☆映画の旅の途中☆

色んな映画をどんどん観る旅

『ひそひそ星』(2015)@東京フィルメックス

2015年11月22日 | 園子温監督☆映画
『ひそひそ星』 The Whispering Star 【オープニング作品】

日本 / 2015 / 100分
監督・脚本:園子温 (SONO Sion)
配給:日活
ロボットが8割、人類が2割になった未来の宇宙を舞台に、様々な星を巡って人間たちに荷物を届ける宇宙宅配便の配達アンドロイド、鈴木洋子を主人公にした物語。壮大な宇宙を旅しながら、3・11の傷跡残る福島を舞台とする、ユニークでリリカルなSF映画の傑作。(フィルメックスHPより)
©SION PRODUCTION

【感想レビュー】@東京フィルメックス
今年は園監督作品がフィルメックスのオープニング上映ということで、もう本当に楽しみにしていました
観ながらゾクゾクするシーン多数…。観た後もジワジワと多方向から色んな感情が渦巻いて、なかなか眠れませんでした。

☆以下、若干のネタばれに注意です↓☆
全体的な作品のタッチは、『部屋 THE ROOM』(1994)や『桂子ですけど』(1997年)などの作品を彷彿とさせるもので、この2作品は以前シネマヴェーラの特集で観て、『愛のむきだし』以降の園監督カラーとは違う一面に驚くと同時に、園作品のなかでもとりわけ好きな作品になっていたので、『ひそひそ星』は原点回帰のような感もあり、なんだか格別な思いで映画を観ました

時間、距離、空間、音…など、園作品のキーワードが満載でした。“時間と距離”は、劇中の言葉にも出てきます。過去現在未来の時間の隔たり。物理的な空間の隔たり。生活音。声。音楽。

また、様々な対比も印象的でした。
モノクロとカラー。アンドロイドと人間。アンドロイドとコンピューター。プロの役者と素人の方々。

宇宙宅配便の配達アンドロイドは、人間の心が分からない。なぜ、他人からみたらガラクタにさえ思える代物を、どれだけ時間がかかったとしても届けてほしいのか。どうやら、人間には“時間と距離への憧れ”があるらしいと気づくのです。アンドロイドは人間のマネッこをしてみる。繰り返す日常。日常の繰り返し。労働の後の煙草。お茶。コンピューターとの会話。届け先の人間との会話。。そしてついには、きっと少しだけ人間の心に寄り添うような瞬間がありました。この辺はじわっときました
冒頭から別世界へワープ。宇宙船が日本家屋というぶっ飛んだ設定だし、アンドロイドを演じる神楽坂恵さんがまたとっても素晴らしくて惹き込まれました。肉感的な身体×アンドロイドというのがなんとも絶妙なバランスです。サイボーグみたいにならない人間味があるのに、アンドロイドだからです。

『人間は、せいぜい生きても百年。』この言葉は個人的には重かったな…。今年は、百歳をあと一年でむかえる祖母が他界したこともあって、人の一生について色々と考えさせられっぱなしなので、“時間と距離”も描いているこの作品の中では重みがありました。

そして、福島が出てきます。津波や原発の問題。『希望の国』の後に監督は、何かの媒体で、何に使うか分からないけど被災地の映像を記録していると仰っていたように思うので、今回の作品にもその映像が、どこかで使われたのかしらん…と思いながら観ました。綿密な取材をする園監督ならではの表現というのが随所に感じられました。今回、プロの役者さんの他に、素人の方々も出てきますが、やはり取材で知り合った被災地の方々とのこと。素朴な雰囲気と相まって、神楽坂さんのアンドロイド感が増していてなんだか好きなシーンです
よく園監督は、3.11以前と以降では、もう何もかもが違い、映画を撮る時に、3.11がなかった世界にできないと繰り返し仰っていて、その部分がこの作品の構造にも大きく関係しているのだなぁと思いました。お若い頃からずっと書いている脚本が幾つもあるらしいので、どうやら、バブルやバブル崩壊のあった80年代90年代に構想し書かれた設定のところに、3.11を経験した現在も書き続けると複雑化するらしいのです。。

『希望の国』や『ラブ&ピース』でもそうでしたが、どこか絶望はしていない感じに少し救われました。2016年の5月公開だそうです!!もう一度観たいです



【上映後のQ&Aの覚え書きメモ】

お言葉の細部まで覚えておらずニュアンスが違うかもしれませんが…


若い頃⇒人生の儚さを感じていた。バブルだった。
1990年に執筆した脚本。若い頃の自分を“彼”という。変な言い方かもしれないけど、“彼”といってもいいほど時間的な隔たりがある。その“彼”が書いたものをリスペクトして、さらに福島を舞台にしたことで、その時の脚本や絵コンテにないことが盛り込まれ、“現在の自分”もある。そういう意味では、若い頃の自分と、現在の自分の二重構造になっている。
当時は予算がなくて作れなかった。その代わり、『桂子ですけど』を作る。予算が違うから形は違うけど、内容は一緒。当時の自分は、お金もなくていつ死ぬか分からない位だったから、今考えていること、撮りたい映画を形にしようと思って、『桂子ですけど』を撮った。

『ひそひそ星』の劇中にちょっと出てくる亀は、やはり『ラブ&ピース』のカメちゃんだった…!!ご質問された方、ありがとうございます!!

