおっぴらにはできなそうだし…。
恋仲の二人が恋文を交換するシーンの清らかなことといったら…

恋人にきっとあまい文を書く手。
恋人に優しく触れる手。
生活の糧であるパンを焼く手。
でも…。
恋人に会いに行くために危険を省みず高い壁を登り、ロープの摩擦で傷だらけの手。
銃を持つ手でもある、青年のその手。。

恋をすること。パンを焼くこと。生きていくために抵抗すること。それらの青年の日常が地続きで描かれていて、抵抗することは生き抜くことと同義語のようだった。
ラストの結末まで含め、この地での長年にわたる闘争の歴史は彼らの日常そのものなのだと改めて思いました。

迷路のような居住区での逃走シーンはこれが日常であるという身につまされる思いと同時に映画的な魅力あるシーンにもなっていました。

映画を観る前に、イスラエルの近代史を復習したのが良かったです
ヨルダン川西岸地区とガザ地区での占領形態の違いなど、ちゃんと分かっていなかったので、観ながらホッとしました






『クリーピー 偽りの隣人 』(2016)

2016年06月24日 | 西島秀俊さん☆映画
『クリーピー 偽りの隣人 』(2016)


監督:黒沢清
脚本:黒沢清、池田千尋
出演者:西島秀俊、竹内結子、香川照之、川口春奈、東出昌大、


【作品概要】
第15回日本ミステリー文学大賞新人賞に輝いた前川裕の小説を映画化。隣人に抱いた疑念をきっかけに、とある夫婦の平穏な日常が悪夢になっていく恐怖を描く。



追記を編集していたら、一度目にUPしていたレビューを消してしまったようなので、この記事は二度目のレビューに加筆したものです。

【感想レビュー】@theater
公開初日に観た『クリーピー』の脳内侵食が本当に止まらず、もう一度観に行きました

2回目なので、初見の時に凄いなと思った音や音楽により集中したりもできて楽しみ方も無限大…!凄いぞ『クリーピー』…な感じです

特に弦楽器群の重低音のビートが、シーンを盛り上げるのに効果的に響いていて素敵過ぎるし、音量だけでなくて音質や音色の濃淡と使用されている各シーンの諸々の濃淡がマッチしていて、とっても素敵過ぎるんです

かと思えばキリキリと耳に付く高音の電子音には神経を逆撫でられるし、全体的に耳に心地よく響く音域があまりなくて不穏さに拍車がかかります。
だから余計に、、、あるシーンで美しく響く旋律にグッときてしまいました

また、濃淡の話しでいえば照明が実に印象的な役割りをしていると思うのですが。
西島さん演じる高倉の横顔の右のアングルが、ことあるごとに反復されていて、その照明の濃淡が、高倉という人物が一筋縄でいかないことを暗示しているし、この人どっちなんだろう?と天秤にかけながら映画を観る楽しさがありました。

そういう意味では、香川さんの演じる西野の照明の当たり方はどうだったかな…。いや、ちゃんと観ていましたよ。西野ももちろん…。
濃淡というよりは照明が黒くなった時の香川さんのフォルムが凄かったイメージです。
高倉と西野のフォルムがあまりに対照的で、高倉には冷徹なイメージ(美し過ぎて隙のないシルエットがかえって…)を持ちましたし、一方、西野にはユーモラスなイメージを持ちました。その対比が面白かったです
でも彼らのシルエットには、永遠に続きそうな無という狂気が感じられて心底ぶるぶるもしました…


そして、初見の時も同様に感じましたが、戸田さんの演じる高倉の同僚が、あまりにもあまりにも自然で、ごくごく普通に居て改めて凄いなと。
クリーピーの世界に存在しているのに、まるで違ったテンションで存在していて、ここにも不穏な世界とごく普通の日常の境界線があったか、と唸る思いで観ました。

不穏さを引きつけてしまうのは、それに呼応していってしまう何かが自らの中にもあるといわんばかり。
戸田さんの演じる同僚も興味本位なところもあるのに、一見すると乗り気でない高倉がどんどんハマっていってしまう怖さというか…。

香川さんの演じる西野は、わりとテンションが安定しているのに対し、高倉はフラットな状態から尻上がりにテンションが上がって行くわけですが。その演技のグラデーションが西島さん改めて素晴らしかったなぁと思いました。
西野に対峙することで、高倉も妻も自らの深淵を見つめてしまうのかもしれない。…そこが一番怖い…。そういうのが一番ホントに怖い…。

そして、同監督作品の『CURE』と同じ方向性ではあるけれど、エンターテイメント性が高く、映像がより洗練されている印象を持ちました。(『CURE』は立て続けには何度も観たくないほど怖い…。)


でも、黒沢監督といえば!
…な風で揺れる各種カーテン。
ファンタジックな車中シーン。
ゆらゆらする光とか洩れでる光とか。
気味の悪い家屋とか廃墟とか。
そよそよと清々しいはずの草木がザワザワ揺れて嫌な感じとか。
噛み合わな会話とか台詞の間とか。
変な動作とか…
(西野家に続く“安全第一”の柵はシュールで面白かった…!)
とにかく、とにかく最高でした!!

