東洋大学名誉教授 西川 佳秀
「尖閣」死守へ強い措置を
遺憾の空砲では事態改善せず
遺憾の空砲では事態改善せず
東洋大学名誉教授 西川 佳秀
プロスペクト理論というものがある。不確実性下における意思決定モデルの一つで、元は行動経済学やマーケティングで力を得た考えだが、近年では国際政治や戦略論でも用いられるようになった。
この論に拠(よ)れば、人は新たに何かを得ようと行動して失敗することよりも、いま手にしている利益を失う危険性をより重視し(損失の恐怖)、政策決定に際し利益獲得より損失回避を優先させる傾向にあるという。費用対効果分析を行い、得られる利益が失う利益を上回れば行動に出ると合理的な政策決定論は教えるが、そうは動かないというのだ。
戦果より戦力温存優先
獲得よりも損失回避を重視した行動に出ると聞くと、太平洋戦争での日本海軍の戦い方が思い起こされる。軍中央は常に積極果敢な攻撃に出るよう命じたが、一線部隊は米艦隊への肉薄追撃を避け、腰の引けた戦が繰り返されたといわれる。優勢な米海軍を前に、目先の戦果よりも我の艦艇被害を抑え、戦力の温存を優先させようとしたのだ。
損失を恐れるあまり積極的行動に出ようとしないのは、今の日本も同じではないか。生活環境の変化が激しかった高度経済成長の時代がとうに過ぎ去り、安定成長の下で育った世代は、日々新たな挑戦に出ることを躊躇(ちゅうちょ)し、リスク回避に動く傾向があるように思える。実際は日本を取り巻く環境は激変しているのだが、精神的な鎖国の故か、昨日も今日も明日も同じ日々が続くかの感覚に陥り、過去の延長線上の未来を好み、リスクの受容を厭(いと)うのだ。