「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和五年(2023)7月26日(水曜日)
通巻第7836号 <前日発行>
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前方の大きな落とし穴に気がついた人が多いのでは?
中国ばかりか、世界経済がおかしくなっている
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突然の「変調」。それも世界同時に起きている。問題の基軸は中国の経済低迷と西側の中国制裁であり、環境の激変が原因である。既報のように米国の半導体大手はバイデン政権に反対の立場を表明している。
麒麟児はテスラのイーロン・マスクだった。
ツィッター買収以後の不調を乗り越え、テスラは破竹の勢いを示してきたが、ツィッターが不調、テスラが変調である。テスラは米国で113億ドルを売り上げ、中国では57億ドル。7月24日時点での株価は268ドル台に回復したが、昔の勢いはない。
慌てたマスクはプライベートジェット機で訪中し、5月31日に北京で丁薛祥副首相と(失脚前の)秦剛外相と面会した。
マスクの焦りは上海のテスラ工場の増設計画が暗唱に乗り上げており、一方でテスラEV販売のトップの座は中国のBYDが奪った。中国のテスラ優遇策が終わっているのである。上海浦東に進出にあたって当時上海市書記だった李強(現首相)は合弁条件を撤廃し、テスラの100%現地法人を認め、免税等の優遇措置を講じた。政治宣伝の道具に使われた。
EV、中国での売れ行きはBYDの大躍進がある。
したがって日本車の販売減少は深刻な問題で「撤退」が視野に入った。中国の突然の「EVシフト」に直撃を受けたのである。
2023年第一四半期の日本勢の中国での乗用車販売台数は前年比32%という驚くべき落ち込み、レクサスですら15%の販売減だった。三菱自動車はガソリン車の現地生産を停止した。
トヨタは中国の広州工場で1000人をレイオフすると発表した。
トヨタ自動車と広州汽車集団の合弁会社「広州トヨタ自動車」は1000人の派遣労働者との契約を早期に打ち切る。ただし、対象者には、中国の法律が義務づけている補償金を提供しなければならない。トヨタの広州工場は年間100万台の生産能力を持ち、約1万9000人の従業員を雇用している。
さて騎虎の勢いを示した中国EVのトップ「BYD」はインド進出案件を突如、取りやめた。
インドの経済紙『エコノミック・タイムズ』(7月22日)に拠ると、インド政府は「メガ・エンジニアリング・アンド・インフラストラクチャー(ハイデラバード)」と提携して10億ドルの工場をインドに設立するとしてきたBYD提案を拒否した。
大ブームだったスマホも第1四半期(2023年1月~3月)の出荷台数は2億8020万台で、前年同期比14%の減少となった。アップルの出荷台数は5800万台でほぼ横ばいだが、7000万台を出荷したサムスンに首位を奪回された。
▼中国の若者の失業率、じつは46% 「脱中国」ついに本格化
そのサムスンに継ぐ韓国の半導体大手SKハイニックスは特筆の苦況である。
「中国の代替市場は見つけられない」「だから、中国市場を放棄できない」とCEOの崔泰源は嘆き「23年第一四半期の売上高が前年比58%減だった」とした。
世界一のTSMCは23%減!
TSMCの株価は10%の下落を演じたが、7月24日にはやや回復した。半導体業界の急激な苦況陥落はいうまでもなくバイデン政権の中国制裁である。
しかしSKは中国市場に固執し、大連に建設中の第2工場も計画通りに進めるという。日本やオランダは、米国の対中制裁に同調しているため半導体製造のための先端設備の対中輸出を行わない。それゆえ工場建設を中止するか、時期をまつのか。それてもアンチ中国の輪から抜け出すか?
鴻海精密工業(フォックスコン)はインドとの合弁プロジェクトをキャンセルした。
インドの金属・天然資源大手「ベダンタ」と交渉してきた半導体合弁会社から撤退すると発表した。
スマホなどの受託製造で世界最大手のフォックスコンは過去一年に亘ってベダンタと提携をすすめてきた。しかもモディ首相の地盤グジャラート州に半導体とディスプレーを生産する合弁会社をとりあえず設立していた。
半導体のインド拠点はいくつかの問題をクリアしなければ前に進まないプロジェクトである。
とくに半導体はエンジニア方面ではインド人を確保できても、水が致命傷となる。
半導体の製造工程では大量の「きれいな水」が必要だ。それも水道のように料金の高い水ではなく豊富な地下水を工業用水としてくみ上げ、用水路や運河などを構築するインフラ建設が必要となる。
インドで水の確保は難しい問題である。
ここに政府並びに地方自治体の補助金が投じられる。たとえばTSMC熊本工場では一日に12万トン、学校の25メートルプールで30杯分が必要、ラピダスの北海道千歳工場、キオクシアは岩手と三重、マイクロンが広島にそれぞれ新工場を造成しているが、水の確保の目途が付かなければ生産開始は遅れる。
変調は何の兆しだろう?