そういえば香川さんの劇中での走りって黒沢清監督の『贖罪』の時に怖過ぎてもう逆に笑えるほどでしたけど、今回も独特な動きがもう怖くて怖くて
香川イズムここに極まれり…!ですね。

竹内さん演じる妻もたいがい不気味だったなぁ…

ふと思ったことですが、黒沢監督の描く女性に、いつもちょっと不思議な感じがしていて。
監督の書籍を読んでみようかな。インタビューや対談の動画とかのお話しはいつも興味深いので書籍…ちょっと値が張りますが近いうち読みたいと思います





『ホース・マネー』(2014)

2016年06月23日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『ホース・マネー』(2014)

監督:ペドロ・コスタ/出演:ヴェントゥーラ、ヴィタリナ・ヴァレラ
ポルトガル/2014年/DCP/104分/配給:シネマトリックス

【作品概要】
『ヴァンダの部屋』『コロッサル・ユース』に続き、リスボンのスラム、フォンタイーニャス地区にいた人々と創り上げ、主人公も『コロッサル・ユース』のヴェントゥーラ。ヴェントゥーラ自身のカーボ・ヴェルデからの移民の体験をもとに、ポルトガルのカーネーション革命やアフリカ諸国の植民地支配からの独立などの近代史を背景に展開する。そのポルトガルに暮らすアフリカからの移民の苦難の歴史と記憶を、ひとりの男の人生の終焉とともに虚実入り混じった斬新な手法で描いている。
マノエル・ド・オリヴェイラ、アキ・カウリスマキ、ビクトル・エリセら巨匠と共にペドロ・コスタが参加したオムニバス作品『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区』の一篇『スウィート・エクソシスト』の一部が大胆に組み込まれていることも見逃せない。(ユーロスペースHPより)

【感想レビュー】@theater
ポルトガル映画は3年前に初めて観ました。
確か、ミゲル・ゴメス監督の『熱波』の公開に合わせて「ポルトガル映画の巨匠たち」の特集が組まれていて、映画館を移動して何本か観たのだったと思う。
それで、一見分かりにくかったり、すごくウエットな感じだったり、必要最低限の台詞や音楽だったり、難解だけど息を潜めて観入ってしまうような何かがあって、それが何なのかを知りたくて、ほぼミッションのような気持ちで機会があれば観に行くという感じになっています…

なので、『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区』もその一つで観て、特にペドロ・コスタ監督の作品が強烈に印象に残っていたので、その監督の最新作ならばと、またそれが何なのか知りたくてわざわざ難解なミッションに出掛けるといった次第なのです…

そして『ホース・マネー』。
冒頭からもう衝撃的ですが。

古びた写真のストップモーション。
計算しつくされた照明の陰影。そこを人物が歩いたり、少し動いたりした時の当たり方とかもいちいち凄い。
もう畏怖すら覚える美しさです。

そもそも、地下深い穴ぐらのような病院のあの造りは一体…。

と思ったら、色んな人が出てきては話し込み始めたり、ひそひそと話し続けたりする。その内容は噛み合っている時と全然噛み合ってない時とその時々で違ったりするようだった(自信ないけど確か)。
ただ、誰かが話している時、それに耳を傾けている人達の表情が印象的で、何か共通の想いがあるのが伝わってくるのです。
痛み、哀しみ、閉塞感、故郷への想い…そういった何か共通の言語が伝わってくる。

ごつごつした土肌の地下道、エレベーターの閉塞感、地上に上がると現代的な建物の中。まるでエレベーターが時空を越える装置のよう。

ずっと観ているうちに、極端に暗くなる照明部分には、そこには映し出されていないが多くの人達の息づかいが感じられるようになってきて、そんな風に思わせる表現方法にも圧倒されました。

パンフレットはあえて読み込まないで行ったので、『スウィート・エクソシスト』の一部が拡大されて織り込まれているのにも驚愕しました。後で読んだら明記されていました

でも、あの短篇を過去に観ていたので、『ホース・マネー』が観やすかったし、理解の一助になっているなぁなどと思いながら観ていて、この洋服はあれ…?と思ったら突如出てきたので凄ーくテンション上がりました!!

あのシーンは脳裏にこびり付くほどの衝撃なので…

しかも、ちょっと笑える箇所があって、あれはきっと笑っていいところだったと思うけれど、それ以外に圧倒され過ぎちゃって固まってしまいました


また、歌が良くて、それまでの抑圧的な調子から少し開放されるけど、でも歌詞もそれを歌うシチュエーションも疲弊していて、また意気消沈してしまう。

ただ、少し希望が感じられる描写もあって、そこにすがりたくなりましたけども。。

何世代もの時空を越えた想いがリアルさをもって存在し、また映画のどこを切り取りストップモーションにしても絵画のような構図を保って成立するのだろうなというほど、恐ろしく隙のない作品でした。

『ヴァンダの部屋』と『コロッサル・ユース』も観に行けたら行こうっと





『マイ・ルーム 』(1996)

2016年06月15日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『マイ・ルーム 』(1996)

監督:ジェリー・ザックス
出演者:メリル・ストリープ、ダイアン・キートン、レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デニーロ

【作品概要】
戯曲『マーヴィンの部屋』を映画化した作品。介護の問題、姉妹の確執、白血病といった重いテーマを扱いながら、どこかユーモア漂うヒューマン・ドラマとなっている。(Wikipediaより)

【感想レビュー】
引き続きディカプリオの見逃し作品の旅。とにかく、とにかく、とにかく美しいレオ様を拝める作品であった…。ストーリーとは全然関係ありません

でも全身が映るカットとか、思わず息を呑む美しさでした
やはりスターなんですねぇ


ロバート・デニーロ演じるちょっと胡散臭い医者とその兄の掛け合いが、シリアスなストーリーに抜け感を作っていてホッとするシーンでした

登場人物達の状況は切迫しながらも再生していく温かさがあって救われます。

鏡の反射を使って部屋がキラキラするシーンと浜辺のドライブのシーンが印象的でした

それにしてもすごい俳優陣で贅沢な作品でした