前回の続きです。
この土日で最後まで書ききる予定でいたので書きます。
14. The Loop
この曲が始まる前、モリッシーはこう言います。
People will think I am a singer.
I am a psychiatrist. Your psychiatrist.
Too bad for you.
人は私のことを歌手だと思っているが、私は精神科医だ。君たちの精神科医だ。がっかりだね。
私はこれを聞いて、
「何をおっしゃいます」
と口に出して言いそうに。モリッシーの謙譲のsarcasm(英国人特有の思っていることと反対のことや大袈裟に言うユーモア…と言っても時に笑えないことも)だと思いました。と言うのも、モリッシーは自分のことを徹底的に「シンガー」と思っている。ずーっと前から、思っている。
前回のブログでも引用しましたが、
「考えているのは歌のことばかりだ。一日中、一晩中、声、歌、それだけを考えている。私は捕われている、身を捧げている、どう言ってくれても構わない。でもこれが、私の人生だ」
というほどの「シンガー」なのに。ていうか、精神科医さえどうにもできない精神状態に陥ったモリッシーファンたち。そして治療とか、どうにかなりたいなんて思ってもいない私たちにとって必要なのは、お医者さんでなく、目の前の「シンガー」であることを重々承知の上での、自虐的発言、いわゆる「そんなことないよ待ち」発言に笑いました。
このThe Loopは、2021年のRiot Festで2009年ぶりにやるまでは、まったくやってなかったのにいきなり定番化しました。すごい。そういうことがモリッシーのライブではけっこう起こる。
この曲ではマラカスさばきが凄すぎ。昔よりはロカビリー味が薄れたもののウッドベースもかっこいいです。バックドロップは、マンチェスター・サルフォードを舞台にしたドラマ『コロネーション・ストリート』の名物女優ドリス・スピード。
(Photo by ツネグラム・サム)
“I'm still right here”というところで「ここ」を指差していました。「ここ」ってどこかな。新豊洲?
I just wanna say
ただ言いたいのは
I haven't been away
どこにも行っていないよ
I'm still right here
まだここにいるよ
Where I always was
いつもいたところだよ
So one day, if you're bored
だからいつか君が退屈したら
By all means call
もちろんいつでも連絡して
Because you can do
君はそうしていいから
But only if you want to
そうしたいならだけど~!
って、いつもここにいる、物理的な距離関係なく私たちの心の中にいる、マラカスを凶器みたいに振りまわしている「シンガー」に見惚れました。
15. Please, Please, Please Let Me Get What I Want
この前奏が始まると、みんな一瞬息をのんでそして「うぉーーーーー」。美しい。ただひたすら美しい。バックドロップは、アメリカの劇作家リリアン・ヘルマン。ハードボイルド作家であったダシール・ハメットの恋人。
「ザ・スミスの原曲を超えた」と言っていた人がいたけど、ザ・スミスの曲だったことすら私は忘れていた。今ここにいる人が、今の気持ちをすべて込めた曲。
So please, please, please
Let me, let me, let me
Let me get what I want
This time
の部分、仕舞には、祈るように両手を重ねて、震わせPlease, please, please, please, please, please‼と叫んでいました。省略しPleaseしか言っていないのに、何よりもモリッシーの渇望が伝わってきた。
(Photo by ツネグラム・サム)
Twitterでなみすけがこう言っていた。本当にその通り。
16. Everyday Is Like Sunday
美しいピアノソロに続き、太陽の光が差すかのように始まったこの曲。モリッシーはタンバリンを高く上げて打ち鳴らしている。バックドロップはセシル・ビートンの撮ったガートルード・スタインの連続写真。アメリカの詩人、美術収集家、パリに画家や詩人たちが集うサロンを開き、芸術家たちと交流する中で、現代芸術と現代文学の発展のきっかけを作った人だそう。モリッシーは尊敬しているのか、最後バックドロップの方に手を差して紹介(?)みたくしていました。
(Photo by ツネグラム・サム)
こんな美しいメロディーにのせて人が押し寄せてきて胃腸はバリアで押されて死にそう。内臓が飛び出そうになりながらタンバリンに煽られ「On your face! face! face!」とやるのは恍惚の喜びでした。私はもう死んであの世でこの歌を歌っているのかもしれない⁉と思いながら。
17. Jack the Ripper
