☆映画の旅の途中☆

色んな映画をどんどん観る旅

『コインロッカーの女』(2015)@東京フィルメックス

2015年11月28日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『コインロッカーの女』
Coin Locker Girl

韓国 / 2015 / 111分
監督:ハン・ジュニ(HAN Jun-hee)
配給:「コインロッカーの女」上映委員会
【作品解説】
チャイナタウンで闇貸金業を営む“母(オモニ)”に育てられたイリョン。彼女は生まれた直後にコインロッカーに置き去りにされた女性だった。ハン・ジュニの監督デビュー作である本作は、仁川の暗黒街を舞台に二人の女性の愛憎関係を描いたパワフルな作品である。 (フィルメックスHPより)

【感想レビュー】@フィルメックス
『消失点』に続いて観ました
3本目ということもあって、ちょっとくたびれていたところに、スカッとエンターテイメントな作品がきてテンションがあがりましたっ

来年の2月に一般公開が決まっているそうです
ですので、ネタばれしないように少しだけ…。

韓国映画のエグさとかバイオレンス過多な感じが好きな方はもうちょっとって思うかもしれないです…うーん、いやその基準は分からないですけども。。

女版ハードボイルドという感じがまたシビれるし、画が格好良過ぎるし、細部に色々と伏線があって、それが効いてくるのといい、色々とバランスが良くて、スタイリッシュな印象を持ちました。ちょっと爽やかにさえ感じるのは映像美のためかしらん。。女優陣が素晴らしいです

三代に渡る母と娘の話しで、臓器売買とかドラッグとか貧困とか、社会の暗部が描かれつつも、しっかりエンターテイメントな作品でした

レストランでかかっていたショパンのバラード1番(確かそうだったと思うのだけど)は、曲の背景とされているアダム ミツキェヴィチの『コンラード・ワレンロット』をあえて伏線にしたのかなぁ…などとちょっと思いながら観ました
どうだかは分からないですが

同日の最終上映の『私の坊や』は観れませんでしたが、観た3本はどれもアイデンティティーが関わってくる作品したが、まったく違う方向性で表現された作品を観ることができて、とってもハッピーでした






『消失点』(2015)@東京フィルメックス

2015年11月26日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『消失点』 Vanishing Point

タイ / 2015 / 100分
監督:ジャッカワーン・ニンタムロン(Jakrawal NILTHAMRONG)
【作品解説】
森で起こった殺人事件を追う若いジャーナリスト。家庭がありながら若い女との関係を続けている中年のモーテルのオーナー。二人の物語は微妙に交錯し、やがて思いがけない展開を迎える。ロッテルダム映画祭タイガー・アワードを受賞したニンタムロンの長編デビュー作。 (フィルメックスHPより)

【感想レビュー】@フィルメックス
『タルロ』に続いて観ました

しかし実に難解で、終始顔面がってなっていたと思う…うぅ…。
でも上映後のQ&Aで、監督が丁寧に丁寧に説明してくださったので、ほんとうに有難かったです

もっと物語性が強い作品なのかと思っていたけど、ストーリーはあってないようなもの(監督もQ&Aでそのように仰っていた…)どころか、断片的過ぎてとりとめもなく進行していくように感じました。。確かにジャーナリストとモーテルのオーナーの視点はあるのだけど、それぞれの物語がその枠の中で、理路整然と続いていくかというと、どうもそうでもない様子なので非常に戸惑ってしまうのです。各々の視点においてもイメージの断片が連続していくようです。

これは…一体…。もう、新しいを越えた何かなのでは…。

でも、タイトルの『消失点』を考えればいつか交わるはず、ハズ…ハズ‼
と思いながら観て、その瞬間は唐突に訪れる。本当に唐突に…‼

Q&Aで監督が両親が事故にあった時のことをお話ししていらっしゃいましたが…きっとそのイメージが強烈にあって、突然に訪れるタイプの“死”というものに対して、心に深く刻まれているイメージを作品にしたのではないかということを感じました。
人が、その人自身として存在していると証明できる記憶。脳内世界のイメージの断片。それはとても儚くて、刹那的なものだけど、それを映像化するという実験的な作品なのかな…
監督は確か、予めストーリーはしっかり作ってあって、人物の詳細も決めていた。それを細かな細かなピースにした、みたいにも仰っていたので、編集作業にかなりのこだわりがあって、実験的な編集をすることで、まったく新しいタイプの映画になったのかも…と思いました。
時間の経過や記憶、死、というものがキーワードな作品でした

また、僧侶が出てくるのですが、『お互いに許し合うのだよ』というような台詞は、この作品の中で初めて心が動く瞬間でした


上映後のQ&A


『タルロ』(2015) @東京フィルメックス

2015年11月26日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『タルロ』 Tharlo / 塔洛

中国 / 2015 / 123分
監督:ペマツェテン(Pema Tseden)
【作品解説】
『オールド・ドッグ』で第12回東京フィルメックスグランプリに輝いたペマツェテン監督の最新作。現代文明と伝統文化の相違に引き裂かれてゆくチベットの遊牧民をユーモアとほろ苦さを交えて描く。長回しの撮影と大胆な構図が強烈なインパクトを与える力作である。 (フィルメックスHPより)

