ずっと楽しみにしていた、英国在住の保育士でありコラムニスト、
ブレイディみかこさんの「いまモリッシーを聴くということ」
が、4月28日に発売されました。
ひと言で言って、これは、「いまのモリッシー」を好きなファンに
とって「助かる」、福音の書ともいうべきすばらしい書籍です。
「いまのモリッシー」を好きなファンなら、何回か以下のような
質問なり、疑問を投げかけられたことがあるのではないでしょうか?
「モリッシーってスミスの?まだいんの?」
「モリッシーってひきこもりの代表なんでしょ?」
「モリッシーってネクラ歌手?」
「モリッシーってホモ?」
「モリッシーって差別主義者なんでしょ?」
「モリッシーって極右なの?」
「モリッシーって極左なの?極右じゃないかったの?」
「モリッシーってすぐ怒るんでしょ?」
「モリッシーって濡れたスニーカーでひっぱたきにくるんでしょ?」
「モリッシーのファンてみんな弱々しいオタクなんでしょ?」
「う~ん、違うんだよ、モリッシーってね…」
とちゃんと説明する気も失せるくらい「元スミス」の「モリッシー…」のイメージは
ひとり歩きしていました。それは日本だけでなく、本国英国のメディアでさえ、
発言や歌詞の断片をとりあげて「またモリッシーが、あ~だこ~だ!」と
書きたてる。
そしてモリッシーって「言い訳」しないんですよね。
だから是正もされないまま、日本に「輸入」された「また聞き」の
情報は、さらに「モリッシー…」として広まっていく。
今回、ブレイディさんの本で思ったのは、モリッシーという人間はひとつの
あまりにも興味深い「ドキュメンタリー」であり、恣意的に
「ワイドショー」にも「ファンタジー」にも「BL小説」(笑)にも
して一時的な消費をしたらもったいないということ。
モリッシーはミステリアスゆえに、とかく「各論」で語られがち
ですが、「総論」で語ってこそ、いろいろな謎が解けていくと思います。
ブレイディさんのモリッシー論展開の構造を(ネタバレにならない程度に)
簡単にまとめてみました。
たとえば今までメディアや、(主に日本の)評論家の間では、この↑図表の黄色の部分、の
「モリッシーの政治的スタンス・発言」
「モリッシーの愛(スキャンダラスよりに)」
がそれぞれバラバラに個別で取りざたされることが多かった。
今回のブレイディさんの本では、モリッシーがザ・スミスとして出てきた時から
現在にいたるまでの、この↑図のまわりのピンクの部分、
「英国の社会・政治」
という枠組みから背景としてとらえ、なぜ時代ごとにリリースされた
「モリッシーの音楽」
につながるのかを書いてくれているので、とてもうなずけます。
ブレイディさんの本を読むということは、「モリッシー」という総論に
少し、近づけることになると思います。
「モリッシーって女々しいオカマの…」と言われた時に
「いや、モリッシーは強いんだよ!!なぜなら…」
と返す時の「裏付け」が盛り込まれているので、自身の「モリッシーを好き
な気持ち」の支えになる要素が多く、とても心強いと思います。
まあ、人に何か言うためだけでなく、自分が「なぜモリッシーを好きか」という
「確認」もできる本です。ただしブレイディさんの意見は「強い」ので
「それはブレイディさんの思ったことじゃないの?」と思っても、
そこで負けないで(笑)「いや、私はモリッシーはこうだったんじゃないかなと
思う!!」と考えてみるのも楽しいのではないかと。
何が「正解」ではなく、モリッシーがこんなにファンに考えさせてくる、
問いかけてくるアーティストであるということを、ブレイディさんが今のこの
時代に、大きくテーブルの上に広げてくれたことが何よりもうれしいです。
この本を読んでいる間、各章ごとにモリッシーの音楽が頭の中で鳴りました。
一番大きく鳴ったのは2008年にリリースされた“All You Need Is Me”。
ブレイディさんもお気に入りなようです。
この歌詞が、この本でブレイディさんが「新定義」としてまとめていた
モリッシーの「痛快」さ加減を端的にあらわしているように思いました。
Morrissey - All You Need Is Me (lyrics)
You roll your eyes up to the skies
Mock horrified
But you're still here
Because all you need is me
目をまわして
天を仰いで
これ見よがしに嫌って
そのくせ君はまだここにいる
君に必要なのは僕だけだからさ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
★以下は、まだ読んでいない人は読まないでください!
涙が出た一節。
モリッシーの渇望、愛、祈りのような「歌うこと」
に関する名文。人間であることの哀しみと美しさが
表されている、ブレイディさんの筆力に脱帽でした。
けっして叶わぬ願い故の美しさ。
友情でも恋愛でも家族関係でもいい。
一緒になれば計り知れないほどの素晴らしいものを、
他の何物にも代えがたいい時間や空間を作り出すことができる
唯一無二の相手だとわかっていながら、そうとはならない関係
というのが世の中には存在する。
世界とは大前提として残酷な場所だからである。
そして残酷な場所に生きているからこそ人間は祈ることを
やめられないのだ。
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