こライトは真っ赤になり、煙もうもう。とうとう地獄かと思いました。前奏からモリッシーはヘンな声で「あ~あ~」と叫んでいる。バックドロップも恐ろしいアメリカの連続殺人鬼チャールズ・レイモンド・スタークウェザー。19歳で11人を殺害。切り裂きジャックの歌、おぞましさアップです。ドライアイスの煙のにおいがすごくて、むせかえりそうになりました。「今日は多めに焚いてます」といった感じ。
モリッシーは一度ひざまずいておもむろに立ち上がり歌い始める。
Crash into my arms
I want you
You don't agree
But you don't refuse
I know you
で両手を広げてすべてを受け容れるようなしぐさ、ひとことひとことこっちの脳天にぶち込むように歌い、にぐっときます。
そして最後、歌詞にはないのに
“Rats, rats, thousand of rats, millions of rats, their gleaming eyes…these things I give you”
と歌っていました。引用は何か、気になり過ぎて調べたところ『吸血鬼ドラキュラ』の“‘Rats, rats, rats! Hundreds, thousands, millions of them”という一節のもじりではないかと。鼠、鼠、何千匹、何万匹もの鼠、そのギラギラした目、お前にあげたもの…ああ恐ろしい。モリッシーの引用してくるもの、その教養も恐ろしい。何よりも、この曲でライブが終わってしまうことが恐ろしい(涙)。
18. Sweet and Tender Hooligan
アンコール。T.REXのピタTに着替えてお出まし。メンバーひとりひとりの日本への御礼がありました。
なぜT.REXか?宙也様に教えていただきましたが、なんと11月28日はT.REX初来日公演@武道館だったそう。
「モリッシーさんはこの日付を知っていたんでしょうか?偶然だとしてもすごいですね」
と言ってらっしゃったので「驚異の記録マニアだし日付を調べる習性があるので(自伝などの記述では間違ってることもありw)そうだと思います」とお答えしました。ほんと、たぶん狙ってきたのだと思います。
(Photo by ツネグラム・サム)
ピタTで改めてわかるモリボディー!!
このモッシュはすごかった。立つ場所は確保できず、窒息し、内臓がちぎれるかと思った。この時ほど、3時間前にキメたレッドブルと、整骨院で仕込んだ置き鍼、そして16歳から行っていたthe 原爆オナニーズに感謝したことはありませんでした。激モッシュでの身の置き方に慣れていて、よかった!!
3月のロンドンでもこんな感じでしたが、
日本でも人が降ってきました。これはハードコアパンクのギグでしょうか?いいえ64歳の歌手の40周年ライブですw
後から降って来た人は知ってる子だとわかりました。「母さん、頭の上からヨウイチが降ってくるよ!!」
↓犬神ってるヨウイチの長い脚
バックドロップにはアメリカのシットコム『サンフォード・アンド・サン』。登場人物のフレッドと仲の悪い義姉エスターおばさんが喧嘩していて(お約束らしい)煽られるwあれよあれよという激しいサウンドの中、あらかじめ首リブ部分がカットされていて「引きちぎり」やすくなっているTシャツを破り捨てて投げてライブは終わる。
(Photo by ツネグラム・サム)
投げシーンを奇跡的に写したKeiko Hirakawaさん撮影の一枚が素敵すぎて、プリントして額に入れました。モリッシーの身に付けていたものが与えられる、「聖体拝領」のよう。
このTシャツをゲットした5~6人で分割。私もいただきました。この分割をさばいてくれたスタッフのお兄さんが頼もしくて仕切り能力と記憶力が凄くて、ただのひとりも「ズル」を許さず管理してくれて凄かったです!!ありがとうございました。
帰ってすぐにジップロックに。コムデギャルソンのアヴィニヨンの香りがまだする。私からもするけど(つけているから)、またちょっと違う。
そんなわけで、5時間の新豊洲はあっという間に終わってしまった。それなのに、自分の中でぜんぜん終わらない。どうしよう。どうしようもしないけど。
とりあえず、ライブの記録は終わり。
最後のバックドロップ。ジャン・コクトーの映画『詩人の血』。
そうそう、ライブ後。色んな人にあいさつしたり写真を撮っててふと、パーカーにつけてた“WITHOUT MORRISSEY THE WORLD DIES”バッジを、鬼モリッシュ状態時に落としてしまったことに気が付いた。Londonでもらった大切バッジなので三千人が追い出された豊洲PITに、バックドラフトの消防士のようにひとり戻り、取りに行った。
だだっ広い空間、ステージ前のフロアで私を待っていた。
傷だらけになってたけど見つけた。「あったーーー!!」と叫ぶが誰もいない。私を咎めに来たスタッフさんに「ありましたーーー!」と喜びを強要。「良かったスね」と言ってくれた。ほんとに良かったス!!
「そんなことないよ!」って人には言われるかもだけど、11月28日にあの場でモリッシーを観た人はわかってくれるかも、
モリッシーがいなきゃ、世界は死ぬ。
モリッシーごときで世界、死なないかもだけど、私たちの「世界」は死ぬ。
こうありたい世界。こうでいたい世界。
モリッシーが日本に来てくれたから、これからも私たちの「世界」は続く。
またきっと、モリッシーは日本に来ると思う。