音に対するこだわり。
色々作品名を仰っていたけど分からなかったが、ベルリン映画などで観た作品やアレクサンドル・ソクーロフの作品などにも影響を受けているとのこと。映画の50%は音。


また思い出したら加筆します


『ラブ&ピース』(2015)

2015年07月01日 | 園子温監督☆映画
『ラブ&ピース』(2015)

監督:園子温
キャスト
長谷川博己
鈴木良一
麻生久美子
寺島裕子
西田敏行
謎の老人
渋川清彦
マネージャー/稲川さとる
マキタスポーツ
良一の会社の課長
深水元基

田原総一郎
司会者
水道橋博士
コメンテーター
宮台真司
コメンテーター
茂木健一郎
コメンテーター
津田大介
コメンテーター

【作品概要】
国際的に評価される鬼才・園子温監督が特撮に初挑戦した異色作。かつてロックミュージシャンという夢を抱いていたものの現在はさえないサラリーマンが、1匹のミドリガメと出会ったことから始まる奇想天外な物語を描く。(Yahoo!映画より)

【感想レビュー】@theater
いやぁ、面白かった!!
(ネタばれ注意です)

もう毎回、園監督の作品は楽しみにしているのですが、毎度その世界観に圧倒されます

ここ数本の映画は忙しくて見逃してしまいましたが…

引き出しが多過ぎる園監督だから、今回はどの引き出しの要素が強いのか、そのバランスが楽しみなのです。

今回は社会派×ファンタジーを、長谷川博己さんありきで捌き、メインの劇中歌の作詞作曲も園監督自身というところで、統一感のある料理に仕上げる…!!!…といった強引…もとい悪魔的…もとい…園監督マジック…が拝めました。

近年、どんどん映像が垢抜けている感じがしております
エログロとよく言われますけど、初期の頃から色んなテイストの作品があるので、それだけではありません
とにかく社会派と世間に言われれば、そうでないのを撮りたくなり、エログロと言われれば、また違う路線をいくという天性の天邪鬼ぶりが魅力で、それ故に今回はどんなどんな??ワクワクってなってしまうのです。

“朝まで生テレビ”をもじった番組が初っ端からツボで、朝生が好きな私としてはたまらない冒頭でした
あの方達に…演技させている…演技している…ゲラゲラゲラ
悪い冗談ですね

戦後70年。キーワードは原爆投下を意味する“ピカドン”。そこから日本はまた始まった。幾多の生産と破壊と再生を繰り返しながら。オモチャがガラクタになりまたオモチャになる。亀ちゃんの夢も膨らむ。日本の夢も膨らむ。
そしてそれは破壊と隣合せなわけで…でも再生…があると信じたい。

それにはやはり、足元を見つめ直さねばなりますまい、というわけで、またボロいアパートに舞い戻る。。

作品の世界観はループする。あぁ、すべてが繋がっていく。面白いほどに!

亀ちゃんの破壊っぷり、ゴジラみたいだったなぁ

そうだ、その一方で、変わらないものもある、というのが良かったです。麻生久美子さん演じる元同じ職場の女性の存在。西田敏行さん演じる地下のおじさん。両者は陽の当たらない存在だけども、頑固で誠実で温かくて優しい。そういう、普遍的なもの。

どんなにハチャメチャに思えても、監督自身が、脚本と核となる劇中歌を作詞作曲できるのは凄い強みだと思います。作品全体に統一感が生まれますし

監督が音楽に無頓着だと、せっかくの作品世界を壊しかねないし…。
特に、クラシック音楽の使われ方に違和感があると気になって仕方なくなってしまうのですが、園監督作品はしっくりきて嬉しくなってしまいます

そんなわけで、今日は幸せだーな気分です

『MOVIE BOX-ING ムービーボクシング 2ノーパンツ・ガールズ』(2004)

2014年06月21日 | 園子温監督☆映画
『MOVIE BOX-ING ムービーボクシング 2ノーパンツ・ガールズ』(2004)