【感想レビュー】@フィルメックス
昨日観て来ました

全編モノクロの映像美が際立つ作品でした。タイトルになっている『タルロ』は、主人公の男性の名前です。
冒頭、タルロが中国語で毛沢東語録を、チベット仏教の読経の抑揚に乗せて暗唱するシーンがあります。フレーズの終わりを息を吐き出すようにするのが印象的で、なんだか耳に残ります。今朝も抑揚だけ思わずハミングしてしまうほど。

この男、とにかく喋る喋る喋る
タルロは羊飼いで、タルロは記憶力に長けていて、タルロはけっこう無邪気にお喋りで、タルロは三つ編みで、タルロは長い間一人で暮らしていて、タルロは身分証明書を作らなきゃならなくて…とまぁ、冒頭だけでタルロに関する情報が多くて、気付けばタルロに親しみがわいています。
垢抜けないタルロが美しい町娘に色目を使われる。美しい娘が鏡越しにタルロを視る。するとあら、何だか不思議。タルロが格好良く視えてくるからあらあら不思議…と思いながら楽しく観る。
もうこの頃になると、タルロに夢中になっています

最初の方はちょこちょこと楽しいユーモアもあって、笑い声も劇場からはあがっていました

冒頭のシーンではあれほどすらすらと暗唱できた毛沢東語録が、ラストではつっかえつっかえ、やっとのおもいで暗唱する。アイデンティティーが自らの記憶から成り立っていることを思えば、今タルロの足元がぐらぐらと揺れているに違いない…。あんなにお喋りだったタルロはむっつりと黙り、代わりに咳だけが響く。。

チベットは周辺の国に絶えず侵略されてきたし、今尚、真っ只中なわけで…。アイデンティティーというのが作品の核になっているように思いました。チベットと中国。遊牧民の暮らしと街の暮らし。こうした対比、視点でタルロは描かれていて、そこにほのかな恋も混ざってくる。

そういったことと、映像美が両立する素晴らしい作品でした


上映後のQ&A


お話しがたくさん聞けて楽しかったです

『ベヒモス』(2015)@東京フィルメックス

2015年11月22日 | 西洋/中東/アジア/他(1990年以降)
『ベヒモス』Behemoth

中国 / 2015 / 91分
監督:チャオ・リャン(ZHAO Liang)

【作品解説】
資源の豊富な内モンゴルでは中国各地から集まった出稼ぎ労働者たちが働いているが、同時に産業化に並行して起こる環境破壊が深刻な問題を引き起こしている。圧倒的な映像で、内モンゴル自治区の炭鉱や鉄鋼場で働く労働者たちの姿を描くチャオ・リャン監督のドキュメンタリー。 (フィルメックスHPより)

【感想レビュー】@フィルメックス
広大な土地に地響きかと思うような喉歌が鳴り響く。ホーミーかしらん
羊に山羊、馬。遊牧民の暮らしぶりと、そのほんの少し先で行われている環境破壊の画に圧倒されます。炭鉱の爆破によって地が切り裂かれていく音がする。粉塵の中でろくな防備もせずに黙々と作業を続ける労働者達。身体中には粉塵が入り込んでいます。。

また鉄鋼場の労働者達は、防備をせずに火の粉を浴び続け、顔は焼けて赤黒くなり、素手の作業で水膨れやマメだらけになった掌からは、過酷な労働環境が滲みます。炭鉱の粉塵の灰色、鉄鋼場の炎の赤色。病に倒れる労働者が後をたちません。ここは地獄なのだろうか。

この世の矛盾、歪みが、事物に断層をつけることで表現されていました。これ、初めは自分の目がおかしくなったのかとパチパチさせて何度も見てしまいました

こんな状況にしてしまったのは人間。破壊された環境に、追い詰められていくのもまた人間自身。
ラストに出てくる彩り楽しいマンション群は、ゴーストタウンらしい。都市部との対比に言及しつつも、結局は鏡と同じように一つの世界、一つだといわれているように感じました。
ホーミーの二重発声も、一人で複数の音程、メロディーを操る歌唱法で、一つの肉体で成すもの。他人事ではないのですよね。。
不快な周波数の電子音がキリキリと耳に残ります。

こういう作品を観ると、まぁるい地球儀が思い浮かんでくる。あっちでもこっちでも、地球のあらゆるところで、地球は壊されている。壊されている?自分は?いやいや、壊しているのだよなぁと愕然とします。。

『ひそひそ星』といい『ベヒモス』といい、作品の世界観が有機的に結びついていく観賞ができるフィルメックス!!
素敵過ぎるっ






『ひそひそ星』(2015)@東京フィルメックス

2015年11月22日 | 園子温監督☆映画
『ひそひそ星』 The Whispering Star 【オープニング作品】

日本 / 2015 / 100分
監督・脚本:園子温 (SONO Sion)
配給:日活
ロボットが8割、人類が2割になった未来の宇宙を舞台に、様々な星を巡って人間たちに荷物を届ける宇宙宅配便の配達アンドロイド、鈴木洋子を主人公にした物語。壮大な宇宙を旅しながら、3・11の傷跡残る福島を舞台とする、ユニークでリリカルなSF映画の傑作。(フィルメックスHPより)
©SION PRODUCTION