令和五年(2023)7月26日(水曜日)
通巻第7836号 <前日発行>
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前方の大きな落とし穴に気がついた人が多いのでは?
中国ばかりか、世界経済がおかしくなっている
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突然の「変調」。それも世界同時に起きている。問題の基軸は中国の経済低迷と西側の中国制裁であり、環境の激変が原因である。既報のように米国の半導体大手はバイデン政権に反対の立場を表明している。
麒麟児はテスラのイーロン・マスクだった。
ツィッター買収以後の不調を乗り越え、テスラは破竹の勢いを示してきたが、ツィッターが不調、テスラが変調である。テスラは米国で113億ドルを売り上げ、中国では57億ドル。7月24日時点での株価は268ドル台に回復したが、昔の勢いはない。
慌てたマスクはプライベートジェット機で訪中し、5月31日に北京で丁薛祥副首相と(失脚前の)秦剛外相と面会した。
マスクの焦りは上海のテスラ工場の増設計画が暗唱に乗り上げており、一方でテスラEV販売のトップの座は中国のBYDが奪った。中国のテスラ優遇策が終わっているのである。上海浦東に進出にあたって当時上海市書記だった李強(現首相)は合弁条件を撤廃し、テスラの100%現地法人を認め、免税等の優遇措置を講じた。政治宣伝の道具に使われた。
EV、中国での売れ行きはBYDの大躍進がある。
したがって日本車の販売減少は深刻な問題で「撤退」が視野に入った。中国の突然の「EVシフト」に直撃を受けたのである。
2023年第一四半期の日本勢の中国での乗用車販売台数は前年比32%という驚くべき落ち込み、レクサスですら15%の販売減だった。三菱自動車はガソリン車の現地生産を停止した。
トヨタは中国の広州工場で1000人をレイオフすると発表した。
トヨタ自動車と広州汽車集団の合弁会社「広州トヨタ自動車」は1000人の派遣労働者との契約を早期に打ち切る。ただし、対象者には、中国の法律が義務づけている補償金を提供しなければならない。トヨタの広州工場は年間100万台の生産能力を持ち、約1万9000人の従業員を雇用している。
さて騎虎の勢いを示した中国EVのトップ「BYD」はインド進出案件を突如、取りやめた。
インドの経済紙『エコノミック・タイムズ』(7月22日)に拠ると、インド政府は「メガ・エンジニアリング・アンド・インフラストラクチャー(ハイデラバード)」と提携して10億ドルの工場をインドに設立するとしてきたBYD提案を拒否した。
大ブームだったスマホも第1四半期(2023年1月~3月)の出荷台数は2億8020万台で、前年同期比14%の減少となった。アップルの出荷台数は5800万台でほぼ横ばいだが、7000万台を出荷したサムスンに首位を奪回された。
▼中国の若者の失業率、じつは46% 「脱中国」ついに本格化
そのサムスンに継ぐ韓国の半導体大手SKハイニックスは特筆の苦況である。
「中国の代替市場は見つけられない」「だから、中国市場を放棄できない」とCEOの崔泰源は嘆き「23年第一四半期の売上高が前年比58%減だった」とした。
世界一のTSMCは23%減!
TSMCの株価は10%の下落を演じたが、7月24日にはやや回復した。半導体業界の急激な苦況陥落はいうまでもなくバイデン政権の中国制裁である。
しかしSKは中国市場に固執し、大連に建設中の第2工場も計画通りに進めるという。日本やオランダは、米国の対中制裁に同調しているため半導体製造のための先端設備の対中輸出を行わない。それゆえ工場建設を中止するか、時期をまつのか。それてもアンチ中国の輪から抜け出すか?
鴻海精密工業(フォックスコン)はインドとの合弁プロジェクトをキャンセルした。
インドの金属・天然資源大手「ベダンタ」と交渉してきた半導体合弁会社から撤退すると発表した。
スマホなどの受託製造で世界最大手のフォックスコンは過去一年に亘ってベダンタと提携をすすめてきた。しかもモディ首相の地盤グジャラート州に半導体とディスプレーを生産する合弁会社をとりあえず設立していた。
半導体のインド拠点はいくつかの問題をクリアしなければ前に進まないプロジェクトである。
とくに半導体はエンジニア方面ではインド人を確保できても、水が致命傷となる。
半導体の製造工程では大量の「きれいな水」が必要だ。それも水道のように料金の高い水ではなく豊富な地下水を工業用水としてくみ上げ、用水路や運河などを構築するインフラ建設が必要となる。
インドで水の確保は難しい問題である。
ここに政府並びに地方自治体の補助金が投じられる。たとえばTSMC熊本工場では一日に12万トン、学校の25メートルプールで30杯分が必要、ラピダスの北海道千歳工場、キオクシアは岩手と三重、マイクロンが広島にそれぞれ新工場を造成しているが、水の確保の目途が付かなければ生産開始は遅れる。
変調は何の兆しだろう?