【作品概要】
毎年函館で開催される<函館港イルミナシオン映画祭>が主催するシナリオ大賞の優秀作品を映像化する短編オムニバス企画“Movie Box-ing”の第2弾作品。今回は、大賞を受賞した森田剛行の『ノーパンツ・ガールズ』を基に、3人の気鋭監督が独自の切り口で競作。作品は、現役学生の月川翔監督による第1話「ノーパンツ・ガールズ」、「アニムスアニマ」の斉藤玲子監督の第2話「ノーパンツ・ガールズ外伝」、そして「自殺サークル」の園子温監督が描く第3話「大人になったら」の3本で、同一の原作とは思えない三者三様の世界観が展開していく。
「ノーパンツ・ガールズ」、「ノーパンツ・ガールズ外伝」、「大人になったら」(ツタヤディスカスより)

【感想レビュー】
園子温監督の過去作品を巡る旅。ついに20作品目です。
なんというか…、タイトルにもめげずに借りて観ました。
『性戯の達人 女体壺さぐり』や『うつしみ』も観たので、もう怖いものなど無いのだ‼ガハハ的なテンションであります

これは、原作『ノーパンツ・ガールズ』を元に3人の監督が撮ったものなのですが、三者三様でそういう意味では面白かったです。
小学生の高学年の女の子達が、退屈な日常を憂いている…というシュールで、でもありそうな話。(ノーパンという生理的に受け付けない状況にはあえて目を瞑ります…)

【第1話 月川翔監督】
「ノーパンツ・ガールズ」
大人びた女の子達と子ども全開の同級生の男の子達の対比が懐かしく思いだされる、まずまず爽やかな作品でした。

【第2話 斉藤玲子監督】
「ノーパンツ・ガールズ外伝」
女性の監督だからなのかは分からないですけど、女性が主体の目線は居心地が良かったです。

【第3話 園子温監督】
「大人になったら」
お目当ての作品。これは…やっぱり三作品の中でもぶっっ飛んでおりました…

少女達の、退屈過ぎる子どもである状態から早く“大人になりたい”という願望を映像化した、ちょっとリアルでショッキングな内容です。
サーッと流して観れば、変化球のアダルトビデオ的な要素を楽しめばいいのかも…。私には分かりませんが…

ただ、園監督らしいなと思ったのは、成人女性達が小学生の格好でランドセルを背負っているシーン。
内面の“大人”を、可視化しているのです。しかしそれ位ならまだありそうなのですが…、教室のシーンで、女性教師が教壇に立って、静かにしなさい!とクラス中に呼びかけるシーンで、教師が子どもになり、大人になりたい少女達が成人女性の画になるところ。
しかし、廊下に彼女達を呼び出して諭すシーンでは、教師が成人女性に戻って、少女達は元通り子どもの画になるところ。

そういえば、『Strange Circus 奇妙なサーカス』(2005)の中にも、成人した女性が小学生の格好でランドセルを背負って歩くシーンや教室に居るシーンがあります。それは勿論、理由があってのシーンなのですが、画だけ切り取ると、アダルトビデオと紙一重な感じに…!
この短篇映画に、撮るにあたってどのような裏話があるのかは分かりませんが、原作がある中で、画によってある種の二重の概念を持ち込む辺りが、園監督っぽいな…などと偉そうに観ました…。

『夢の中へ』(2005)

2014年06月18日 | 園子温監督☆映画
『夢の中へ』(2005)

監督:園子温
鈴木ムツゴロウ:田中哲司
タエコ:夏生ゆうな
ケイジ:村上淳
ユウジ:オダギリジョー
ランコ:市川実和子
町田:岩松了
鈴木の父:麿赤兒
演出家:温水洋一
タエコの友人:小嶺麗奈
手塚とおる

【作品概要】
園子温監督が、自身をモデルに描く不条理ファンタジー。照明を使わず1シーン1カット、わずか2週間で撮影された。

【感想レビュー】
強烈だった…!!!
とにかく面白くて面白くてヒーヒー笑いながら観ました。
劇団の中の話しが出てきます。
それで、稽古で演技をしているシーン、本番の舞台で演技をしているシーン、またテレビドラマで演技をしているシーンなど、演技をしているシーンが劇中で沢山あるのですが、それ以外のシーンも、1シーン1カットで撮っているので、その境目がぼんやりしています。夢なのか現実なのか現実で演技しているのか…が判別出来ない時間帯が多くあります。
でも、あるキーワードで戻ってくるというか…

状況もさることながら、台詞が面白いです。役者人も素晴らしくて
田中哲司さんは、職人的な性質の役者のように思うので、観ていて安心感があります(どんなに壊れた役でも…)。好きな俳優さんです
オダギリさんは、もちろん演技なのですが、元々内包しているものが滲み出る怖さが…爆発していました
なんてピッタリな役なの…