【感想レビュー】@東京フィルメックス
今年は園監督作品がフィルメックスのオープニング上映ということで、もう本当に楽しみにしていました
観ながらゾクゾクするシーン多数…。観た後もジワジワと多方向から色んな感情が渦巻いて、なかなか眠れませんでした。

☆以下、若干のネタばれに注意です↓☆
全体的な作品のタッチは、『部屋 THE ROOM』(1994)や『桂子ですけど』(1997年)などの作品を彷彿とさせるもので、この2作品は以前シネマヴェーラの特集で観て、『愛のむきだし』以降の園監督カラーとは違う一面に驚くと同時に、園作品のなかでもとりわけ好きな作品になっていたので、『ひそひそ星』は原点回帰のような感もあり、なんだか格別な思いで映画を観ました

時間、距離、空間、音…など、園作品のキーワードが満載でした。“時間と距離”は、劇中の言葉にも出てきます。過去現在未来の時間の隔たり。物理的な空間の隔たり。生活音。声。音楽。

また、様々な対比も印象的でした。
モノクロとカラー。アンドロイドと人間。アンドロイドとコンピューター。プロの役者と素人の方々。

宇宙宅配便の配達アンドロイドは、人間の心が分からない。なぜ、他人からみたらガラクタにさえ思える代物を、どれだけ時間がかかったとしても届けてほしいのか。どうやら、人間には“時間と距離への憧れ”があるらしいと気づくのです。アンドロイドは人間のマネッこをしてみる。繰り返す日常。日常の繰り返し。労働の後の煙草。お茶。コンピューターとの会話。届け先の人間との会話。。そしてついには、きっと少しだけ人間の心に寄り添うような瞬間がありました。この辺はじわっときました
冒頭から別世界へワープ。宇宙船が日本家屋というぶっ飛んだ設定だし、アンドロイドを演じる神楽坂恵さんがまたとっても素晴らしくて惹き込まれました。肉感的な身体×アンドロイドというのがなんとも絶妙なバランスです。サイボーグみたいにならない人間味があるのに、アンドロイドだからです。

『人間は、せいぜい生きても百年。』この言葉は個人的には重かったな…。今年は、百歳をあと一年でむかえる祖母が他界したこともあって、人の一生について色々と考えさせられっぱなしなので、“時間と距離”も描いているこの作品の中では重みがありました。

そして、福島が出てきます。津波や原発の問題。『希望の国』の後に監督は、何かの媒体で、何に使うか分からないけど被災地の映像を記録していると仰っていたように思うので、今回の作品にもその映像が、どこかで使われたのかしらん…と思いながら観ました。綿密な取材をする園監督ならではの表現というのが随所に感じられました。今回、プロの役者さんの他に、素人の方々も出てきますが、やはり取材で知り合った被災地の方々とのこと。素朴な雰囲気と相まって、神楽坂さんのアンドロイド感が増していてなんだか好きなシーンです
よく園監督は、3.11以前と以降では、もう何もかもが違い、映画を撮る時に、3.11がなかった世界にできないと繰り返し仰っていて、その部分がこの作品の構造にも大きく関係しているのだなぁと思いました。お若い頃からずっと書いている脚本が幾つもあるらしいので、どうやら、バブルやバブル崩壊のあった80年代90年代に構想し書かれた設定のところに、3.11を経験した現在も書き続けると複雑化するらしいのです。。

『希望の国』や『ラブ&ピース』でもそうでしたが、どこか絶望はしていない感じに少し救われました。2016年の5月公開だそうです!!もう一度観たいです



【上映後のQ&Aの覚え書きメモ】

お言葉の細部まで覚えておらずニュアンスが違うかもしれませんが…


若い頃⇒人生の儚さを感じていた。バブルだった。
1990年に執筆した脚本。若い頃の自分を“彼”という。変な言い方かもしれないけど、“彼”といってもいいほど時間的な隔たりがある。その“彼”が書いたものをリスペクトして、さらに福島を舞台にしたことで、その時の脚本や絵コンテにないことが盛り込まれ、“現在の自分”もある。そういう意味では、若い頃の自分と、現在の自分の二重構造になっている。
当時は予算がなくて作れなかった。その代わり、『桂子ですけど』を作る。予算が違うから形は違うけど、内容は一緒。当時の自分は、お金もなくていつ死ぬか分からない位だったから、今考えていること、撮りたい映画を形にしようと思って、『桂子ですけど』を撮った。

『ひそひそ星』の劇中にちょっと出てくる亀は、やはり『ラブ&ピース』のカメちゃんだった…!!ご質問された方、ありがとうございます!!

音に対するこだわり。
色々作品名を仰っていたけど分からなかったが、ベルリン映画などで観た作品やアレクサンドル・ソクーロフの作品などにも影響を受けているとのこと。映画の50%は音。


また思い出したら加筆します