「モリッシーの心の平和」 日本語訳 Part6
◆私は南ロンドンっ子なのですが、私たちはブラジルで開催されたワールドカップで
会っていたかもしれないですね。なぜイングランドはワールドカップで、ぞっとするような
ヘマをやらかしたんだと思いますか?
ワールドカップ開始直前、私はマイアミでイングランド代表チームと同じホテルに泊まっていた
んだ…そして開始とほとんど同時にイングランドの出番は終わってしまったけどね。
スティーブン・ジェラード(リバプール所属のイングランド代表選手)がスカイニュースに
出てきて「この試合で起きたことのすべての責任は、私と選手たちにある」と言ったのを
聞いた時、すごく変だと思った。誰が彼に責任をとって欲しいなんて思ってる?ローマ法王か?
◆ついに、アメリカは「サッカー」が何だかわかってきたみたいですね。あなたの従弟
のロビー・キーン(アイルランドのサッカー選手、正しくはモリッシーのはとこ)が、
母国の昔かたぎなサッカーチームではなく、ロサンゼルス・ギャラクシー(LAにホームを
置くアメリカのメジャーサッカーチーム)でプレイし始めたことについて、どう思いますか?
彼は素晴らしいよ。最初の20秒間で得点するからね。彼は何事に対しても何気なくて、
のん気なんだ。それってもちろん、自信があるからだと思うよ。彼は本当に最高さ。
◆あなたがチーヴァス(LA郊外カーソンにホームを置くアメリカのメジャーサッカー
チーム。メキシコにもチームを持ち、ファンはメキシコ人が多い)のユニフォームを
着ていたのを見ました。あなたはメキシコと強い関係がありますが、アメリカでの
メキシコ人の扱われ方をどう思いますか?
あー、まるで王様みたいだよね!いや、ごめん違う、冗談だよ。私のバンドでこの10年
プレイしているギタリスト、ジェシーはメキシコ人なんだ。ある夜ロスで、警察官が近寄って
きて、私には礼儀正しく話しかけてきた。ところがジェシーには「どこのレストランで働いて
るんだ?」と聞いたんだ。この話が、端的に状況を表しているよね!現代における、最も
偉大なギタリストのひとりのことを、彼の肌の色が茶色いからというだけで、食うために
皿を洗っていると見なすんだよ。もちろん彼はいつかは、皿洗いをしなきゃだけど…
◆マーク・ギル(映画監督)と、ジョイ・ディヴィジョンのボーカリストだったイアン・
カーティスの映画『コントロール』をプロデュースしたオライアン・ウィリアムズが
あなたには無許可で、あなたの伝記映画を撮ることを知っていますか?
タイトルが“Steven”らしいね、それしか知らない。私はまさにその名前から逃れる
ために、大陸を横断してきたんだけどね。タイトル以外のことは、まったく何も知らないよ。
◆もし英国王室が廃止されるとしたら、あなたは誰が大統領にふさわしいと思い
ますか?
えーと、女王が死んだらすぐに、どの道すべて終わるよ。王室は、静かに廃止されていく
だろう。このことにはまったく疑いを持ってないよ。なぜ英国王室が自分たちのPRに必死
かわかるかい?そうぜざるを得ないんだ、自分たちを好きな国民が誰もいないって知って
るから。なんで自分たちの立場に固執し続けていると思う?自由に使える自分たちの金が
ふんだんにあるから。と言うか、基本的に君たちの金なんだけど、それ。もし王室が廃止され
たら、それだけであまりに幸せで、誰が総理大臣になろうと気にしないよ。アサド・ファミリー
のように、奴らの時代は終わったんだ。「キャサリン妃殿下」と呼ばれているケイト・ミドルトン
が、我々に対する最後の一撃でなきゃいけない。
どうやったらただの人間が、王にふさわしく気高き「ロイヤル」になれる?不可能だよ。
奴らは自分たちに反対する人々を誰でも虐殺してきたから、最初から「ロイヤル」になれた
だけなんだ。尊敬に値するわけがないだろう?