ある電車のシーンがとっても印象的なのですが、レンタルDVD特典に数テイク入っていて、興味深く観ました。微妙に台詞が違ったり、役者の動きも違うし、走っている電車なので、太陽光の入り方も刻々と変化していきますし…。生ものですね…。
そして何より、使用されたテイクは、所々台詞が聞き取りにくかったりもしたのですが、エネルギーが爆発していて、本当に素晴らしいし、何回もリピートしてしまいました
このシーン、あり得ない、不条理な状況設定を作りながら、それに耐えながら、抑圧していた感情を爆発させる素敵なシーンです

園監督のヒリヒリする自我が、色んな役者の台詞に振り分けられていて、実は社会派なのに、状況は卑猥だったりコントみたいだったりの面白い映画です

好きな台詞↓
『俺はいつから俺じゃないのか。そんな事は関係ない。そうだ、そんな事は関係ない!20代の頃、無数に居た俺からチョイスした今のこの状態は、俺が選択したんじゃない、金星人のせいだ!』

『俺はチェーン店じゃないよ!俺は俺のチェーン店じゃない!』

『HAZARD』(2002)

2014年06月14日 | 園子温監督☆映画
『HAZARD』(2002)

監督:園子温
シン:オダギリジョー
リー:ジェイ・ウエスト
タケダ:深水元基
椋名凛
萩原明子
村上諭
石丸謙二郎
ウォン:池内博之

【作品概要】
撮影から4年たってようやく公開される、オダギリジョー“幻の”主演作。退屈な毎日を嫌い、NYに渡って一獲千金を夢見る、あぶない男の熱い青春ドラマだ。
1991年、日本。「退屈なだけの日曜日、どこへ行こうか」シン(オダギリジョー)は平凡な学生生活を送っていた。恋人との冷めた関係、退屈なクラスメート、希薄なリアル。なにも無い日常から一刻も早く抜け出したかった。そんなある日、大学の図書館で彼は「地球の危険な歩き方」という1冊の本に出会う。そこでNYの犯罪都市「HAZARD」について書かれたページを目にする。眠たい日本を飛び出す覚悟を決めたシンは、その本を手に握りしめ、走り出す。(Movie Walkerより)


【感想レビュー】
観ていて、真っ先に思ったのは、『アートフル・ドヂャース』や『すべては夜から生まれる』の空気感。

バブル崩壊後の日本の若者の閉塞感が描かれています。希望を見出せなくて、別の場所に何かを求める自分探しの旅…モラトリアム。
作品の中で、“眠過ぎる日本。だけど、眠れない日本。”というナレーションが何度か入るのですが、何て端的に心情を表しているのだろう!…と思いました。

アメリカ人と日本人のハーフのリーは、アイス屋を営んでいて、間接照明が映えるとってもお洒落な部屋で暮らしているのだが、オダギリさん演じるシンがベッドから起き上がったら、そこは羽毛だらけの荒れたベッドだった…。さっきまでは輝いて見えていたのに…!
深水さんの演じるタケダは、いつアメリカに来たのかさえよく分からない人物。よく分からない者同士だけど、シンパシーを感じて一緒につるんでいる。
このつるんでいる三人の画が、とてもバランスが良くて、素敵です。身体全体で爆発的なエネルギーを表現していてます!!アクションシーン…イイっ‼
衣装もとってもお洒落
対岸から摩天楼を三人で眺めるシーンが何度か出てくるのですが、うず高く積まれた廃棄物の山、詩を朗読するリーとシン。心象風景が画で表現されていました。青臭い感じがかえってイイ…‼
もどかしいながらも、持て余しているエネルギーに、若者たちの若者ゆえの輝きを感じる。まるでむき出しの感性が歩いているよう。
冒頭の音楽…格好良過ぎます…!!
ボリュームが大き過ぎて、オダギリさんの声があんまりよく聴こえないのだけども

ニューヨークのカラフルなネオンをボカした映像も、動きのあるカメラワークも、何か街の勢いを感じさせるし、登場人物達が感じているニューヨークのイケてる空気感が伝わってくるようです。
終始、とにかく格好良い映像と魅力的な役者陣と音楽に魅了されっぱなしでした

園作品の中でもかなり好きな作品になりました

【追記】
観て数日経って、あのベッドから起きたら羽毛だらけだったシーンは、眠い日本を飛び出して来たはずのシンのニューヨークでの未来を暗示しているニュアンスの方が強いのかなぁと色々思い始めた。少年時代のシンの心象風景。飛びたいけど、飛べない。→飛べたけど本当は飛べて…ない?→などなど。
やっぱりラストの終わり方も好きだなぁ