▲ 鈴木靖民 『倭国史の展開と東アジア』 2012年 岩波書店 定価10500円+税
鈴木靖民 『倭国史の展開と東アジア』 2012年 岩波書店 その1ー2
それでは、以前より、都出比呂志とともに、古代国家形成に関する試論を提起している鈴木靖民 『倭国史の展開と東アジア』 2012年 岩波書店 の中から、首長制に関わる議論を紹介・要約・抄録してみたい。
第Ⅳ部 第12章ー15章が 首長制社会論の視角から (311頁~398頁)
第12章 日本古代史における首長制社会論の試み
最初に、首長制にかんする人類学の概念を日本古代史に適用した石母田正の紹介からはじまり、日本古代史にそれを引き次ぐ研究者の紹介、また首長制概念の曖昧さの残る議論を越えるため、新進化主義のサーヴィス、サーリンズの紹介をしながら、首長制論の可能性をさぐる作業をおこなうと告げる。
本文でとりあげられている論者
石母田正
吉田孝
大町健
原秀三郎
鬼頭清明
一 首長制概念の諸概念
E・R・サーヴィスは社会構造の分析から社会の発展段階を
バンド・部族・首長制社会(首長国)・国家と区分。
首長制社会は、最高首長を中心とした円錐形クランという共通出自集団を基盤とした序列を社会組織の基本とする。
▲ 円錐形クランに統合された首長国モデル サーリンズ『部族民』 から
系譜的に上位の出自集団の首長が地域長となりさらに地域長間のうちで系譜上上位のものが、最高首長となる社会
首長の地位の形成のされかた
① 親族組織で首長の地位が形成される場合
② 土地の開拓者・所有者・征服者の側面を全面に出し、血縁関係が後出する場合
中村伸造 「東南アジア首長制の構造」 『思想』535号 1969年
川田順造は、首長位の継承は直系継承または傍系継承で安定するとし、その条件として最高位が他の首長首長位から卓越していること、後継者を選定する補佐機関が協力で安定していることのどちらかが必要であるとする。
首長位の継承は特定血縁集団における過去の最高首長の子孫に限定。
選定機関は継承資格のないもので構成される。
ただ
実際には強固な安定政権はなかなか存在しえず、実力による首長位継承もかなり存在したようだ。
首長位継承のもつ傍系親族の矛盾を解決するパターンは3種想定
① 強力な首長が傍系親族を従属的首長として支配地に分出する。
② 傍系親族が継承争いに敗北したのち、新たな首長権を創始する。
③ 最高首長位が安定しており、傍系親族で循環継承を行う。
首長権を支える原理は
古参原理 祭祀権 古来からその土地を占拠する父系血縁集団の最高長者が関わる。
優越原理 首長職には、武力と知恵に優越したもの
「首長位の継承と政治組織」 『民族学研究』 41-4 1977年
系譜の作為性
川田順造 『無文字社会の歴史』 1976年 岩波書店
アフリカ モシ族の系譜伝承の検討から、系譜の作為性に注目
系譜は王朝の分裂や戦争といった史実を隠蔽し、国家統一の時期をより古く伝承し、一系継承が代々続いているかのような外形をよそおう。また征服された首長層の系譜も取り込んでいく。
したがって国家的な拡大にともない系譜が加上されていく。
系譜や歴史伝承は社会・政治組織のなかで、形成、加上され、必ずしも史実を反していない。絶えず創作される性質をもっている。
つづく