◆もし国民投票(9月18日実施)で、スコットランドの英国からの分離独立が
が認められたら、悲しいですか?
いいや、スコットランドは、大英アホ帝国から切り離されるべきだ。私はスコットランド
が大好きで、スコットランド気質が大好きで、彼らにはこれっぽちもウエストミンスター
(英国の国会議事堂)など必要ない。悲しいなんて正反対。
◆あなたはイスラエルで何回か演奏する機会がありました。イスラエルに対する
印象はいかがでしたか?
あまりに強烈だった。人々は素晴らしく、いつも私に良くしてくれるんだ。
◆タリブ・クウェリやシニード・オコナー、スティービー・ワンダーらから支持されている
「イスラエル文化的ボイコット」(イスラエルのガザ攻撃などに対する抗議運動)
が呼びかけられている今も行きたいですか?またデズモンド・ツツ(南アフリカの
平和運動家)は、イスラエルをアパルトヘイト時代の南アフリカと同じだと批判して
いますが(イスラエルのパレスチナ人に対する扱いに関して)。
政府というものが、人々の願いを表しているものだと見なさないことが大切だと思う。
確かに、人々の願いが政府そのものであることはめったにないし、珍しいことだ。それゆえ、
アラブの春(2010年から2012年にかけてアラブ世界において発生した、前例にない
大規模民主化要求デモ・騒乱の総称)が起きた。イギリスの人々も政府に賛成しているわけ
じゃないし、イスラエルだってそうじゃない。すべての大統領や首相は戦争や紛争が大好きな
んだ。なぜなら、とても簡単に愛国者からの支持を獲得できるから。サッチャーは、アルゼンチン人
を殺した時この上なく幸せだったし、ブッシュも大喜びで、誰かれ構わずの頭上に爆弾を落とした。
戦争とは支配者たちにとって、デカいヤマだ。国民にはたいてい、口をはさむ資格がない。
ダマスカス(シリアの首都)でライブをする話があったことがある。アサドが支配する国だからって
断れるかい?アサドのシリア支配はヒットラー的だった。国民には基本的な人権もなかった、
ということは今や皆周知の事実だけど。
◆バーバラ・キャッスル(40年以上にわたって政治家を勤めた元労働の指導者)が作成した、
地位の高い小児性愛者たちの名前がリストアップされた書類の束を、英国のM15(保安局、
英国国内治安維持に責任を有する情報機関)が、押収したというニュースに関してどう思い
ましたか?
驚きもしなかったね。その書類の行方がわからなくなっている、ということもたいしたことじゃない。
人が読んだら、きっとそこに書いてあった名前は忘れられないだろうしね。同じように、王室も
かの有名なプロフューモ事件(英国保守党の政治家プロフューモがソ連外交官のコールガールと関係
した事件)に関するファイルは、フィリップ王子死後50年後まで人目にさらされないようにすることに
された。これらのことから自分で結論づけてみて。近代の保守党政権が、税や不景気対策や
リサイクルなどの政策をおしつけてきたやり方はまったく茶番だったね、私たちは素直に言うことを聞くと
見なされていた。その一方で政府は、余りに長い期間、小児性愛者たちの実態を隠ぺいし、その悪い
連中のことはさておいて、他の人間のことをけしからんと言ってきた。
先週、法王は、カトリック教会において、その司祭や主教や枢機卿の2パーセントは小児性愛者だと
発表していた!こんなことがトップではなく、5番目のニュースだったんだ!そして我々はカトリック教会
に対して信仰があるか問われている!世界はおおやけに、気が狂ってしまっている。
◆ジョン・ライドンがジミー・サヴィル(英国の国民的DJ、司会者。死後、生前に児童に対する
数々の性的虐待を行っていたことが暴かれた)のことを「俺たちがしゃべっちゃいけないことになっ
てる、あらゆるヘドが出そうなことをやってる奴」と糾弾している1978年のラジオインタビューが
発掘されました。ジミー・サヴィルに対する印象がどんなものですか?
児童虐待問題に関しては、なんて言ったらいいかわからない。どんなものか、想像すらできない。
脳が、それについて考えようとしないんだ。サヴィルの件は、完全に英国社会を変えた。明らかに
皆を憂鬱にさせた。しかし我々はすぐに、例えばジョニー・デップが金髪のかつらをかぶって
太い葉巻を吸ってるような、くだらないハリウッド話しに興味を持ってしまうのだが。ジミー・サヴィル
は、マンチェスターのBBCでもたくさん仕事をしていたし、60年代や70年代にクラブ巡業もしていた。
我が家の年上の家族たちは激しい息遣いで彼の名前を口にしていた。なんでかわからなかった。
しかし、英国の「ユーツリー作戦」(サヴィルのスキャンダルを受けて始まった児童性的虐待に関する特別捜査)
は長続きしないんじゃないかな。そんなことをやっていて、他の国が、我が国のことをどう思うか想像してみるといい。
小さい子供たちがどう思うかも想像してみて。そしてよくあることだが、サヴィルの被害者たちからの報告を
無視してきた警視総監たちはお咎めなしなんだよ。彼らは当然、罪深いよね。なぜいぶり出されないんだろう?
◆ビル・クリントンは麻薬戦争に関して「アメリカのここ50年間の外交政策の中で一番の失敗」
と語りました。そしてリチャード・ブランソン(英国ヴァージン・グループの創設者)のマリファナ合法化
キャンペーンに賛同しています。麻薬戦争に関するあなたの立場はどのようなものですか?
ヘロインとコカインとアヘンは自然の植物だからややこしいよね。世界に、あっておかしくないものだから。
そして人類を救うために必要だとだらしなく思ってる人がいる。それにたいていの、よくある痛み止めの
基本的成分でもある。明らかに必要なものなんだ。「麻薬戦争」というより、思うに今は、薬すべての戦争が
起きていると思うよ。薬には、あらゆる形態のがんを引き起こしている大きな責任があるから。
君が飲んでる薬はすべて、何らかのダメージを体に与える。がん治療のために飲む薬でさえも、
がんが体を滅ぼす前に君を殺すんだ。ほとんどの人々が今や、処方された向精神薬に頼っていると
いうことは興味深いね。それなのに世界は今までよりずっと不幸になってきている。
◆あなたの健康に関しては、数多くの噂が飛び交いました。人々があなたの病状のような
個人的なことについて推測することは、あなたを動揺させたりしましたか?
うーん。この18カ月間の間で、私が運び込まれた病院の数を考えると、それは無理もないことで
驚かないけどね。全部が一度に私に襲いかかってきたという感じだよ。なるようにしかならない
としか思わなかった。急性の高熱、出血性潰瘍、食中毒、バレット食道…とても信じられないよね。
一番ひどかったのは、この6月にボストンで急性の高熱で入院した時。6時間もの間、意識混濁
した…まったく意味のないことをしゃべり続け、やめられなかった。人生においてそこまで怖い経験
をしたことはないよ。そしてもちろん、ライブをキャンセルしなければならなかったことについて
意地悪なコメントもされたしね。実際病院では、私の精神を落ち着かせるために、治療として
ヘロイン投与がなされた。でも、だからってなんだ?最近、あまりにたくさんの病院に入っているが
それだからって私がいなくなる、という理由にはまったくならないよ。
◆ツアーの賢人であるあなたの、次なる予定は?アイルランドツアーは視野(horizon)
に入っていますか?
地平線(horizon)、そんなものがある?それが問題だ。
◆Rがつく言葉(禁句の意)を言うのが大嫌いなのですが、引退(retirement)
も選択肢としてあるのですか?
ああー、もちろん、すべての体の不調は私への警告サインだからね。そして我々は皆、死に
向かってまっしぐらに進んでいる。死とは、遠回しにこっそり君にこう教えてくれているもの
に違いない。君の今の生き方は、たぶん君向きのものじゃないよ、ってね。
(おわり)